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花の歌声と精霊の祈り  作者: 衣緒
青年編
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学園祭

 パンっパンっ!と花火が鳴る。開場を告げるアナウンスが流れて、魔法学園の学園祭が始まった。

 私たちのクレープ屋さんは西門から構内を半分くらい進んだあたりになるので、ここまで外部のお客さんが到着するのにはまだ少しかかるだろう。そう思ってたべてくれープのテントの中でのんびり構えていたら、声をかけられてびっくりした。


 「薬膳クレープとスープを一ついただけますか?」

 「セラン!」

 「おはよう、カシア。混み始める前に来ちゃった」

 「わ、わ、来てくれて嬉しい、ありがとう!早速用意するね」


 注文をクレープ調理班のメンバーに伝える。カシアは今日はメニュー監修と、材料がなくなってきた時などアレンジが必要な時に出番が来る以外はフリーになっていた。夏休みメニュー開発を頑張ってくれたから、とヨリが気を利かせてくれたのだ。その時に耳打ちされた『セラン先輩と学園祭デートでもしてらっしゃいな』の言葉を思い出して顔が熱くなる。

 ぶんぶんとかぶりを振って顔を冷ましつつスープを注いで先にセランに手渡す。調理班は初のお客さん相手に出すクレープを一生懸命焼いているところだった。


 「美味しい。日陰はまだ少し涼しいから、ちょうどいいあったかさだ」


 セランがにこにこと感想を伝えてくれる。記念すべき当店最初のお客様。そのせいなのか、なんだかクラスのみんなの視線が集まってる気がする。


 「お待たせしました!薬膳クレープできました!」


 調理班の声がしたので受け取るためテント内を振り向くと、集まっていた女性陣の1人から小声で聞かれる。


 「ね、ねぇカシア、あの人ってもしかして…あのアズロ先輩?」

 「あ…。ううん、違うよ、あの人はアズロ…さんの双子の弟で、セラン…さんだよ」


 なるほど、最初のお客様というだけではなく、アズロだと思っての視線もあったのか。そういえばヨリがアズロはすごく知名度が高いと言っていたなと思い出す。一応変に掘り下げられないように呼び捨てにはしなかったけど、さん付けとかなんだか変な感じ。


 「はい、セラン。おまちどうさま」

 「ありがとう、カシア。…少し離れても平気?」


 視線を気にするようにテント内に目を向けてから聞かれた。そりゃ、こんな見られてる中じゃ食べにくいよね。


 「うん、ヨリが今日はフリーにしてくれたから、大丈夫」


 振り向くと、ヨリがクレープを差し出していた。曰く、『当店の隠し目玉商品、初恋を捧げるさくらんぼクレープですわ。カシアのためのクレープなんですから、しっかり満喫してくださいましね』と。そしてワクワクした表情で行ってらっしゃいと手を振る。隠し目玉とか知らされてないけど、ひとまずありがたく手を振り返して店から離れる。どちらからともなく庭園の方へと歩き出していた。


 「クレープもおいしいよ。薬膳だけど食べやすくて、これで効果まであるなんてお得な感じだね。そっちのさくらんぼのクレープも、甘くて優しいいい香りだ」


 ふにゃっと2つの空色が笑う。頑張ってよかったと、もうそれだけで思える笑顔。


 「ありがとう、セランが夏休みに協力してくれたおかげよ」

 「俺はカシアと楽しく過ごしていただけだけど、役に立てたなら良かった」


 お互い照れるように目を逸らす。静かだとドキドキが聞こえてしまいそう。場を繋ぐかのように無言でヨリがくれたクレープを口にしているけど、緊張してるのか味がわからなかった。な、なにか話題…!


 「あ、そ、そうだ、セランのクラスはなにをするの?」

 「ん?うちは万華鏡の館だよ。アズロが毎正時に氷を剣舞で砕いて万華鏡を煌めかせるのが売り。毎正時とかやりすぎだろ、ってぼやいてたよ」


 セランに釣られるように笑う。確かにアズロはめんどくさがりそうだ。入学してから会ってはないけど、あの森で遊んでいた頃のままなイメージのエピソードに懐かしさが込み上げる。

また、3人で集まれたらいいな。セランが自分を隠さなくてもいい、自分のままでいられるように-


 「そういえば、ここの秘密基地見つけたのは勘なんだけど、ヨリが私の勘はおかしいって言うのよ。でも、よく考えたらセランもここを見つけていたわけだし、私たち不思議な力仲間よね」

 「ふふ、仲間って素敵な言い方だね」

 「えへへ、ありがと」

 「でも、力のことは2人だけの秘密にしておいてほしいんだ」

 「うん、セランがそう望むなら。ふふ、昔の、秘密のお友達の頃みたいね」

 「うん、そうだね。あの頃からずっと、君は俺の大切な人だよ、カシア」


 まっすぐに向けられる空色に映る自分の顔が真っ赤になったのが見えた。心なしかセランの顔も赤くなっている気がする。ドキドキしすぎたのか、なんだか頭がふわふわする。

 ふわふわしていたから、気づくのがワンテンポ遅れた。セランの顔が近づいてきていたことに。もう目の前に見える空色の瞳に自身の緑の瞳が映って揺れる。()()するときには、目は閉じるものだって小説で読んだ!カシアはそっと、目を閉じた。唇にふんわりと温かな、幸せが降ってきたようだった。



♢♦︎♢♦︎♢



 「ヨ、ヨリー!!」


 思いの外早くカシアがテントに戻ってきたのを出迎える。ほんのり顔が赤いのが遠目でも見えた。


 「早かったですわね、カシア。もう少しゆっくりデートしてきてもよかったですのに」

 「だ、だって、私なんか変なんだもん。ふわふわして、セランもなんか違ってて。なんかすごく恥ずかしくなっちゃって」


 少し酔ったような言い方に、()()アルコールが抜けてないようだと察する。ちょっと強すぎたかしら。

 カシアに渡した、"初恋を捧げるさくらんぼクレープ"には実はチェリーの洋酒漬けを使っていた。今一歩踏み出せないカシアを後押ししたくて、気持ちに素直になれるようにと仕込んだのだ。


 (そんなに強く漬けてないうえに、一粒だけでしたのに…思ったより強く効いてしまったようですわね)


 流石のヨリも想像できなかったろう。そもそも珍しい存在である精霊が()()()()近くにいて、そして2人を後押しするために、お互い気持ちに素直になれるよう働きかけていたなんて。

いつも読んでいただきありがとうございます!

下の⭐︎で応援してもらえるととっても励みになって嬉しいです♪


セラカシ書いてて長くなってしまいましたが、ひとまず魔法学園編の山場、学園祭でした。お楽しみいただけたら幸いです。


出番を作ってあげられなかったエルムパパは、セランとは逆に売り切れ直前のタイミングで駆け込み客てちゃんと薬膳クレープとスープを買って帰りました。いつかそのあたりも書けたらいいなと思いつつ…。

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