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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
お助け編
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世界一活気のある町で得たもの

お金というのはそもそも借金である。

誰かが誰かにした借りを返してもらうという『約束のチケット』のようなものだ。

お金持ちというのは人々への貸しが多い人という事になるわけだが、でもそれだとつまり『借り』を沢山作る人がいなければこの世にお金持ちは存在しない事にもなる。

この世界では皇が『返さなくてもいい借り』をする事でお金が流通している。

或いはお金を提供するという仕事で『人類に貸しを作っている』という風にも言える。

お金を提供するという仕事が求められる限り、皇は『金の壺』を使って返さなくてもいい借りを永遠にし続けられるのだから良い身分だ。

転生前の世界でいうなら、世界紙幣を発行できる国と言えるかな。

さてしかし、もしもそんな国と同じ事ができる人がいるとしたら、その人は、その町は、その国はどういう事になるのだろうか。

お金なんて所詮は『貸し借り証明書』なわけで、人々が認めれば何でもお金になってしまう。

お金に必要なのは『借りたものは返すという信用』と、それを『誰もがお金と認識できる』かどうかだけ。

尤もそれがとてつもなく難しい事でもあるんだけどね。

転生前の世界では、『信用創造』という方法でお金を流通させる事ができた。

銀行という信用される組織があり、銀行がお金を預かり人々に貸す事でお金が発行され増やされる。

例えば銀行に百万円分の(キン)を預ける人がいたとして、その人には銀行から百万円分の金との交換券が渡されるわけだ。

その人がある時百万円の買い物をしようとした。

だけど一々銀行へ行って百万円分の金と交換して持ってくるのは面倒である。

そこでその交換券をそのまま取引に使う事を思いついた。

銀行に持って行けば間違いなく百万円分の金と交換してもらえるわけだから、受け取る側も安心だよね。

こうして交換券が取引に使われるようになり、後にお金となる訳である。

すると今度は銀行側も、一々預かった金を誰かに貸すよりも、交換券を貸した方が便利だと考えた。

そうなると市場には交換券が二枚出回る事になる。

銀行に金は百万円分しかないにも関わらず、銀行の信用によって市場に出回る交換券が二百万円になるわけだ。

銀行がお金を預かりそれを貸す事でお金が増える仕組み、これが信用創造であり、転生前の世界ではお金を流通させる当たり前の方法となっていた。

だけどこの世界には銀行は存在しない。

似たような事を商人ギルドが行ってはいるが、返さない人が圧倒的に多いこの世界では、銀行業は成り立たないのだ。

だったらどうやってお金を流通させたのか。

その始まりは謎である。


コツの町を出てから五日後、俺たちは愛洲王国の王都である『カガラシ』の町に到着していた。

流石に愛洲の王都というだけあって、今まで見たどの町よりも活気に満ち溢れていた。

「伊集院や有栖川の町も凄いと思ったが、此処は活気という意味では一番凄いな」

銀座や新宿というよりは、大阪難波といった所か。

「人も結構多いですね。海の町ですから海産物の取引もあります。エビも売ってますよ。今日は美味しいエビ料理が食べられそうです」

エルの言葉を聞いた俺たちは、真っ先にギルド併設の飲み屋へ行って食事をする事にした。

ギルドは少しだけ町中にあるようで、しばらく俺たちは活気ある通りを歩いた。

その中で他の町では見かけないものが目にとまった。

「アレはなんだ?支払いの時、金とは別に何か札、いや紙きれを渡しているように見えるが」

「なんでしょうね。他の町では見た事がありません」

「金魚は聞いた事があるんだよ。愛洲は商人ギルドに収める金を減らす為に、割引チケットとか買い物ポイントとか云われる紙をお金の代わりにやり取りしているって話なんだよ」

「ほう。それは面白い事をするな」

この町独自のお金を作って使っているようなものか。

お金は信用創造で作られるというのが転生前の世界での常識である。

しかしこの世界に銀行は存在しないわけで、それだとお金も存在しない事になる。

なのにお金は存在するわけで、信用創造なんてものはあくまでお金を作り流通させる為の一つの方法にしか過ぎないという事だ。

お金なんて所詮はただの貸し借りチケットだと俺は考えている。

例えばAさんがBさんに肩を叩いてもらい借りを作ったとしよう。

その時AさんはBさんに対して、『肩叩きの借りを返す』という約束のチケットを渡すわけだ。

BさんはそのチケットをAさんに持っていく事でAさんに仕事をしてもらったり、何かを貰う事で貸しを返してもらえる。

一々チケットを発行したりはしないが、人間社会ではそういう貸し借りが沢山ある。

そこで貸し借りを明確化し、決められた人からだけ貸した分を返してもらうのではなく、誰から返してもらっても良いとして発行したチケットがお金だ。

だからお金なんてみんなに『借りを返す約束のチケット』と信用を得て認めさせる事さえできれば、誰にでも作れると言える。

それは難しい事ではあるが、この町の人はできてしまったという事だろう。

それだけこの町の住人は信用できるという事か、或いは愛洲が信用されているのか。

何にしてもお金が増えれば取引も活発になって景気も良くなるわけで、町も活気づく。

更にこの町でのメリットとしては、商人ギルドや有栖川にとってそのチケットはお金ではないわけで、それをやり取りした所で商人ギルドに収める必要はないという事。

転生前の世界でも似たような事はやっていたよね。

なんちゃらポイントってのは、その店限定のお金のようなものだ。

しかしそれをやり取りしたからと言って納税する必要はない。

「それにしてもよくあんな紙切れをお金の代わりとして信用して使えるものだな。あの程度の紙きれなら魔法でいくらでも作れてしまうぞ」

俺が思った事を口にすると、後ろからいきなり知らない女に話しかけられた。

「それにはちゃんと訳があるんですよ」

振り返るとそこには可愛い感じがするれど割と大人で、貴族のようだけど何処か庶民的な感じのする見るからに好感が持てる女性が立っていた。

「そうなのか?」

俺は返事をしながら、魔法でそのチケットらしきものを作って見せた。

「凄い。簡単に作っちゃうんですね。でもそれだと偽物だとバレてしまいますよ」

その女性はポケットから本物のチケットらしきものを取り出し俺に差し出してきた。

「どう違うっていうんだ?」

俺は差し出されたチケットを手に取ってみた。

するとその瞬間、それが本物であるという事が認識できてしまった。

「これは‥‥」

なるほど。

この世界に流通するお金と同じだ。

何故かこれが本物であると分かる何か魔法のようなものがかけられている。

これでこの紙きれを誰もがお金だと認め信用される訳だ。

「どうかしたんですか?」

俺は無言でエルにそのチケットを渡した。

受け取ったエルもすぐに理解した。

「お金と同じですね。これなら確かにお金として使われても不思議ではありません」

「分かっていただけたようで良かったです。策也さんにエルグランドさん」

その女性は俺たちの名前を知っていた。

まあ俺たちはそれなりに有名でもあるから驚きはしないが、何者だこの女性は。

「俺たちを知っているのか。その通り俺は策也だ。で、あんたは?」

「私は氷菓家の千える(チエル)といいます。よろしくお願いしますね」

そう言って千えるは右手を差し出してきた。

握手ね。

俺は右手で千えるの手を握った。

「ん?」

「どうかしたんですか?」

「いや、よろしく」

これはなんだ?

今までに感じた事のない魔力だな。

しかも何かの魔法が俺に伝わってくる。

ああ、なるほどそういう事か。

どうやら俺はムジナと思考を共有した事で、ムジナの能力である『触れた相手の能力をコピーする能力』を得てしまっていたようだ。

そして今千えると握手したことで、この人の能力である『対象に付与する事で本物と認識させる能力』をコピーしてしまった。

ただムジナの能力は基本的には上書き系で、相手の能力をコピーするたびに前の能力を失うようになっている。

とは言え俺はチートの能力者。

一度理解した魔法や能力が使えるようになってしまうわけで、今俺は完全に千えると同じ能力を得てしまっていた。

俺は千えるの手を離した。

千えるは律義にエルやその他のパーティーメンバーとも握手と自己紹介をかわして行った。

全員との挨拶が終わってから、俺は千えるに話しかけた。

「それで俺たちに何か用があるのか?」

俺たちを知って近づいてくる訳だから、おそらく何かしら用があったのだろうと判断した。

でも少し違っていたようだ。

「いえ。特に用という訳でもないんですが、旦那が『ソロソロ策也さんやエルグランドさんがこの町に来るだろうから挨拶しておけばどうか』と連絡をくれまして」

「旦那?一体誰だ?」

想像は付くけどな。

「はい。今神武国で愛洲の大使をしています折太郎です」

「へぇ~‥‥よくは知らないけれど、どうしてまた俺たちに」

大聖を通じてよく知ってますよ。

でも俺とは全く面識がない。

「コツの町で色々と助けてくださったそうで。神武国の大聖さんを通じて折太郎に連絡をくれたのは策也さんですよね。一応町の出入りは全部記録されていますし、みなさん有名人ですからすぐに容姿は調べられましたよ」

なんと俺たちはそこまで有名になってしまっていたのか。

って調べりゃ出てくるくらいにはな。

「でも付けてる仮面の色が違いますね?」

「ああ、あれは正確には俺であって俺じゃないからな」

知られているのは魔王を討伐した頃の俺か。

だったら今の俺とは別人であるようにふるまっておかないと、浦野策也と名乗っている意味がないからな。

「それはどういう意味ですか?私気になります!」

ガーン!

まさかこの子もこういうキャラなのか!

前々から思っていたけれど、どう考えてもこの世界を作ったのは日本人だろ?

いや、アマテラスちゃんが転生させてくれたわけだし、言語も日本語なわけだから当然日本との関係はあると理解しているんだけど、それにしても関係ありすぎだよ。

でもそう考えると、折太郎と千えるが結婚しているこの世界は、なんとなく優しい世界な感じがするな。

俺が何を言っているのか、分かる人だけ分かってくれればいいけど。

しかしこの女性に嘘をつくのはなんだかとっても気が引ける。

それに能力もコピーさせてもらったしな。

多分信用できる人だよね?

「えっと、千えるは口が堅いか?」

「それはそこに人には話せない秘密が隠されているという事ですね?ではこれ以上は聞かない事にします。気になりますが‥‥」

「助かる」

これはかなり口が軽そうだな。

あの有名なマーガリンのように。

でもまあ悪い人じゃなさそうだし、話しても問題はなさそうだけどな。

「それじゃ今日はせっかくですし、我が家でおもてなしさせていただきますよ。おとなしく接待されてください」

「そうか。悪いな」

そう言われても全く思う所が感じられない。

折太郎も高い能力を持った交渉人だと思ったけれど、千えるも相当だな。

こりゃ何かあったら助けてやらないとって思ってしまう。

「そんなわけでみんな。今日は千えるの所で料理を振る舞ってくれるそうだ。美味いもんガンガン食べようぜ」

「もうかなりお腹が空いておるぞ。はよ案内せい」

「これは楽しみですね」

こうして俺たちは千えるの屋敷へと向かうのだった。


屋敷ではこの世界のものとは思えない美味い料理が次々と出てきた。

自由に味を追求したらこうなるのだろうか。

或いは愛情とでもいうのだろうか。

「美味過ぎるのじゃ。ミノがまるでゴミのようじゃ」

俺たちにとってはミノは最初からゴミのようなんだけどね。

「町でもこんな美味い飯が食えるのか?」

「おそらく食べられる店はあると思いますよ。でもこの料理は特別です。なんせ策也さんたちを餌付けして味方に付ける為に力が入ってますから」

コレコレそういう本当の事は隠しておくものですよ。

思う所が直球過ぎて逆にさわやかですな。

「そんなにしてまでなんで俺たちを味方にしたいんだ?」

「折太郎が挨拶しておけって言ったのもありますが、会って確信しましたよ。皆さんただ者じゃない雰囲気があります。特に策也さんは余裕がありすぎます。警戒しているようで、でもどうにでもできるといった感じでしょうか。これは味方にしておいて損はないと思いました」

なるほどねぇ。

確かに俺は何が起こってもどうにでもできると思っているから、余裕があるようには見えるだろうな。

「そうですね。策也を味方にしておいて損はないですよ。何かと世話焼きですからね」

「そうじゃの。困っている人がいたら助けずにはいられない性格じゃしな」

「それによく分からないけど、よく分からない事をよく知ってるんだよ。策也さんと一緒にいると色々と勉強にもなるんだよ」

「みんな策也くんをほめ過ぎですわよ。わたくしから見ればただのガキですわね」

「そうそう。子供の癖に自分に命令するし‥‥あ、一応年齢は同い年か‥‥」

そういえば洋裁とは同い年って事になっているんだよな。

アレ?どういう事だ?

洋裁は生まれ変わってダークドラゴンになった。

それは理解できた。

でも、なんで赤ん坊のドラゴンじゃないんだ?

人間として死んでからダークドラゴンのボスとして人間界に来るまで、数日しかなかったはずだ。

魔物に生まれ変わる時はもしかしたら子供に限らないのかもしれないが‥‥。

俺はしばらくこの事が気になって、いくつかの思考でずっと考える事になった。

別の思考では、この町のお金に代わる正式名称『ポイントチケット』も気になっていた。

俺は千えるに尋ねる事にした。

「この町のポイントチケットは一体誰が考えたんだ?経済を活性化するには素晴らしいやり方だと思うが」

「これは元々武器屋のおじさんが、買ってくれた人に割引チケットを渡し始めた所から広がっていったんです。すると真似して色々な店でチケットが配られ始め、チケット同士の交換を仕事とする人もでてきました。更に安くチケットを買い取って売る店も出て来たんです。そうなるとチケット自体が買い取り価格以上のお金の価値を持つようになりました」

なるほどね。

安い価格でいらないチケットを使用したい別の店のチケットと交換してもらえるのなら、どんなチケットでも誰もが相応の価値を認める事ができる。

買い取ってもらえるとなれば尚更だ。

「だけどそうなると問題も出てくるな。町でも言ったが偽物を作るヤツが出てくる。それを防止したとしても、チケットを提供している店はいくらでも作れるわけで、それで大儲けをしようとするヤツもいるはずだ。売りさばいた後に店を閉めてトンズラすればいい」

そういうのは暗号通貨で問題になったよなぁ。

「そうなんですよ。だから私たち行政側は、偽造防止とチケットに関するルールを取り決めました」

ルールね。

記念コインや切手、或いはステーブルコインのように、政府が公認した本物と分かるチケットを製造販売して、それを使うようにしたって所だろうか。

紙幣の流通だけなら、政府自体が納税割引チケットとして販売し、それを店がサービスとしてつけたりも考えられる。

政府紙幣なんて方法もあるけれど、此処までくると元々の目的や流れから外れすぎていてあり得ないか。

「偽造は千えるの能力で対応したとして、ルールはどうしたんだ?」

俺がそう聞くと、千えるは驚いた顔をして固まっていた。

あれ?どうしたんだ?

「あっ‥‥」

千えるは自分の能力の事を喋っていなかったな。

「策也?千えるの能力とはなんですか?」

「千えるの事を知っておったのか?」

さてどう答えたものか。

「いや、千えるとは今日初めて会ったよ。でも能力の事はなんとなく知っていたというか‥‥」

「どうして分かったんですか?というか何処まで知っているんですか?私の能力の事は旦那ですら知らないんですよ?!私気になります!」

折太郎にも話していないのかよ。

そんな事を俺が知っていたらそりゃ気になるわな。

おそらく愛洲の上層部か、或いはもっと少ない人にしか話していない事なのかもしれん。

「そりゃお前、俺は何でも知っているからな‥‥」

「じー‥‥」

千えるちゃん?

視線が痛いよ。

「ふぅ~‥‥本当の事を言うとな、俺は他人の能力や魔法について知る事ができる能力を持っているようなんだ。それに気が付いたのは実はついさっきなんだけどな」

「そんな能力があるんですか!?」

千える食いつきすぎ。

「それに気が付いたのはついさっきという事は‥‥もしかして会って握手した時でしょうか?」

流石にエルはよく見てるなぁ。

「まあな。それが本当にそうなのかはまだ分からない。ただおそらくはそうではないかという程度だ」

「それなら試してみたらどうじゃ?」

「試して、か‥‥なら金魚。握手をしよう!」

俺は前々から確認できればと思っていた。

金魚は本当は死んだんじゃなくて、おばけの能力をなんらかの方法で得たのではないのかと。

「いきなりどうしたんだよ。金魚に大した能力はないんだよ?」

「いやいいから」

俺は金魚の右手をとって強引に握手した。

すると金魚の能力が伝わって来た。

金魚の能力は『自分よりも魔力の低いヒューマン以外の能力を一時的に自分のモノとする』ものだと分かった。

そしてその得た能力とは、おばけの持つ幽霊になる力。

でもこれだと新たに別の能力を得れば、幽霊になる力は失われる事になる。

ただどういう訳か、新たな能力を得る事ができないようにロックされているようだった。

「策也さん?どうだったんだよ?」

「金魚お前やっぱり‥‥」

「策也、金魚に何かあったんですか?」

「知らない方が幸せな事もあるんだよ。でも金魚の能力は分かった。その証拠を見せてやる」

俺はそう言って自らの体を幽霊化させた。

「策也‥‥これは‥‥」

「どうしたんだよ。策也さんが死んじゃったんだよ!」

「えっ?死んでるんですか?でもなんだか元気そうですよ?それよりも髪がどういう訳か青くなってますね。気になります!」

「幽霊になる能力というわけじゃな」

「それを策也くんが使えるのはどういう訳なんでしょうか。説明を要求しますわ」

「ザックリ言うとだな。俺はチートな賢者だから何でも分かるし何でもできるんだよ」

言ってる事は嘘じゃないぞ。

ムジナの能力で触れた相手の能力が何でも分かる。

そして俺が元々持っている『分かれば何でもできてしまう能力』でできてしまうわけだ。

「ではもしかして、私の能力も策也さんは使えたりするのですか?」

「まだ試してないが多分使えるぞ。今の所使う予定はないけどな」

流石にコレだけの能力を見せてしまうと、パーティーメンバーでも引いてしまうかな?

俺は人間の姿へと戻った。

強すぎる能力は恐怖の対象となる。

そんなの分かっていた事だ。

だから俺はなるべく強さを隠し目立たないようにするつもりだったのではなかったか。

調子にのってやり過ぎただろうか。

「凄いです!私感動しました!」

「策也が凄いのは分かっていましたが、やはり規格外ですね」

「わらわの目に狂いはなかったの」

「死んだ策也さんが人間に戻ったんだよ。良かったんだよ!」

「正直わたくしは恐怖を感じましたわ。でもわたくしの方が美しさでは勝ってるのですわ。おほほほほ!」

なんだこいつら。

頭おかしいんじゃないか?

でも‥‥良かったな。

『これからは策也に触れないように気を付けないと!』とか言われなくて。

「まあそういうわけだ。これからは自分の能力をコピーされたくなければ俺から離れていた方がいいぞ」

「別にわたくしの使える程度の能力は、策也なら全部使えてしまうでしょうしねぇ‥‥」

「わらわもそう思うぞ。それに強さは能力ではなくて魔力じゃ!いずれわらわの方が強くなるしの」

「金魚は今更なんだよ。策也さんが死んだのは残念だけど、幽霊仲間ができて良かったんだよ」

「美しさはコピーなんてできませんわよ!おほほほほ!」

いや、多分できてしまうぞ。

ベルに変化なんてするつもりはないけどな。

「策也さん!一応私の能力については内密にお願いできますか?愛洲の国家機密なもんでして」

そりゃそうだよな。

こんな能力使えたら、本当の金すらいくらでも作れてしまうしな。

もう今の俺なら作れるんだけどさ。

「ああ。別に誰かに話すつもりはないよ」

「それとお願いなんですが、住民ナンバーの交換をしませんか?いつでもメールで連絡が取れるように」

「俺と?」

「はい。今日会って確信しました。旦那は『神武大聖の関係者かもしれないから会っておけ』って言ってたんですが、私は策也さんこそパイプが必要な人だと感じましたから」

この子は本当に隠さない子だな。

それにしてもこの夫婦、かなりの人物だよ。

俺が素人だからそう思うだけで、これくらいの人物は世界中にはごまんといるのかもしれないけれどね。

「暗号化サービスは入っているか?」

「もちろんですよ。秘密組織の運営ってのが少し気になりますが、九頭竜に情報が洩れないならその方がいいですからね」

「分かった。じゃあ交換な。これが浦野策也の番号。それとこっちが此花策也の番号だ」

相手の秘密を知ってしまった以上、こっちの秘密も知っておいてもらっていいだろう。

友人付き合いは対等じゃないとね。

「やっぱり此花策也さんでしたか」

「まあな。あまり目立ちたくないから名を変えて旅をしている。それと知っていると思うが、元此花策也と云われている木花咲耶は俺の影武者だよ」

「色々と話してくれるんですね。私うっかり誰かに話しちゃうかもですよ」

「その時はその時だよ。どうしてもそれで気に食わなければ、千えるを操ってでも訂正させてやるさ」

「心しておきます」

冗談と思ったヤツはいないかな。

ただその程度の事で怒るとも思われていない感じか。

その通りなんだけどね。

「じゃあ今日はこの辺りで御暇(オイトマ)するか」

「泊まっていってくださいよ。広い屋敷に今は私と子供二人、それとメイドが五人ほどいるだけですから」

「えっ?子供いるんだ?」

良かったな。

全国アニオタのファンたちよ。

本当に良かった。

これは分かる人にしか分からないネタだな。

「じゃあわらわは遠慮なく泊まらせてもらうぞ」

「わたくしもです。この屋敷なら広いお風呂に入れそうですわ」

「はい。一応それなりに大きなお風呂がありますよ」

「それは嬉しいんだよ」

こうして俺たちは千えるの屋敷に一晩泊めてもらう事になった。

夜になって、俺は魔力トレーニングをしていた。

その時、幽霊化した時の事を思い出していた。

これは実際に自分が幽霊になって感じた事だ。

魂が何処かに行こうとしていたように思えたのだ。

そして魂がどうも体と一体化せずに不安定な感覚。

あの状態だと、俺のように魂をコントロールできる敵が現れたら、簡単に魂を体から分離させられて殺されてしまうだろう。

そんな事が出来るヤツなんて滅多にいないだろうが、もしいたら無敵の幽霊モードが脆く崩れ去ってしまう。

考えすぎかもしれないが、金魚にはなるべく幽霊モードに頼らない戦いを身に着けてもらう事にしよう。

俺もこの能力の多用は避けようと思う。


次の日、千えるの屋敷を去ろうとした時、俺は千えるに呼び止められた。

「策也さん!ちょっと待ってください!」

千えるは駆け寄ってくると、俺の前で屈んで目線を合わせる。

子供じゃないんだけどな。

いや見た目は子供だけど。

そんな事を考えていたら、千えるがいきなりキスをしてきた。

えっ?何がどうなっているんだ?

何かが入ってくるぞ?

舌じゃなくて、頭に何か魔力のような‥‥。

つかみゆきゴメンよ。

別に浮気じゃないんだ。

いきなり俺はセクハラにあってしまったんだ。

逆レイプなんだよ。

避けようと思えば避けられただって?

そりゃそうだけどさ、可愛い女の子にいきなりキスされるとかそんなの避ける男おりゅ?

そんな事を考えていたら唇はいつの間にか離れていた。

「ハニートラップです!」

「はぁ‥‥まあ何か困った事があったら手を貸すよ」

「よろしくお願いします!」

なんだかコールド負けした気分だな。

でも俺のみゆきへの愛は一ミリも揺らいでないぞ。

これはマジだからな。

こうして俺たちはカガラシの町を後にした。

「なかなか凄い町でしたね」

そうだな、色々な意味で。

「有栖川もあんな町が存在したんじゃ愛洲を潰したくもなるわな」

「それとあの千えるとやら。最後までどう判断してよいか分からなんだわ」

「とってもいい人だったんだよ。間違いないんだよ」

「そうとも言い切れませんわね。わたくし以上に嘘が上手いと感じましたわ」

いやベルよ。

お前はきっと嘘が超下手だと思うぞ。

それにベルはそう言うけれど、俺は千えるが何かを隠したり嘘を言ったりしているようには感じられないな。

最後のキスはともかく、能力を知ってしまったのもあるけれど、結局能力はそれだけだった。

それだけの能力で何ができるというのか。

嘘をついて意味があるのか。

千えるは俺とパイプを作っておきたいと言ったけれど、それで得をしたのは俺の方だったかもしれないぞ。

この町で得たものは大きかったな。

俺はなんとなくそんな風に感じたのだった。

2024年10月6日 言葉を一部修正

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