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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
お助け編
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この花昨夜散る

何時の時代も、何処の世界でも、男は女に弱いわけで。

やはり世界を救うのは女性なのではないかと思えてならない。


俺は旅を再開していた。

最初みんなと再会した時には思ったよりも不評だった新しい容姿も、今ではすっかりと板についてきていた。

リンに子供が産まれた日、パーティーメンバーや今までの仲間たちをホームに集めた。

今はもうパーティーから離れたベルだが、その時はお祝いに駆けつけてくれた。

そして次の日ベルを見送ってから、俺たちの旅は再び始まったのだ。

四十八願領内を東へ向かいながら町を転々とする。

これまで散々色々な事に巻き込まれるか、或いは魔物を狩り続けてきたのに、何もない時は何もないもので、俺たちはただただ旅を満喫していた。

そんな中リンから、何を言いたいのかよく分からないメールが届いた。

『最近どうしようもない理由で世界の王様方が動いていらっしゃるようなんだけどさ。近くその結論を出す世界会議が行われるのよ。シークレット会議だから一般公開はされてないんだけどさ。王族のカードなら見られるから一度戻ってきたら?』

正直、会議の内容なら後で報告してもらえればいい。

でもわざわざ見るように勧めてくるのは一体どういう事だろうか。

そういえば次の世界会議には、環奈も参加する事になっていると海神から報告があった。

もしかしたら環奈が何かやらかさないかちゃんと見ておけって事なのかもしれない。

「でもよく分からないな。どうしようもない理由の会議なんて見る必要があるのかね?」

「このところのんびり旅も続いておるし、あれから一ヶ月近くにもなるんじゃ。嫁が寂しがっているのかもしれんぞ?」

佐天はそう言うが、みんなが寝ている隙にみゆきにはちょくちょく会いに帰っている。

それが理由とは考えられない。

俺はセバスチャンにテレパシーで訊ねてみた。

『セバスチャン。何か世界会議の情報は入っているか?』

『今度の世界会議には、かなり上層部の者が直接出てくるようですね。もしかしたらとても重要な決定がなされる可能性もありそうです』

『そっかありがとう。何か分かれば情報よろしく』

『御意』

リンはくだらないと言う。

でもセバスチャンの情報だととても大切ではないかと言う。

一体どうなっているのだろうか。

千えるじゃないけどこれは気になる。

「みんな。とりあえずホームに戻って世界会議を見るぞ。何かとんでもない決定がされるかもしれん。或いは環奈が何かやらかすのを期待しよう」

そんなわけで俺たちは、世界会議に合わせてホームに戻るのだった。


俺たちはホームのリビングに集まっていた。

これからみんなで環奈が呼ばれた世界会議を見るのだ。

リンや総司は内容を知っているくせに教えてはくれない。

話せないというより、話すのが嫌だというのだ。

見れば分かる。

そりゃそうだけど気になるじゃないか。

そんな中、いよいよ世界会議が始まった。

まず最初はいつも通り皇の言葉から始まる。

「それでは世界会議を始めます。今回の話をする前に、まずは黒死鳥王国への確認から始めたいと思います」

いきなり環奈に質問か何かをするのだろうか。

環奈は会議が始まるまで内容は聞かされていないという。

だったら何か質問を受け、それに答える事になるのだろう。

「先月にあった六龍による進攻について、いくつか質問させていただきます。環奈殿、よろしいですか?」

「よろしいも何も、答えるしかないんじゃろぅ?遠慮なく聞いて来ていいぞぃ」

流石環奈、何処へ行ってもいつも通りだな。

「ではまず、六龍が攻めてくる前から防衛体制を取っていたという話がありますが、これは事実でしょうか?」

「事実とは言い難いかのぉ。実際はドラゴンたちがわしらの防衛圏内に入った所で動き出したのじゃ。そこから防衛体制を取るまでに数分を要しておるぞぃ」

黒死鳥王国の現在の防衛は、概ね海神が担っている。

海神は海の神と云われるポセイドンだから、海上や海中の状況察知が早い。

つまり島の防衛には向いていると言えるだろう。

その海神が、ドラゴンが海上に出て来たのをいち早く察知して俺に報告し、防衛体制をとったというわけだ。

「攻めて来たドラゴンは五千から六千頭といった所ですが、島の被害は全くなかったという話です。それは本当ですか?」

「本当じゃのぉ。こちらの被害は死者六名だけじゃなぁ」

環奈がそう答えると、会議に参加しているメンバーが少しざわついた。

驚きと、黒死鳥王国を褒めるような声が多いように感じられた。

「この防衛体制は今後も維持できると考えているのでしょうか?もう一人の環奈と呼ばれるハイクラスの戦士が一人亡くなったようですか?」

「問題ないのじゃ。まだまだ余裕があったしのぉ。のぉ?防衛担当者殿?」

環奈はカメラに向かってそう言ってきた。

はいはい、まだまだ余裕でしたよ。

その気になれば大聖や大帝も呼べるし、セバスチャンや夜美、依瑠、津希たちメイド部隊も戦えるのだ。

何にしても海神がいる限り、黒死鳥王国は安泰だ。

「では国内の治安はどうですか?話によるとほとんどの王国が自粛するようないかがわしい店が多いと聞きます。かなり心配される所ですが?」

「何を言っておるんじゃ?わしの国は王族や貴族などの金持ちしか生きていけない場所じゃ。問題なんて起こりようがないのじゃ。仮に問題を起こせば死刑じゃし大丈夫なのじゃ」

環奈の言う通り、海神からの報告ではほぼ国内での犯罪は起こっていない。

あったとしても村での事がほとんどだ。

町には金のかかる店しか存在しない。

売春宿やソープランド、キャバクラやストリップ劇場、女性向けにはホストクラブなんかもあったり、食事する場所はどこも超高級料亭のような感じだ。

俺もアイデアをほんのチョッピリ提供している。

ほとんど夜の仕事だけが集まった夜の町。

冒険者ギルドは作られたが、冒険者のほとんどは此処での生活が不可能だし仕事も無いから、今では取り壊しさえ検討されている。

一方商人ギルドは既に撤退を決めていた。

環奈の理想を実現する為の町は常識外れで、商人ギルドの出る幕は全くなかった。

「最後に、この町の魔法通信ネットワークは、特別なセキュリティにより情報が一切もれないという話ですが本当ですか?」

「そのようじゃのぉ。わしは詳しくはないんじゃが、お客様の秘密は厳守がモットーじゃ」

黒死鳥王国の魔法通信ネットワークは、秘密組織の博士たちによって構築されたものだ。

特別なセキュリティと言うよりは、九頭竜に情報を盗まれる事のないものなんだけど、それは流石にハッキリとは言わないようね。

「おお~素晴らしい」

「防衛は完璧。治安もいい。そして秘密厳守。重要な話し合いをするにはピッタリの場所じゃないか」

「そうだな。実際に顔を合わせて話し合う場所もあった方がいいだろう」

「黒死鳥王国ミヨケルで決定でいいのではないでしょうか」

「賛成だ」

おいおいなんの話だ。

どう考えても黒死鳥王国ミヨケルは、女遊びをする場所だぞ?

政治家が税金使って行こうものならメチャメチャ叩かれる所だぞ?

確かに治安が良くて秘密厳守ってのはそこだけ聞くと理想的ではあるが、売春宿だぞ?

ソープランドだぞ?

一応密談場所としてふさわしい超高級料亭もあるけれど、それなら別の国にも存在するよね?

「本当にくだらない会議よね。エロオヤジがみんなで女遊びを計画しているだけなんだもん」

なるほどリンが言ったのはそういう事か。

しかしこれはとても大きな事でもあるかもしれない。

ある意味人間が黒死鳥王国を完全に認めたって話だからな。

「というわけで黒死鳥王国ミヨケルが、我々の集まる場所としてふさわしいと確認されました。つきましては黒死鳥王国摂政の環奈殿には、転移ゲートの設置を許可していただきたいのです」

そういう話か。

別に勝手に設置すりゃいいと思うんだけど、この町だと大使館を維持するのも大変だという事だろうか。

或いは転移ゲートの魔力が弱いと、結界で簡単に遮断されてしまう可能性もあるかもな。

俺の転移ゲートを遮断できるようなヤツはそうそういないだろうから、考えた事もなかったが。

「金さえ持っておるならどんなお客も大歓迎じゃ。好きにやればええじゃろぅ」

「ですがミヨケルでは設置場所を維持管理するのが難しいのです。そこで世界会議の本部を是非ミヨケルに置き管理していただきたいのです」

まさかここまでの展開があるのか。

エロオヤジが必死過ぎてヤバいぞ。

でもこんな事で利益が得られるのなら、それはそれでいい事だ。

ハニートラップなんてものがあるけれど、今なら思う。

そうとう効果のあるものだったんだなぁ。

「かまわんぞぃ。世界会議の本部ってのは、世界各国の大使館を一緒にしたようなもんじゃと考えてええんじゃろぅ?」

「はい。それはもうそのようなものだと考えていただいて結構です」

なんか会議を取り仕切っている皇の人、可哀想になってくるな。

こんな話を取りまとめる為に、環奈に対してかなり下手に出て話してるもんなぁ。

「それでリン。此花も転移ゲートを作るのか?」

「私は気が進まないけど、お父さんはどうするのかしらね。うちには転移ゲートを設置できる人もいないし、誰かに頼むとしたら莫大な費用がかかるのよね。策也がやってくれるのならお願いすると思うけど」

「まあいいけどさ‥‥」

こんな事で一致団結できる世界なら、覇権争いなんてしなくて良いと思うんだけどな。

でも、少なくとも今回の事でみんなの距離は少しは近づいたのではないだろうか。

エロネタで盛り上がれば男は誰とでも友達になれるって話もあるけれど、実際それに近いものは確かにあるようだ。

こうして黒死鳥王国ミヨケルに、世界会議の本部が置かれる事が決定した。

本部には各国二名まで滞在が可能で、食事などの世話係は黒死鳥王国側で用意する。

転移ゲートの設置は各自好きにしていいが、維持する為の魔力補給などは各国の滞在者がそれを行う事になる。

転移ゲートは何気に魔力を大量に使うし、距離によっては膨大な魔力を必要とするから、遠くの国は大変だろうな。

四十八願なんて距離が遠すぎて、伝説の魔獣クラスの魔石が無いと設置すら無理かもしれない。

まあ宮陽の婆ちゃんが夜の町で遊びたいとは思わないだろうけどね。

「じゃあ俺たちは旅に戻るか」

「そうじゃの。でもその前に何かスッキリするものが食べたいの」

「そうですね。わたくしにはどうにも理解できない会議でした」

女性はともかく、男性ならみんな理解はできると思ったんだけどエルには無理か。

俺も転生前の若い頃は、こういうのを凄く嫌う方だったけれど、おっさんになってから俺は向こう側の人間だから。

おっと今は違うぞ。

みゆきと出会って俺は生まれ変わったのだ。

そういえばみゆきはまだ学園なんだよな。

会議の話とか聞かれても困るし、今はとっとと退散だな。

そんなわけで俺たちは、旅の続きに戻るのだった。


旅を再開した夜、俺は一人黒死鳥王国へとやってきていた。

秘密裡に海神と話す為だ。

「何が世界会議をする為だ。転移ゲート設置の目的は別だろうが!」

「遊ぶのが目的ですよね」

海神もそう考えているのか。

だったら上手くやったって事なんだろうな。

「海神は本気でそう思うか?」

「主?どういう事ですか?」

「別に全てが違う訳じゃないけど、本当の目的はそこじゃない可能性が高い。おそらく転移ゲートを設置し、刺客を瞬時にこの町に送り込めるようにするのが目的だろう」

「なるほど。外からでは敵わないから内からという事ですか」

「ただな、おそらくこの企ては一部の王族によるもので、大多数は本気にしているし実際そうなるだろう。いきなりこの町を制圧しようとは考えてないはずだ。いつでも黒死鳥王国を潰せる、そんな状態にしておきたいだけだ」

「だとするなら、敵意を見せずにいれば大丈夫ですね」

普通に考えればそうなのかもしれないけれど、今度ばかりは多分違うんだよな。

「いや。おそらく体制が整ったら動いてくるぞ。俺が九頭竜や伊集院の人間で、本気で人間社会の事を考えているのなら、やらなければならないと感じる事がある」

「やらなければならない事?」

そう、やらなければならないと考えるだろう。

あれだけの強さを見せられたんじゃな。

「お前の暗殺だよ」

「なるほど。少々やり過ぎましたかね」

「そうみたいだな。あれくらいならギリギリ大丈夫かとも思ったんだが、思った以上に人間は海神を脅威と感じたらしい」

怖いものにこそ人間は残酷になる。

そして今なら問題なく倒せると判断したんだろう。

力を抑えて戦わせたのが仇になった可能性もあるな。

圧倒的な強さを見せていたら、その選択肢はなかったかもしれない。

いや、さほど差はないか。

海神のあの戦いを見て問題なくやれると思うのだから、全力を見せていたとしても向かってきたに違いない。

脅威は早いうちに取り除く。

それだけか。

「それでどう対応しますか?」

正直言いづらい。

生き返らせる事ができるとは言ってもな。

こんなお願いは辛いよ。

「一度、死んでもらっていいか?」

「なるほど。それでわざわざこうして直接言いに来られたのですね」

「それもあるが、その際にやってもらいたい事もあるからな」

俺は二枚の住民カードを取り出した。

『此花策也』と『浦野策也』の住民カードだ。

「これをお前に預ける。やられた後、お前の『木花咲耶』のカードと合わせて三枚をその場に残してほしい。それでこれらの人間が死んだとハッキリさせられるからな」

「分かりました」

「相手が弱すぎると判断したら死ぬ必要はないぞ。最低でも海梨たち青い三連星よりも強いと感じた時だけだ。それと魂はちゃんと回収して蘇生してやるから」

「ならば何も問題はありません。そのようにします」

「じゃあこれからお前の体を改造する。死んだあとゴーレムだとバレたら別の問題も出てくるしな」

誰が作ったゴーレムなのかって話になれば、疑われた者が攻撃対象になるだろう。

アダマンタイトやミスリルゴーレムの者たちは、殺られたら体が地獄の業火で瞬時に消滅するように作ってあるが、ダイヤモンドミスリルが使われていたらそうはいかない。

俺は海神が死ぬ時、人間が死んだと思わせられるように体を改造していった。


この日俺たちは、四十八願領内の東にある越えられない山を越えようとしていた。

「こんな所でヒドラが生態系を確立しているのか?!」

「他に生態系を確立している弱い魔物を餌としておるのかの」

「ブレスをくらったり吸ったりすれば死ぬ可能性があります。水中呼吸の魔法を使いましょう!」

越えられない山の上には、結構ヤバい魔物もいるものだ。

ヒドラといえば九つの首を持つ蛇の魔獣で、ヤマタノオロチの上位種、或いはドラゴンの上位種と考える研究者もいる伝説の魔獣だ。

「伝説の魔獣がこんなに沢山いるんだよ!怖いんだよ!」

「大丈夫‥‥自分が守るよ」

熱い熱いヒューヒューだよね。

でも洋裁、少しでも油断すると守れないぞ。

洋裁が殺られる事は考えられないが、金魚が殺られる可能性はあるからな。

まあここは俺が上手くフォローしつつ、格好いい所を見せられるように協力してやるか。

ヒドラはかなり強く、魔力レベルで言えば武装した洋裁やエルにも匹敵する。

とはいえブレス攻撃に対処されたら、ヒドラには勝ち目はなかった。

「ふぅ~‥‥終わったか。全部で三十四匹。こりゃ魂の大豊作だな」

正直これは助かる。

おそらくもうすぐ海神が殺されるだろう。

そうしたら黒死鳥王国の守りが手薄になる。

蘇生した海神を別の者として残す事もできるが、また強すぎる力を見せれば今度はどういう対応をされるか分からない。

そこそこ強い者を沢山置けたらと考えていたんだよね。

傭兵隊や忍者部隊では、黒死鳥王国の防衛ではもう役不足だからな。

大量に倒したドラゴンたちも蘇生してみたけれど、魔力は傭兵隊らと似たようなもんだし、黒死鳥王国では流石に暮らせないみたいなんだよね。

結局みんな炎龍王国で人として暮らす事になったよ。

ちなみに、なんとなく普通に蘇生しても大丈夫な気がして、集めた魂のほとんどは人間として蘇生した。

駄目そうな一部はアダマンタイトゴーレムの体で蘇生して警備隊員となっている。

「それでは一気に山を下りましょう。魔素の濃い所は微妙に気分が優れませんから」

「そうだね‥‥此処は結構濃かったし」

「下りるのは飛び降りればいいだけだから楽なんだよー‥‥」

みんな元気だな。

俺は何時海神からの連絡が来るか、ずっと気を張って待っているから元気にはなれないよ。

転移ゲートの設置はまだ半分の国しかやってないけれど、力のある所は既に終わっている。

伊集院、有栖川、早乙女、そして九頭竜。

常駐する者たちも既にミヨケルに入っていて、かなりの能力者であるという報告も入っている。

セバスチャン経由の情報でも、そろそろ動きがありそうとの事だった。

俺はこんな所で山越えとかしていて大丈夫なのかね。

一応大聖がミヨケルにいるから、なんとかなるとは思うんだけどさ。

俺は何時呼び出されても大丈夫なように、気を張ったまま山を下りて行った。

そして丁度、全員が山を下りた時だった。

『来ました。狙いは私だけではなく屋敷の者全員かもしれません。人数は二十八人。これから迎撃に向かいます』

『分かった。状況の判断は全て任せる。他に被害が出そうなら倒してしまってもいいからな』

『了解、と言いたい所ですが、この二十八人相手だと勝つのは難しそうです。では』

海神でも余裕がない相手か。

人間にも強い奴って結構いるんだよな。

「みんな!ちょっと俺は行かなけりゃならない所ができた。ここに移動用の家を置いておくからちょっと休んでいてくれ」

「何かあったのですか?」

「まあな。急ぐから説明は後でな」

俺はそういうと妖精界に転移してからミヨケルの上空まで瞬間移動した。

実はこの件に関して話しているのは関係者だけに抑えていた。

仲間が漏らす心配はないが、相手はそんな中でも情報を得ようと細心の注意を払っているだろう。

失敗は許されない作戦なのだから。

おかしな動き一つで作戦を変えて来る可能性もある。

できる限りこちらの想定内で動いてもらう為に、人員も最少に絞っていた。

俺は妖精界から邪眼で状況を確認する。

辺りは魔法のライトだけでかなり暗いが、邪眼で見るなら関係がない。

海神は屋敷の庭で、敵を全て結界内に閉じ込めて戦っていた。

屋敷での戦闘は想定される一つだったので、結界を補助する魔法が準備されてあった。

海神一人が狙われるなら結界も不要だけれど、屋敷にくるという事は環奈も狙われていた可能性がある。

相手の二十八人、それぞれが環奈よりも強い。

此処は突破させられない。

流石に強いのを揃えてきているな。

屋敷内から姿を消して見てる大聖が、屋敷の敷地外から戦いを見ている人物がいる事に気が付いた。

どうやら戦いを見届けるよう派遣された者もいるようだ。

『海神。離れた所にも一人いる。戦闘に参加する意思はなさそうだ』

『この相手では私では勝ちきれません。戦闘を監視している者がいるのならアレを使います』

『分かった』

どうやら結果は決まったな。

海神の体を改造する際、生身の人間が死んだと見えるようにしたが、もう一つこういう場合を想定して搭載しておいた魔法がある。

自爆魔法だ。

それも俺が全力に近い魔力で付与したもので、不死でもおそらく再生されないくらいの威力がある。

それに海神自身の魔力と爆発も加わるから、二十八人全員確実に死ぬだろう。

海神は間もなく自爆魔法を使った。

結界内が一瞬にして黒い炎に包まれた。

この爆発でも結界は維持し、爆発の殺傷力を更に高めた。

少しして結界は崩れたが、屋敷の建物は新たな結界によって守られていた。

庭にはほぼ何も残っていない状態だったが、ボロボロの体の敵一名と三枚の住民カードだけがそこにあった。

屋敷の外で見ていた者は、庭に誰も出てこない事を確認してからそのカードを拾い上げ、残った一名に駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

「なんとかな‥‥だがもう動けん。撤退するぞ」

よし、そろそろタイミングだ。

屋敷内の大聖から青い三連星に指示をだした。

庭へと駆け出るようにと。

「敵が来る。早く撤退だ!」

「分かりました」

そういって襲撃者二人は庭から出て町の中へと消えていった。

俺は二人の姿が見えなくなるのを確認してから、姿を消した状態で人間界へと戻ると、海神の魂と、襲撃者二十七人の魂を回収した。

青い三連星が庭へと出て来た。

後は任せよう。

俺は一旦空高くへ瞬間移動した。

「しかし強い敵だったな。あの爆発でも生き残れるなんて神クラスか。魔力では今の俺以上だな。世界は広い」

とはいえ、作戦は成功と言えるだろう。

敵の魂も捕らえられたし、これから尋問だな。

俺はパーティーメンバーの所へと戻った。


移動用の家に戻ってから、俺はパーティーメンバーに事情を説明し、まずは海神を蘇生した。

新しい体は、ポセイドンの魔石を魔砂にして作った水のゴーレムだ。

ポセイドンの魔石を魔砂にするなんて正直勿体ないと思うが、おそらく相性を考えるとそれが一番良いと考えてそうした。

「新しい名前は『咲耶海神(サクヤカイシン)』だ。カードはずっと前から作ってあるから、少しくらい名前が似ていても怪しまれる事はないだろう」

「上手くいって良かったです。所でこの新しい体はいいですね。前よりも強くなった感じがします」

「海神の魔石を魔砂にして使ったからな。やはり相性がいいと魔力も上がるみたいだな」

「なるほどそういう事ですか」

なんとか無事蘇生できて良かったよ。

それに黒死鳥王国の方も海神が死んだ事以外に大きな混乱はない。

大聖がしっかりと説明しているからな。

「それじゃ海神は一旦秘密基地にいてもらう。今後どうするかは追々考えよう」

「分かりました」

もう黒死鳥王国に新たな刺客が来る事はないだろう。

流石にあんなに強い奴らを何度も送り込めるだけの力があったら恐ろしいよ。

俺は瞬間移動魔法で海神をホーム地下の転移ルームへと送った。

さて次は捕らえた奴らの尋問だな。

俺は順番に尋問していった。

結果はほぼ思った通りだった。

まず、どの刺客も所属国は無く、依頼者も国に所属している人物ではなかった。

全てよく分からない人に雇われたプロの刺客や戦闘員という事だ。

しかし誰に頼まれたのかは分かったと言っていいだろう。

みんなどこかの国から転移ゲートを通ってきたわけだからね。

でないと住民カードを持っていない者が町には入れないのだ。

爆発で死んだ後、海神の落とした住民カード以外にそこに存在するカードはなかった。

死んだ後に住民カードが調べられては困る奴らだったのだろう。

何にしても、伊集院、有栖川、九頭竜、そして小鳥遊から送られた刺客だった。

「小鳥遊か‥‥」

小鳥遊は早乙女の次に国力が大きいとされる国だ。

まだ行った事のない南の大陸の多くを領地としている。

全くかかわりのない国とはいえ大国だ。

大国故の責務を果たそうとしたようにも感じる。

「どんな国だろうな」

「もうすぐ実際に行って見る事になりますよ」

「そうだな」

「でもあまりいい噂は聞かない所なんだよ。それに九頭竜と同じように立ち入り禁止区域が結構広いんだよ」

「確かにいい噂は聞かないな」

俺が調べた所小鳥遊領のある南の大陸は、大昔罪人を送る場所とされていたらしい。

そしてヒューマンの中で最も差別され虐げられてきた存在の獣人が集められた大陸でもある。

「島津の第二王国もあるんだよね」

「島津へ行ってみたいか?だったら大和に乗って海を渡るって選択肢もいいかもな」

「特に行きたいとは思わないけど‥‥大和の旅は一度やってみたいかも」

「金魚も乗ってみたいんだよ」

「わらわもじゃ」

「じゃあ決まりだな。南の大陸へは大和に乗って島津領だ!」

この日、いや、既に日付が変わって朝になっているから昨夜の事か。

この世界で、此花策也は死んだ。

別に俺が死んだわけじゃないけれど、木花咲耶と浦野策也と共に、魔法通信ネットワーク上からいなくなった。

そして俺は天照策也として新たなスタートをする。

これで此花への迷惑を考えて行動する必要もなくなるし、みゆきに危害が及ぶ可能性もほぼなくなったわけだ。

いよいよこれから俺だけの戦いが始まる。

そんな気がした。

2024年10月6日 言葉を一部修正

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