旅立ち
宜しくお願いします。以前書いていた話ですが、前の作者ページにログイン出来なくなってしまったので、推敲しながら再投稿。話が変わった部分もあります。
宜しくお願いします。
「シロウありがとう。やっぱりお前は強かったんだな」
「運が良かった。ダメかなって時に強化を入れてもらったから、何とかなったんだと思う。実はよく覚えてないんだ。強化は多分、タケルのパーティの誰かだと思うんだけど」
「それは俺の口からは言えない。スキルをパーティメンバー以外には言うのは抵抗がある、でも気を悪くしないで欲しいんだ。本人がきっと言うから」
「いや、ありがとうって伝えて欲しいだけ」
「さっきまでヨウコがいたんだけどな、シロウがくるちょっと前に電話が鳴って出て行っちまったよ。シロウは時間はあるのか? 他のみんなも礼を言いたいと思ってるぜ」
「もう行くよ、タケルの顔を見に来ただけなんだ、それにお礼を言われる為に待つなんて嫌だしね」
「変わんねーな、シロウは。あのさ、俺が元気になったら一緒にダンジョンに行ってくれるか?」
「もちろん。でも、少し福岡を離れるから、東京に行く事があったら連絡するよ、携帯番号が変わってなかったらね」
「変えなーよ。必ず連絡しろよ」
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「病室を出ました」
「そのまま階段で一階におりて、ギルドを出ると白い車があるから乗って」
ヨウコが外に出ると確かに白い車が止まっている。知らない番号からの着信に出てみれば、いきなりシロウの命に関わるからと言われ、指示に従ってはみたものの、流石に車に乗るのは躊躇われる。
車の窓が開くと女性が手を振っている。片手には電話、この通話の相手なのだろう。
「そりゃ怪しいわよね。私は知ってる?」
「わかりません」
「私は甘利シカ」
「あの甘利シカさんですか」
「その甘利シカで合ってると思うわ。まあ名前なんていくらでも嘘つけるから、だからどうだって話なんだけどね。とりあえず車に乗ってくれないかしら」
「シロウの命に関わるってのは本当ですか?」
「それはまあ本当かな」
「わかりました」
ヨウコはとりあえず車に乗り込んだ。自分が人よりも綺麗な顔をしている自覚はあるし、過去にはストーカーに悩まされた事もあるが、今は攻略者であり、この人があの甘利シカを語る偽物であっても普通の人には絶対に負けない。むしろ会いたくて仕方のなくなってしまったシロウの情報が欲しい。
ヨウコが乗り込むと車が走り出した。
「ありがと、車に乗ってくれて」
「それでシロウの命は大丈夫なんですか?」
「今はね、命に別状もなく元気よ。命に関わるのは今後ね」
「シロウに会うことは出来ますか?」
「会えない事もない。あなたの返事次第。これから世界中を移動しながらシロウを鍛えるつもり、気掛かりなのが、シロウがソロ攻略者な事。もうわかるわよね、シロウのパーティメンバーにならない?」
いきなりの誘いの言葉と自身の反応にヨウコは戸惑った。喜んでいるのがわかる。心の奥で嬉しいって思ってる、自分はこんなにも白状な人間なのだろうか? いつもの自分であればこんな誘いは一蹴したはずだ。
「私は既にパーティを組んでいます。仲間を裏切る様な事は出来ません」
絞り出すように口から出たセリフ。言ったそばから後悔している事がわかる。
「残念。話はお終いね、短いドライブだったわ」
車のスピードが落ち、路肩に寄せられた。
「明日まで待つわ、気が変わったら連絡して。私の考えを言うとね。攻略者の目標はダンジョン制覇。仲間を裏切るってのは、ダンジョン制覇を諦める事を言うの。私が百道のダンジョンに着いた時にあなたはシロウを強化した。その後のシロウの動きは異常で、普通の『支援』ではないと思った。だから、私はあなたを誘った」
「私は自分に自信がないのです。あの戦いで一層自分が弱いと知りました」
「その理由の方が理解は出来る。私ならだからこそ厳しい状況に身を置くのだと思うけどね。まあ、話が長いわね。私達はは明日18時に福岡空港から発つわ、じゃあね」
ーーーーー
「行ってきます」
誰もいなくても言うようにしてる。手放せないものがあれば持ってこいとシカさんは言っていたが、家族写真以外は特に思いつかず、荷物はリュック一つに収まってしまった。14歳の時に両親が事故死してから、苦労した気もすれば、特に大変な事もなかった気がする。
「会うのは初めてだね、私が五十嶋です」
「お世話になりました」
鍵を返しに不動産を尋ねると、いつも電話口で話す相手がいた。
「累君、実を言うとね。私は君のお父さんの友達なんだ」
そう言って写真を渡して来た。釣りをしている父と五十嶋さんが写っている。
「それなら何で家賃をもっと待ってくれないんだって思ったかな?」
「いえ、だから毎月待ってくれたんですね。ありがとうございました」
「こんな事を今更言うのは嘘くさいがね。君が本当に困って、うちを訪ねてきたら、家賃はいらないよって言うつもりだったんだ。ただね、君は一人で生きていかなきゃいけないから、頑張っているうちは払ってもらおうとも決めていた」
たまに果物とか野菜とかがドアノブに掛かってる事があった。たくさんもらったからお裾分けだって書いてあった。それは決まって家賃を滞納してる時だった。おそらくこの人だろう。
「昨日、君が出て行くと聞いて焦ったよ。無理をさせすぎたって。昨日来た人が家賃も払ってくれたが、大丈夫かい、何か悪い事に巻き込まれてるなんて事は無いよな」
「ありがとうございます。大丈夫です。気遣ってくれる人がいてくれたんだって、なんか嬉しいです。お世話になりました」
「いや、俺は何も出来なかったよ。君は一人でも立派だった。流石あいつの息子だ」
その言葉に涙が浮かんできた。
ーーーーーー
飛行機の準備が出来たと、機内への移動を促された。乗る飛行機はなんとシカさんのプライベートジェットだ。
「来ないものね、来るんだと思ってた」
「何が来ないんですか」
「君のパーティ」
「パーティは組んでいませんでしたって、言いましたよね。すみません、見送りもない寂しい人間で」
「そんな事じゃないの、まあ行きましょうか」
機内に進もうとすると、グランドホステスさんに呼び止められた。
「あの、甘利様、お連れ様がお探しの様です」
少し待つとヨウコさんが走ってくるのが見えた。
「待って!私も行くわ」
かなりの距離を走った様で、シロウの所に着いた時には、膝に手を置き下を向きながら肩で息をしている。
「何なの? 携帯も出ないし、18時発の飛行機なんて調べてもないし」
「ドラマチックだったでしょ」
シカさんはそう言うと、行くわよと飛行機に向かった。
読んで頂きありがとうございます。
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