父の想い
夕飯を作りながらも緊張が高まっていくのを感じていた。今日はパパが少し研究所の仕事の区切りがついたから早く帰ると言っていた日なのだ。数日前に書庫で見てしまったパパの資料について、話をしようにもちょうどパパが忙しそうな時期が重なってしまっていてなかなか話をできずにいたからこの日を待っていた。
「…」
なんて切り出したらいいのだろう。パパに聞きたいことは色々ある。正直ありすぎるくらいだ。ママは生きてるの?ママが魔族のハーフって本当?ママのことをいつから知ってたの?あの火事は魔族のせいだと思う?…そして聞きたいけど聞くのが怖いこと、私は、ここにいてもいい?
ぐるぐると考えがまとまらないまま時間が過ぎていたようで、玄関からパパの『ただいま』が聞こえた。
♢♦︎♢♦︎♢
「ごちそうさま、おいしかったよ、ありがとうカシア」
「どういたしまして。パパもお仕事お疲れ様。お茶を淹れるね」
2人分のお茶を持ってテーブルに戻る。
「…あのね、パパ」
「うん?」
「この前、研究所の片付けをしていたときに『資料54』って箱の中を見てしまって…」
「…」
パパがこちらを見たまま沈黙する。怒っているわけではなさそうだが、表情からなにを思っているのかわかりにくい、そんな表情をしていた。
「…ごめんなさい、勝手に見て」
「…いや、いいんだ。むしろパパの方こそ、伝えてなくてすまなかった」
頭を下げられて慌てる。別に隠してたこと怒ってるわけじゃないし、そんなにされると困ってしまう。
「ううん。言えないの、わかるから。…それより、ママは、生きてるの?」
「あぁ、パパもあの火事の後会ってはないんだけど、焼け跡の蔦からママが魔界で生きてるってメッセージを受け取ったんだ」
そういえば、火事の後何日かしてからママのイヤリングみたいな蔦が生えてきて、そのあとパパはまたご飯を食べたりできるようになっていた気がする。そっか、ママが生きてるって知ったからだったんだ。
「隠していてすまなかった。カシアもママを失って悲しんでいるのはわかっていたのだけど、ママに会いに行けるわけではないから伝えられなくて…」
「ううん。きっとあの頃聞いてしまっていたら、私は魔界にだってママに会うために行こうとしたと思うから。パパは、私を守ろうとしてくれたんでしょう」
「あぁ、カシアまで会えなくなったら…と思うと怖くて…」
私も覚えてる、パパがママを探していた時の憔悴しきった様子を。あの状態で私までってなったら、パパは本当に倒れてしまっていただろうと思う。
「ママはどうやってあの火事から魔界に行けたんだろうね」
ふと気になって聞いてみる。だって、よく考えるとあの日の夜はいつも通りママも家で寝ていたはずだ。魔界に出発する余裕なんてなかったはず。
「あぁ…。カシアは自分ではコントロールしてなかったのか」
なにか意味深なこと言われた気がする。視線で続きを促すと、パパは気づいて話し始めた。
「ママは樹の魔族の血を引くから、植物のあるところにワープすることができるんだそうだ。カシアもその力があるはずだよ。あの火事の時、部屋にいたはずの君が外の木の根元に移動していたから」
流石に昔のことで覚えていない…。でも、確かに寝室で寝てた私が大きな怪我もなく外にいたのなら2階からワープしたというのが一番しっくりきそうだ。
「もしかしたら、ママがカシアを呼び寄せたのかもしれないね」
そうなのかもしれない。ママは人間界にいてはいけないと自分は魔界に行ったけど、そのときに私を助けてから行ったのかもしれない。
「ママに、もう会うことはできないの?」
「…」
パパがなにかを考えるように沈黙してから、口を開く。
「カシアは、どうして魔族が人間界に攻めてくるのかを知っているかい?」
え、まさかの抜き打ちテスト?と驚いているとパパがそうじゃないと手を振る。
「人間たちと魔族、2つの種族が相入れないまま住むには世界が狭すぎたんだ。人間界は精霊王の恩寵を受けて生命が生まれるけれど、魔界はそれがないから生きていくためには奪い、他者を食べるしかない。そんな世界から見た人間界は、手に入れたい場所に違いないんだ」
確かに生きていくことができる世界とできない世界だったら、できる世界の方がいい。
「ママはもちろん魔族として侵攻してこようとは思っていないし、人間として暮らすことを選んでいたんだ。でも、ママの中の樹の魔族としての魔力は魔族にとって探しやすい目印みたいなものみたいで、あの日受け取ったメッセージに、『2人を巻き込んでしまうから、そこにはいられない』ってあったんだよ
魔力の種類が違うのは授業で聞いてはいたけど、そのせいで探しやすさが変わるのは知らなかった。
「そうだったんだ…」
しばらく沈黙が部屋に落ちる。ママが生きてる。それは嬉しい。でも、私たちを守るためにもう会えないというのは悲しかった。
沈黙を破るように、パパが小さく呟いた。
「人間界の花を見た時の幸せそうなリラの顔が忘れられない。どうしても、その笑顔を守りたいと願ってしまったんだ」
きっとママも、禁忌の存在とか人間界での豊かな暮らしとか大きな話ではなくそんな風に、小さな幸せを望んだだけだったんだろうと思う。私のパパとママは、いつも幸せそうに笑っていたのだから。
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