王の答え
王宮内は真っ二つに分かれていた。魔王の要求をのんで魔界寄りの、おそらくは人間界の果ての付近から最初の山脈までの土地を分譲すべしとする穏健派と、少しでも譲るわけにはいかないとする徹底抗戦派に。玉座の間に集まる高官たちのうち騎士団に近しい者ほど穏健派に意見を切り替えていた。その魔王の要求を伝えてきたのが足を負傷し自力では移動すら出来なくなった騎士団長ルクレ=ヴァーダイトだったからだ。
「…鎮まれ。まずはルクレ、王都に一時溢れかえった魔物からの防衛戦、ご苦労であった。騎士団のおかげで助かった命も多かろう。民を代表して礼を言う」
「は。有難きお言葉」
「…そなたがそれほどの傷を負うのも久しぶりに見るが、魔族というのはかくも戦いに秀でたものなのだな…」
「…」
王とは騎士団長になる前から、それこそ王立魔法学園の騎士科に入って王城に出入りするようになって以来の長い付き合いである。代々の騎士団長である祖先に恥じないよう日々鍛錬を重ねてきた甲斐あって、魔物戦に出向いても傷を負うことは近年はなくなっていた。それが、魔族1人相手にこのザマだ。ルクレの内心は悔しさ、自らの力不足への怒りといった感情で荒れていた。もちろんそれで冷静さを欠くこともその激情を表に出すこともない。それは騎士団長として最善を常に選択しなくてはないない人生を歩むうちに身につけた、いわば気持ちの心と身体の心を分割するような技だった。今はまだ若く心が表に出てしまう息子、アズロにもいずれは身につけてもらいたい技でもある。いつまでも気味の悪いところのある弟に構っていてはいつか騎士団の結束、民からの信頼を危うくする危険があるというのがわかってくれると良いのだが。
「…ルクレでさえそのような傷を負う魔族が、自由に出入り出来てしまう土地があればそこはいずれ人間界ではなく魔界となろう…」
自分もそう思う。いくらあの魔王が分譲された地に住むのは樹の魔族や石の魔族といった温厚な種族にすると言っても、その地の人間界の結界を解除する以上は他の種族が入り込むことを止める術を失う。あの好戦的な狼達のように戦いの刺激を求めたり、単純に飢えた種族が食物を求めて土地を荒らしにくる可能性は低くはないだろう。
視線で同意を示すルクレを見て王は一つ頷くと、要求への答えを口にした。
「我が国は、魔王の要求には応じない。そこの騎士よ、戻って魔王に伝え-」
ルクレを支えていた騎士に魔王への回答を伝えるよう指示しようとしたところで玉座の間に何かが弾けるように飛び爆ぜた。
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