脳筋の漢
いやっはー!だか、いやっふー!だか叫びながら突撃、跳躍しての後退を繰り返す狼男に対し、重厚な装備で身を固めて素早さではなく一撃の重さで勝負する騎士団長は正直押されていた。相手が強いとかそういう話ではなく、単純に相性が悪い。後退するまでの間に剣が当たらないのだ。人間相手であれば十分間に合う斬撃も、大きく跳び上がって後退するという魔族の身体能力を生かした戦法には追いつかなかった。
「どうだ、人族!オレさまは強いだろ!オレさまこそは、獣の魔族のてっぺん、狼の中の狼、オン様だ!」
「「オン様かっこいいっす!!」」
あと、単純にうるさすぎて集中を乱されそうになる。こんなに騒がしい相手と戦うこともあまり経験がない。これが作戦だとしたらなんと効果的な戦略か。
「…むん」
今回の剣もすんでのところでかわされる。避ける度にポーズを決めるのもこちらの集中を奪うためなのか。正直鬱陶しいのでやめてほしい。
王都のあちこちで戦闘の音がしている。他の騎士たちはうまく戦えているだろうか。まさか魔族が皆こんなだとは思わないが、普段の訓練で対策してないタイプであるから、騎士たちが気にかかる。
ガキンっ!と音を立てて狼男の突進に合わせた爪の一撃を盾で防ぐ。あの身軽な身のこなしからは考えられないほどに重い一撃。これが魔族の身体能力か。人間界にある結界の効果で魔族は身体能力が落ちるはずだが、落ちてなおこの強さであるなら、魔界ではいったいどれほどの強さなのか。
「「オン様やっちまえっす!!」」
「オレさまの素早さを見せつけてやるゼ!」
アオーン、と遠吠えしながらまた跳躍する。しかし一々ポーズを取らないと動けないのだろうか。
「…訓練内容を見直さねばならんな」
吐息と共に呟く。こんなうるさい相手を想定した訓練はしたことがない。長い騎士人生でこれが初めてのうるさい相手だった。
「お、いいゼ、それならオン様訓練と名付けるがいい。オレさまの名前を特別に使わせてやる」
「「オン様かっこいいっす!!」」
「…」
周りの狼たちが応援しているだけで戦闘に入ってこないのは幸いだった。流石にこの強さの敵に1対多では勝てる気がしない。
「狼の魔族よ、確かに貴公は強い。だが、私もまた負けてはいられぬ。しかし我々には陛下や王都を守るという任もあるので、貴公にばかりも構ってはいられん。故に交渉をしたい。貴公の望みを聞かせてほしい」
時間をかければ勝つことはできるかもしれない。しかしその勝利までの間にどれほどの民や家が犠牲になるだろう。ここは短期決着を目指して早期に王都全体を守りに向かうべきだと判断した。
「…」
何故か目をぱちくりと瞬いて沈黙する狼男に訝しさを覚える。
「オン様、人間界の一部をもらうために植物使いを捕えに来たっす」
側近の狼の1人が耳打ちした。それを聞いてはっとした顔をするオンと名乗る狼男。
「オレさまの望みは、人間界のてっぺんだ!あとは嘘つき野郎を借りてやる!」
交渉する相手を間違えたかもしれない。騎士団長は初めて感じるタイプの徒労感に苛まれつつも次の手を考え始めた。
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