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花の歌声と精霊の祈り  作者: 衣緒
青年編
35/74

夏休み 4 〜森でデート〜

 「?!」


 食材集めに夢中になっていて、近くに人がいるの気づかなかった。びっくりして振り向くと、そこには森の中で見慣れた緑がかった銀髪が見えた。先ほどのセリフの赤ずきんに合わせてか、顔の前で両手を重ねて狼の口みたいな形にしている。


 「寄り道してると、悪い狼さんに食べられちゃうよ」

 「セラン!」

 「こんにちは、カシア。今日はなにかを集めに来てたの?」


 手元のカゴに視線を向けながら問う。


 「うん、学園祭でクレープ屋さんをするのだけど、そのメニューで作ってみたいものがあって。その材料を集めに来てたの」

 「へぇ、カシアのクラスはクレープ屋さんかぁ。食べに行こうかな。どんなメニューを作るの?」

 「まだ決まってないんだけど、定番のメニューの他に、薬膳クレープを扱ってみたら楽しいかと思って」

 「薬膳…クレープ?」


 2つの空色を瞬かせながら小首をかしげる。男の子なのにかわいいってずるい。


 「うん、疲れ目に効く菊の花とクコの実を使って作れないかなってこれから試作する予定なの」


 本日の成果の入ったカゴをセランの方に掲げてみせる。


 「あれ、クコの実もうなってた?よく見つけたね」


 流石森遊び仲間のセラン、季節外れに気づいたようで驚いている。

 

 「うん、一本だけ成長が早かった木があったみたいで、その子にだけ実がついていたの」

 「へぇ、それはラッキーだったね」


 同じことに驚き、同じように喜ぶ。それだけのことが、嬉しい。

 ああ、やっぱり私…。

 視界の端で、カゴの中の赤い菊が見えた。"あなたを愛している"を花言葉に持つ花が。



♢♦︎♢♦︎♢



 会いたいとは思っていた。()()()()()森に来たのも会えたらいいなと思ってのことだった。だが、いざあの男子寮での邂逅のあと初めてカシアに会って、まだそれを夢だったことにするかそうじゃないと告げるか悩んでいて、正直混乱していた。


 (…だからって、狼はないだろ、俺…)


 しかも、謎のジェスチャーつきだ。もう穴があったら入りたかった。

 幸いカシアが変にリアクションする前に話題が学園祭にうつってくれて助かった。カシアならないと思うが、もし呆れた目で見られでもしていたらだいぶショックを受けただろう。

 

 「食べに行こうかな」


 そう言ったものの、実は毎年学園祭は役割のところだけ済ませてあとは寮から眺めるだけだった。学園祭は他学年や他校生も参加するため、この見た目でアズロと勘違いした生徒が大挙して押し寄せてくるということがあって以来極力当日は人に出会わないようにしていたのだ。

 でも、カシアが作るクレープは食べてみたいな。朝一番か、終わり間際ならそんなに混んでいないだろうか。

 視線を向けた先で、カシアの持つカゴの中の赤い菊が見えた。

いつも読んでいただきありがとうございます!

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