まさかの展開!勝者は誰だ?
ここ何日か、俺はなかなか眠れなかった。
理由は、霧島と望海がまぐわっていたからだ。
意識が共有できる自分が他にいると便利だけれど、こういうのは割と辛いというか嬉しいというか。
俺とみゆきが頑張っている時も、他の奴らは同じ気持ちだったのだろう。
これは色々な意味でヤバいな。
今日も俺は争いの最前線を見に行っていた。
おそらくコチョビテの町かニライカナイの町か、どちらかがターゲットだろう。
俺はとりあえずニライカナイを見に行った。
すると魔人のあいつらが奮闘していた。
やっぱり四人じゃ大変そうだ。
町を奪う所までやれば完全に戦争と言えるわけだけれど、でも今の世界ルールではただの事変。
その言葉の為だけに四人に絞る必要が何処にあるんだろうね。
まあ戦争って事になれば、世界中から世界ルール違反を責められる事にもなるんだけどさ。
でもこのルールもやっぱり微妙。
逆に九頭竜が反撃して町を取り返しに行ったら、それは九頭竜が戦争を仕掛けた事になるのだろうか。
そもそも宣戦布告に近い行為を九頭竜がやったわけで、そういう意味では九頭竜が悪い。
でも先に手を出したのは敵側。
そして現状はどちらが悪いとも言えない状態。
この世界も単純に見えて簡単じゃないんだよな。
おっと!くだらない事を考えている間にあいつらが押されている。
誰の依頼かは分からないけれど、あいつらを助けてやるのだったら多少はいいよね。
俺は約二キロ上空から、妖糸を最大限伸ばして敵を斬って助けていった。
一応姿は消しておく。
誰に撮られるかも知れないからね。
しかしこの場合はどうなるんだろうな。
部外者を一人加えて五人になるんだけどさ。
ルールって一言では難しいんだよ。
だから転生前の世界では、法律がやたらと面倒な事になってたんだよな。
もしもこういうのを一々決めていたら、ルールを理解する事すら難しくなる。
それで文化統治ってのが大切になってくるわけで、多文化共生に問題があるのも分かるよ。
さて、俺の助けもあってあいつらはなんとかこの町の奪取にも成功したようだ。
となると昨日の奴らはコチョビテの方にいるのだろうか。
俺は見に行ってみた。
戦いは既に終わっていたが、予想通り海の嵐が町を占領していた。
こんな戦いは二週間続いた。
西の大陸の九頭竜領は既に七割ほど奪われている形となっていた。
「徐々に九頭竜の抵抗が強くなっている」
「秘密組織の国はもう侵攻できなくなっているんだよ」
「もう一つの勢力はまだ一度も負けずに侵攻しているね‥‥」
「でも多分そろそろ終わるよね。なんだかそんな気がする」
みゆきが言うと当たりそうな気がするんだよな。
半分の血とは言え四十八願の血が流れているわけだし、更に皇の血も流れている。
どう考えてもそういった能力を持ってそうなんだよな。
俺の邪眼でも能力コピーでもその辺り認識できないんだけどさ。
たぶん俺の力では、みゆきの全ては分からないのだとは思う。
何故なら、俺よりも魔力が大きくしかも神だから。
金魚の能力である魔物の能力を一つコピーするのだって、魔物の方が上手ならコピーできない。
ムジナだって俺をコピーしたけど、ムジナの強さ以上にはなれない。
きっとチートな俺にも解明できない事が、この世界には沢山あるのだろう。
そんなわけで、みゆきのそろそろ終わる発言を信じて、俺は庭でグータラ昼寝を楽しむのだった。
そしたらまたまた聞こえてきました。
「大変な事が起こったわよ!策也!起きなさい!」
「金魚、またかよ。一体何が起こったんだ?」
「金魚じゃないわよ。私よ!此花麟堂!」
「なんでリンがこんな所まで‥‥」
何時も何かあれば呼びつけるのに、逆にこっちに来るなんて槍でも降ってきたのか?
「とにかくマイチューブを見なさいよ」
リンはテーブルに自分の住民カードを置いて立体映像を映し出した。
こうやって映像を見る事もできるんだよね。
『兄上様!なんだか国を手に入れられるチャンスと聞いて、「エゴンイーシ」の町と領地を取ってみました!どうでしょう?わたくしの働きは?』
「・‥‥・‥‥・‥‥」
これは夢だな。
そうそう俺寝てたしな。
だいたいリンがこんな所までくるわけないんだよ。
俺はテーブルに突っ伏した。
「策也さん!大変なんだよ!」
あれ?何時もの金魚まで来たぞ?
「あ、麟堂さんもマイチューブを見たんですか」
「そうそう。それで策也にも見せたんだけど、どうやら現実逃避しているみたいなの」
「この映像は刺激が強すぎるんだよ」
「そうね。まさかあの子、最近見ないと思ったらこんな所にいたのね」
現実逃避してみたけれど、どうやら本当みたいだな。
俺は仕方なく起き上がって映像の続きを見た。
人の部分は黒塗りなのでコレだけなら誰だか分からない感じか。
「ん?四人映ってないか?」
「一人はうららちゃんで、もう一人は雲長だっけ?」
「もう一人が分からないけど、なんか羽が生えてるんだよ」
とにかく嫌な予感しかしないんだが。
まずは本人を呼んで聞くしかないな。
『あーあー‥‥ミケコ、聞こえるか?』
『あっ!兄上様から通信が入ったのです!もちろん聞こえているのですよ』
『なんか町を取っちゃったみたいだな』
『早速見ていただけましたか?兄上様の世界制覇に貢献できてわたくし幸せです!』
『とりあえずその事で話があるから、一度家に戻ってきてくれるか?』
『分かりました!もしかして褒美ですか?いえいえそんな物の為に働いたのではないのです』
『いいからとりあえずみんな連れて戻っておいで』
『分かりました。すぐにまいります』
さて、これを一体どう片づけたらいいのだろうか。
クッソ頭が痛いな。
「あっ!マイチューブに続きがアップされたわよ」
あいつすぐに戻ってこいと言ってるのに。
『今兄上様から呼び出したがあったので、先に我が国の名前だけ発表しておきます。国名は「謎乃王国」で王都はエゴンイーシとします!ではそこのおっさん、そうあなた!しばらく国の事は任せますよ。それでは今から戻ります兄上様』
「・‥‥・‥‥・‥‥」
もうどうにでもなれだ。
俺が全てをあきらめた時、ミケコは仲間を連れて戻ってきた。
「兄上様、ただいま戻りました!」
「お帰り‥‥」
「ただいま策也さん」
「策也、俺は自らの手で国を手に入れたぞ!全てミケコ様のおかげだ」
「‥‥」
新しいメンバーは無言か。
というかこいつ何者なんだろう。
見るからに天使、というよりは堕天使だよな。
髪の赤い天使とか知らないけど。
「それでこちらの方は?」
「おい、兄上様が挨拶を希望しておいでだ。挨拶しなさい」
「えっと‥‥天使っていうか‥‥堕天使なんだけどさ‥‥ルシファーです‥‥」
想像通りやんけーい!
「そっか。ルシファーか。あんたはどうしてミケコと一緒にいるんだ?」
「えっと‥‥捕まっちゃいました‥‥」
「そっか‥‥捕まっちゃったか‥‥なら仕方がないな」
「はい。仕方がないです‥‥」
なんかすっかり諦めた感じが伝わってくるな。
こいつらの間に一体何があったのだろう。
「兄上様!このルシファー、名前も住民カードも持っていないようなので、与えてやってはくれませんか?」
「策也さん。そうなんです。名前も住民カードも持ってないから、ミケコ隊長は助ける為に捕まえたんです」
「いやぁ~流石ミケコ様、とてもお優しい」
「うん‥‥ありがとう‥‥」
おいルシファー。
ありがとうってそれでいいのか?
完全にこいつらがこのルシファーを助けた事になっているが本当にそうなのか?
つかルシファーって名前じゃないのか?
ツッコミどころが多すぎてどうしていいか分からなくなってきたぞ。
「名前か‥‥じゃあ『明星』でどうだ?」
「流石兄上様素晴らしい名前です!」
「はあい!うららもとってもいいと思いまーす!」
「うんうん。響きがいい!」
「そう?明星かぁ~‥‥気に入った‥‥」
ルシファー‥‥いや明星は完全に洗脳されているんじゃないだろうか。
「ところで兄上様。苗字はどうなるのでしょうか?」
苗字は確か新しく付ける場合は領主にならないと駄目なんだよな。
となるとあるヤツから許可が出そうなのを付けるしかなくて。
額に魔石が付いている所を見ると、堕天使は魔物扱いになるのか。
確か悪魔だから佐天の仲間なんだろう。
だったら‥‥。
「熊王明星にしよう!」
「決まったな。これで貴様も我々ファミリーの一員だ!」
「おめでとうございます!」
「やったな!明星!」
「嬉しいです‥‥」
これで本当にいいのだろうか。
いいのか明星?
ぶっちゃけ魔力はミケコや雲長よりも大きいよな。
うららがいるから何とかなるとは思うが‥‥まあ堕天使だけど害はなさそうに見えるから良しとするか。
「それよりも国だ!謎乃王国だと?ミケコはちゃんと統治できるのか?」
そうじゃない、そうじゃないんだよ。
統治とかじゃなくて、どうして町を奪ってくるかな。
「兄上様、ご心配には及びません。わたくし兄上様を見て育った愚昧、ちゃんと統治してご覧にいれます」
愚昧じゃダメだろ。
つかどれだけ俺を見て育ったんだ?
ついこの前まで赤の他人だったのだが。
「そっか。うららも雲長も、それに明星もちゃんとやれそうか?」
「はあいっ!うらら頑張りまーす!」
「ミケコ様がいれば何も問題はありません!」
「うん。よく分からないけど‥‥ミケコ様と一緒ならやれそうです‥‥」
みんな何処からくるんだその自信は。
俺ですらまだまだ自信なんて持てないのに。
「そっか。ところで明星、これを頭に付けておくといい。魔石が隠せるだろう」
俺は異次元収納から日の丸ハチマキを取り出した。
このハチマキは俺の意思が注ぎこまれた魔砂によって作られている。
明星の事はまだよく分からないからな。
これで少しくらいは俺の意思を反映した行動をしてくれるだろう。
「おお!兄上様からのプレゼントとは!明星は幸せものだ」
「うらら、うらやましい!」
「おお!俺もうらやましすぎるぞ!」
「うん。ありがとう‥‥ございます‥‥」
なんか雲長のキャラが凄く変わってきている気がするんだが‥‥。
ミケコにテイムされた影響だろうか。
「じゃあ他のみんなにもやるよ。そしてビデオカメラもお揃いにしておくか」
俺は異次元収納から日の丸ハチマキを三つと、ビデオカメラを三つ取り出して、それぞれ持っていない者に与えた。
「兄上様!わたくしもう死んでも悔いはありません!」
「ありがとうございます!」
「うおーーー!!生きてて良かった!」
「下界なのに天国だ‥‥」
この程度でこれほど喜んでくれるとは、なんか逆に申し訳ない気持ちになるな。
「ミケコ、謎乃王国はたのんだぞ。とにかく住む人の幸せを考えて、民とよく相談していい国にしてくれ」
「お任せください!」
「みんなで国を空けっ放しもよくないから、そろそろ戻りなさい」
「分かりました。見ていてください兄上様!最高の国にして見せるのです!」
「おう!約束だぞ!」
俺はミケコとグータッチして健闘を祈った。
「うらら、国まで頼む!」
「はあい!うらら、行きまーっす!」
うららの瞬間移動魔法でミケコたちはその場から消えた。
俺には何もできない。
後は運を天に任せるだけだな。
「あんなんで良かったの?」
「金魚は問題無いように見えたんだよ」
金魚はチョッピリおかしい所があるけど、こういう時は割と正しい事を言う奴だ。
信じてみようじゃないか。
希望的に。
「不安しかないけど、もう任せるしかないだろう。俺はあまり関わりたくない‥‥」
これが本音だな。
でもまだまだ何かやらかしそうなんだよな。
俺にフォローできる程度ならいいんだけどね。
こうして九頭竜に対する戦いは更に荒れてゆくのかと思われた。
しかし西の大陸にある九頭竜領が残りわずかとなった所で戦いは何故か収束した。
理由はよく分からないが、民間軍事連合の海の嵐が進攻を止めたのだ。
「どうして海の嵐は進攻を止めたんだ?」
俺たちは庭に集まって話をしていた。
何故か今度はリンだけじゃなく総司も来ていた。
「もうすぐ海の嵐から発表があるらしいわよ」
「戦争を望むべきではありませんが、此処で終わると火種は残ったままになりそうです」
そうなんだよな。
まだ西の大陸に九頭竜領は残っていて、有栖川も領民ギルドも多少の損失が出るだろう。
そして京極にとっては何も解決していないのだ。
「始まるんだよ」
金魚に促され、俺たちはみんなで海の嵐の発表を見る事にした。
『我々は既に依頼主の要望を全て達成している。よってこれ以上の戦いは望むものではない』
なるほど、依頼主の要望は既に達成されたのか。
いやでも有栖川だとしたら達成はされていないよな。
京極でも同じ。
他に誰がこんな依頼をしたというのだろうか。
大抵の国は九頭竜を嫌っているだろうが、特に敵対しているのは、皇、近衛、四十八願‥‥
四十八願?まさかね。
あの婆ちゃんがそんな事‥‥あり得る。
予言されていたらきっとその通りにするのだろう。
そういえば世界ルールに自由取引の提案が出た時、反対したのは四十八願という話だった。
それにそもそも世界ルールのリセットだって真っ先に賛成したのもそうだ。
今回奪った町は全て四十八願領に近い方面だ。
逆にプーチャンの侵攻は海沿いの町ばかり。
『それで町をいくつも占領させてもらった訳だが、我々はそもそも統治する意思はない。かといって九頭竜に返してしまっても意味がない』
当然だな。
もしも四十八願が依頼主なら、ここは四十八願領になるのだろう。
『そこで謎乃王国の謎乃ミケコ国王に全てを譲る事とした』
「なんだってー!?」
「領土ってこんなに簡単に受け渡しが決まるものなの?」
「最近の神武国を見ればありえるんだろうね」
「ミケコちゃん凄いんだよ。流石は策也さんの妹さんなんだよ」
いや別に妹じゃないんだけどさ。
『ご紹介に預かりましたミケコです。ご安心ください。全ての町の民が幸せに暮らせる国にしてみせましょう!兄上様にもそのように言われております故、大船に乗った気持ちで皆さんは町で暮らしてください』
ミケコ、海の嵐と一緒にいるのか。
今度会ったらどんな奴だったか聞いてみないとな。
ってそうじゃない。
ミケコが西の大陸で大きな領土を得てしまった。
俺は地図を確認してみた。
四十八願領と九頭竜領の間に入ったように謎乃領がある。
長い年月の中でジワリジワリと四十八願領は九頭竜に侵されてきたが、間に謎乃領を入れる事で緩衝地帯としたんだ。
四十八願の防衛力では九頭竜を抑えきれないから。
それならまあいいか。
お婆さんを守るのは孫の務めってね。
この後間もなく、プーチャンが占領した町は有栖川が統治すると発表があった。
その町の民たちは概ね好意的に受け止めていた。
有栖川は領地を手に入れた事で、商人ギルドの損失は十分にカバーできたと考えた。
対抗措置は取り下げ、有栖川の戦いは終わった。
領民ギルドとしても多少の損失はあるが、俺の管轄という事で言えば大きな領土を手に入れたわけだから、余りある利益を得たと言えるだろう。
九頭竜はこれからどこかで反撃に転じて来ると思うが、そのまま宣言を実行する予定で勝負はこれからといった所か。
一人負けの京極はとりあえず商人ギルドの看板を下ろして、新たに『京極商事』として再スタートする。
九頭竜領内では商社としての仕事はできなくなるが、店舗アドバイザーや機器の貸し出し、不動産取引や融資の相談などはできるからね。
千えるは預かっていた商人ギルドを一度奉先に返した。
それを神武国が買い取って、改めて千えるに神武商人ギルドを任せる事になった。
これで商人ギルド関係の組織は、『有栖川商人ギルド』『領民ギルド』『京極商事』『此花商人ギルド』『日置商人ギルド』『陽明商人ギルド』『神武商人ギルド』『九頭竜ギルド』となる。
有栖川商人ギルドと九頭竜ギルド以外は、当面は連携してまずは九頭竜に対抗する事で合意した。
有栖川の縄張りに切り込むのは領民ギルド。
そして九頭竜の輸出の柱である魔法通信機器と衣料のシェアを奪う。
戦いは武力によるものから経済での争いに向かおうとしていた。
ただ、この世界何があるかは分からないけれどね。
2024年10月8日 言葉を一部修正




