狼の漢
アオーン!勇ましい遠吠えを決めているオレさまたちだが、どうなってやがるのか一向に王都の守護結界が割れないせいで王都の周りで足止めをされている。
「おい、まだ破れないのか?コウモリ女が入ってからだいぶ経つぞ?」
「「うっす、まだっす!」」
「くそ、あのコウモリ女め、オレさまの活躍を恐れて上の方だけ結界破りやがったな」
「「うっす、ずるいやつっす!」」
うろうろうろうろ王都の周りをうろつく狼軍団は充分門番にはプレッシャーを与えているが、それだけで満足してはいられない。一刻も早く、例の嘘つき野郎を捕まえないといけないからだ。
「こうなったら、体当たりでもかけてみるか。よし、てめえら一仕事だ!」
オーン、と一際大きな声で鳴く。途端魔界の方からドドドと足音が響き始める。しばらくすると、土煙を上げながら牛の大群が遠く地平線に見えて来た。否、ただの牛ではない。赤く光る目が魔物であることを示している。
「よーし、牛どもよく来てくれた!てめえらに仕事だ!ここにある結界をぶち破れ!」
「「ぶもー!!」」
オンの命令で一斉に王都に向かって走り出す牛の大群。もはや門番たちは青ざめて門扉を閉じて結界に頼っての魔法的でだけでなく物理的にも侵入者を防ごうとしている。
♢♦︎♢♦︎♢
「まだ幼いな。可哀想だとは思うが、魔族の血を見逃す訳にはいかん」
パパが攫われた後そんなに経たないうちに、カシアは騎士団に包囲されていた。そもそも逃げ切れるはずがなかったのだ。ただの女子の体力で日々鍛錬を重ねる騎士団からは。
「…」
「来い、娘」
「…私を…こ、殺すの?」
「それを判断するのは陛下だ。我々はまずお前を捕縛した上で判断を仰ぐ」
縄をかけられながらも、否定してくれないんだ、と背筋が寒くなる。セランとアズロよりもいくらか深い空色をした瞳の騎士団長は、私を繋いだ縄を手にすると歩き出した。
研究所を出た頃、王宮の方からアズロたちが戻って来たのが見えた。その空色の瞳が私を捉えると、心配するように揺らめいた。
「第四班、報告せよ」
「はっ!陛下並びに神官長様に結界についてご報告しました。結界の破損はそ、そこの禁忌の者の存在が引き起こしたものであるとのご判断で…しょ、処刑せよ、と仰せでした」
震えを必死に抑え込んだような声で、第四班の班長だったらしいアズロが答えた。あぁ、だから私を心配そうに見たんだ…。やっぱりアズロは、優しいんだから。周りの騎士たちが剣先を向けてくるのを見ながら、何故か冷静にそんなことを思った自分にびっくりした。
振り下ろされる剣がゆっくりに見える。死ぬ瞬間って、スローモーションっていうもんね。そんなことを考えながら、きたる衝撃に備えて目を閉じた。
いつまで経っても、痛みはこなかった。
「…?」
薄目を開けてびっくりする。先ほどローラと呼ばれた魔族が、騎士団の反対側から蔦で騎士たちを絡め取っていた。そして、すぐに王都の外の方を向くと何事か呟く。途端、なにかの割れる後に続いて牛の鳴き声のような音が大音量で王都内に響き渡った。
あちこちから響く悲鳴。騎士たちが困ったように騎士団長を見る。
「…ただいまを以て、王都守護結界は崩壊したと考えられる。よって優先順位を変更、第一から三班は民を守るため散会せよ!」
「「はっ!」」
幼さの残る娘を処刑する任務より魔物に襲われる民を守る任務の方がいい、という安堵を感じさせる表情で王都内に散っていく騎士たちを見送りながら、私の縄を持つ騎士団長はローラをじっと見つめる。
「第四班は娘の捕縛を継続。私は…この魔族を討つ」
剣を構える騎士団長を静かに見つめていたローラが不意に口を開く。
「…帰る」
そしてその言葉の通り忽然と姿を消した。消える直前にカシアを一目見てから。
流石の騎士団長もこれは予想外だったらしく一瞬動きを止めた。その隙に、願う。ここから離れることを。
キィーン、というような音を鼓膜に感じたと思った次の瞬間には、騎士団長の持つ縄から逃れて近くの木のそばに立っていた。これがパパから聞いていたワープなのだろうが、練習したわけではないからか、目で見える程度の距離しか移動はできないようだった。
騎士団長が驚きながらもすぐさまこちらに向かい始める。逃げなきゃ…!
オーン
狼が、近くの茂みに隠れていたのか吠えた。マズイ、前に狼後ろに騎士団長?!とにかく他に道はない、と茂みの中に身を躍らせる。近くで、狼の声がした気がした。
「お前、強そうだな。でも、オレさまの方がつよーい!かかってこいや!」
「…次から次へと…」
茂みの中の獣道に運良く出られたのをいいことに、後ろの方で騎士団長と狼男が戦う音を聞きながらカシアは逃げ出した。できるだけ遠くへ、と
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