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花の歌声と精霊の祈り  作者: 衣緒
青年編
68/74

それぞれの思惑

 「ふふ、ずいぶんかわいい騎士(ナイト)さんがいるじゃない」


 騎士団から離れる方向へと森の中を駆けていたが、突然かけられた声に立ち止まる。周りには…いない。いったいどこから…?


 「上だよ、上」


 声に従い見上げるとにぃっと口角を上げたノールがコウモリたちと共に空中に浮いていた。


 「あぁ、逃げなくていいよ。ワタシはむしろお嬢ちゃんたちを守りにきたんだから」

 「え?」


 魔族のノールさんが人族(ヒューマン)の私を守る?どうして?なにから?こちらの混乱を予想していたようにくくっと喉で笑ってから続けた。


 「お嬢ちゃんに死なれると植物使いが戦ってくれないからね」


 ちらりと王都の方を向いてまたこちらに視線を戻す。上空にいるノールには何か見えたのかもしれないが森にいる私からはそちらの方向に何かあるのかわからなかった。


 「植物…パパは無事なの?!」

 「あぁ、無事どころか、さっきまでギベオン様と一緒に王城で人族(ヒューマン)どもを翻弄してたよ」

 「…え?」


 パパが人族(ヒューマン)を…??よくわからなかったけど、ひとまずパパが無事なことに安堵する。でも、どうしてパパが魔族さんと組んでいるのだろう…?

 考え事に夢中になりすぎたのか、セランに手を引かれてまた走り出した時には遠くで鎧の金属音と共に足音が聞こえてきていた。



♢♦︎♢♦︎♢



 逃げたカシアを追って森の中を走る。思わず逃がしてしまった幼馴染と近づきすぎず遠ざかりすぎず絶妙な距離感を保って追跡するとなると流石に難しく、騎士団長を先頭として追跡してるうちにカシアとの距離が縮まっていくだろうと思いながら。

 と、突然騎士団長が立ち止まる。見ると上空からなにか小さな黒い飛翔体が複数接近していた。


 「…今度はコウモリの魔族か」


 呟くと同時に迎撃すべく剣を構えると、空を切って剣圧でコウモリを叩き落とした。流石は騎士団長だと思う剣の重さ。アズロも年の割には完成度の高い剣技と天性のセンスにも恵まれた魔法力を持つが、まだまだ一撃の重さ、破壊力で父を超えられると思えたことがない。


 「ふぅん?人族(ヒューマン)のくせにやるじゃない」


 面白いおもちゃを見つけたとでもいうように舌なめずりをし、金色の眼を光らせて嗤うコウモリの魔族を見ながら陛下の位置を再確認する。先頭に立つ騎士団長から少し離れて騎士団第一班とアズロが控えているが、その中心で騎士たちに守られる位置に国王陛下と神官長が立っている。戦闘が始まれば巻き込まれる位置なのでなんとか避難させなくてはならない。幸い相手は1人のようなので騎士団長が足止めしている間に他の者はカシアを追跡することもできそうだ。

 そう考えていたのが読まれていたのか、にぃっと口の形を変えた魔族が、自分の周りを飛ぶコウモリに噛みつき始めた。キィキィとコウモリたちの悲鳴が響く。


 「なっ?!」


 突然目の前で始まる仲間割れに唖然とする騎士団の面々の前で、今しがた噛まれたコウモリたちが姿を変え始める。小さなコウモリから、徐々に四肢を伸ばして人型へと。やがてそれらは上空に浮かぶ魔族と同じ姿になる。


 「さぁ、踊ろうじゃないの、人族(ヒューマン)


 そういうと一斉にコウモリの魔族の一群が地上の騎士団に襲いかかる。国王陛下の前では神官長が防御魔法を展開して魔法攻撃に備えつつ、周りの騎士たちが剣で応戦することで物理攻撃を防いでいるが、いかんせん位置による不利で騎士団は防戦を強いられていた。


 「アズロ、陛下と神官長と共に抜けられるか」


 耳元で声が聞こえて目を上げると、騎士団長が応戦しながらも風の魔法に声を載せて届けてきたようだった。


 「このコウモリも先の狼と同じく戦闘そのものが目的のようだ。それならばお前は陛下と共に行き、目的である禁忌の存在の少女を討て。そうすればあの不可思議な魔法を使う白衣の男もこれ以上魔族に協力することもなくなるだろう」

 「…恐れながら申し上げます、団長。カシア、禁忌の存在の少女はあの白衣の者の娘です。我々が()()()()()彼女を討てばその憎しみから余計に魔族に協力する可能性もあるのではないでしょうか?」


 カシアを救う、この上ない理由ではないかと思う。なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろうと思いながら発した言葉だったが、返ってきた答えに絶句する。


 「()()ではない。あの少女は禁忌の存在、()()()()()


 魔族と人族(ヒューマン)の混血が禁忌の存在だという。その血を人族(ヒューマン)、同族の部分があると見る自分とは異なり、この人たちは魔族の部分があると見ているのだと悟る。そうであるなら、もはや理由はなんであれ、カシア、つまり魔族を討つという至極当たり前のこととして受け止められているのだ。ただその見た目が人族(ヒューマン)の少女に()()から、討伐する者が心理的負担を抱えるだろうから、発案者である国王陛下ご自身がその手でカシアを討つとお決めになったということなのだろう。あくまで()()()()とはみなされていなかったのだ。


 「一刻も早くあの禁忌の存在を討つことで白衣の男の戦意を喪失させ、魔族どもを切り崩さねばならんのだ」


 あぁ、そうだ。これが俺たちの父親。愛情は親しみなどは切り捨てて、理屈を突き詰めた機械じみた男の考え方だ。人を人と思わず、盤上のコマとしてしか見ていない。確かに国王陛下を護る剣の役割である騎士団長としては正解なのかもしれない。だが、あんだがそんなだから、(セラン)は…。

 歯噛みしながらアズロは襲いくるコウモリ女の攻撃をいなし続けていた。

いつも読んでいただきありがとうございます!

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