禁忌の存在
「先生、魔族は人間界を占領しようとしている、とおっしゃってましたが、それならどうして人間界と魔界とで戦争が起きていないのですか?」
なかなか物騒な話だが、確かにその通りだ。こちらにたまに現れる魔物でさえ強いのだから、魔族はそれより強いのだろうし、一気に攻め込まれたら人間界なんて簡単に占領されそうな気がする。
「いい質問ですね。まず初めに訂正をすると、戦争は起きています。ただ、力が拮抗しているために膠着状態なのです。確かに魔族の魔法による攻撃力は驚異的ですし、身体能力も高いので剣などの攻撃でも圧倒されるでしょう。ですが、この王都の守護結界をはじめ人間界の種族は防御魔法に秀でているため、魔族が一気に進行して来られないほどには抑えられているのです」
魔物がたまにしか現れないのも守護結界の効果なのか。王都にある守護結界だけでなく、人間界そのものにもあるということだろうか。すごいな守護結界。
それに、そういえば初等部の頃に、属性魔法ではあんなにイメージするのに手間取って苦戦した魔法だったが、その後に習った防御魔法はすんなりと使えた気がする。てっきり属性魔法を頑張った効果だと思っていたが、それに加えて種族ボーナスとでもいうのか、相性の良さもあったようだ。
「ですから、どちらかの力が増す、ないし、減ずることで均衡が崩れると戦争が再発する危険性が高いのです。人間界の種族でしたら、より強固な結界を手にして戦争を回避できるかもしれませんが、もし力を増すのが魔族でしたら、例えば今まで戦争に加担していなかった石の魔族や樹の魔族が人間界に侵攻する戦力に加わると一気に人間界を占領しにくるかもしれません」
教室に沈黙が落ちる。今まで戦争は起こっていない、むしろどこかでは、起こらないとさえ思っていたのに、実際はすでに起きていて、パワーバランスが崩れれば簡単に戦争の舞台になると言われてもパッと受け入れられない。
沈黙する生徒たちを見渡して、先生が微笑まながら口を開いた。
「戦争を避けたいのは先生も同じです。そのために、この学園があるのです。皆さんが魔法について理解を深め、より強固な結界や守護魔法を開発することができれば、もしくは魔族が恐れるほどに強力な攻撃魔法を会得できれば戦争を回避できるでしょう」
先生の言葉に、生徒たちの顔に希望が戻る。
「先生、公式には魔界に行った人はいないということでしたが、もしそういう人がいたとして、魔族と対話ができて、もし、もしですよ、魔族の魔法を学ぶ機会ができたら、一気に人間界の魔法が進むように思うのですが」
流石王立魔法学園の生徒、質問がなるほどと思うものばかりだ。確かに国としては魔界と交流を持たせてスパイが入るのは困るだろう。でも、それは同時に相手を知る術を放棄しているとも言える。魔族はそもそもどんな魔法を使うのだろう。
「既存の枠にとらわれない、いい視点ですね。確かにリスクベネフィットで考えた時に魔界との交流を全否定することに議論の余地はあると思います。ただ、いざ本当にスパイがいて、人間界に魔族が素通りで入ってくるようになると王都の守護結界すら破壊される事態になり得ること、ひいては人族の絶滅に繋がり得ることから現在では禁止されています。それに、仮に例えば友好的な種族と親しくなったとして、好戦的な魔族とも出会ったら戦闘になることもあると思います。その場合、その魔族が仲間を助けてくれと頼んできた時に、攻撃を躊躇わずにできるでしょうか。その躊躇が、好戦的な魔族から見て致命的な隙にならないでしょうか。そのようなリスクも含めて、法は定められているのです。そもそも魔界に行くことそのものが禁じられている中で、更に魔族との混血は禁忌とされているのは、非公式には存在する魔界からの生還者たちが再度交流を持とうとしないように抑制するためなのです」
そうなのか。そもそも魔界に行くのがダメなのに混血なんて魔界に行くか、魔族が人間界にくるかしないと起こり得ないことまで禁忌にされてるのか。随分厳重だな、法も。
「…ですが、私も魔法を研究する身で正直、魔族の使う魔法には興味がないとは言えません。私たちの使う属性魔法とは違う、属性ではない魔法とは、どんなものなんでしょうね」
魔族は属性じゃない魔法なのか。そう思った瞬間、隣のヨリが囁いてきた。
「ふふ、カシアの勘だったら魔法関係なしに魔族とも張り合えそうね」
すみません、1/5 18時に途中までで投稿されてしまっていました汗
加筆しました。
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