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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
獣人編
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新装備と兎獣人の里

富士山を登る時は、しっかりとした準備が必要だ。

それを怠る登山者が増えた時、救助を求める人も増えたとか。

何事も準備というのは大切なのである。


情報戦に決着がついた次の日、俺は一日休養日とした。

理由は簡単。

小鳥遊や獣人たちを相手にする為の準備をする為だ。

或いはその背後にあったかもしれない伊集院の影も気になる。

まず俺は秘密基地の博士にテレパシー通信を送った。

『博士に頼みたい事がある。魔法通信ネットワーク上に新たな情報発信サイトを作りたいんだ』

今後おそらく伊集院を相手に情報戦をしなければならない事もあるだろう。

ならば早い内に、ある程度信頼できるニュースや情報を発信できるサイトを構築しておく必要があると考えた。

当然伊集院からは敵視されるだろうな。

でも誰も伊集院に逆らえなかった状態から抜け出せるのだとしたら、こちらに味方する勢力もきっとあるはずだ。

有栖川や九頭竜だってトップになりたいだろう。

きっとなんとかなる。

『可能だが、二つばかり問題がある。一つは(サーバー)を作るのに大量の魔石が必要な事。そしてもう一つは、秘密基地に作るとしたら回線が持たなくなる危険がある事だ』

『魔石は何でもいいのか?』

『それは構わない』

『だったらミノタウロスの魔石が腐るほどあるからそれを使おう。回線が持たないってのは、秘密基地だと人工衛星からしかアクセスできないから難しいという事だな?』

『その通りだ』

さてどうするかね。

何処かの国に設置したら、当然九頭竜にバレるだろうし‥‥。

『とりあえず秘密基地に構築し、回線が持つ程度を見極めながら運用しよう。そしていずれは何処かに移動する』

『分かった』

『魔石はどれくらい必要だ?』

『ミノタウロスだとかなり強力だから、最初は一万、最終的には十万くらいは欲しいな』

『だったら十万送っておく。転送ルームを空けておいてくれ』

『簡単に十万も出せるのだな。流石は策也だ。了解した』

正直十万で済むなら楽勝だな。

まあでも普通それだけ集めようと思えば、冒険者ギルドを世界に展開していないと集められない数か。

とりあえず一つ片付いた。

次は、シャドーデーモンの蘇生だ。

既に魔力ドレインの結界に対しては、自身が影に潜れるようになった事で対応は可能なのだが、今後どんな窮地があるかも知れない。

その時は大聖や資幣を呼ぶ事になる訳だが、手が離せない可能性もある。

そこでこいつらを蘇生し、常に影に潜ませておけば、ピンチも回避できるだろう。

まずはスマホに魂を憑依させて話してみた。

するとどちらも女だった。

しかも結構特徴的な喋りをする。

金魚、佐天、茜娘と来て、更に萌えキャラ的喋りをするのが二人も増えるのか?

あくまで萌えキャラ的であって、決して萌えキャラとは言わないよ。

何故ならパーティーメンバーたちは、萌えキャラの特徴である髪の色をしていないからだ!

萌えキャラなら髪の色は『ピンク』或いは『緑』と決まっている。

これ以外の髪の色は、たとえ神が萌えキャラだと認定しても俺は認めない。

そんなわけで、この二人には真の萌えキャラになってもらおう。

双子みたいにそっくりな女の子でいいかな。

身長は百五十二センチ、素材は魔砂ゴーレム、目の色は髪の色に合わせてピンクと緑、髪の長さはストレートロング。

服装はメイド服風クノイチって感じで動きやすくしてみるか。

ロングパンツを履いているので、スカートは超ミニで良いよね。

「まあこんなもんだろ」

この魔砂は、最近ずっと俺が育てて来た魔砂だ。

ある程度の意思疎通はできるようになると思われる。

では魂を取り出して‥‥。

『水の蘇生と風の蘇生』

なんとなく別にしてみた。

はい完成!

「さあ起き上がるのだお前たち!今日からお前たちは俺の影だ!」

「どうしちゃったのね?」

「我がご主人様はちょっとイタイ子なのです」

「‥‥なかなか忠実なシモベたちだ‥‥」

「そういうのいいのね。これから私たちどうすればいいのね?」

「そうなのです。任務をおっしゃって欲しいのです」

うむ、なかなかいい子(ダメナコ)たちではないか。

でもかなり意識リンクはできそうだな。

テレパシー通信以外にも、視覚聴覚が共有できる。

「お前たちの任務は俺の影に潜み、俺がピンチの時には助け、後は‥‥料理もやってもらおう」

「料理なのです?」

「やった事ないのね」

「まあ料理はおいおい金魚という者に教えてもらってくれ。本業は辺りの警戒となる。お前たちは交代でどちらかが俺の影の中で休み、どちらかは少し離れた影に潜んで常に辺りを警戒するのだ!」

‥‥リアクション無しか?

少し考えているようだ。

おっ!分かったか?!

「つまり‥‥影の中で遊んでいていいのね!」

「分かったのです!」

分かってる気がしねぇ~!

別にいいけどさ。

必要な時に命令すればいいか。

「じゃあとりあえず影の中で遊んでいていいぞ」

「ひゃっほーい!」

「遊ぶのです!」

戦闘員にするべき魂ではなかったかもしれない。

「はぁ~‥‥」

ちょっと疲れたけれど、これで終わりではないのだよ。

最も大切な準備がある。

茜娘に必要なモノを揃えないとな。

俺のパーティーに入ったら、必ずコレだけは持っておいてほしいモノを作っておかないと。

まずは温度調整プラス自動補修クリーニング機能の付いた装備衣装だ。

茜娘は耳を隠す必要もあるから、フード付きじゃないと駄目だよね。

今着ているようなフード付きパーカーのようなのを作るか。

アニマルモードにも対応できるように、体の大きさに合わせてサイズも変わるようにして‥‥。

色は緑、一緒にハーフパンツなキュロットもそろえよう。

俺はサクサクと作っていった。

次は住民カードだ。

女王のダイヤモンドカードをそのまま持って行かせる訳にはいかない。

女王代理に代わりをやってもらう必要がある。

そんなわけで名前もそのままという訳にはいかないが、茜娘は既に呼び慣れてしまった。

苗字だけ変えるか。

「きみどりあかね‥‥こ‥‥だとギリギリを攻め過ぎだから、『水鳥茜娘(ミドリアカネコ)』にしよう」

分かる人にしか分からないネタな名前ね。

このカードに自動排泄魔法と、水中呼吸、水中会話の魔法を付け加えて完成だ。

後は少しの金と食い物でも入れておけば喜ぶだろう。

やっぱ魚かな。

そして後は茜娘に必須の、飛行能力を付与する為のアイテムだ。

魔力がないから魔石を多く使うしかないとなると、指輪や腕輪じゃ無理。

やっぱベルトだな。

翼竜と光龍の魔石を十二個ずつ、合計二十四個を贅沢に使った一品。

光の翼で高速飛行が可能で、光と風の守りでディフェンス力もアップ。

翼を使わない時は魔力を身体強化に向けられて戦闘力もアップの超優秀なマジックアイテムだ。

どうしてこんなのが簡単に作れちゃうかなぁ~俺。

でも自分で作っちゃうばかりじゃなくて、秘密基地の魔物魔道具研究員に色々と作らせているのも試さないと。

それに魔界に破棄されていたマジックアイテムの中にも、結構面白いのあったんだよな。

そっちも手を付けないとね。

あと、アレだけは取り寄せておくか。

そんな感じで、この日は一日一人で作業をしていた。


そして次の日、俺たちは獣人王国牙を出発した。

パーティーメンバーは、洋裁、金魚、佐天、そして茜娘が加わった。

更にオマケで、元シャドウデーモンの菜乃(ナノ)妃子(ピコ)がいる。

こんな感じで今日から謎の記者パーティーがスタートだ。

ちなみに普通の記者は映像を撮るのにマジックアイテムを使ったりするので、俺はそれっぽくするために皆にいくつかアイテムを持たせた。

まず左手首には記者用アカウントの住民カードが収められる腕輪を付け、右手にはワンルームくらいの広さの収納容量を持った異次元収納の腕輪を付けさせた。

シルバーカード以上に標準搭載されている収納って、使いにくいし使用料も取られるからね。

広さは既存のマジックアイテムの中では最高レベルだ。

異次元収納のマジックアイテム自体ほとんど通常販売はされていないが、販売されていたとしても二メートル四方の空間を持ったものがせいぜいだから超高級品と言える。

みんな喜んでくれた、と思う。

もうなんか何あげても慣れちゃってるんだよね。

でももう一つプレゼントした、このアイテムにはみんな満足しただろう。

俺はカメラを二つ、ビデオカメラを二つ、魔物魔道具研究員に作らせておいたのだ。

この世界では何故か全てが映像なので、静止画を残しておけるアイテムは珍しい。

カメラは金魚と茜娘が持つ事になった。

ビデオカメラはこの世界によくあるタイプのものだ。

よくあると言っても珍しいアイテムで、報道記者グループがほぼ独占していると言っていい。

スカウターに似た形をしていて、見たモノがそのまま録画できるようになっている。

録音も可能だ。

「これでみんな記者っぽくなっただろ?」

「なんだか嬉しいにゃ!こんなに色々貰っていいのかにゃ?」

茜娘には他にもパーカーや光の翼のベルトなんかも上げている。

「それらは俺のパーティーに入ったら必要になるものだ。遠慮なく貰ってくれ」

「ありがとにゃ」

「カメラ、楽しいんだよ!」

金魚は色々写真を撮って遊んでいた。

写真って動画と違う良さがあるよね。

ちなみにカメラはコンデジを超高性能にしたようなものになっている。

望遠倍率は三百倍だ。

「これで映像が残せるのじゃな。人間は面白いモノを作るの」

「一週間分くらいは映像を残しておけるから、付けっぱなしで使っても大丈夫だ」

「透明化もできるんだ‥‥じゃあ自分は付けっぱなしにしておこう‥‥」

「コッソリ隠し撮りもできる仕様だけど、変な事には使うなよ」

まあ洋裁には金魚がいるし、多分大丈夫だとは思うけどね。

「じゃあまずは兎獣人の里に行ってみるかな」

俺がそう言って一歩を踏み出した時、セバスチャンからの緊急情報が入ってきた。

『策也様、小鳥遊王都カンチョロイの町が、おそらく壊滅させられたと思われます。町の者を雇った諜報員三名が獣人襲撃と城陥落の報告をしてきました。しかしその後連絡が途絶えました』

『そうか。また何かあればよろしく頼む』

『御意』

まさかこんなに早く王都が陥落するかね。

小鳥遊は世界ランキングが早乙女の次だから、結構な戦力を持っているかと思っていたんだけどな。

いや、傀儡国家だったからこその六位だったのかもしれない。

小鳥遊の能力はかなり厄介だけど、隠密部隊や騎士隊は全く大した事がなかった。

もう魔王の時のような町の壊滅なんてあり得ないと思っていたが、島津第二のノーナルに続いてカンチョロイまでやられるのか。

この世界、俺が思った以上に不安定な世界なのかもしれない。

それよりも今は俺たちがどうするかだ。

「カンチョロイの町が今しがた壊滅した可能性があると報告が入った。俺一人なら二時間弱で王都まで可能だが、助けに行っても蘇生も間に合わないし、どうするべきか皆の意見を聞きたい」

「まず確認しておきたいのじゃが、悪い獣人たちの目的はなんじゃろうか」

「小鳥遊としては悪い獣人たちを全てを駆逐する事が目的だろう。だったら敵対する獣人の目的はその逆、小鳥遊の総力を削ぐ事ではないかな。つまり両勢力の総力戦が始まったと考えていいと思う」

ここでいう総力戦は、全ての力を結集して戦うという意味ではなく、総力を削り合うという意味での総力戦だ。

敵を全て排除しないと終わらない戦い。

「だとしたら今更行っても遅いじゃろうの。獣人たちは別の町に向かっておるんじゃなかろうか」

「確かにな」

「単純な疑問だけどいいかにゃ?」

「どうした茜娘?」

「小鳥遊を支配していた獣人は獣人全体の極一部にゃ。それに組している者を合わせても全体の半分くらいにゃ。だったら人間側にも色々な人がいるんじゃないかにゃ?全部を殺す必要はないにゃ」

言われてみれば確かにな。

人間は組織をつい一つとして考えてしまうが、組織の中にも色々な考えを持った人がいて一枚岩ではありえない。

転生前の世界でも、例えば二大政党制が確立していた国では、政権が代わるたびに全く違う国のような対応をしていた。

大統領や総理大臣が違っても差は出てくる。

獣人はその辺り結構シビアに見分ける存在だとするなら、自分たちに味方しない者だけを排除していく可能性も考えられる。

「もしかしたらカンチョロイの町は壊滅していない可能性もあるな。熊獣人たちの出方を見る為にも、一度カンチョロイの町の様子をこの目で見ておく必要があるだろう」

「小鳥遊の中にも獣人たちに味方する者がおるというわけじゃな」

「力のあるものに従おうとするのは‥‥普通だよね‥‥」

「よし!一度カンチョロイまで俺一人で‥‥」

そこまで言った所で再びセバスチャンからテレパシー通信が入った。

『策也様、諜報員の一人から連絡がありました。獣人たちに逆らわない事を条件に、町の者たちは概ね殺されずに済んでいるようです。小鳥遊の頭だけが押さえられたようですね』

『分かった。ありがとう。他の諜報員の確認も頼む』

『御意』

諜報員一人の話だからまだ確実とは言えないが、やはり総力戦という訳ではなかったのか。

「熊獣人たちはもう一度小鳥遊を配下に収めたという話が入ってきた。尤もそれはカンチョロイの町だけかもしれないが、小鳥遊の中にも熊獣人たちに従った方がいいと考える者も結構いるようだな」

「だとするとじゃ、元々傀儡国家じゃったわけじゃから、他の町は最初から逆らわずにいるかもしれんの」

「可能性は高いな。事実を知って抵抗しようとする者が町のトップを押さえられれば違ってくるだろうが、魔法通信ネットワークを見ているものは大抵が王族貴族だけだろうし、正直ここまでの小鳥遊を見ていると反抗する可能性は低いと感じる」

それにしても茜娘の言った通りだったか。

茜娘は確かに常識が少し、いやかなり足りないかもしれない。

でも誰よりも正しい事に気が付いたりする。

『広く会議をおこし、万機公論に決すべし』とはよく言ったものだ。

とにかく色々な人の意見を聞いて皆で考える事が大切だよな。

「予定通り兎獣人の里に行ってみるんだよ。金魚たちはまだ相手の事を何も知らないんだよ」

「そうだそうだ~‥‥」

「金魚は兎獣人に会ってみたいんだよな。まあでも『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』でもある。小鳥遊の町には秘密組織の諜報員もいるし、変わった事が有れば報告は入るだろう。予定通りに行くか」

「賛成なんだよ」

「自分も~」

「わらわもそれでいいと思うぞ」

「問題ないにゃ」

「ではこのまま兎獣人の里へ向かう」

俺たちは当初の予定通り、兎獣人の里へと向かった。

それにしてもこの世界に来てから色々な事を改めて学んでいる気がするな。

戦争は確かに良くないしやらない方がいいに決まっている。

でも争いの中で学ぶ事も多い。

もしも完全に戦争が無くなって争わなくなったら、人間はドンドンバカになっていくのではないだろうか。

ドラゴンは知能指数が人間の三倍と云われているが、現状人間に使われる立場にあると言える。

越えられない山で平和に暮らせるドラゴンは、戦争の事など考える必要もなかったのだろう。

だからいざ人間がやってきた時に何も対応できないのだ。

基礎能力に慢心があったのもそうだろうが、平和になれば頭を使って考えないようになるのかもしれないな。

俺は空を見上げた。

青く晴れた空が広がる景色は長閑なものだ。

この長閑さの中でずっといたら、遠くで何が起こっていても気にしなくなるよね。


俺たちは予定通り、夕方には兎獣人の里に到着していた。

しかし兎獣人の里は、小型の獣人種族以外も通常は入れないわけで、当然人間にまで解放された場所ではない。

猫獣人の獣人王国牙ですら、人間が入ったのは俺たちで四組目だそうだ。

「じゃあまずは私が話をしてくるにゃ」

「よろしく頼む」

そんな訳でまずは茜娘が話を付けに行った。

兎獣人の里は、外から見る限り獣人王国牙よりも人間の町に近い感じがする。

しっかりと防壁で囲まれ、防壁門では門番らしき者が立っていた。

門番は見た目がイタチに近い獣人だった。

獣人は人間に近い姿から動物に近い姿、アニマルモードにまで変化する事ができる。

手足など一部だけ変える事もできるそうだ。

門番をしている獣人は、どうやらより戦闘に向いている姿で職務についているようだった。

その門番に茜娘は話しかけていた。

俺のデビルイヤーで話している内容は聞こえていた。

「なんだお前は?」

「私は茜娘だにゃ。今人間と一緒に来てるにゃ。兎獣人たちと話がしたいそうにゃ。中へ入れてほしいにゃ」

「人間?貢物を持ってきたのか?だったら入っていいぞ」

「貢物?よく分からないけど入っていいにゃ?」

「人間はちゃんとおとなしくさせるんだぞ」

「みんないい奴だから大丈夫にゃ」

話がかみ合ってないな。

これで戻ってきた茜娘が『入っても大丈夫にゃ』とか言ったらビックリするぞ。

おっ、戻ってきたな。

「入っても大丈夫にゃ」

いや、ビックリっていうか、あまりに予想通りでため息しか出なかったよ。

「じゃあ行くとするかの」

「兎獣人に会うのが楽しみなんだよ」

「門番はイタチ系の獣人だね‥‥」

一応兎獣人は『貢物を持ってきたと思っている』事を言っておかないとな。

「おい‥‥」

「みんなに言っておくにゃ。兎獣人は可愛いから気を付けるにゃ」

「えっ?」

どういう事だろう。

可愛いと言えば猫獣人も相当なものだが、兎獣人はもっとヤバいのか。

つか別に可愛くても気を付ける必要はないよね。

「こ、こ、こんにちは、なんだよ」

ニヤニヤと笑う門番を横目に、俺たちは兎獣人の里へと足を踏み入れた。

「どうも印象が悪いの」

「何なのアレ‥‥」

そりゃ貢物を持ってきたバカな人間だと思っているだろうからな。

門の所では住民カードの確認なんて当然なかった。

素通りした後、町に入って見た景色は、完全に人間の町そのものだった。

「これは‥‥」

「人間の町じゃの」

「でもなんていうか‥‥古い感じがするよね‥‥」

「誰もいなくなった人間の町にそのまま住んでいるみたいなんだよ」

「その通りだにゃ。人間は出ていったと聞いてるにゃ」

これはどう理解したらいいのだろうか。

獣人たちが追い出した?

それとも島津のノーナルのように皆殺しにしてそこに住み着いた?

或いは人間に町を作らせたのか。

そんな事を考えている間に、兎獣人を中心とした住人たちが俺たちの周りに集まって来ていた。

「今日は何を貢いでくれるのでしょうか」

「さっさと出せよ」

「俺はニンジンを希望するぜ。でも荷車も持ってないようだな」

「おいおい何をくれるんだ人間」

「がっかりさせないでくださいよ」

獣人たちはそんな事を言いながら、石やら何やら投げつけてきた。

ほう、俺たちにこんな事をするのか。

俺は兎獣人も同じヒューマンだと思っていたが、こいつらはクズだな。

どんな種族でも差別しないという気持ちはあったけど、差別が成立する時は大抵お互い様だったりする。

相手も自分の事を特別だと思っていたりするものだ。

「お前ら痛い目に合いたいようだな」

「なんだこの人間。俺たちに危害を加えようとしているぞ」

「だったら‥‥そんな事する子はお仕置きしちゃうよ」

そう言いながら、兎獣人は突然人の姿から可愛らしい兎に近い姿形となった。

「可愛いんだよ!」

金魚の言う通り、確かに可愛い。

しかしなんだこれは、可愛すぎるを超えている。

一瞬みゆきよりも可愛いと思ってしまいそうだ。

でも俺には通用しない。

俺はちぃとチートが行き過ぎた人間だからな。

このカラクリにすぐに気づいてしまうんだよ。

これは魅了(チャーム)の魔法に近いこいつらの能力だ。

この俺ですら一瞬でも可愛いと思わせるんだからかなりの力だと言える。

金魚は完全にやられているし、洋裁も今落ちそうだ。

「さあ、ちゃんと貢物を渡しなさい。何も無いならお金でもいいわよ。さあ」

こっちはバニーガールみたいな美人お姉さんのハニートラップ、いやバニートラップだ。

洋裁の目は完全に死んでいるな。

「だから気を付けるように言ったにゃ」

「策也お主は平気か?わらわもかなりやられておるが」

「俺は問題ないよ」

俺にはみゆきがいるからな。

それ以上に可愛い奴なんてこの世には存在しないのだよ。

俺は金魚や洋裁を惑わす兎獣人を軽くチョップで処理した。

殺してないよ。

気絶させただけだよ。

「おい金魚、洋裁、目を覚ませ。これは魅了の魔法みたいなもんだ。それを理解していればお前たちなら問題ないはずだ」

「はっ!金魚、どうしてたんだよ?なんかとっても危なかったんだよ」

「面目ないっす。まさか自分が‥‥」

どうやら正気に戻ったようだな。

「こいつら、俺たちの能力を破りやがった」

「人間にしてはやるぞ。速やかに排除しないと」

「私たちが可愛いだけの存在じゃない事を教えてあげるわ」

俺は既にお前たちに触って能力を理解しちゃってるんだけどね。

確かに獣人四大種族と云われるだけはある。

強さがあるからこそその種族は繁栄するわけだ。

「みんな気を付けろ。まあ攻撃を食らっても俺たちなら大丈夫だが、多少は痛いだろうしな」

「そうなのにゃ。顔を蹴られるとちょっと痛いのにゃ」

茜娘の言葉を聞いて、兎獣人たちが一斉に襲い掛かってきた。

能力は瞬間移動。

俺が使う魔法とは違って、近い距離を一瞬で移動する兎獣人固有の能力。

障害物も何も関係がない点を除けば、一瞬でゼロレンジまで跳ねてくる猛烈に速い動きと考えれば分かりやすいか。

でも実際はそれだけの速度がある訳ではないから、攻撃力は思った以上に大きくはない。

「いた‥‥くはないんだよ。水とメデューサの守りがあるんだよ」

「普通の人が食らえばヤバいけど、自分たちには効かないよね‥‥」

「みんな人間なのに凄いにゃ。私は痛いの嫌だからかわすにゃ」

「このスピードを楽にかわせる茜娘は凄い反射神経じゃの。わらわでもギリギリじゃぞ」

兎獣人は一般人レベルでもこれだけの攻撃ができるのか。

普通の人間なら確かに恐れるかもな。

南の大陸へと押しやろうとした気持ちも分からなくはないよ。

「でも、この程度ではうちの連中には通用しないし、ダメージを食らうのはむしろ攻撃側じゃないかな」

「うっ‥‥毒か‥‥体が重い‥‥」

「なんて硬い体なんだ。蹴った足が痺れて動けない」

「まさかかわされるなんて!」

「体が制御できないよー!」

ヨルムンガンドの毒に、オリハルコンへの蹴りで逆にダメージ、そして最後の二人は蹴りを空振って自爆か。

痛そう‥‥。

「クソッ!全員でかからないと勝てないぞ!」

いやいや全員でかかって来ても俺たちには通用しないよ。

「全く仕方がないな‥‥」

そう言って洋裁は兎獣人たちを睨みつけた。

スフィンクスの目か。

こいつらなら動きを封じられそうだな。

「体が動かない‥‥」

「どうなっているんだ?」

半分以上の兎獣人が動きを封じられ、他の者も警戒して動かなくなった。

「はいはい!」

俺は手を叩いて注目を集めた。

「俺たちは別に戦いに来た訳ではない。まして貢ぎに来たのでもない。ただここの人たちと話がしたくてきただけだ。小鳥遊の事、獣人の事、色々と話せる者はいないのか?」

話せる奴がいなかったら、流石にどうにもならないぞ?

「私が話をしましょう」

そう言って現れたのは、とても美人で可愛い兎のお姉さんだった。

そうそう、兎獣人ってこういうのを想像していたんだよ。

って、この人も衣装はバニーガールやんけぇー!

余りに期待通りでイメージ通りでは無かった。

「あなたは他の奴とは違うみたいだな」

「はい。私はこの里の長の娘、バニーと申します」

そのままやんけぇー!

「そ、そうか。俺は策也だ。こっちが金魚、こっちは洋裁、この猫が茜娘、こっちのチッコイのが佐天だ」

「よろしくなんだよ」

「うっす」

「牙から来たのにゃ」

「見た目はチッコイが‥‥まあいい。佐天じゃ」

俺もこの前まで小さくて結構軽く見られる事が多かったからな。

見た目って大切だよね。

「はい。所でお話という事でしたが‥‥」

「そうだな。何処かゆっくり話せる所が有ればいいが‥‥」

町中を見回すと、完全に注目を集めていてゆっくりと話せそうな雰囲気ではない。

「私の家もたぶんゆっくりとは話せないでしょうね。里の外で話しましょうか」

「だったら俺たちの移動用の家で話すか。ついてきてくれ」

「はい」

「それでそっちのあんた。ヨルムンガンドの毒はきついだろ。この解毒ポーションをやるから飲んでおいた方がいいぞ」

俺はそう言って、金魚のメデューサにやられた兎獣人に向けて一つポーションを投げた。

近くにいた兎獣人がそれをキャッチした。

やや惚けた顔で俺を見ていた。

何が起こっているのか分からないといった表情だな。

もしかしたら兎獣人たちも、突然の人間の訪問に少し恐怖があったのかもしれない。

知らないものはやはり怖いのだ。

だからまずは知る所から始めないと何事も上手くはいかない。

俺たちは兎獣人が集まっていた場所から抜けて、里の外へと出た。

2024年10月7日 言葉を一部修正

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