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花の歌声と精霊の祈り  作者: 衣緒
青年編
25/74

親の心子知らず

 「おやすみなさい」


 足取り軽く寝室に向かう娘を見送って、エルムは盛大にため息をついた。いつか気づくかもしれないとずっと思ってはいた。いたが、意外と鈍い娘は長いこと気づかなかったからそのまま気づかないかもと思ってもいたのだ。やはり、魔法学園に行ったことで色々と知見を得たのかもしれない。


 「…よかった、か…」


 先ほど娘が話していた「もーびっくりしてさ。属性魔法が使えるからママも私も普通だったんだけど、一瞬魔族かと思って焦っちゃったから違って良かったと思って」のセリフが脳裏に浮かぶ。

 それはそうか。混血が禁忌と言われ、魔族は敵と言われた後で、混血や魔族でいたいと願うことはないだろう。


 「…リラ、君がいてくれたら…」


 思わず窓辺に揺れる蔦の葉を見つめて呟く。

 カシアの持つ力については、彼女が生まれてすぐに色々と調べたからわかっている。もちろん後天的に身につけたものもあるだろうが、先天的なもの、つまり血筋による力はわかっているので、どの力がどれくらい隠すべきものかはわかる。そのため、カシア本人に自覚があるならば話は簡単だった。それぞれの力について、この力は使ってはいけない、この力は誤魔化せる、と伝えることができるから。問題はカシアに自覚がない場合だ。本人に伝えることで否が応でも自覚させてしまう。そして今回がまさに自覚なし、かつ、その事実を望んでいないことが判明しているという、伝え方に悩むパターンだった。



♢♦︎♢♦︎♢



 翌日は、陽光の暖かい穏やかな朝だった。

 悩んでいたために朝から疲れた様子の父と、それとは逆にしっかり寝たらしい元気な娘はともに玄関に向かう。


 「じゃぁ、カシア、気をつけて行っておいで」


 そう告げて研究所に向かおうとする背中に声がかかった。


 「あ、パパ傘持って行ってね」


 見ると本人はしっかり傘を手にしている。()()()()()()()()を見上げてから、今一度娘を見つめる。


 「傘が、いりそうかな?」


 震えずに言えただろうか。

 昔、まだ森の近くの街に住んでいた頃、妻のリラも天気が読めていた。植物特有の感知能力とでもいうのだろうか、考えるわけではなく、ただわかるのだと話していた。だから娘にも()()()()()()()()()と伝えなくてはならない。そうでなくてはいつか気づく者が出るだろう。だが、娘を傷つけずにどう告げたらいいのか、一晩考えたが良い案が浮かばなかったのだ。


 「うん、しばらくしたら雨が降るよ」


 断言しないでくれ。どう伝えたものかと口を開けど言葉が出てこない。


 「私の勘、昔からよく当たるんだよね」

 「…は?」


 カラカラと笑う娘を見て力が抜けた。勘。そんな、言い訳でいいのか。


 「ヨリにもびっくりされるんだよ、カシアは勘がいいですねって」


 …自分は難しく考えすぎていたのかもしれない。明るい娘の笑顔を見ながら、エルムは思わず苦笑していた。

私生活がバタバタしていて遅くなりましたが、いつも読んでいただきありがとうございます!

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