侵入
「カシア…」
「アズ…ロ?」
驚きに見開かれた緑の瞳と空色の瞳が交錯する。
「なにしてる、こんなところで」
口調が堅くなる。属性魔法ではないなにかの力を持つ幼馴染への、幼い頃に抱いた疑念が蘇ってくる。お前は何者だ?と。
「わ、わからないの。突然魔力が分裂するような、すごく変な感じがして…。でも、その時に上の方で何かの割れるような音がしたから、音の原因を探していたのだけど…」
そう、自分も魔法的な違和感があるところを目指してきたらこの屋上だった。だが、不気味なくらいに何もないのだ。
本当に守護結界の破損とこの場所は関係ないのだろうか。いや、何故か色々と看破力が強かったカシアも、魔法適性は当代一と謳われる自分もこの場所が怪しいと感じて来ているのだ、何もないとは思いにくい。
そう、思っていたときだった。ゆらりと上空の景色が揺れた気がしたのは。
「あら、カワイイ子たちの歓迎ね。そんなにワタシに会いたかったのかしらぁ?」
全身がざわつく。鳥肌がびっしり立ち震えが止まらなくなる。本能が全力で警報を鳴らす。これは、魔物と相対した時の比ではない。
「…魔族…」
「50点ってとこかしらね。そんなまとめた呼び方では。ワタシは誇り高き血の魔族のノール。そのあたりの獣とか樹とかとは違うのよ」
口が震えるこちらとは反対に、大した気負いもなさそうに話すノールと名乗った魔族を見据えながら思考する。騎士団第四班の使命は守護結界の破損部位の把握。破損は見当たらないが魔族ほどの魔力持ちが現れたのなら少なくともこの場所に守護結界は存在していない。そのことと魔族侵入を父…騎士団長に伝えなくてはならない。だが、この走りにくい屋上で魔族と相対した状況から、如何にして一階を探索しているだろう騎士団に連絡を取ればいいのか判断がつかないでいた。
♢♦︎♢♦︎♢
何もない空から突然現れたお姉さんは、血の魔族のノールと名乗った。授業に出て来た、好戦的な魔族だ。一体、どうしてこんなところに。
アズロとその後ろにいる騎士さんたちも動かずにいる。きっと、動けないくらいにはこのノールというお姉さんは強いのだろう。
「…ノール、さんは、どうしてここに…?」
応えてもらえるとは思わなかったが、それでも問わずにいられなかった。黙ったまま捕食されるのを待つのは怖くて耐えられない。
「人間界の土地をもらうためよ」
意外にも返事をしてくれた。だが、ちょっと消しゴム貸して、というくらいの気軽さで告げられた内容はなかなか承服しにくいものな気がする。私に決定権なんかないけど。
「人間界の土地をもらって、どうするの…?」
「ワタシたちが住む場所にするのよ、お嬢ちゃん。知らないかもしれないけど、ワタシたちの住む魔界はこんなに豊かな土地なんてないの。新しく生まれた命を守るのも難しいくらいに食べ物もない。それなのにこっちの人間界はいくらでも、それこそ食べ残しを捨てられるくらいには余裕があると聞くからね、少しくらいワタシたちがもらってもいいじゃない」
あれ、意外に理屈がある?血の魔族は好戦的な魔族と聞いていたし、もっと戦いたい!殺し合いだ!みたいな感じを想像してた。
「ワタシたちが暮らすための土地をもらう、そのためにはワタシたちを弾くこの結界が邪魔だったのよね。だから、ありがとう、助かったわ」
一体何を言われたのか分からなかった。なんで、お礼を言われているんだろう。まるで私がいたから守護結界が割れたみたいな言い方だった。
「…わ、私は、なにもしてないわ」
「あら、そんなことないわよ、お嬢ちゃん。だって-」
いやだ、聞きたくない。本能的に耳を塞ぎたくなった。多分、聞いたらいけない、そう自分の勘が告げてくる。
「だって、あなたの魔族の魔力を楔にして、結界を割れたんだもの」
無情にも、まっすぐ告げられた言葉。そうか、これが、禁忌の存在、私がいたせいで起きた災厄。
「…そこの娘が、意図してなかったにせよ魔族の侵入を引き起こしたということだな」
声に驚いて目をやると、いつの間に呼ばれて来たのか、騎士団の鎧を着た精悍なおじさまが私を見ていた。その後ろにアズロが控えている。私がノールさんと話している間にでも騎士団さんを呼びに行っていたのだろう。
「魔族の魔力と言ったな。…禁忌の存在と魔族の侵入を確認。騎士団はこの両名を捕縛せよ。
ジャキ、と剣を構えた騎士団の人たちが魔族と、私を見つめる。私は…私は人族なのに…!
いつも読んでいただきありがとうございます!
下の⭐︎で応援してもらえるととっても励みになって嬉しいです♪




