会いたいあなた
「ただいまー」
へろへろと玄関をくぐる。ヨリの追求が思いの外しつこ…いや、根気強いものだった。特定の人物を思い浮かべたと見るや、いったいどこの誰だと質問ラッシュが発動した。よくあんなに口が滑らかに回る。都会っ子おそるべし。
それにしても、アズロの知名度はすごいようだった。ファンクラブものがあって、そこにはアズロと同じ3年生だけではなく他の学年の生徒も男女問わず属していると言う。まあそれを知ってるヨリの情報網もすごいが。アズロとは王都に来る前にあの森で会ったきりだけど、きっとかっこよく育っているのだろう。だって、双子のセランがあんなに男の子らしくかっこよく…。そこまで考えてかぶりをふる。ヨリが変なこというから、変に意識しちゃってる。私とセランは、そういう関係じゃなくてもっと…
「…セランにとっての私って、なんなんだろう…」
思わず口から言葉が漏れる。
優しいお兄ちゃん、秘密の友達、幼馴染、勉強の先生…。私にとってのセランはいろんな言い方ができる。これらをそのまま裏返せばセランにとっての私にはなるだろう。でも、知りたいのはそうじゃなくて…
「…会いたいな…」
テーブルにこてんと突っ伏して窓の方を見る。窓辺の蔦が揺れていた。
♢♦︎♢♦︎♢
黄昏時の庭をふわふわした気持ちで歩く。見覚えがあるようなないような庭。しっとりとした葉が足裏にくすぐったい。
「…?」
外に出た記憶はない。それに、なんだかすごく眠い。テーブルに突っ伏したあのあと寝てしまったのかもしれない。そうか、これ夢なんだ。
よく見ると、今いる庭は女子寮の庭に似ていた。カシアもヨリも王都に住んでいるが、人によっては遠方から通っている生徒もいる。そうした生徒たちが学期期間中、衣食住に困らないようにと魔法学園には寮があるのだ。女子寮にはオリエンテーションで来たくらいなのでもともと見慣れているわけではないが、それでもここは女子寮とはなにかが、草木の雰囲気とでも言おうか、違う気がした。
「あ…」
少し先の、広場のように開けたところにあるベンチに緑がかった銀色が煌めいていた。
(会いたいと思った相手に夢で出会えるなんて、いい仕事するじゃん、私の夢)
そんなことを考えながら垣根で作られた小道を広場に向かって進む。ふと、相手もこちらに気づいたのか顔を上げた。会いたかった二つの空色がカシアを捉える。
「カ、カシア…?どうしたのこんな時間に男子寮に来るなんて」
なるほど、ここは男子寮という設定だったらしい。それでいつか見た女子寮と似た雰囲気だったのか。私の夢にしては芸が細かい。
「会いたかったの、セラン」
「…なにかあったの?」
途端心配そうに私を見つめる瞳がやっぱり優しい。
隣に腰掛けながら首を振る。
「ううん。ただ、今日ね、ヨリと話している時に、会いたくなる人って誰だろうってなってね、あ、ヨリって私のクラスの仲良しさんなんだけど、そのときに、クラスメイトの子達は会いたくなるって感じじゃないけど、セランには、会いたいなって」
セランの顔に朱が刺したように見えた。
「だから、こうしてセランに会う夢を見られて嬉しいな」
夢なら多少のわがままは許されるかしら。こてん、とセランの肩にもたれかかる。一瞬びっくりしたように身体が跳ねたが、すぐ受け止めてくれた。広い肩が男の子なんだと告げる。
セランの優しくて温かい空気に包まれて、また眠気が強くなる。このままぐっすり朝まで寝たらきっと気持ちよく起きられる気がする。そう思っていたら、いつの間にか意識が遠のいていった。
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