開戦
「弾けろ、ホウセンカ!」
屋上の隅に置かれていた植木鉢の方から、声と共に何かがノールに向けて飛んでいった。
「カシア、こっちだ!」
同時に腕を引かれて走らされる。白衣を翻したパパがいつの間に来たのか屋上に上がって来ていた。
「騎士団第二班、総員魔族を包囲。第四班、第一班は三班並びに陛下に報告急げ」
「…ふぅん?」
騎士団長の号令で展開する騎士団を眺める魔族には焦りの様子はない。これくらいならいつでも切り抜けられるとでも思っているのか。
一方、私の手を引くパパは足取りからも焦りが伝わるくらいに慌てていた。無理もない、魔族から逃げるだけではなく、私を捕えようとしている騎士団からも逃げないといけないのだから。
「捕縛開始」
騎士団長の号令でノールを囲む第二班の騎士たちが口々に得意な属性魔法により捕縛を試みる。土、氷、風などの属性が一斉にノールめがけて打ち出された。
ビシッ、と音を立ててノールを締め上げる属性魔法。うまく行った、と騎士たちに安堵の気配が一瞬漂うが、流石訓練された騎士団はすぐさま油断を捨て標的を見つめた。不気味なくらいに静かな標的を。
「…?」
騎士たちに困惑した空気が漂い出した頃、捕獲されていたノールがボロボロと崩れ始めた。崩れた破片はコウモリの形に変わると一斉に飛び立っていく。愕然とした第二班の騎士たちを残して。
♢♦︎♢♦︎♢
はぁ、はぁっ。息が上がる。騎士団の人たちがノールを抑えている間に少しでも遠くへ。そう思って走っていたのに、どうして目の前にノールがいるのだろう。
「残念だけど、あんたたちではワタシから逃げきれない。地面を走るしか脳がないあんたたちではね」
金色の瞳を光らせて笑う彼女から逃げる未来が見えなかった。じり、と後ずさる。まだ騎士団に捕まる方が人として生かしてもらえるだろう分だけマシかもしれない。そう思ったタイミングで、ノールが話しかけて来た。
「ワタシの目的は、そこの植物使いなのよ。あんた、一緒に来なさい」
おいでおいでと手招きしながら、パパを見据える。
「冗談じゃない、何故私が-」
「ひゃっ?!」
「カシアっ!」
断ろうとしたパパのセリフを遮るように、私の身体がノールの元へと引き寄せられた。魔力が無理やり分裂してるみたいで気持ちが悪い。
「あのね、ワタシはお願いしてるんじゃないのよ。一緒に来なさいって命じてるの」
するりと首元にノールの手が伸びる。にぃ、と笑うノールの口から鋭い牙が覗いた。
「あまり遅いと、おやつがわりにこのお嬢ちゃんをいただきたくなるな。このお嬢ちゃんはどんな魔物になるか、興味がある」
「や、やめてくれ!」
魔物になるってなんだろう、という疑問を考えて現実逃避をしていた私の首にノールが口付ける。パパの顔が青ざめたのと、ノールが驚きに目を見開いたのが同時だった。
パチンっと、弾けるような音がしてノールが触れようとしていた首から口を離す。胸元のペンダントが淡く光っていた。
「ノール、やりすぎよくない。その人連れて来い、が魔王様の命令。その娘傷つけると、その人来ない」
窓辺に置かれた鉢の前に突然現れた女性がノールに告げる。その口ぶりからノールの知り合いのようだ。つまりこの人も、人族に見えるが魔族なのだろうか。
「…ローラ。あんたが人間界に来るなんて珍しいな」
舌打ちしながらノールがローラと呼んだ相手に応じた。ローラが無言でうなづいたときに、葉を模したかんざしがしゃらりと音を立てた。
「そこの人、一緒に来て欲しい。そうすればその娘は返す」
ローラがじっとパパを見つめる。パパは一瞬躊躇うような表情をしたけど、じきにうなづくとローラに近づいていった。ローラの足元から無数の蔦が生えてパパを包み始めた。
「ワタシの獲物だぞ」
「パパ!」
ノールが私を放り出すとパパを掴み上げた。おかげで体の自由が戻る。
「カシア、大丈夫だ。この人たちの狙いは、私の命ではなく力のようだ。それならば、少なくともすぐに殺すことはないはずだ」
パパが私に向けて、安心させるかのように告げる。その間にもパパの足は蔦に、腕はコウモリに覆われていく。
「い、いやっ!パパ!」
叫んでもなにも変わらないまま、パパと2人の魔族の姿が消える。
遠くで狼の遠吠えが聞こえた気がした。
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