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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔界編
61/184

竜宮洞窟そして新たな旅立ちへ

全ての現代人が一度はやってみたいと思う事。

宝探しはその一つではないだろうか。

想像してほしい。

もしも手元に宝の地図があったとしたら、絶対に探しに行くよね?

俺は絶対に探しに行くぞ。


ヴァンパイアを倒して魔界に戻ったら、既にみんなは妖精霧島の出した移動用の家でくつろいでいた。

流石に皆疲れた様子で、この日はそのまま休息に入る。

この辺りはヴァンパイアのテリトリーだったのだろう。

皆が十分に回復するまで一匹の魔物も襲ってくる事はなかった。

さて日付は変わって次の日の今日は竜宮洞窟の探索だ。

金の生る木とは一体なんなのだろうか。

俺たちはそれを見つける為に、竜宮洞窟の入り口までやってきた。

「なるほど竜宮洞窟ね。入口が竜の頭みたいになっているのか」

「でも口の中に入って行くのはなんだかちょっと怖いんだよ」

「確かに。これだと竜口(リュウコウ)洞窟だな」

俺が何気なく言った言葉に、金魚が何やら思い出したように反応した。

「竜口洞窟?どこかで聞いた事があるんだよ。そうだ!九頭竜領内にある魔力蝙蝠が出る洞窟が確か竜口洞窟なんだよ」

「マジか!?」

それってもしかして、この辺りの人間界側になるんじゃないだろうか。

そして立ち入り禁止区域なんだよな。

となると、なんとなくこの洞窟がどういうものか見えて来た気がする。

おそらく全くの無関係って事はないだろう。

「魔力蝙蝠とはなんじゃ?」

「魔力蝙蝠はですね、確かその魔石が人間界の魔法通信ネットワーク構築に必要で、貴重な魔獣だったかと思います。人間の魔力を吸って魔石が赤くなるとか」

「そうなんだよ。魔石が赤い状態で魔力蝙蝠を倒すと、魔石が赤いままなんだよ。それが魔法通信ネットワークの構築に必要なんだよ」

「魔石が赤い?それってヴァンパイア蝙蝠かの?昨日のヴァンパイアも魔石が赤かったじゃろ?ヴァンパイアはヴァンパイア蝙蝠の親玉なんじゃ」

「えっと、つまり昨日俺が倒したヴァンパイアは、魔力蝙蝠の親玉って事になるのか?」

「そういう事じゃの。この洞窟を守っていたようじゃったから、おそらくこの洞窟にはヴァンパイア蝙蝠がいると思うぞ」

人間界で魔力蝙蝠の出る洞窟があって、その裏とも言える魔界の洞窟にも魔力蝙蝠が住み着く。

いやしかし弥栄の話だと魔生の魔石で魔力蝙蝠が発生しているんだったよな。

「この洞窟には何かがありそうですね」

「そうだな。とにかく行ってみれば分かるさ」

俺たちはとにかく洞窟に入ってみる事にした。

入るとすぐに魔力蝙蝠が現れ俺たちに襲い掛かって来た。

「マジで魔力蝙蝠がいるぞ?しかも魔石が既に赤い!こりゃラッキーだ!魔石を壊さないようにドンドン狩って行こうぜ!」

「もしかしてお金の生る木ってのはこういう事でしょうかね」

「魔力蝙蝠の魔石を売れば大儲けなんだよ」

「いや流石にそれはないだろ。魔力蝙蝠の魔性の魔石は貴重でおそらく人間界にしかないんだから、こっちの魔力蝙蝠は狩り尽くしたら終わりだろ?金の生る木っていうならずっと湧いてくるくらいでないとな」

それでもこれだけ多くの魔力蝙蝠の魔石が有れば、売れば結構な額になるだろうし、これを使えば九頭竜にデータを盗まれない町一つのシステム構築くらいはできるかもな。

そういえば黒死鳥王国のネットワーク構築はこれからだったはずだ。

それを自前でやれば、黒死鳥王国ミヨケルをデジタルセキュリティの高い町にする事もできるかもしれない。

これはできるだけ集めておくに限る。

俺はとにかく一匹残らず魔力蝙蝠を狩っていった。

しかし狩れども狩れども魔力蝙蝠はなかなか減らない。

おそらくこの洞窟全てに住み着いているのだろう。

狩っては進み、進んでは狩ってを繰り返し、ダンジョン探索はとにかく時間を要した。

まあでもミノタウロスを狩るだけの作業よりも全然辛さは感じない。

なんせ狩れば狩るほど儲かっている感じがするもんな。

金は既に必要ないくらい持っている俺だけど、それでもあぶく銭ってのはたまらない。

金の魔力って恐ろしいな。

どんな金持ちだってやっぱり射幸心を煽られたりするんだよ。

俺は夢中で魔力蝙蝠を狩り続けた。

洞窟は完全にダンジョンとなっており、地下へと何階層も続いた。

ただ、ダンジョンなのだが途中お宝は何もなく、落ちていたものと言えば住民カードが数十枚だけだった。

どれも使用できない状態になっており、おそらく総司の親父の代わりに此処に来た者たちの物で、一年以上前に全滅したという事だろう。

いくら魔力蝙蝠がそんなに強くない魔物だとしても、これだけの数がいれば流石に殺られるよね。

それにしても不思議なのは、魔力蝙蝠以外の魔物が一切出現しない事だ。

これではまるで九頭竜領内にある竜口洞窟と同じではないか。

しかも最初から魔石が赤いわけで、あちらよりも優れている可能性もある。

これは狩り尽くさない方がいいのだろうか。

生態系が出来上がっているのなら、一部を残して増えるのを待つのもいいだろう。

でも先に進むには狩らないときつい。

いやいや目的は魔力蝙蝠を狩る事ではない。

この洞窟内にある金の生る木とやらがなんなのかを見つける事なのだ。

それにしてもこの状況、魔力蝙蝠がいくら弱いと言っても魔力を吸ってくるわけで、油断したら先人たちと同じように殺られる。

マスタークラス程度の使い手じゃ、十人いたって全滅間違いなしだ。

そもそもヴァンパイアのテリトリーだったわけで、ほぼほぼ誰にも入っては来られまい。

あれ?ヴァンパイアは何時からいたんだろうな。

総司の親父さんの手記を全て見た訳じゃないからなんとも言えないけれど、その頃はまだいなかったんじゃないだろうか。

流石にいたら何もできんよね。

色々と考えながら戦っていたら、気が付けば洞窟に入って六時間が過ぎていた。

そしてようやく地下十階層目、全ての魔力蝙蝠を狩って最奥の空間まで到着していた。

そこにあったのは、高さ三十センチくらいの魔界の扉だった。

「こんな所に魔界の扉か」

「この大きさだと、わたくしが通るには厳しいですね」

「金魚だってギリギリなんだよ」

まっ、俺はまだまだ子供だから余裕だけどな。

案外子供ってのは色々な所で利点になるものだ。

扉は開いたままなので、向こうの様子が確認できた。

「どうやら人間界側も洞窟の中のようだな。人はいない。このドアの裏側までは見えないのでなんとも言えないが、おそらく誰もいない閉鎖空間のようだ」

「わらわとお主なら通れるじゃろ。行ってみるか?」

「よし。俺と佐天で行ってみる。霧島を置いていくから、向こうの様子はそちらから伝える」

「分かりました」

「気を付けるんだよ」

不安そうな金魚に笑顔を作ってから、俺は魔界の扉へと匍匐前進しながら入っていった。

扉から出た先は、広さ二十畳ほどの完全な密室だった。

そして扉から出た右側の壁際には、幅一メートル以上の宝箱が置かれていた。

「この宝箱の中に金の生る木があるんじゃないか?」

「わらわもそう思うぞ」

「開けてみるか」

「うむ」

俺はまず、トラップなどがないか邪眼で確認した。

どうやら魔法による鍵が掛かっているようだったが、俺は解錠の魔法でそれを解除した。

俺はゆっくりと宝箱を開けた。

すると中には、いくつかの魔法通信用機器と書物などが入っていた。

「なんじゃこれは?」

「これはマジックボックスだな。人間社会に必要な魔法の道具だ。佐天に渡した住民カードがあるだろ?アレの情報を見たり書き換えたりするものだ」

ただ何処か普通のマジックボックスとは違う気がする。

ギルドで見かけるものよりも一回り大きい。

俺は一緒に入っている書物を手に取って開いてみた。

「おっ!これは‥‥」

「なんじゃ?何が書かれておる?」

「この機器の使い方、或いは設計図か」

魔力蝙蝠の魔石を使って、どのようにこういった機器を作るのか、それをどう使うのかが書かれている。

別の書物には、魔力蝙蝠の魔石を使ったネットワーク構築の方法や仕組みが書かれていた。

「これはお宝だな」

「そうなのか?どうするのじゃ?持って帰るのか?」

「もちろんだ。でもその前に一応全部確認しておく」

俺は一度見たものなど、どんなモノでも魔法記憶に完全に覚えさせておく事ができる。

つまり全て一度目を通しておけばコピーを持っているのと同じなのだ。

「持って戻らなくていいのか?」

「すぐに終わる。先に戻っていていいぞ」

こんなに面白いモノ、帰ってから見るとかありえない。

今すぐ俺は見たかった。

ほう、これを書いたのは冷泉の者か。

冷泉と言えば皇から離れた者の家系で、皇を守る為の一族だ。

どうやらこの洞窟の部屋を作ったもの冷泉家の者のようだった。

九頭竜家に脅かされ、竜口洞窟が奪われる前にこのような細工をしたと書いてある。

この部屋は竜口洞窟の最奥の部屋、魔生の魔石が埋め込まれている壁の奥に作られた部屋らしい。

だからこの部屋にも魔力蝙蝠が生まれるとか。

そこに魔界の扉を置く事で、魔界へ一部魔力蝙蝠を送れるようにしておいたのか。

魔界の魔力蝙蝠は人間の魔力ではなく、濃い魔素を吸収する事で常に魔石の色は赤くなる。

いずれ魔界へ自由に行けるようになれば、魔界で魔力蝙蝠を狩る事で魔石の安定供給ができるようになるはずだ。

この事を皇の人間は、或いは他に誰か知らなかったのだろうか。

おそらく知っていた者が総司の親父となんらかの手を結んでやろうとしたのだろうが、もしかしたら全員死んでしまったのかもしれない。

あのヴァンパイアが誕生してやられた可能性は十分に考えられる。

俺は二十分ほどで全ての資料に目を通し、魔法記憶へとコピーだけはしておいた。

いくつかの思考を使ってそれを読み続けておけば、すぐに残りも全部読み終わるだろう。

魔法機器も邪眼で仕組みを解析し記憶しておく。

同じものが作れるようにね。

俺は元あったように宝箱へと戻して、それを異次元へ収納した。

「さて戻るか」

俺は匍匐前進で魔界の扉から魔界側へと戻った。

「待たせたな」

「お宝が見つかったようですね」

「魔法通信ネットワークの構築に必要なものが揃うとか凄いんだよ。これを使えば九頭竜の力を半減できるんだよ」

「わらわにはよくわからんが、とにかくお宝は見つかったんじゃな」

「ああ。まさに金の生る木だったよ。まあとりあえず一旦戻るぞ。ここにずっといたらまた魔界の扉から魔力蝙蝠が湧いてでてくる。おそらく生まれて来たばかりのヤツはまだ魔石も赤くなってないだろうし、狩っても無駄だしな」

俺は色々な事を考えていた。

これで九頭竜に情報が洩れない魔法通信ネットワークが構築できるだろうし、俺たちが作った国のシステムは全部自前に変更したい。

そして諦めていた秘密基地にも魔法通信ネットワークを持ち込む事ができるかな。

オラワクワクすっぞ。

洞窟を出ると、俺は空気の通り道程度に隙間を残して、竜宮洞窟を岩山で覆って隠しておいた。

中には転移ゲートを設置すればいいだろう。

魔界側の秘密基地からなら繋げる事ができるはずだ。

こうして宝箱を手に入れた俺たちは、とりあえずリンの所へと戻るのだった。


「新しいパーティーメンバーが増えたのね」

「おう。悪魔王サタンだ。人間界での名前は熊王佐天にした」

「わらわは佐天じゃ。よろしくな」

「悪魔王サタンなの?この国の第三王女麟堂よ。よろしくね。それにしてもまた凄い子を仲間にしたものね。もう驚かないけど」

パーティーの新メンバーである佐天を紹介した後、俺は竜宮洞窟で見つけた宝箱を取り出し、リンと総司に説明しながら中身を見せていった。

「これはとんでもないものがあったものね」

リンの感想は、ほぼすべての者が共有しているものだった。

佐天だけはよく分かっていないが、人間界の事はおいおい知ってもらえればいいだろう。

「まさか父さんがこんな事をしていたなんて‥‥」

「どうして総司の親父がこんな事に絡んでいたんだろうな」

「多分資金面で協力していたんだと思います。見返りは独自の商用ネットワークの構築でしょうね。今は九頭竜に高い金を出さざるを得ませんから」

冷泉がなんとか魔法通信ネットワークの利権を皇に取り戻そうとしていた。

しかし内密にそれをするには金と魔界に行く人員が必要だった。

当然有栖川や伊集院には頼れない。

そこで商人ギルド連盟の役員だった総司の親父さんに協力を頼んだ。

そんな所だろうか。

完全な憶測だが、とりあえずそんな感じで理解しておけばいいだろう。

何処にも影響しない認識なんて、問題が出て来たら修正していけばいいのだから。

「でもどうしようかしら。こんなもの貰っても此花じゃ使えないわよ。絶対に九頭竜が黙ってないもの」

「そうだね。父さんはおそらく冷泉に、或いは皇に返して利益を得るつもりだったんだろうけれど、それも今は避けたい所だよね」

「今皇と九頭竜が戦争を始めたら、環奈たちの国が戦場になるわよ」

全くタイミングがいいのか悪いのか。

「ん?」

リンと総司が俺を見ていた。

「分かってるよ。俺にこれを使えって言うんだろ。最初からそのつもりだ。それでリンや総司は何を求める?金ならいくらでも出せると思うが?」

「お金はまあ足りない時にいつでも貰うわよ」

こいつ、俺をATMと思ってやがるのか。

まあいいけどね。

使える程度の金ならいくらでも出せるしな。

「じゃあ何が望みだ?」

「特にはないわね。そもそも今回のも竜宮洞窟って名前が気になったから教えてあげただけだし。とにかくそれが使えるようになったら、これからは無料でシステム構築してくれればいいわよ」

「分かった。それにできるなら、今のシステムを入れ替える事も考えた方が良いかもな。九頭竜にデータが抜かれている可能性がある」

「ん~‥‥それは今のままでいいわ。内緒の話は暗号化したメールでできるし、これ以上は九頭竜の不信感を買いたくないもの」

「そうか」

メール暗号化と言えば、この拠点を秘密基地に移したかったんだよな。

でも海のど真ん中じゃ魔力が届かなくて魔法通信ネットワークが使えなかった。

今回色々と手に入った事で、いよいよ秘密基地にも魔法通信ネットワークがつなげられるかもしれない。

「じゃあ俺たちは一度神武国に行くよ。これをどう使うか考えたいからな」

「みゆちゃんには会っていかないの?」

「まだ学園だろ?それに先日魔界で会ってるんだ」

「へぇ~そうなんだ。でもできるだけ会ってあげなさいよ。やっぱり寂しいだろうからさ」

「分かったよ」

そんな事を言われると会いにくるしかないじゃないか。

「じゃあリン、総司、またな!みんな行くぞ!」

「はいはい」

「策也さん、また何かあればよろしくお願いします」

こうして俺は、リンと総司から宝箱を預かり、パーティーメンバーを引き連れて、転移ゲートを使って神武国の屋敷へと移動した。

「今日この後は休養だ。そしていよいよ明日から人間界の旅を今度こそ再会するぞ」

「魔界での戦いも面白かったですが、流石に魔素の濃い場所は疲れました。楽しみですね」

「金魚も楽しみなんだよ。世界の町を見て回りたいんだよ」

「わらわもじゃ。早く人間としての生活がしてみたかったのじゃ」

俺もそうだけど、みんな魔界の旅は疲れたご様子で。

「それで明日というのは文字通り明日でしょうか。時差を考えると三十二時間後くらいになりますが」

「それくらいは時間が欲しいな。竜宮洞窟への転移ゲートの設置とか、黒死鳥王国や秘密基地の魔法通信ネットワークの設置とか、色々と方向性を決めて各国にいる仲間に指示を出しておきたいからな」

「了解しました」

「策也さんは大変なんだよ。金魚に手伝える事があれば言って欲しいんだよ」

金魚はボケた所がなければいい子なんだよな。

「金魚には美味い飯を頼む。今の俺は食べ盛りだからな」

「分かったんだよ。じゃあミノタウロスのステーキを作るんだよ」

「いやそれは‥‥普通の牛肉にしてくれ」

「ミノは美味いんじゃぞ?わらわはミノのステーキを頼むぞ」

「分かったんだよ」

本当に美味いのかな。

ちょっと気になるが、やっぱりいいや。

食わず嫌いと言われようと、今はまだ食べる気がしないからね。

そんなわけで俺は一人になって、まずは秘密基地の魔界側から竜宮洞窟の奥へと転移ゲートを繋げた。

竜宮洞窟側の最奥から横に部屋を作り、更に奥に部屋を作って転移ルームとした。

ちゃんとドアは設置して、魔力蝙蝠が入ってこられないようにしてある。

これで竜宮洞窟内へは、俺が仲間と認めた奴らだけが秘密基地から行けるようになった。

その後は秘密基地の一室で、ヴァンパイアの魂と話をする事にした。

こいつはかなり強力な魔力を持った魂だから、自由に使える仲間にしておきたい。

俺はまずスマホに魂を憑依させて話をする事にした。

憑依させたら、スマホはカメラで俺が見えるようにして持ってやる。

「ん‥‥ここは‥‥誰だ?子供?」

「喋る事はできるようだな」

「そりゃできるよ。普通の人間だからな」

ん?普通の人間?

「どういう事だ?お前はヴァンパイアじゃないのか?」

「ヴァンパイア?なんの事だ?俺は冷泉博士(レイゼイヒロシ)という者だ」

冷泉だって?

確か冷泉ってのは皇家の当主から五代以上離れたものが入る家だったよな。

弥栄が息子の代からそうなるって話をしていた。

「俺は策也だ。博士はどうやらヴァンパイアになっていたようなんだが、記憶にはないのか?」

「俺がヴァンパイアに?あ‥‥思い出してきた。俺は確か魔界に行って‥‥魔力蝙蝠のボスに殺られたんだ。そしたら俺が魔力蝙蝠のボスになって‥‥ここから先の記憶がない」

なるほどな。

おそらくこの博士とやらは、魔力蝙蝠のボスに取り込まれ、そしてヴァンパイア化したって所か。

そんな事もあるんだな。

まあ俺の分裂する魂も再びくっついて一つになるわけだし、それが違う者同士でも起こらないとは言い切れないのか。

「それで博士は魔界に行って何をしていたんだ?おそらく竜宮洞窟内で死んだんだろうけど」

「どうして竜宮洞窟を知っている?」

「御伽法師って知ってるだろ?その息子の総司に頼まれてな。俺が竜宮洞窟に調査に行ったわけだ」

「おお!そうなのか。助けに来てくれたのか」

いや助ける前に死んでたんだけどね。

魂を取り込まれてヴァンパイアにもなってたんだけどね。

「でも博士が魔界に行っていた時とは状況も変わっていてな。法師は既に死んでるし、あんたをどうしようか悩んでいる所なんだ」

「法師が死んだ?じゃあ全ての契約はどうなる?」

「俺に聞かれてもな。それにお前も死んでるんだぜ?契約も何もないだろ?」

「だったら俺を神官の所へ連れて行って蘇生してもらえないか?礼ならちゃんとする」

「単なる蘇生はできないよ。あんたヴァンパイアになって強くなりすぎてる。蘇生して俺の敵にならないとも限らないからな」

こんな魔力を持ったヤツを単なる蘇生なんてできない。

よっぽど信頼しているヤツでもない限りな。

「いや敵になったりはしない」

「それをそのまま信じられるほどお前の事を知らないからな」

「俺は何としても九頭竜に奪われたものを取り戻したいんだ。世界の魔法通信ネットワークをこのまま牛耳られるなんて我慢できない」

俺も皇とは既に親戚だし、それができるのならやってもらいたくもある。

「あんたは何ができるんだ?」

「俺は魔法通信ネットワーク構築を手掛けた一族の末裔だ。魔力蝙蝠の魔石が大量にあれば、おそらく何でもできる」

「ほう。だったら、単純な蘇生はできないが、俺の作った人形に条件付きで蘇生してやってもいいぞ。ただし俺に逆らうような行動をしようとしたら、人形は解体され成仏する事になるがな」

「目的が果たせるのならお前に従ってもいい。しかしお前が皇家や冷泉家の敵になるようなら従えない‥‥お前は何者なんだ?」

「そうだな。俺は一応皇家とは親族になってるぞ。だから皇側から敵対してこない限りは基本仲間だ。その辺りは弥栄に確認してもらってもいいぞ」

「弥栄様と知り合いなのか?」

「まあな」

流石にみこと皇妃とのつながりは言えないが、これくらいなら話していいだろう。

「弥栄様はどんなお人だ?」

一応確認は必要だよな。

「偉そうには見えないな。衣服の着こなしもだらしない感じだし。そういえば自分の息子が産まれたら冷泉になるから嬉しいと言っていたよ」

「間違いない。弥栄様と知り合いなのは本当のようだな。分かった。俺は九頭竜から魔法通信ネットワークを取り戻したいだけだ。それをさせてもらえるのなら従おう」

「よし。じゃあ俺の管轄する国や秘密基地の魔法通信ネットワークをお前に任せるからまずはその構築からやってくれ。だいたい資料を読んで理解はしているが、専門家にやってもらった方がいいだろう。それともう一つ。こういう構想を持っているんだけど‥‥」

俺は自分の構想を全て博士に話した。

「どうだ?できるか?」

「それは面白い。策也の言う人工衛星とやらが本当にできるのなら、後は俺が全部調整してやる」

「よし!では一旦魂の憑依を解いて蘇生するぞ。お前の蘇生は魔砂ゴーレム蘇生だ!」

ミノタウロスの魔石が大量に手に入り、魔砂だけでゴーレムが作れてしまうのではないかと試したかったんだよね。

かなり強力なゴーレムになるだろうが、この男なら大丈夫だろう。

俺は冷泉博士を魔砂ゴーレムとして蘇生した。

「どうだ?気分は?」

「なんだこれは?俺の魔力が凄すぎる‥‥」

正直俺も驚いているよ。

これはちょっとやり過ぎ感のある蘇生だな。

元々魔砂には魔力があるわけで、普通の蘇生よりも魔力アップしているじゃないか。

ミノタウロスの魔石だからそこまで大きくはないが、潜在魔力は俺を超えているよ。

「じゃあヴァンパイアの魔石を使って人工衛星作成に取り掛かる。博士はさっき俺が話した通りこの部屋を魔法通信ネットワークのマスタールームにしてくれ」

俺はそういって宝箱を異次元収納から取り出した。

ついでに竜宮洞窟で拾った使えない住民カードも取り出す。

「この中に博士のもあるかもしれないから返しておくぞ。もう使えないがな」

「大丈夫だ。マスターボックスもあるから、俺のカードも復活させる事ができる」

「おお!なるほどな。じゃあこの基地の魔法通信ネットワークは全てお前に任せるから。細かい事は俺との意識共有テレパシーで話しながらな」

俺はそう言ってから、一旦神武国へと戻った。

ドズルを訪ねて、ストックしてあるアダマンタイトゴーレム七機に魂を入れて蘇生する。

魂は大聖を襲った翼龍のものだ。

俺はなんとなく確信していた。

魔物を蘇生した場合、心は穏やかになって敵意が無くなる事を。

あの環奈ですら蘇生後は戦いを好まなくなっていたのだ。

それに今まで俺に歯向かってきた魔物はいない。

今回蘇生した翼龍七人も、神武国や大聖への敵意は失せて、俺の言う事を素直に聞いてくれた。

「お前たちは秘密基地にて冷泉博士の助手として働いてもらう。ドラゴンは人間よりも数倍賢いんだ。楽勝だろ?」

「お任せください!」

「蘇生してもらった恩は忘れません」

良きかな良きかな。

こうして俺は博士の元に優秀な、いや優秀になるであろう助手を七人送った。

「さて、次は‥‥」

俺は人工衛星作成に取り掛かった。

この世界の魔法通信ネットワークは、魔力蝙蝠の魔石によって成り立っているといっていい。

その役割は、今の携帯電話で言えば、アンテナだったり基地局といった所か。

魔石同士が魔力でつながり、一つのネットワークを築いている。

一つの魔力蝙蝠の魔石で約十キロをカバーできるので、それ以下の間隔で魔力蝙蝠の魔石がこの世界中に置かれ、全ての魔法機器が繋がっていると言っていい。

そんな訳だから、孤島だと魔力が届かないし、近い島でも魔力を届ける為には魔石をまとめて遠くまで魔力を飛ばす必要がある。

神武国や黒死鳥王国の為に領土を譲渡する際、島が選ばれたのはネットワーク構築のコストがかかるというのも理由だ。

小さな島には町が存在せず村ばかりだからね。

しかし今回、俺は魔力蝙蝠の親玉であるヴァンパイアの赤い魔石を手に入れる事ができた。

これが有れば、おそらくこれ一つで世界をカバーする事が可能となる。

当然そんな事をすれば、それを九頭竜が潰しに来るのは確実だろう。

そこで地上ではなく空に置く事を俺は思いついた。

人工衛星として空に有れば、九頭竜は手出しできないし、この魔石を置く事で狙われるであろう国も存在しない事になる。

問題は衛星軌道上に人工衛星を乗せ、それをコントロールできるようにする事だ。

普通の人工衛星は、数年から数十年で地球に落ちて来る。

それを魔法の力によって上昇さて、ずっと落ちてこないようにしなければならない。

その微妙な加減を知る為に、俺はダミーの人工衛星に自分の魂を憑依させ、それを魔法で空に打ち上げ、何度も魔力の加減を記録していった。

そしてとうとう、アクセスポイントとなる人工衛星を空の軌道に乗せる事に成功した。

「やっとか‥‥まだしばらくは動向を監視する必要はあるが、後は地上から俺の魔力で微調整は可能だ」

作業が終わったのは、新たな旅立ちまで六時間を切っている時間だった。


ようやく俺は、何も考えないでいられる深い眠りへとついた。

魔界の旅も終え、俺の管轄する国々も落ち着く方向へと向かっている。

目が覚めればいよいよ本当の旅が始まる。

俺は今、この世界に来て最も心地いい時間の中で、心身ともにリセットされる感覚を味わっていた。

2023年9月8日 誤字訂正

2024年10月5日 言葉を一部修正

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