創世記
-昔々、この世界が生まれた頃、いのちが生きていくのは大変な環境でした。暑すぎたり寒すぎたり、乾きすぎたり水浸しだったり。
精霊たちが見守る中、生まれては消えていくいのちを儚んで悲しんだ人がいました。今は精霊王として知られる人です。その人は小さないのちが助け合う様子を見て、それらが守られることを望みました。小さないのちたちが生き長らえるようにと自らも限りある中食物を分け与え、雨風を凌げる場所も開放して手の届く限りのいのちを守ろうとしました。
そんな優しい人は、精霊から愛される人でもありました。その人の心の波長とでもいうのでしょうか、そばにいると精霊が心地よく感じるなにかがあったようで、精霊たちもその人のいのちを守る活動を支援しました。
そのおかげもあり、その人の周りのいのちはすくすくと育ち、やがて集落ができ始めました。人族の興りです。人々は集落で植物を育て動物を飼い、その数を増やしていきます。じきに、他の種族に手を差し伸べる豊かさも手に入れた人族は、近郊に暮らすエルフから魔法を教わり、ドワーフから鍛冶を学び、人魚から海の渡り方を伝えられます。こうして今の人間界が生まれていきました。
今もこの世界で命が芽吹き育つのは、かつてそのきっかけを生み出して精霊たちの手助けをもたらしてくれた人のおかげだという感謝の気持ちを込めて、後の世の人々はその人を精霊王と呼び敬うようになりました。
「創世記ですか?」
小さな王子が家庭教師役である神官長に問う。
「その通りでございます、王子。よく学ばれていますね」
神官長が優しく微笑む。
時代によっては神殿と王家が不仲であったこともあるそうだが、当代の神殿と王家は互いを敬い認めている。神殿は王の統治により魔物の被害から人々が守られていることに感謝し、王家は神殿の祈りにより維持されている守護結界や治療院として人々を病から守っていることに感謝しているのだ。
「はい、神官長先生。国王陛下がよく、寝る前の物語としても読んでくださったのです。精霊王がいてくださったおかげでこの世界は生まれ、維持されているのだよ。だからいつも感謝の気持ちを持って生きているんだ、と話してくださいました」
「そうでしたか。当代の国王陛下は、歴代の中でも特に精霊王への信仰の厚い方ですからね」
「はい!今はお隠れになっておられる精霊王さまがもし生まれ変わるなら、ぜひお会いしたいと常々祈っておられるようです」
「そうなのですね。数百年に一度、精霊王の生まれ変わりと思われる人がお生まれになるという言い伝えが神殿にもございます。ただ、ここ数百年は精霊王がお生まれになったとの記録はございませんので、当代の御世でお会いできるとよいですね」
穏やかな日差しを受けた王宮の一室で紡がれた精霊王生まれ変わりへの願いを、精霊たちが静かに聴いていた。
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