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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
再登場編
92/184

ドワーフを守れ!ミケコと兎白の話

転生前の世界では、本当に沢山の歴史書が出版されていた。

それらを読めば、人間が同じ過ちを何度も繰り返して来た事が分かる。

なのに人間は、更に同じ過ちを繰り返す。

それは何故か。

過去は過去であり自分なら上手くやれる、今度こそは上手くいくと考えるからだ。

時代は変わった、過去と今は条件が違う、そう言って失敗する為に挑戦する。

いったい何時になったら気づくのだろうね。

それは失敗フラグだよ。


こちらはまだ朝だった。

ドワーフたちは日の出と共に町を出て東へと向かっていた。

二万人以上のドワーフが連なって歩く姿は、上空から見ると正に人が蟻のようだった。

「流石にコレだけの人数を瞬間移動させるのは無理か」

「人が正に蟻のようなのです」

「踏みつぶせそうなのね」

確かに菜乃と妃子の言う通りなんだけどさ、こいつらが言うと何かが駄目な気がするよ。

「おそらく妖精王国までは一週間から十日くらいかかるよな」

「あの人あんなところでタチションしてるのです」

「あっちの草陰では野グソなのね」

お前らプライバシーは守ってやれよ。

そういうのは一々言葉に出すもんじゃないんだよ。

それよりも現実問題、妖精王国に到着するまで見守っている訳にもいかない。

かといって傭兵隊に任せたとしても、あの猫獣人クラスが出てくれば間違いなくドワーフたちは殺られるだろう。

あの猫獣人、おそらく菜乃や妃子よりも上のクラスなんだよな。

そんなのが出てきても対処できる者は、俺の人形(ゴーレム)の中でも限られている。

ドラゴンキメラの月詠三姉妹でも負ける可能性があるな。

となると最低でもヴァンパイア部隊だが、あいつら太陽の元でずっとだと嫌がるし。

一応魂は体の中心において大丈夫なようにはしているけれど、嫌いなものやっぱり嫌いな訳で。

博士なんか初めて基地から出た時死にかけてたしな。

魔砂ゴーレムだから自分でなんとかできたんだけどさ。

そう考えると意外と戦力少ないよな。

ポセイドンの海神やネプチューンの天照兄弟も、水の無い所で戦うと力を出し切れない。

そうすると後残すは四人だけだ。

うらら、駈斗、夕凪、王仁。

でもこの辺りのをあまり表には出したくないし、今回は天照兄弟に見守ってもらうか。

俺は秘密基地と連絡を取った。

死志(シシ)、今大丈夫か?』

『あら~策也様じゃないですか。どうかしましたか?』

密島死志は、秘密基地でヴァンパイア部隊や忍者部隊の指揮を任せている奴だ。

マンティコアの魂を蘇生したゴーレムで、結構珍しい能力を持っている。

『天照兄弟をこちらによこしてもらいたいんだが』

『あの二人は‥‥まだ寝てますね』

『起こして五分後に転送陣に立たせておいてくれ』

『僕がですか?殺されませんかね?』

『恐怖能力でも使ったらどうだ?あいつらもすぐに起きて来るだろ?』

恐怖能力とはそのままで、相手に恐怖を与える能力だ。

おそらく天照兄弟なら瞬時に起きるだろう。

『分かりました。やってみますね。死んだらまた蘇生してくださいよ』

『大丈夫だ。天照兄弟が蘇生できるから。では頼んだ!』

尤も、死志はそう簡単には死なないだろうけれどね。

俺は五分待った後、転送陣上にいるであろう天照兄弟をこちらに瞬間移動させた。

「策也さま、おはようございます‥‥眠いです‥‥」

「僕たちが出なくちゃならないような任務なんですか?」

「分からん。ただ、お前たちレベルじゃないと安心できない相手が来るかもしれないから、念の為だな」

俺には予感があった。

なんとなくここにあの猫獣人が来ると感じる。

あいつならこの二万人のドワーフも、三十分程度で皆殺しにしてしまえるはずだ。

もしも有栖川が逃げたドワーフを許さないとしたら、あいつが単独で来る可能性は高い。

「ん~‥‥そんな相手がいるなら‥‥ちょっと戦ってみたいかも」

「だねだね!それで僕たちはどうしたら?」

「あのドワーフたちを一人も殺させないのが仕事だ。死んだら蘇生。敵は何人で来るか分からないけれど、二人で任務を全うできそうにない場合は速やかに俺を呼んでくれ」

「敵は殺しちゃってもいいんですか?」

「こちらが殺られては意味がないからな。それはオッケーだ。ただし死体と魂は回収しておいてくれ」

「わっかりました!それで敵は今日来るんですか?」

悪いな天照兄弟。

長い仕事になるんだよ。

「わからん!多分近い内に来ると思うが、最悪ドワーフたちが妖精王国に到着するまで見守ってもらう事になる。そんなわけでよろしく頼んだぞ!」

「えっ?マジですか?」

俺は瞬時に瞬間移動で逃げた。

「ふぅ~‥‥危なかったな」

危うく俺が見守り隊をやらなければならない所だったぜ。

とまあアホな事はしてないで、今日の残りの時間はみゆきと過ごすか。

俺はマイホームでマッタリとするのだった。


数日が過ぎた夕方、突然テレパシー通信が入った。

『策也さま!来た来た来ましたよ!マジ速いですよこいつ!』

『守るの無理‥‥助けに来てください‥‥』

あのスピードだとこの二人でも守るのは無理だったか。

佐天でもスピードでは負けてるって言ってたもんな。

狙いがドワーフではなく天照兄弟なら倒す事もできるのだろうが、ドワーフを殺す事だけに集中されたら太刀打ちできない。

俺はすぐに天照兄弟の元へと瞬間移動した。

天照兄弟の視覚は共有できるからね。

そして俺は霧島を召喚して、猫獣人を止めに行った。

「俺と天照兄弟、そして菜乃妃子はやられたドワーフの蘇生だ。あの猫獣人は策也に任せる」

「戦えると思ったのに‥‥蘇生が仕事か‥‥」

「霧島さまって策也さまなんだよね。なんかすげぇ!」

「私たちが蘇生して大丈夫なのです?」

「苦しいのは最初だけなのね」

菜乃と妃子の蘇生は黒魔術系だから、環奈の蘇生と同様でゾンビのようになるんだよな。

時間が経てば普通に戻るけど、あまり使ってほしくない蘇生かもしれない。

でも死ぬよりはマシだよね。

で、本体の俺だが、バクゥの目を使えば簡単に捕まえられるが、まずはスピード勝負だ。

当然俺の方が速い訳だが、どうやって捕まえようか。

あまり接触するようなのは、魔王やムジナの戦いで懲りている。

俺も相手に接触する系の魔法をいくつか持っているが強力なものばかりだ。

殴る蹴る程度なら良いが、それ以上は避けたい。

となると魔力ドレインの結界からの拘束が有効だが、こいつのスピードで動き回られていたらまず無理。

止まった瞬間を狙っても、猫獣人は反射神経もクソ良すぎるから、直ぐに察知されて逃げられるだろう。

死志のマンティコア能力を使わせてもらうか。

「恐怖の息」

俺は猫獣人を、恐怖に陥れる息の中に弾き飛ばした。

倒れてすぐに起き上がるも、一瞬恐怖で動きが止まる。

すかさず魔力ドレインの結界を発動した。

しかし流石は猫獣人、恐怖にも負けず反応が早い。

「止まれ!」

俺は更にライオン獣人の持つ能力、王の命令を発動し動きを止める。

流石に二回も動きを止めれば、結界が完成する時間は稼げた。

そしてすぐに魔力ドレインの拘束を発動し、俺は猫獣人を捕らえる事に成功した。

「いくら速くても、速いだけなら俺の敵じゃない」

さてしかし、ちょっとドワーフたちに注目されちまったな。

「あー‥‥私たちは皆さんが妖精王国に到着するまで、コッソリ見守っていた見守り隊です。亡くなられた方も漏れ無く蘇生しますからご安心を」

俺はそう言ってから蘇生を手伝った。

直ぐに蘇生は終わった。

「ありがとうございます」

「あなた、策也さんじゃないですか?」

「此花第二を神武国に預けた王子か!」

バレてるし。

そりゃ一応映像をネットに上げてたからなぁ。

見てる人もいるよな。

でも十年前のあの日、みゆきの父ちゃんに言われてからは名前に責任を持って行動する事に決めたんだ。

バレるのも仕方がないだろう。

「そうですが、お忍びなんで一応此処だけの話にしておいてくださいね」

俺弱!

子供の頃には誰にも敬語なんて使わなかったのに、大人になると何故か使い分けてしまうよね。

「それじゃ、後はまたこの二人がコッソリと見守りますから、俺はこの辺で失礼します」

俺はそう言うと、猛スピードで霧島や梅影姉妹と共に猫獣人を連れてこの場から去った。

後は任せたよ天照兄弟。

俺はドワーフたちが視界に入らなくなってから、瞬間移動で炎龍地下魔法実験場へと移動した。

「さて、こいつをどうしようかね」

まずは猫獣人の首に取り付けてある、この従属の首輪を外してやるか。

俺は首輪に手を当てた。

こりゃまたかなりの魔力だな。

これくらいないとこいつは制御できないって事か。

転生してきた時の俺の魔力を超えてるぞ。

従属の首輪は猫獣人から外れた。

「取れた‥‥なんで取ってくれたんですか!」

いきなり喋り出した。

従属の首輪で喋らないように命令されていたのだろう。

「なんでって、とりあえず話を聞きたいからな」

「そうなのですね!分かりました!何でも聞いてください!」

なかなか元気な女の子って感じだな。

歳もかなり低そうだ。

そして素直でいい子に感じる。

こんな子に無理やり殺しをさせていた訳か。

「じゃあまず、名前はなんていうんだ?」

「名前?ん~‥‥とりあえず『火車(カシャ)』と呼ばれていました!」

火車か‥‥。

火車と言えば死神の一種で、姿が猫型の魔物だ。

死神ほどの強さは無いが、近いレベルの魔物ではある。

つまりかなり強い。

「火車の姿に変化はできるか?」

「できます!」

俺は魔力ドレインの拘束を解いた。

「えっ?拘束も解かれたのです!」

「いや別にお前悪いヤツじゃなさそうだし、変化してもらうなら拘束は解く必要があるだろ」

「あ、それはそうですが‥‥」

「じゃあ変化してみてくれ」

「分かりました!」

手を上げて元気に答えてくれた。

やっぱり子供かな。

猫獣人は火車の姿へと変化した。

この大きさだとまだ成長段階か。

獣人は成長が早いからそれでも大人の姿だったけれど、やはり実際は中学生辺りと言った所か。

「どうですか?この凛々しい姿」

「ん~駄目だな。この姿だとこの世界で生きていくのは難しい」

「なんですと!でも猫獣人に戻るのはちょっと嫌なのですが‥‥」

「どうしてだ?」

猫獣人、結構可愛いのに。

「それは‥‥」

「それは?」

「寿命が短いのです!」

確か火車はほとんど不老不死だったよな。

猫獣人として生きるとせいぜい五十年くらいしか生きられない。

これは大きな差といえばそうなのだろう。

「じゃあ別の、俺たち人間の姿で不老不死ならどうだ?」

「それは願ってもないのです!」

「分かった。一度死ぬ事になるけど、それでも良ければそうしてやる」

「ちなみにお値段は?」

そこで何故金の話が出てくる。

「無料だ!」

「なんと!買います買います!」

タダより高いモノはないんだぞ?

こいつは絶対に騙されるタイプだろうな。

「分かった。それじゃ後でどんな体がいいか相談しよう。でもその前に、悪いがもう一度猫獣人の姿に戻って少し話を聞かせてくれ」

猫獣人姿のこいつに聞いておかないと、後で映像をネットに上げられなくなるからな。

「分かりました‥‥」

寿命ってよりも、猫獣人の姿には嫌な思い出しかないのだろう。

かなりこの姿は嫌なようだ。

「お前を従属させていたのは誰だ?」

「ん~‥‥よく分からないのです‥‥ただ、民間軍事なんちゃらにいました」

なるほど。

間にそういう組織をかましてくるのは、ほぼ百パーセント有栖川だろう。

ドワーフを襲うメリットがあるのも有栖川だけだしな。

「殺しを頼んできたのはその組織の者か?」

「そうなのです!『松』と呼ばれていた人です!」

名前とは思えないな。

コードネーム的な感じか。

「この前御剣の国王を殺したのもお前だよな?」

「そうなのです!」

「五年ほど前にエルフ王国スバルで、上杉と武田を殺したのもお前か?」

「えっと‥‥思い出しました!デススペルで殺してスクロールを二個置いておけと頼まれたヤツですね!」

エルに聞いた話とも一致するな。

よし、これだけ聞いておけば大丈夫だろう。

一応犯人である猫獣人の供述も撮れたし、後は死刑映像だけ撮れれば皆を納得させられるか。

「じゃあ生まれ変わる為の体を相談して決めるか」

「どんな姿になれるのでしょうか?ワクワクします!できれば可愛いのがいいのです!」

「大丈夫だ。俺は可愛い姿しか許可しない。ところでお前の名前はどうしようかな」

「火車は嫌です。松に呼ばれて嫌な思い出しかありません‥‥」

そうだよな。

新しく名前を付けないと‥‥。

でも苗字はもう自由に付けられなくなった。

俺が自由にできる苗字から、モブじゃなく誰でも使えそうなのとなると‥‥。

「よし!お前の名前は今から『謎乃ミケコ(ナゾノミケコ)』だ!」

「ミケコですか!妙にしっくりきます!流石は兄上様です!」

兄上様?って、まあ別に良いけどさ。

「じゃあ生まれ変わりに行くぞ!ミケコ!」

「おー!」

この後ドズルの所でミケコの体を相談して決めた。

ミケコは生まれ変わった。

新しい体は少し小さ目の女の子で、髪は長く銀髪にした。

猫獣人だったから、少しだけその雰囲気を残そうと、耳の代わりに長い髪の一部を触覚みたいにしておいた。

ドズルと握手し、納得のデキに満足した。

それでミケコに何をしてもらうかだが、今まで殺しの仕事をさせられてきたみたいだから、しばらくは仕事をさせない事にした。

マイホームに一緒に住まわせて、人間の本当の生活を見てもらおう。

苗字を謎乃にしたので、オモチャとしてビデオカメラを渡しておいた。

ここまで、だいたい仕事や強さにあった苗字にしてきたからね。

ゆくゆくは謎乃汽車を次ぐ記者になってくれればと、チョッピリ期待なんかしてたりして。


さてドワーフ襲撃があった次の日、俺は猫獣人の供述から処刑するまでの映像をネットで公開した。

誰もが有栖川の仕業だと思いながらも、証拠が何もないのでハッキリと口にする者はいなかった。

疑わしきは罰せずだけど、有栖川じゃなく低位の王族ならアッサリ犯人にされていただろう。

上杉と武田の事件も見直されたが、この両者の戦争は終わらない気配だ。

もう完全にレクリエーションみたいなもんだからね。

死ぬ人間にとってはいい迷惑なだけだけどさ。

更に四日が過ぎ、ドワーフたちは無事に妖精王国へと到着した。

これで天照兄弟の任務も解放だ。

面倒ごとを押し付けたけど、この二人普段は秘密組織の待機要員だから、偶にはこれくらいやってもらわないとね。

それはいいとして、ドワーフたちをこれからどうするかが問題だ。

大聖の俺はドワーフたちに意見を聞きに行った。

「神武国に住むドワーフのドズルから、お前たちを助けてくれと頼まれた。そこでお前たちの意見を聞かせてほしい。お前たちは今後どうしたいんだ?」

「俺たちは、そりゃ町を取り返したいさ。でも相手が有栖川だと力じゃ勝てない。だからできれば俺たちが暮らせる場所を提供してほしい。新しいドワーフの町を造るんだ」

相手は有栖川だもんな。

俺も下手に敵にはしたくない。

現在のドワーフ王が、有栖川の傘下に入る事は既に発表してしまっている。

有栖川の傀儡国家第一号だ。

きっと多くの利益を有栖川に持って行かれる事だろう。

ドワーフの鍛冶能力は高く、良い武器のほとんどはドワーフ製と言っていい。

有栖川が確実にものにしておきたかったのは予想できたよなぁ。

気づけていたら何かできただろか。

「神武国は今急に大きくなって土地は余っているからな。場所の提供は容易い。それだけでいいなら勝手に国を建国するなりしていいぞ」

「いえ。国を造っても今の俺たちじゃ守れない。できれば神武国領内にドワーフの町を造らせてほしいんだが‥‥」

そもそも国の役割ってのは国家国民の生命財産を守る事だ。

それができないのに国だとかいう奴もいるけれど、できないから国にはしないと言えるドワーフはなかなかしっかりとしていると思う。

「分かった。最低限のルールさえ守ってもらえるならそうしよう」

「ありがたい」

でもこれでまた守らなければならない場所ができてしまったか。

転生前の世界では、軍事力が大きくなったから領土を拡大しようって流れはあった。

でも逆に『何故か領土が増えて仕方なく軍事力も』ってなるとは思わなかったな。

とにかくそんなわけで、旧御剣領の一角にドワーフの町を造る為の場所を、俺はドワーフたちに提供する事となった。

町の名前は『三葉(サンヨー)』に決めた。

ドワーフたちは順番に転移ゲートを使ってオーガ王国へ行き、そこから西に移動して三葉に入る。

町のエリアはとりあえず俺が防壁門で囲っておいてやった。

ドワーフの能力が有れば、後は適当にできるだろう。

俺はサポートに回り、基本的にはドワーフたちに任せた。

役所建物が出来たら、一応魔法通信ネットワークの構築を仙人たちに頼んだ。

傭兵隊は表向き何でも屋なのだ。

そんなこんなで一週間、俺はミケコの事をすっかり放置してドワーフの町造りを手伝った。


ようやく俺がドワーフの町造りから離れた頃、ミケコが突然やってきてある映像を見せてきた。

「兄上様に見ていただきたいものがあります!」

「ほう。なんだ?」

ミケコを家に連れて来たのはいいけど、ずっと放置プレイなんだよな。

うららが相手をしてくれているようだったが、気が付けば何処かに行っていなかった。

まあうららが付いてるなら大丈夫だろうと思っていたが、何処で何をしていたのやら。

ミケコに見せられた映像は、どこかの建物に一人の男が入って行くだけのものだった。

「これがどうかしたのか?」

「この男です。この男が私を奴隷として使っていた松です」

まさかこんなのを撮りに行っていたのか。

危険は‥‥こいつのスピードとうららが付いているのなら大丈夫か。

「ふむ。そんな悪い奴はどうにかしないとな」

「全くその通りです。この時プチ殺してやろうと思いましたが、兄上様の許可をいただきに戻ってきました」

プチ殺すって、半殺しって意味だろうか。

「ミケコ、プチ殺すとか何処でそんな言葉を覚えてきたんだ?」

「第二秘密基地の『稲羽兎白(イナバトハク)』ちゃんに教えていただきました」

こいつ一体何処まで遊びに行ってるんだ?

いないいないとは思っていたけれど、どうやって大和まで行ったのか謎なんだけど。

稲羽兎白というのは、瞬間移動魔法が使える事から海神のいる大和に同乗させている自称『神』だ。

何年か前に俺だけで皇国に行った時に、稲羽という所で出会った兎みたいな生き物。

傷ついて倒れていたので、俺は古事記に書かれた『因幡の白兎』の話を思い出して助けてみたんだ。

「助けてくれて感謝します。兎白は何かお礼がしたいです」

「いや別にいいよ。俺もなんとなく助けただけだし」

「それでは兎白の気が収まりません。是非、絶世の美女を紹介させてください」

絶世の美女か。

でもみゆき以上の女がこの世にいるとは思えないんだよな。

「別にいいよ。俺のみゆきは世界一可愛いからな」

「そんなはずありません。兎白が知る限り八上姫は最強なのです」

最強って、可愛いレベルを表現する言葉じゃないよな。

「写真はあるのか?」

「あります。こちらをご覧ください」

おっ!少しみゆきに似て可愛い子だな。

「でもみゆきに比べれば月とスッポンくらい差があるわ」

「ガーン!なんという事でしょうか!それが本当なら兎白は井の中の蛙でしたと反省しなければなりません!」

別にそこまでショックを受ける事でもないだろうに。

「元気出せよ。まあ人それぞれ好みも違うしな」

「確かにその通りです。あなたがチョッピリ賢いのは認めましょう」

チョッピリね。

「だからいいよ。ウサちゃん元気でな」

俺はその場を立ち去ろうとした。

すると何故か袖を引かれた。

「あれ?人間に変化できるんだ」

その姿は、真っ白な長い髪を持った可愛い女の子だった。

みゆきとは似ていないが、萌え系としてはアリな感じだ。

「このまま何もお礼ができないと、兎白は困るのですが‥‥」

「何かお礼をしないと駄目な理由があるのか?」

「実は兎白、人々の願いを叶える神なのです」

「じゃあな!元気で」

再び袖を掴まれた。

「どうしたんだ?」

「だから神なのです。よく考えてください。こんな所に傷ついた兎がどうして倒れているのでしょうか」

「そりゃ、ワニかサメに食われそうになったんだろ?」

「どうしてそれを!って、此処ら辺りにはそんなのいません!」

確かにな。

陸地だし、ワニがいるような水辺でもない。

「というわけで認めてください。兎白は神で、おとなしく願いを言うのです」

「なんでも叶えてくれるのか?」

「なんでもは無理です。できる事だけです」

何処かで聞いたセリフだな。

「じゃあお前、俺の友達になってくれ」

「なんと!友達もいない寂しい人でしたか。それは可哀想です」

「いやいっぱいいるから無理ならいいけど」

「嫌じゃないです!仕方がないですね。お友達になって差し上げます」

なんか上機嫌だな。

「でも俺の友達ってのは、俺のいう事をなんでも聞く舎弟みたいなもんだぞ?」

「なんと!それは兎白を奴隷にするという事でしょうか!?」

「そこまでじゃないけどな。お前ができる範囲で俺のやりたい事を手伝ってくれたらそれでいい」

「やりたい事とは、世界征服か何かでしょうか?」

「その通りだ」

「ガガーン!悪の手先になってしまうのです。でも助けられた恩は返すのが神の役目。仕方がないので従いましょう」

なんかよく分からないけど手伝ってくれるみたいだな。

そんな感じで俺の所に来てから、瞬間移動魔法が使える事が分かって、海神と行動を共にさせているというわけだ。

思えば何となくミケコと雰囲気が似ているな。

似た者同士仲良くなったのかもしれん。

「それで兄上様、松をプチ殺してきていいでしょうか?」

「うららも一緒なのか?」

「もちろんです。彼女はわたくしの駒ですから」

うららが駒扱いかよ。

でもうららが一緒なら問題無いか。

こいつら然う然う表に出る奴でもないし、ミケコは今の体になってスピードも上がっている。

誰かの目にとらえられる心配もないだろう。

それにこうやって自発的に動こうとする人形は初めてだよな。

俺の為ではないかもしれないけれど、こういう気持ちは尊重してやりたい。

ミケコは自由に活動してもらってもいいだろう。

「分かった。好きにしていいぞ。ただしくれぐれも無茶はするなよ。自分より強い奴がいたら即行逃げろ。分かったな」

「兄上様は優しいのです。まずわたくしの事を考えてくれるなんて。ではいくぞうらら、そこにいるな?」

「はあい!」

いたのかうらら。

「では兄上様、行ってまいります」

「じゃあな!うららも頼んだぞ」

「はあい!うららいきまーす!」

うららはそう言って、ミケコを連れてどこかに瞬間移動していった。

あの二人仲良くなったんだな。

良かった良かった。


三十分後、松がいたであろう民間軍事組織壊滅のニュースがネットに上がっていた。

奴隷にされていたのはミケコだけでは無かったようで、解放した奴隷たちが警備組織に駆け込んだようだった。

壊滅したのが伊集院絡みの組織だったらニュースにもならなかったのだろうけれど、有栖川なら報道しちゃうのね。

この二国、いや九頭竜もそうだけど、常にくっついているわけでもないんだよな。

国と国との関係はそんなに簡単ではないという事。

とりあえず、これで平和になってくれればいいなと思った。

2023年10月16日 脱字を修正

2024年10月8日 言葉を一部修正

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