難民の村イバカリの改革
困っている誰かを助けられる力があるのなら、助けてあげるのはいい事だと思う。
でも国家を預かる代表が、国民から集めた税金を勝手に使って誰かを助ける行為はどうなのだろうか。
国民は自分たちの為に税を納めているのであって、誰かを助ける為に収めているのではないのだ。
中には自分こそ助けてほしいと思っている人だっているだろう。
誰かを助けたいなんて考えていない人もいて当然だ。
そして助けた人の中には、助けない方が良かったと思える人だっているわけで。
人を助けるのなら、自分の金と責任で最後までしっかりやらなくちゃね。
ゲバイタの町を出て二日目の事。
向かう先に防壁で囲まれた町のような場所が見えてきていた。
「あんな所に町があるのか?結構この辺り魔物も多いし、地図には載ってないみたいだが」
「本当ですね。ここに在るのは‥‥イバカリの村となっています」
「村には見えませんわね」
防壁で囲まれた村なんて、一年近く旅をしているが今までに見た事がなった。
だいたいそこまで大きくなれば町と呼ばれているはずだからね。
「まあいいではないか。町なら何か美味しいものが食べられるかもしれんぞ」
「そうなんだよ。金魚も料理を作らなくていいんだよ」
「金魚の料理‥‥美味しいから好きだよ‥‥」
「そ、そうですか‥‥ありがとなんだよ」
今日も洋裁は人間の姿となって金魚の横を歩いていた。
何があったか知らないけれど、完全にこの二人デキてしまったようだな。
ダークドラゴンと幽霊の恋か。
こんな世界でもないと絶対に成立しないな。
二人とも人間への変化が可能なわけで、結婚して子供を作る事だってできるのだから凄い世界だよ。
念の為、金魚は人間だけどね。
そういえば海神からの追加情報だけど、環奈と陽菜、子供ができた途端に人間から元の姿に戻れなくなったらしい。
もちろん環奈の場合は黒死鳥へと変化する事は可能だけれど、人間が元の姿なのだそうだ。
まあそんな事、俺にとってはどちらも同じように感じるけれど、本人にとっては割と重要なのかもしれない。
環奈は大喜びで小躍りしていたとか。
つか人間の方がいいのかよ。
あんな爺さんの見た目でも、好きな事やれてるみたいだからな。
この世界にフェミニスト活動している人たちがいたら、完全に叩かれまくっていただろう。
「策也?とりあえずイバカリの村に入ってみますか?」
「そうだな。此処なら何か食える店もありそうだしな」
「じゃあ元気に行くんだよ!」
金魚は元気だな。
恋って人を元気にするよね。
そんな感じで俺たちは、元気にイバカリの村へと入って行くのだった。
防壁門では、住民カードの確認はなかった。
やっぱり村なのだと感じさせられる。
しかし一歩中に入れば、そこは完全に町だった。
「えらく活気があるな」
「色々な物が売られています。食事ができる所も沢山ありそうですね」
「完全に町ですわね。冒険者ギルドはあるのでしょうか?」
ベルの言葉に辺りを見渡してみたが、ギルドらしき建物は見当たらなかった。
俺は更に千里眼で探したが、どうやらこの町には冒険者ギルドも商人ギルドも存在しないようだった。
「ギルドはないな。やっぱり村という事か。ついでに言えば領主の屋敷らしき建物も無ければ、役所のような所もない」
これだけ活気があって賑やかなのはどういう事だろうか。
誰が治安を守っているのだろうか。
そんな事をする必要もないのだろうか。
それはないはずだ。
どんな世界にも悪い奴は必ずいるのだ。
悪い奴っていう言葉に語弊があるなら、価値観が一般的ではない人と言ってもいい。
価値観は人それぞれなのだから、人が集まる以上問題は必ず起こるのだ。
見ると町のあちこちに騎士隊らしき人物が立っていた。
「策也?あれは騎士隊ですね。どうして兵士が町中で立っているのでしょうか」
「この村が普通ではないって事だけは分かるな。活気はあるが何か違和感も覚える」
普通町の治安を守るのは警備隊、或いは警備兵である。
そして騎士隊や騎士団など兵士は、警備隊では手に負えない者の相手や他国との戦争、魔物の対応をする際に出動するものだ。
町の外には魔物が多く感じられたが、町中で出るとも思えない。
とするなら、此処の住人そのものがもしかすると何かあるのではないだろうか。
例えばみんな犯罪者とか。
「困ったら‥‥四十八願へ行け‥‥って聞いた事があるっすね」
「あっ!思い出したんだよ。生活に困り住民カードすら売ってしまった難民が集まる場所。イバカリ村なんだよ」
そういえばそんな話もあったな。
そこに行けばどんな夢も叶うと云われる場所。
四十八願領。
生活に苦しむ人たちもそこに向かうのだ。
そしてたどり着いた先が此処か。
しかしこれが難民キャンプ的な村なのか?
下手したらゲバイタの町よりも人々はいい暮らしをしているのではないか?
「みんな裕福そうに見えるの」
「そうなんだよ。四十八願から十万円の生活保護費を貰っているんだよ。更に働けば収入もあるのでいい暮らしができるって聞いた事あるんだよ。でもこれは有栖川が調べた極秘情報で、四十八願はこの場所の存在を公にはしていないんだよ」
なるほどな。
こんな生活を難民がしているって知ったら、税金を払っている国民から不満がでそうだもんな。
困っている人を助けるのは確かにいい事だが、宮陽の婆さん、流石にこれはやり過ぎじゃないかな。
それに、甘やかしすぎるとそれに慣れてしまって、更に要求してくるようになる。
「俺たちはもう国家として独立するべきだ。ここはもう俺たちの国だろ?!四十八願に監視された生活。そんなのはおかしくないか?!」
こういう奴ね。
町の広場から声が聞こえてきたので見てみると、そこには若者が集まっていた。
「そうだ!ここの事は俺たちで決めてもいいはずだ。住民カードもちゃんと発行してもらおう!ここを出て自由に他の町にも行けないなんておかしい!俺たちだけカードを持てないなんて差別以外の何物でもない!」
おいおい。
国家として独立するべきだとかいいながら、いきなり住民カードを発行しろとか矛盾しているだろ。
そもそもお前たちがカードを売っちまったんだろ?
それにお前ら、祖国を捨ててここに来たんだろ?
何かしたいなら祖国で頑張ったらどうだ。
祖国で何もできなかったのに、此処だったらできるというのだろうか。
人を助けるのと甘やかすのとは違う。
その辺りしっかりできない統治者なら、それは駄目な女王様って事になるぞ宮陽の婆さん。
あんたに収めた税金は、自分たちの為に使ってくれると国民は信じてるんだ。
「いやしかし俺たちを助けてくれたのは四十八願女王だろ?今だってお金を支援してもらっている。まずは支援を断って自立できるようにならないと駄目じゃないのか?」
おっ!
真っ当な事を言うのもいるじゃないか。
「何をいう?俺たちはこの世に産まれて来た時点で最低限の生活をする権利がある。それができない人がいるのなら、この世界を統治している王家が責任を持つのは当然だろ!」
そんな権利が本当にあるのなら、それは言ってる事にも一理ある。
でもその権利は存在しない。
何故ならその権利を与える側の王家は神様じゃないし全能でもない。
同じ人間であり単なる代表だ。
人間は社会生活をする以上、生まれながらにして不自由で不平等で理不尽なのだ。
そして権利とは、与えられるものではなく勝ち取るもの。
或いは義務を果たした者にしか存在しないのよ。
みんなが引きこもり生活をする中で衣食住を与えられる統治者が存在するのなら、ちょっと紹介してほしいわ。
全力で支持するよ。
「この町‥‥村はもう駄目ですね。人々は援助してもらう事に慣れ、不満だけ持つ人が増えています。いずれ助けてもらった恩は忘れ四十八願を憎む事になるでしょう」
「助けてもらっているうちは、単なる助けてもらっている人に過ぎない。なのにどうして他の者と同等の権利を主張できるんだろうな」
助けられて当たり前、なんて事はあり得ない。
でも平気でこういう事を訴えて利益を得られるのも、その人の能力と言えば能力か。
それに騙されて支援する側もバカと云うもの。
ただ、人の親切につけ込んで利益を得るヤツってのはやっぱりムカつくよな。
「あいつらの話を聞いておると殺したくなるの」
「殺しちゃ駄目なんだよ」
「うん‥‥佐天も分かってていってるよ‥‥でも、少なくともこういう輩への支援は止めるべきだよね」
「そうだな。訴えを聞いてほしいなら自分の国の王に言えよ。四十八願という優しい統治者に甘えてほしくないな」
そんな話をしていたら、いつの間にか俺たちは村の者に取り囲まれていた。
「さっきから聞いてりゃなんだてめぇら?俺たちは国の奴らから虐げられ捨てられた可哀想な者たちなんだよ。それが最低限の権利を主張して何が悪い?」
やれやれ。
さてどうしようかね。
町の奴ら全員転移魔法で魔界にでも送ってやろうか。
「じゃあ聞くが、お前は住民カードを手に入れて何がしたいんだ?どんな生活を希望するんだ?」
「ああ?子供が偉そうに。でも答えてやるよ。俺は普通の生活がしたいんだ。町でマイホームを手に入れて、美味い物を毎日食べられるような生活だ」
「そんな生活ができるのは世界の半分もいないだろうが、まあいいだろう。それで仕事は何をするんだ?」
「仕事?そりゃ、適当に野菜とか売って」
「その野菜はどうするんだ?」
「そりゃ仕入れるに決まってる」
「何処から仕入れるんだ?」
「一々うるせぇな。畑やってるばばあから売ってもらうんだよ」
「よし。ならば俺がお前に住民カードを提供してやる。そして今言った仕事ができるだけの準備もしてやる。その代わり四十八願からの支援は今日限りでストップだ。いいな」
「お、おい。お前にそんな事できるわけ‥‥」
俺はシルバーカードを一枚、誰にも分からないように異次元収納から取り出した。
「できる。このシルバーカードをお前にやる。それでさっき言った事をやれ。できない場合は死んでもらう」
「策也」
分かってるよ。
別に本当に死んでもらうつもりはないさ。
でもこういう口だけのヤツにはハッキリと分からせないとな。
「他にもカードが欲しい奴はやるぞ。その代わり四十八願からの支援は打ち切りだ。そしてちゃんと仕事をしてもらう。お前たちが望んだ四十八願領民と同等の生活だ。むしろ同等以上と云えるだろう」
俺がそう言うと、皆黙ったまま少しの間動かなかった。
「しらけたよ。もういい」
「できない者の気持ちも考えろよ‥‥」
「無能は死ねってか?」
それが本音か。
でもその本音は確かに分かる。
生まれて来た世界や時代によって、何もできないヤツってのもいるんだよ。
そういう所に生まれて来たヤツには同情もする。
しゃーねぇなぁ。
「あんたら。もしも本気で自分の力で生きたいって思うなら、いくらでも仕事なら紹介してやる。妖精王国とか労働力が足りなくて困ってるしな」
生活保護を貰って暇を持て余し不満だけをぶちまけて生きるのと、苦しい生活だけど一応一人の人間として認められて生きるのとどっちがいいか。
「どんな仕事でもか?俺は頭は悪いが戦闘力だけは多少自信がある」
「そうだな。正直お前程度だと中級冒険者が関の山だが、それでも仕事を選んで真面目にやれば、家族を持っても最低限の生活はできるだろう。訓練に参加して強くなるというなら、警備隊員くらいにはしてやれると思うしそれでもいい。ただし途中で辞めたり悪い事をしたら、此処に戻ってくる事も難しいだろうな。尤も妖精王国の役所には仕事の相談窓口も作ってあるから、次の仕事を探せるようにはしてあるぞ」
「俺の親は農家をやっていた。手伝っていたしだいたいの事はできるつもりだ」
「そうか。ここだと魔物がでるから農家は難しいだろうな。妖精王国の周りは砂漠だし土から作る必要があるが、やる気があるならお前に任せてもいい。妖精王国もそういう人材は欲しているからな」
「俺は昔貿易商をしていた。騙されて借金背負わされて今はこんなだけどな。妖精王国なら有栖川領内だよな。あそこなら取引していたヤツも結構いる。そういう仕事があるなら力になれると思うぞ」
「それはいいな。妖精王国ジャミルはこれからの町だからやれる事は多いと思うぞ」
この後も働きたい意志のある者が次々と名乗り出て来た。
更に、働いてある程度このイバカリで上手くやってきた者からも、自立したいという声が多く上がった。
「私たちもソロソロ生活保護費を貰ってばかりでは駄目だと思っていたんです。でもなかなか変えられなくて。それでもやっぱり普通の人間として認められたい。住民カードは欲しいのです」
「これは多数の意見って事でいいんだよな?だったらまずはこのイバカリを普通の町にしよう。生活保護費の受給と引き換えに、住民カードを安く発行してもらうってのでどうだ?ちゃんと働いて生活を切り詰めれば三年程度で貯められるくらいの金額でな」
安すぎる金額で発行したら、手に入れたカードをまた売るヤツがでてくる。
生活保護が月に十万円、仕事をすれば二十万円くらいは儲けられる。
仕事をして儲けたお金分貯蓄に回せば、三年で六百万円以上貯める事ができるだろう。
闇取引のブロンズカードは売値で一千万円、買取は高くても五百万円だから、これなら売られる心配も少ない。
「私は既にそれくらい貯めてるわ」
「俺だって此処に十年も住んでりゃ自然と貯まるってもんだぜ」
「一応言っておくが、この町の事に関しては四十八願と相談しなければならないからできなくても恨むなよ。できなければ町ごと妖精王国領内に移動するなり手はあるけどな」
「なんとかできるのなら、是非お願いします」
気が付くと俺は、また厄介事を引き受けてしまっていた。
「ちなみにこれはウニ十字結社の活動だ。上手くいったらウニ十字結社のおかげだと思ってくれよ」
とりあえず、半分以上は仕事もせず生活保護で暮らしてきた者たちだ。
その多くはこれから仕事をする事を望んだ。
ほとんどは妖精王国で引き受けるが、一部仕事内容によっては他へも行ってもらう。
この地に残って仕事をしたいという者には、仕事の支援だけをして、後は自力で住民カードを手に入れてもらう事になるだろう。
既に仕事をしていた者の半分は、直ぐにでも住民カードを手に入れる事ができるが、もう半分はこれからとなる。
ただ一部どうしても生活保護が必要な者たちもいるし、此処での甘い生活に慣れて今の生活を手放したくないという者もいて、そういう者たちは今後も四十八願が生活保護費を支給する方向でやるしかないな。
一度助けた者は最後まで面倒をみるしかないだろう。
放りだしたら野垂れ死ぬか、魔物に殺されるか、盗賊になるしかないだろうから。
この世界の人間は国民意識ってのがほぼ無いから、祖国に面倒をみてもらうなんて選択肢はないのだ。
「悪いなみんな。ここでもウニ十字結社の活動が必要みたいだ」
「かまいませんよ。わたくしたちにできる事があれば言ってくださいね」
「わらわは終わるまで美味い物を食べまくるのじゃ」
「わたくしは頑張る人は応援しますのよ。剣の訓練や勉強なら見て差し上げられますわ」
「金魚も手伝うんだよ。なんでも言ってほしいんだよ」
「だったら‥‥自分も‥‥」
「ああ。金魚と洋裁にはここを町にする場合、正式な領主が来るまでの統治を任せるよ」
やっぱりこの二人は一緒にしてあげないとな。
俺って優しいぜ。
そんなわけで俺は、早速夏芽を通じて四十八願と相談した。
ウニ十字結社の策也としてね。
さてこの話は四十八願にとってもいいものだし、概ね俺の計画通りに進められそうだった。
しかし一つだけどうしても難しい事があった。
それは住民カードを安く発行する事だ。
住民カードの発行には、産まれた時に発行する新規発行と、紛失や盗難に遭った場合の再発行。
そして住民じゃない者に発行する販売がある。
今回のは場合は、元々この町に暮らす人はいなかったわけで、再発行にはならない。
当然新規発行もできない。
となると販売となるわけだが、これが超絶高くて一億円の費用がかかるのだ。
それを六百万円程度で売るとなると、四十八願への財政負担が大きくなりすぎて、何の為の改革なのか分からなくなる。
だったら生活保護費を出し続けた方が安く済むわけだ。
対応策はいくつか考えられる。
まず、カードを秘密組織で作って売るという手だ。
カード作成に必要な魔力蝙蝠の魔石は手に入るし、作り方も分かる。
しかしそれを大々的にすると、秘密組織が世界からどう見られるか。
或いは四十八願への圧力もあるだろう。
特に九頭竜にしてみれば魔力蝙蝠の魔石の独占権を脅かされるわけで、元々仲が悪いから即戦争もあり得る。
皇だってカードの製造販売をしているのだから問題視してくるだろうし、弥栄にも迷惑がかかる。
だからこの手は無理だ。
次に俺の持っているカードを売る手だ。
ただこれだとカードの枚数に限界があり、恒久的に続けるのが難しい。
流石に魔王がやってきて町を壊滅せるような事はそうそう考えられないからね。
今もっている住民カードのほとんどは壊滅させられた町の住人が持っていたもの。
今後の死者に期待するってのもあり得ないし難しいだろう。
となると方法は、真っ当な方法で住民カードを安く仕入れ、それを六百万円程度で売る事を世界に認めさせるしかない。
新規なら十万円程度で発行できるカードなんだ。
六百万円なら十分儲けは出るだろう。
尤も、九頭竜が人間を犠牲にして魔力蝙蝠の赤い魔石を手に入れているとしたら、六百万円でも安いのかもしれないけれどね。
俺は皇国の弥栄に相談した。
弥栄には既に、俺の元で死んでヴァンパイアとなった冷泉博士が働いている事を伝えてある。
魔力蝙蝠の魔石を手に入れる術を持っている事も、住民カードやあらゆる魔法ネットワークの構築、或いは調整まで含めてすべてできる事も話した。
一部自重は求められていて、皇とは大きな問題になる事は避ける方向だが、九頭竜に対してはそろそろ動き出してもいい頃かもしれない。
博士との約束もあるからな。
弥栄とはヌッカの店で会う約束をした。
仕事でこの辺りに来ているという事だったんでね。
「悪いな呼び出して」
「いえいえ。こうして相談してくれるのですから、私としては感謝しています」
皇との関係は難しい。
みゆきの母であるみこととこの弥栄だけは友好関係にあるが、皇自体とは未だほとんど接点がない。
あえて挙げれば黒死鳥王国の件と、死んだ事になっている冷泉博士の遺産を引き継いでいる者がいると話が通っているくらいで、俺に直接つながるものは皆無だ。
何か下手をすれば敵視される可能性もあるので、皇が絡む案件はこうして弥栄と相談して決めている。
「だいたいメールで話した通りなんだが、そろそろ魔力蝙蝠の魔石もたまって来たし、九頭竜の牙城を崩しにかかってもいいかと思うんだ」
「皇としては仕入れ値がゼロになるのでありがたいのですが、本当に以前の話の通りでいいのですか?」
「ああ。その代わり俺と俺の仲間が私的に行動する範囲の事は目をつぶってもらう」
俺の要望はこういう事だ。
魔力蝙蝠の魔石を必要なだけできるだけ皇には無料で提供する。
魔石を取に行くのもこちらでやる。
その代わり、俺が管轄する人や国の中では、無償で住民カードの配布や魔法ネットワークの構築をさせてもらう。
それとメール暗号化サービスに関しては自由にやらせてもらう。
これ以上の事は相談をするという約束だ。
簡単に言うと、魔石を提供するし皇の商売の邪魔はしないから個人利用は認めてくれという事。
「それなら間違いなく皇帝は納得するでしょう。それで今回は四十八願領内の難民に住民カードを発行するという話ですね。魔石一つでカードは十枚発行可能です」
「確かカードには魔石の欠片が使われるから、丸々一つは必要ないんだったな」
「ええ。ですから九頭竜もさほど儲けが期待できるわけではないですが、そこそこの利益は出るでしょうし賛成してくるでしょう。他も四十八願の難民保護で助かっている所がありますから、四十八願が上手く処理するというのなら反対する理由はありません。盗賊予備軍を引き受けてくれている部分もありますし」
「問題はあまり利益の出ない皇だが、今回の事が世界に認められれば俺たちが無料で魔石を提供するから利益も出る事になる」
「でもアッサリと皇が賛成すると九頭竜が不振に思う可能性があるので、少し渋る演技が必要ですか」
「まあ念の為だな。尤も、皇はカード使用でも一部利用料金を徴収できるから、長い目で見ればペイできるんだろうけどな」
カードの利用料金は概ね受け渡し金額の三パーセント乃至個別の利用料金が定められている。
そして金額の二パーセント乃至個別の利用料金の三分の二を受け取る者はほぼ固定されていた。
残りはカード使用者が所属する国か町に、金額の一パーセント乃至利用料金の三分の一が行くことになる。
カードを使った場所、正確には利用したアクセスポイントを持つ者に金額の一パーセント乃至利用料金の三分の一だけどね。
これらは税金のようなものとされている。
それ以外に、売買やお金の受け渡しでは商人ギルドに一パーセントを取られたり、魔法通信での情報観覧料金としては冒険者ギルドに三分の一が取られたりする訳だ。
通話、メール、アイテムの出し入れ等では、利用料金の三分の一が皇へと入る。
ちなみに九頭竜は、カード使用の中ではお金を儲ける術がない。
魔力蝙蝠の魔石を使ったネットワークの構築と機器販売、コッソリと盗み取っている情報を売る事で利益を上げている感じだ。
それともう一つ。
俺や仲間の使う捨て垢は、アクセスポイントを宇宙にある人工衛星に固定しているので、使用料金の一パーセント乃至三分の一は、秘密基地のマスターボックスに納められている。
メール暗号化サービス利用料金と合わせて、日々お金は増える一方だな。
この後も弥栄と細かい打ち合わせをし、数日後に皇と四十八願の提案として世界会議が開催された。
綿密な打ち合わせと根回しのかいあって、俺たちの作戦は上手く行った。
こうして四十八願のイバカリは、難民の町として世界に認められる事となった訳だ。
といっても全てはこれからなんだけどね。
そんなわけで始まりましたウニ十字結社の難民救助計画。
まずはイバカリを出るメンバーを妖精王国ジャミルへ送る為、転移ゲートを設置した。
全員を瞬間移動させるのも面倒だし目立つからね。
転移ゲートは当然『ウニ十字結社が設置』という事にしてある。
妖精王国には一時的に人々が暮らせるキャンプも作り、定職につくまではそこで生活をしてもらう。
力のあるものは工事を手伝ってもらってちゃんと賃金も支払う。
職業訓練が必要な者には訓練を、直ぐに働ける者は即現場に投入していった。
一部は神武国やヌッカの店など、俺の管轄する国などへも行ってもらう。
残った者たちには難民を復活させる為の町として必要な、役所やギルド建物の準備なんかを手伝ってもらった。
一応九頭竜を納得させるために、魔法通信システムの工事は任せるよう発注した。
体制が整う前に九頭竜にごねられたら面倒だからね。
こうして全ての作業が俺たちの手から離れるまでに二週間を要した。
「後はそれぞれに任せていいだろう」
「今回は流石に大がかりで大変でしたね」
俺はエルと二人で話をしていた。
「しかし一度落ちた人たちです。助けてもまた落ちる可能性が高いんじゃないでしょうか」
「一応再挑戦できるようにはしてあるし、流石にこれ以上は面倒見切れないな。犯罪を犯すようならルールにのっとって裁くだけさ。それに犯罪者じゃない。なんとかなるだろ」
転生前の世界ではもっと甘い事をしていた。
おそらく犯罪を防ぐ為にやっていたのだろうが、税金を納める国民からの不満も大きかった。
不公平感極まりないし、やるなら全員に金は配るべきものだ。
それが犯罪抑止の為に一部の者にしか金は配られず、しかもそっちの方が裕福に生活できるんだもんな。
ベーシックインカムという全員にお金を配るシステムも考えられてはいたが、これもなかなか難しいんだよ。
俺は条件付きで賛成していたが、その分税も高くなるわけで導入は難しいだろう。
「そういえば策也。前に少し気になったのですが、十八歳までの記憶はほとんどないんですよね?」
「ああ。五歳までの記憶は元々残りづらいからぼやっと何か覚えているくらいか。そして六歳の頃のは言われてなんとなくその気がするくらいで、その後は全く覚えていないな」
「そして十八歳以降の記憶は完璧に覚えているんですよね?」
「そうだな。魔法記憶があるからな」
そういえばもう俺がこの世界に来て一年以上経つのか。
結構沢山の記憶を詰め込んできたが、役に立っているのは前世での記憶が多い気がする。
「この前不思議に思ったんですが、策也の知識は何処で得たものなのでしょう。ある程度覚えているのにハッキリしない所も結構ある。覚えていないのと覚えているのの中間的記憶も持っていますよね」
エルはこの辺りしっかりと見ているな。
流石は頭のいいエルフと云った所か。
此処までハッキリと疑問を持たれては隠すのもしんどいな。
「まあな。信じてもらえるかどうかは分からないが、俺には別世界の記憶も存在するんだ。もしかしたら夢の記憶かもしれないと思う事もあるけどな」
「そうなんですか。いえ、そう考えた方がしっくりきますよ。この世界の発想ではないものがこれまで多々ありましたから」
「そうなんだよな。この世界は魔法に頼り過ぎるきらいがあるが、その世界には魔法が無いんだ。だから色々と知恵を絞る必要があったんだよ」
その知恵の結晶が科学技術だったり色々な学問だったりするのだろう。
この世界にも多少はそういうのがあるし、経験からなんとなく分かっている部分もある。
しかしそういうのがあまりないこの世界に、俺はそれを持ち込んで良かったのだろうか。
これから何処まで持ち込んでいいのだろうか。
「そうだ!この話はまずみゆきに話すつもりだったんだよ。そういう訳だから、今からみゆきに会ってくる。旅の出発は明日な!」
俺はそう言ってみゆきの元へと瞬間移動した。
みゆきは既に一日を終え、ナンデスカの町はこれから眠ろうとする時間だった。
俺は部屋の前でノックして声をかけた。
「みゆき!起きてるか?」
「えっ?策也?起きてるよー!」
部屋の中からバタバタと音がした。
そしてすぐにみゆきがドアから出て来た。
「おお!みゆきー!愛してるよ!」
俺はみゆきを抱きしめた。
「いきなりどうしたの策也。突然会いに来てくれるなんて」
「いやなに、突然会いたくなったから突然会いにきたんだよ」
「そのままだね」
俺たちは抱き合ったまま話を続けた。
「俺な、みゆきに話しておきたい事があるんだ」
「なーに?」
「実は俺、別の世界から転生してきたんだ」
「へーそうなんだ。なんか凄いね」
「凄いだろ?この事は最初にみゆきに話しておきたくてな。聞いてくれるか?」
「うん。聞くよ。いっぱいあるなら朝まででも平気だよ」
みゆきの言葉に、俺はみゆきを抱きかかえて部屋へと入っていった。
そして二人でベッドに横になって、俺は思いつくままに話していった。
何となく誰にも話せていなかった転生前の話。
俺は今、全てを吐き出すように話した。
話は本当に明け方まで続いた。
気が付いたらみゆきは寝ていて、俺もなんとなくそのまま眠りについた。
久しぶりに、いやこの世界に来ておそらく初めて転生前の夢を見た。
2024年10月6日 言葉を一部修正




