魔王
くちゃくちゃと何かを食べる音が薄暗い岩場に響く。月明かりで浮かび上がったのは大型の何かを捕食している狼の群れだった。
「オン様、メシありがとうございます」
「おぅ、やっとメシにありつけたな。だが流石のオレさまでも次はいつ大物を狩れるかわからねぇ、しっかり食っとけ」
「「うっす!」」
精霊王の恩寵なき魔界の地。そこにあってもなお生き延びるためには他者を狩るしかない。弱ければ狩られる側に、強ければ狩る側に。自らの数倍の大きさの獲物を仕留めた彼らは強者か。
「ふぅー、食った食った。野郎ども、腹一杯になったか?まだのやつはもっと食え!」
オンと呼ばれた獣の魔族の掛け声で獲物の前にいた狼たちが後列のものたちと入れ替わる。それほどまでに大きな獲物だった。
「…オンちゃん、見つけた」
突然、岩の隙間に生えた蔦のあたりから声が響くと、葉を模した模様のかんざしをつけた女性がどこからともなく現れた。感情の薄い笑みを浮かべる彼女とは逆に、オンは露骨にげんなりした顔をした。
「また、てめえか、蔦女。毎回毎回どっからともなく湧いてきやがって」
「湧いてない。樹の魔族だから植物のあるところにはどこにでも行ける。私たちは根が繋がっているから」
「…てめえらのその、全部同じみたいな考え方は気味が悪いな。漢なら自分だけで勝負して勝つものだろうが」
「知らない。漢じゃないし。勝ち負けは興味がない」
「かー!てめえと話してると話が噛み合わねえんだよ!」
「そんなことない、私はきちんと回答している。わからないのはオンちゃんがバカだから。それよりもギベオンが呼んでる」
「あんだと?!オレさまはバカじゃねえ!って、魔王が?また主部族会議が?あの王様も好きだねぇ、馴れ合い」
「馴れ合いのおかげで、獣の魔族生き残ってる」
そのセリフにむすっと黙り込むオン。
「ギベオン、狼が獣の魔族の頂点と認めてくれた。それで満足すればいい」
「そりゃそうだろ!うさこうや羊どもなんかにてっぺん名乗れるわけがねぇ!獣の魔族のてっぺんは、オレさまたち狼だ!」
オンが遠吠えをすると、周りにいた狼たちも合わせるように吠えた。
「誰が一番でもいい。とにかく伝えたから」
心底どうでもよさそうにため息をつきながら、来た時と同じ唐突さで蔦女、もとい樹の魔族は消えた。
「ちっ…、言いたいことだけ言って逃げやがった。おい、てまえら、オレさまはちょっくら魔王城まで行ってくるから、留守は任せたぜ」
「「うっす!」」
オンは仲間たちの頼もしい返事に気をよくしたようで、砂煙を上げながら魔王城に向かって疾走し始めた。
♢♦︎♢♦︎♢
「皆、よく集まってくれた」
全力疾走したオンが城に着く頃には、他の参加者は既に到着していた。
「オンちゃん、遅い」
「蔦女、てめえオレさまには最後に声をかけたな?」
「狼はいつも動いてる。探さないといけないから面倒なので最後にした」
「よーし、潔いな。ぶっ飛ばしてやるから感謝しろ」
牙を剥いたオンの前に岩でできた手が伸びてきた。
「ガンちゃん、ありがと」
「…うむ」
ガンちゃんと呼ばれた石の魔族が樹の魔族に頷きかける。
「ローラ、召集をかけてくれたこと、ご苦労であった」
「いい。どこでもいける私、伝達が得意」
玉座に腰掛ける魔族がローラと呼んだ樹の魔族を労ってから金色の眼で周りを見渡した。この者こそが、今の魔界の覇者であり、魔王と呼ばれる存在。血の魔族のギベオンであった。
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