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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
お助け編
62/184

ミッション!子供中心の社会へ

俺はある時、突然転生してこのファンタジーな異世界へとやってきた。

チート能力を持っていたから生きていく上で困ったりはしなかったが、この世界に来てから一年弱の間に色々な事があった。

まずは仲間を集め、魔王を倒した。

その後は不老不死の呪いを解くために旅をしそれを成し遂げた。

更にその後は魔界の危機も救った。

いやぁ、本当によく頑張ったよ俺。

そしてようやく今、なんの目的もないのんびりとした旅を始めていた。

のんびり過ぎて他に考える事もないから、今までの事がなんだか走馬灯のように思い出されるよ。

色々な人々と出会い、色々な人々に助けられ、色々な人々と共に今の俺が築かれてきたんだ。

せっかくだから、今の俺の現状でも整理してみるかね。

とりあえず俺は、この世界でいくつかの国と友好関係を築いている。

まずは此花王国だ。

ここの第三王女である『此花麟堂』と俺は旅を始めたんだ。

その縁もあって、俺はこの王家の苗字を貰う事になった。

『此花策也』がこの世界での俺の本当の名前だ。

設定上は此花第二王国の継承順位第二位でもあるので、ちょっと間違ったら王様にさせられかねない。

だから俺は早めに手を打って、今は『浦野策也』と名乗っている。

それで俺の影武者も用意した。

『木花咲耶』は元々海の魔獣ポセイドンだったヤツだ。

とっても強いので俺の影武者にふさわしいだろう。

俺は『海神』と呼んでいる。

次に皇国。

この国の第三皇妃『みこと』の娘である『みゆき』が俺の嫁だから、親戚の国だね。

当然俺は友好国だと思っている。

皇位継承順位は最後尾だが、一応継承権を持っている『皇弥栄』という友人もいる。

ただし現在の皇帝とは面識も何もなく、一つ間違ったら敵対関係になる可能性もあるので気を付けなければならない。

次に東雲王国。

王妃が皇の第三皇妃の姉である『みそぎ』という事で、こちらの国も俺にとっては親戚国家だ。

此花とも友好関係にあり、俺にとっての友好国と言えるだろう。

次は西園寺王国。

此処の第四王女である『望海』は、現在俺が守るよう依頼されている対象だ。

よってその身を預かっている関係で、敵対はあり得ないだろう。

此花との関係も良好で、こちらも俺にとっての友好国となっている。

次は四十八願王国。

女王の『宮陽』が、嫁の『みゆき』の祖母なので、俺の婆ちゃんでもある。

敵対する理由は何もなく、当然友好国だ。

そして愛洲王国。

俺の管轄する神武国との関係が良好な為、俺にとって友好国と言える。

自由の国で、国柄も魅力的だ。

他にも、御剣王国は俺に逆らってはこないだろう。

一度完膚なきまでに叩きのめしたからね。

後は早乙女王国も割と俺にとっては友好国かもしれない。

元第二王子が友人だし、今もそれなりに影響力を残しているからね。

ただしこの国は突然何かしでかしてもおかしくないので油断はできない。

とりあえずこの辺りが一応友好国と言えるのかな。

続いて敵対、とまでは言わないけれど、厄介な国がいくつかある。

伊集院王国、有栖川王国、そして九頭竜王国というこの世界で力のある国々。

何かとこれらの国と揉めてきたわけだけれど、此処まではなんとか穏便に済ませてきている。

今後も上手くやって行ければとは思っているが、九頭竜とはほぼ敵対が確定しているんだよね。

そこをなんとか上手く乗り越えたいものだ。

では次に、俺が作った、或いは俺の仲間が作った国々を紹介していこう。

まずは神武国だ。

ここの君主である天王が俺の分身である『神武大聖』なので、正に俺の国と言っていいだろう。

それを知っているのは仲間だけなので、表向きは此花策也とは全く関係が無い事になっている。

この国は王国ではなく、天王が任命した者たちに政治をさせる古き日本のような国家体制となっているので、そろそろ大聖をトップから降ろすつもりだ。

もちろん次の君主も俺の息がかかっている者にするんだけどね。

ドラゴンの王ヴリトラの魂を蘇生して、『神武東征(ジンムトウセイ)』として天王にするつもりだ。

大聖は関白として権力は当然残しておくが、これで大聖を自由に使えるようにする。

関白と言ってもあくまで俺が付けた役職名で、実際は天王を裏でコントロールする役職なんだけどね。

本当に俺は色々と手を出して大変だから、とにかく大聖にはフリーであってほしいんだよ。

次に紹介はエルフ王国スバル。

パーティーメンバーの『昴流エルグランド』は、元この国の王であり、現在も権力を握っている。

元々自治国として存在した国だが、現在は正式に王国と認められた。

続いて妖精王国ジャミル。

精霊魔法が使えない地に築いた王国で、精霊界に通じる道を隠している。

現在俺の分身である『妖精大帝』が統治しており、此処も正に俺の国である。

次にオーガ王国旭。

この国の王である『悟空』と王妃である『風里』は、俺の元パーティーメンバーで、魔王を倒した英雄たちだ。

ほとんど俺が作った国と言っても問題ないだろう。

次は黒死鳥王国ミヨケル。

これからの国なので、俺の影武者である『海神』たちも常駐していて、王の『国士』や実質支配者の『環奈』を助けている。

環奈は一番長く共に旅をした仲で、最高の友人であると言っていい。

最後にフレイムドラゴン王国の炎龍。

炎龍の王である『七魅』とは友人で、この国の王都炎龍の横にある隠れ里には俺の家が置かれている。

尤もほとんどそこで生活はしていないわけだが、いつかは此処でゆっくりするのが夢だ。

これらが俺がほぼほぼ管轄していると言える国々だ。

他にも国ではないが、有栖川領のセカラシカには私設民間傭兵隊の拠点が有ったり、伊集院統治の町ヌッカでは素材を売る店を経営していたり、東の大海のど真ん中にある三日月島には秘密基地を置いていたりもする。

これらが俺の守るべき国や場所と言える。

それにしても一年足らずでよくもこれだけ背負うハメになったものよ。

でもこれからはのんびり旅をするだけのつもりだ。

厄介事には首は突っ込まないぞー!

「本当だよ?」

「どうかしたんですか策也?」

「いや、ちょっと脳内で色々な人に俺の現状を説明していただけだ」

「そうですか。それよりも町が見えてきましたよ。次の目的地である『アイソラシー』です」

人間界の旅を再開して四日目。

ようやく最初の目的地であるアイソラシーの町に到着したようだ。

この町は大山祇領の南東の端、高山の麓にある小さな町だ。

魔法通信にある情報だと温泉観光地となっている。

俺たちは町へと入った。

しかし町に入ってみると、到底観光地とは思えないくらいに人が少なかった。

「此処って温泉観光地だよな?観光客が来ているようには見えないんだが」

「そうですね。皆さんここの人のように思えます」

「それになんだか若い人がいないんだよ。ジジババばかりなんだよ」

「どうしたのじゃ?何かが違っていたのか?」

「そうだな。もう少しにぎやかで楽しめる所だと思っていたんだが、ここじゃ佐天の期待に添えるものはないかもしれないな」

温泉旅館なら美味い飯も食えるかと思っていたが、この様子じゃ食材すら集めるのが大変かもしれない。

残念だが何も無さそうだな。

これなら町の外に移動用の家を出して過ごす方が良いだろう。

そう思って『町を出よう』と皆に伝えようとした時だった。

突然後ろから声を掛けられた。

「旅の方ですか?それとも冒険者の方ですか?」

声をかけて来たのは、身なりは綺麗だがかなり年老いた婆さんだった。

「こんにちは。わたくしたちは両方ですね。旅をする冒険者です」

エルの返事に一瞬だけ笑顔を作ると、少しかしこまって婆さんは話し始めた。

「いきなり話しかけてすみません。初めまして。わたくしこの町の領主、『大山祇奈乃香(オオヤマツミナノカ)』と申します。あ、いえ、一応王家ですがわたくしは末席の身なのでかしこまらない下さいね」

「これはこれは。わたくしはエルフ王国スバルの元国王昴流エルグランドと申します」

「おお!あのスバルの王様でしたか。スバルと言えば人も多く素晴らしい町だと聞きます」

なんだろうなこの婆さん。

大山祇家でありこの町の領主らしいが、やけに腰が低いというか、自信ってものを全てどこかに置き忘れてきたような感じだった。

「それでわたくしたちに何か御用ですか?」

「あ、そうです。身なりや雰囲気からかなり腕の立つ冒険者かとお見受けして、声をかけさせていただきました。その通りの方々のようで、是非聞いてほしい話がございまして」

どうやらこの婆さんは俺たちの事を知っていて声をかけてきた訳ではなさそうだ。

だったら俺はおとなしく話を聞いておくだけにしよう。

「そうですか。ではどこかでゆっくりと話しますか?策也?いいですか?」

エルよ。

今俺は空気になろうとしたのだよ。

いきなりそれをぶち壊さないでくれ。

「そうだな。かまわないよ」

「もしかしてそちらの子供、策也さんとおっしゃる方がパーティーのリーダーですか?いえいえ子供だからと侮ったりはしていませんよ。それでは皆さんわたくしの屋敷にきてください。大したおもてなしもできませんが、ゆっくり話をする事はできますから」

まあ色々な意味でこうなるよな。

俺はエルに頷いた。

さてしかし領主が一体なんの話なのかねぇ。

きっとこの町の様子と関係があるんだろうな。

俺は案内されるままについて行った。


「という訳なんです」

はい、思った通りでしたよ。

屋敷についてそれなりのおもてなしを受けた後、俺たちは領主の話を聞いたわけだが、やはりこの町の相談だった。

過疎化が進むアイソラシーの町をどうにかしたい。

しかし若者はドンドンこの町を出て愛洲領内の町へと行ってしまう。

そんな時近くに未開のダンジョンが見つかったのだが、全くの手付かずで冒険者も寄り付かない。

だから俺たちにどういったダンジョンなのか見てきてほしいというのだ。

未開のダンジョンっていうのは、当然何が起こるか分からないので、クラスの低い冒険者は寄り付かない。

かといってこの地にはハイクラスの冒険者どころか、冒険者そのものがほとんどいない。

一応冒険者ギルドは存在するが、常駐職員は一人で、仕事もほとんどないから当然冒険者もいなくなる。

頼もうにも頼める冒険者がおらず、手付かず状態が続いたとか。

そのダンジョンが冒険者にとって魅力のあるものだとしたら、冒険者がやってきて多少は町も潤うだろう。

それを期待してのお願いだった。

「どうしますか策也?」

とはいえ俺たちにとって未開のダンジョンってのは割と魅力的な場所だ。

別にこの町を助けてやる義理はないが、おそらく皆同じ気持ちだろう。

金魚は知らんけど。

「まあダンジョン探索は面白そうだからやってもいいぞ」

「本当ですか!ありがとうございます」

「でもこの町、それだけじゃもう立て直せないんじゃないか」

「そうかもしれませんね。町の権力者と相談して色々頑張ってきたのですが、それでも若者は減っていくばかりで」

権力者と相談だと?

「ちなみにどんな事をしてきたんだ?」

「はい。町を活性化させるために、この町の象徴である温泉のモニュメントを作ったり、皆が安心して温泉旅館の経営ができるようにルールも沢山取り決めました」

なんだか嫌な予感しかないんだが‥‥。

「ちなみにそのルールというのは?」

「少々おまちください。アレを持ってきてください」

領主は近くで控えていたお手伝いさんに何かを持ってくるように頼んだ。

直ぐにそのお手伝いさんは分厚い紙の束を持ってきた。

「こちらです。旅館経営者が安心して仕事ができるように作ったルールです」

もうこれ完全に駄目な奴でしょ。

これっておそらく権力者が公金チューチューする為だったり、これから参入してこようとする若者を排除する為のモノに違いない。

だいたい旅館経営するだけでこれだけ分厚いルールブックを渡されたら、読む前にもう諦めるわ。

「旅館以外にこういったルールは?」

「はい。良い野菜だけを提供する為に畑のルール、良い肉やミルクを提供する為に牧場経営のルール、立派な民になる為のルールもちゃんと決めています」

全部逆効果なんだよ。

だから自由な愛洲領内の町に行くんだ。

「策也さん、どうかしたんですか?」

金魚よ。

どうかしたんですかじゃないんだよ。

こんな事していて町が発展する訳がないんだよ。

「これは少しルールが多すぎるのが駄目なのかもしれませんね」

「少しじゃねぇよエル!こんな事してたら町が廃れて当然なんだよ!くだらないルールは全部失くしちまえ!」

「策也、落ち着くのじゃ。何が駄目なのか丁寧な説明を要求するぞ」

ヤバい。

ちょっと我を忘れそうになってしまった。

しかし分かっているのはエルくらいだが、エルですらこの程度の認識か。

「はい。わたくしも何が駄目なのかお聞きしたいです」

本当にこの領主、領主なのか?

「あんたはこれからこの町で仕事をしようと考えた時に、こんなルールがあるからとこの紙の束を渡されて全部読むのか?そして全部守るのか?それで成功すると考えるのか?」

チラッと見た限り、ろくな事が書かれていなかったぞ。

旅館は百メートル以上空けて建てろとか、温泉水は自前で用意しろとか、十年は既存の旅館で修行しろとか、完全に新規参入を排除するような内容がズラリと並んでいる。

今ある旅館の既得権を守る為のルールじゃないか。

「渡されれば読みますが、温泉旅館を新しく作るのは難しそうですね」

「それが理由だよ!仕事をしたくても仕事ができなければみんな出て行くさ」

「でもルールが無いと今ある旅館まで潰れてしまいます」

「潰れていいんだよ。潰れるってのは駄目な経営をしているからだ。そんな旅館を無理に残しているから町の印象も悪くなる。当然観光客も減る事になるんだよ」

転生前の世界でもこういうのあったよなぁ。

既得権を守る為の規制が沢山できて、若者は自由に起業も店を持つ事も難しくなっていった。

だからイノベーションもなくて、国家自体が廃れていった。

「そんな事をしたらわたくしが怒られてしまいます」

この婆さん、無理やり色々とやらされてきたんだろうな。

悪い奴らに脅されたりもあったかもしれない。

この人を領主にした人にも責任はあると思うし、だから全部この人の責任だとは思わないけれど、人の上に立つ仕事を引き受けたのなら、やっぱり責任はその人がとらないと駄目なんだ。

「領主をやるなら、領地に住む全ての人の利益を考えないとな。怒られるからと言って一部の人間の意見だけを聞いていたら駄目だ。馬鹿ほど怒ったり騒いだりするしな。ダンジョン探索とアドバイスはしてやる。だけどやるかやらないかはあんた次第だ」

「分かりました。民の為にできる限り頑張ってみます」

今日初めて領主の婆さんの目が真っすぐ自分を見ているような気がした。

きっと民想いの良い人ではあるんだよな。

でも政府行政を動かす人ってのはそれだけじゃ駄目なんだ。

万人に評価される政治家なんてあり得ないんだから。

この後俺は、徹底的に規制ルールの廃止と、現状を乗り越える為に必要な事を教えていった。

「現状若者は少ないんだから、労働はなるべく簡単に楽にできるようにしていく必要がある。牛を百頭ほどやるから、それを使って畑を耕したり荷物を運んだりするといい」

「牛を百頭も?ありがたいのですが世話をする人もいませんし牛舎もないのですが‥‥」

この世界ならなんとかやれそうに思うんだけどな。

確かに牛だけ貰っても困るのも分かる。

労働者を失ってからでは遅いんだよ。

この世界なら民に『国民意識』ってのがほとんど無いから、足りなければ他から連れて来ればなんとかなるか。

「一応この町も税収ってのはあるんだろ?一体何に使ってるんだ?」

「観光地なので治安維持にはかなり多くのお金をかけてます」

「それは仕方がないな。民を守る事が領主の一番大切な仕事だからな」

「それ以外には観光客を呼び込む為に旅館に補助金を出したり、観光客が喜びそうなモニュメントを作ったり‥‥」

「それ全部カットね。その金で一旦人を雇って牧場や畑の管理をしてもらおう。そして自分たちでできるようになったら自立してもらう。牛は乳もとれるし肉も高値で売れる。餌代は牧草でいいからタダ同然。この世界なら難しい経営じゃない」

資金だけ出せばやりたいヤツもいるだろうが、持ち逃げされる恐れもある世界だからな。

公営で始めて後で民営化がいいだろう。

「町の外もこの辺りは魔物がでなくて安全だよな」

「はい。一応国境に近い町ですし、警備隊は町の管轄ですが、防衛隊は国の管轄で充実しております」

「ならば牛舎は町の外に建てて広大な草原を有効利用しよう。牛と一緒に牛舎もプレゼントしてやる。人員も専門家と労働者をいくつかの国で募集してみよう。経営基盤を整えるだけの出資があるならやりたいヤツはいるだろう」

「何から何までありがとうございます」

全く、なんで俺がこんな事を。

「でもちゃんと財政の見直しができたらの話だぞ。そこを見直さない限り、何をやってもまたいずれは駄目になる。まずはそこをちゃんと見直して、財源が出来たら取り掛かろう。とりあえず俺たちはそのダンジョンとやらの探索をする」

「はい、分かりました」

俺は何をしているんだろうなぁ。

余計な事はしたくないのにな。

人員集めか。

とりあえず専門家はリンに頼んで誰か紹介してもらうか。

牧場経営が軌道にのるまでの間、大山祇領のアイソラシーの町で指導してくれる人。

それと従業員は町でも募集するとして、東雲の孤児院を訪ねてみるか。

子供や若者を中心とした社会構築をしないからこういう事になる。

結局社会を作っているのは金に困らない指導者と、金を持った年老いた権力者たちだからな。

子供の為の社会作りが何故できないんだろう。

俺はつくづく思うのだった。


その頃神武国でも問題が起こっていた。

魔物悪魔たちを受け入れても上手くやって行けると思っていたのだが、流石に子供たちには理屈で理解できるものでもない。

いくら俺たちと同じように生きていく事ができるとしても、見た目が怖いから町で出会った子供たちは見ると泣きだしてしまうのだ。

町に出たくないという子供も増え、なんとかしてほしいという保護者の声が集まっていた。

大聖の俺は悩んでいた。

確かにどれだけ優しい人だと言われても、見た目が鬼のような形相の怪物では、大人でもやはり恐怖はあるんだよな。

見た目で判断するなっていうけれど、人間の本能として拒絶する部分はある。

徐々に慣れてDNAが納得するまでには、おそらく何十年何百年の月日が必要なのだろう。

黒人ですら勇者が現れるまでは恐れられていたのだ。

差別をするなと言われても、恐怖や嫌悪感を失くす事なんてできない。

大人は表面上上手く対応はするだろうけれど、子供にそれを求めるのは酷というもの。

変えるなら魔物悪魔側しかないだろう。

「というわけで、お前たちには変化(ヘンゲ)の魔法を覚えてもらう」

大聖の俺は魔物悪魔たちを屋敷の庭に集めていた。

「やっぱりこのままの姿じゃ怖がられてしまいますか」

「笑顔を作ってもお前の顔は怖いからな」

「お前も似たような顔じゃねぇかよ」

「はいはい!そんなわけで環奈からムジナの魔石を借りて変化の指輪を作ってきた。これを付けて一度変化をして、その感覚を覚えてくれ。お前らは魔法に関しちゃ超優秀だろ?簡単に覚えられるさ」

信じて自信を持ってもらうのが魔法には重要だからな。

できるかどうかは正直分からない。

でもできなきゃずっと決められた場所での生活になる。

最悪秘密基地の職員でもやってもらうしかないな。

或いは一度魂だけになってもらって、ゴーレムとして蘇生するか。

「よし。まずは俺が試すぜ!」

魔物悪魔の一人が指輪をはめて変化して見せた。

環奈とは少し違うが、似たようなペンギン姿になった。

とりあえず指輪が有れば変化ができそうだ。

ならば変化の指輪を作る方向でも考えて良いかもな。

こうして順次指輪を付けて変化を試す。

よく考えたらまだこいつらの名前を憶えていない。

というか一度聞いたら覚えているはずだから、聞いた事もないって事だ。

管轄が大聖ではなく政府側だから知る必要もないんだけどね。

とりあえず十五人、全員がペンギンへと変化できた。

後は指輪抜きで人間の姿へと変化できればオッケーだ。

「自分が人間になった時の姿をよく想像しろ。隅々まで正確にだ。アイテムが有れば変化できたんだ。大丈夫だ。お前たちなら必ずできる」

みんな集中していた。

この国で、この町で、生活を続けたかったらやるしかないんだ。

「よし!変化してみろ!」

俺が声をかけると、一斉に皆が姿を変えた。

やったか?

そっか‥‥。

変化はできた。

みんな完璧だ。

流石に魔物悪魔という魔物の中では最上位の種族だ。

だけど皆ペンギンに変化か。

普通のペンギンと違ってやや大きめ、でもご当地ゆるキャラのように可愛くて愛嬌のある姿。

もうこれで良くね?

これなら子供たちに怖がられるどころか、子供たちがむしろ集まってくるだろう。

そしたらこいつらもきっと喜ぶに違いない。

これ以上の特訓に付き合うのも面倒だし、どうしても人間の姿がいいと言うのなら、各自で頑張ってもらう事にしよう。

「よし。みんなよくやった。その姿なら子供たちから恐れられる事もないだろう。その姿で町には出るように。どうしても人間の姿がいいという奴は、各自で特訓してくれ」

「えっ?この姿でいいんですか?」

「マジかよ。なんかメチャメチャ弱そうだぜ?」

「俺は人間の方がいいよ!特訓するぜ!」

「早く人間になりたい!」

こうして神武国の問題は一応解決した。

魔物悪魔たちは、神武国のご当地ゆるキャラとして有名になっていくのだった。

2024年10月5日 言葉を一部修正

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