終わりの音
熱い熱い…!
パチパチと爆ぜる音、息苦しくなるような煙。どうして…?!
目を覚ましたカシアの前に見えたのは、一面の火だった。
「っ?!」
悲鳴にならない声をあげ、思わずベッドの上で後ずさる。怖い。助けて。お願い、誰か…!
祈るように手を組んでベッドの上で小さくなる。逃げないといけないと思うのに、怖くて足が動かない。ドアの方は火の海で、もう逃げ道は窓の方しかない。
「ぱ…パパ…っ!ママっ!」
叫んだつもりだったけど、煙を吸ったせいか恐怖のせいか、掠れた声が出ただけだった。
そうこうしているうちに火がその裾野を広げてくる。
助けてと叫ぼうと息を吸って咳き込む。視界が涙で歪んだ。パパ、ママ…まだずっと一緒にいたかった。大好きって言いたかった。ぎゅって抱きしめてほしかった。パパと笑い合って、ママのおいしいご飯を食べて。そんな明日がいつだってまた来ると思ってた。セラン、アズロ…まだいっぱいあそびたかった。2人とお話しするのが好きだった。物知りなセラン、ちょっといじわるなアズロ。ちょっぴり不思議な大切な友達。
一筋の涙が頬を伝って落ちる。火の手がカシアに触れる。その瞬間、窓の外から誰かが呼ぶ声がした--
♢♦︎♢♦︎♢
目が覚めたのは、火事から3日経った後だった。
私は、奇跡的に大きな怪我もない状態で見つかったと聞いた。あんな火の海の中にいたのに。パパは全身に火傷を負ったけど一生懸命に動き回っている。だから傷が治るのとまた開くのとでイタチごっこだと、お医者さんが言っていた。ママは、ママはまだ見つかっていない。焼け落ちた家の中に、イヤリングだけ落ちていた。だからパパは一生懸命ママを探してる。真っ黒に焼けてしまった家の灰の中を。パパはご飯も食べてない。食べたくないんだって。寝るのも、力尽きて倒れる時だけ。それでもママは、見つかっていない。
♢♦︎♢♦︎♢
町の人たちが、毎日ご飯をくれたり泊まりに来ないかと誘ってくれる。パパはうちがあったところから離れないから、私だけ。パパはだんだん痩せてきてる。もともと細かったけど、今は真っ青でふらふらしてる。パパまでいなくなったら、私は…
♢♦︎♢♦︎♢
焼け跡に、植物の芽が出てきた。ママのイヤリングみたいな、綺麗な緑の蔦。
パパも、ママみたいだと思ったのかもしれない。その日からまた、一緒にご飯を食べて、一緒に寝るようになった。私に、ごめんねと言いながら--
これは、まだ私が小さな女の子だった頃の話。
いつも読んでいただきありがとうございます!
下の⭐︎で応援してもらえるととっても励みになって嬉しいです♪
幼年編ラストです。
少し創作時間をいただいてから、青年編続きます!そちらも読んでもらえると嬉しいです^_^