迷子ならぬ迷い猫
教室から講師の先生が出ていくと、途端にガヤガヤと賑やかになる。
「カシア、昼食をとりに行きましょう」
隣で授業を受けていた少女がノートをしまいながらこちらを向いた。肩までで切ったカシアよりも長い髪がさらりと流れる。お日様色の髪に、黒みの強い茶色の瞳が猫を思わせる彼女は、入学式のときに隣になった縁で仲良くなれたヨリ=フォールデックス。生まれも育ちもここ王都という生粋の都会人だ。
「うん、行こう行こう、今日は何食べようかなー♪ ヨリはなににする?」
学園にはいくつか学生向けの食堂があるし、校外に出れば飲食店もある。ただし、校外のお店は王都なのでそれなりのお値段するから、学生たちは食堂を利用することが多い。
「そうですね…第二食堂のサラダバーでお野菜をたくさん食べたい気分です。なんとなく今日はお肌がガサついている気がしますので」
「ガサついてるようには見えないけど…でも、いいね、第二ならケーキも食べられるし♪」
「…相変わらずですね。どうしてそんなに甘味ばかり食べていてそんなにお肌がすべすべなのか…羨ましいですわ」
「ひゃめてー」
すべすべを堪能しているようにあまり見えない手つきでほっぺをつまみながらヨリがぼやく。このままではケーキの時間まで私のほっぺが危ない!
「よし、じゃぁ席が埋まる前に第二に行こう!そうしよう!」
さっと身を翻しながらカシアが元気に歩き出すと、すんなり後ろからヨリも歩き出す。なんのかんの気が合う2人なのだ。
食堂に向かって歩いている途中、葉に守られるようにして小さな毛玉が見えた。
「?」
近づいてみると白い毛玉からぴょこんと同じ色のしっぽが出てきた。
「まぁ、可愛らしい白猫ちゃん」
ヨリが隣にしゃがみ込んで声を上げた。
「みぃ…、みゃー」
「ちっちゃいね。親猫とはぐれちゃったのかな?」
カシアが子猫に手を伸ばしながら口にする。わかったのかわかってないのか、子猫はすんすん、とカシアの手に鼻を近づけてから、すりすりと体を寄せてきた。
「きゃ、きゃわわっ…!」
「人懐こい仔ですわね」
「こんなかわいいんだもん、きっとママ猫さんもこの子探してるよね!よーし、おいで猫ちゃん、一緒にママを探そっ!」
心臓にハートの矢が何本か刺さってそうな顔でカシアが宣言した。
「確かにこの大きさでは、まだ自力で獲物を捕まえるのは難しいでしょうし、お腹が空く前に親猫と会わせてあげたいですね」
ヨリもそう応じると、手のひらに水の玉を生み出してそれを頭上に飛ばした。
「…散!」
ヨリの声に合わせて頭上に浮かび上がった水球が霧散する。あたりにミストが撒き散らされた。
「ヨリ、今のは?」
「感知魔法です。本来感知向きの風を強化してもいいのですが、わたくし水の方が得意でして…霧状にした水に風の感知能力を載せているんですわ」
流石王立の魔法学園。組み合わせ魔法は当たり前で自身の得意不得意を踏まえて組み合わせを考えるようだ。
「…見つけました、こっちです」
走り出すヨリについていく。じきに数匹の仔猫と共にいる白い成猫が見えた。
「みぃ!みぃみゃっ!みゃー!」
腕から飛び降りた仔猫が白猫たちのところに駆けていく。合流するとすぐお互いに無事を確かめ合うかのようにペロペロと体を舐め合った。
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猫エピソードまでの前座が長くなり、、なかなか能力エピソードが終わりませんでした汗
ヨリ「まぁ、わたくしの登場シーンを前座だなんて、失礼しちゃいますわね」