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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔界編
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魔人王国とデイダラボッチ

子供の頃楽しかった事と言えば‥‥。

そうだね、秘密基地づくりだね!

という事で、俺はその頃の夢を今、この世界で行っていた。

昨日は佐天が人間界へ来てどんちゃん騒ぎをしたせいで、午前中はまだ皆眠っていた。

そこで俺は三日月島へとやってきて、基地づくりをしていた。

「海の真ん中で魔法通信機器が使えないのは残念だけど、アクセスポイントで場所がバレるのも問題だしな」

俺は秘密基地の地下に、手に入れた小さい方の魔界の扉を設置して魔界とを繋ぐ。

魔界の方でも何故か海の中ではなく水の無い場所ができていたので、魔界の扉は陸地の地下へと繋がっていた。

扉を引いて開け、土を掘って地上へ上がると、海の山に囲まれた地上へと出た。

そこに隠し扉を作って再び地下へと入り、そこを魔界側の秘密基地として整備してゆく。

一時間ほどで形が整い満足した俺は、そこに乱馬の助手をさせていた元悪魔のゴーレム五人を移動させ、魔物がおとなしくなる謎の解明や、マジックアイテムの研究製造をさせる事にした。

乱馬の方は主に魔法研究だからね。

その後の事はセバスチャンに任せて、俺は神武国の屋敷へと戻って来た。

戻ってからは、ミノタウロスの魂をスマホに憑依させ、蘇生させても良さそうかどうかを確認した。

しかしどうやら人間の言葉が喋れず、ミノタウロスは牛の魂を持った魔獣であると分かった。

試しに蘇生してみたら牛になったのだ。

早乙女の本には皆ヒューマンに蘇生できるとなっていたが、例外もあるだろうし本の内容が必ずしも正しいなんて事もない。

そりゃ動物を蘇生すりゃ動物になるわけだし、動物になる魔物がいても当然なんだよ。

或いは魔力の強さで人間になるか動物になるかが決まるのかな。

陽菜はプテラノ魔鳥でミノタウロスよりも弱い部類の魔獣なのに人間の言葉が喋れたんだよなぁ。

もしかしたらはぐれプテラノ魔鳥でレベルが高かったからか、或いは特別な個体だったのかもしれないな。

単純にミノタウロスが馬鹿なのかもしれないし、特別な要因があったのかもしれないけれどね。

一応確認の為にミノタウロスの魂の中で魔力の強そうなのを選んで試してみたが、いずれも人間の言葉は話せなかった。

ミノタウロスの体を素材にして魂を蘇生させ、牛肉にして食うかな。

だったら俺も食べられそうだし。


そんな事をしていたらいつの間にか皆も起きてきて、神武国の屋敷にて世界会議を見る事になった。

既にセバスチャンからの情報で、有栖川は人間界へ逃げてきたあの悪魔たちを使って、悪魔王国を作る算段をしているという話はあった。

力によって支配するか、或いは人質をとるかは知らないが、傀儡国家にするつもりだろう。

そこで俺は一応手を打っておいた。

今日そのような提案があっても、決定を後日に引き延ばすように各勢力に働きかけておいた。

此花のリン、東雲のみそぎ、皇の弥栄、西園寺には弥生から、四十八願と愛洲には大使館を通じて話をしておいた。

御剣にもオーガ王国から声をかけておいてもらった。

乱馬からも一応孝允にお願いするよう言っておいたが、この辺り期待はしていない。

それにしても、こうして考えるとこちらの世界に来て十ヶ月弱、結構色々としがらみができている事に驚く。

転生前の世界では、これほど多くの人たちに頼み事なんてしたこともなかった。

変われば変わるもんなんだな。

「いよいよ始まりますね」

「人間たちはこうやって色々と決めておるのじゃの。感心するぞい」

「でも話し合いよりは裏での取引が重要なんだよ。力のあるものが勝つんだよ」

「それじゃ話し合う意味がないではないか!」

「だから今日は、これから戦う競技を決める為の会議みたいなもんだ。これを持ち帰って静かな戦いが始まるんだよ。その戦いに佐天や他の魔物悪魔たちにも協力してもらいたいんだ」

俺は既に対抗策を立てていた。

有栖川には悪いけど、思い通りにはさせないよ。

ちなみに今回大聖は参加させてもらえていない。

というか、一度参加して以来参加はなかった。

結局話し合いは人間だけでって事なんだよね。

さてそんな世界会議は始まった。

まずは色々と挨拶があった後、いよいよ有栖川からの提案が発表された。

「今回集まってもらったのは、人間以外の王国の話だ。先日魔界から悪魔の集団が人間界へと移住を希望してやってきたんだ。我々はその者たちに悪魔の王国を作る事を勧めたいと思っている」

有栖川がそういうと、魔法通信内が少しざわついた。

「悪魔ですか。そんな移住は認められませんよね?」

「いやしかし、魔物ですら共存できるのならそうして行こうという世界の流れですよ」

「でも流石に悪魔はどうなのか」

「前に誰かが言っておられた。悪魔も元々は人間だと。第六のヒューマンと考えれば問題はないのではないだろうか」

「確かに。それに有栖川がおっしゃるのだから、悪魔の王国も作ってみてはどうだろうか」

それにしても今回も顔を出して参加している人は一人もおらず。

何のためのリモート会議なんだかね。

「我々も悪魔王国には賛成します。ただこの場で決めるのはどうでしょうか。一度持ち帰って民の意見なんかも聞いておきたいですね」

「うちも此花さんと同意見ですじゃ。基本的には賛成じゃが皆と一度相談しておきたい」

「わたくしどもも同じです」

「賛成はするんだけどね。ぶっちゃけると御剣がオーガに対してやった事の繰り返しになっては困るかなと」

愛洲は相変わらず有栖川には厳しいな。

これに出てるの折太郎だったりして。

声も変えていたりするから分からないんだよね。

会議は概ね悪魔王国を作る事については賛成が多かった。

ただすぐに決めるのはどうかという意見も受け入れられ、伊集院も含めて傀儡国家になる懸念を多くの国が持っていた。

これは計算通り。

このまま今回の会議を終えれば、佐天たちを使って悪魔王国のトップの座を奪い、俺たちの管轄下として王国を誕生させる事ができるだろう。

こっちには本物の悪魔王サタン様がいるんだからな。

「それではこの話は一旦持ち帰る事にしましょうか」

よしよし、これでこの問題は解決するだろう。

俺がそう思った時だった。

思わぬ勢力がこの会議を終わらせなかった。

「ちょっと待ってくれ。みんな本当に悪魔王国には賛成なのか?あれだけの事があった伊集院も賛成なさるのか?」

発言は早乙女だった。

早乙女は反対なのだろうか。

俺の思惑とは違うから、どうやら早乙女は動かせなかったようだな。

「もちろん悪魔王国をこの世界に作る事には賛成だ。ただこのまま有栖川の提案を受け入れていいものかどうかは迷っているがな」

「伊集院のおっしゃる事は分かった。あれだけの事があっても流石は伊集院。寛大であるな。では他の国々もだいたい考えは同じと考えてよろしいか?」

早乙女は一体何をしようとしているのだろうか。

自分たちが悪魔の子孫だから『我が国こそは悪魔の国である』なんて、いう訳ないよな。

「そうだな。将来的には必要なんだろう」

「共存共栄の道こそ正義」

「みんな仲良くできればいいですわね」

いつの間にか、悪魔王国を作る事に全ての国が賛成していた。

これでは有栖川へのナイスアシストになりはしないだろうか。

「そうか。皆さん本当に寛大だな。だったら暴露しましょう。実は我が早乙女国内には、既に悪魔の王国が存在するんだ。何処の国にも認められないと思っていたから隠してきたが、皆が賛成なら話しても問題ないだろう。これを王国と認めれば、有栖川が保護した悪魔たちも皆その王国が受け入れてくれるはずだ」

はいはいそう来ましたか。

早乙女なら悪魔をかくまっていても不思議じゃないよね。

魔王軍の残党だっているかもしれないわけだし。

もうちゃんとした王国があるのなら、それを認めるだけで済むわけだし、各国賛成した手前今更駄目だとも言えないか。

「乱馬に話しておいた事がこのように使われるとはな」

「でもこれはこれで悪くない結果じゃないでしょうか。最高というわけでもありませんけれどね」

「有栖川よりマシなんだよ」

「早乙女は友達の兄が治める国なんじゃろ?良いではないか!」

これで少なくとも、有栖川が捕らえている悪魔たちは救われるのだろうか。

ならば良しとするか。

しかししてやられたな。

やはりまだまだ早乙女は侮れないわ。

まあ俺のようなただの駆け引き素人な転生者に勝てる相手では無かったという事か。

結局悪魔王国は、既にある早乙女領内の王国をそのまま認める方向でまとまった。

俺たちにとってはベストな結果ではなかったが、最悪でもなかった。

ちなみに『悪魔』という響きは悪いので、魔界の人間という事で『魔人』と呼ぶ事になった。

『魔人王国ドサンコ』が早乙女領内のほぼ中心に誕生したのだった。


世界会議を見届けた後、俺たちは再び魔界へと戻ってきていた。

目的はもちろん捨てられたマジックアイテムを処分する為だ。

これを早急になんとかしなければ、何時魔界にどんな災厄が訪れるか分からない。

変に効果を発揮するアイテムが集まってどんな事になるのか、予想できないのだ。

でも今回のミッションは、正直楽勝だと思っている。

「なんせ俺が全部異次元へ収納するだけだからな」

なんて余裕をぶっこいていたのだが、禍々しい気配は冗談ではなかった。

マジックアイテムを概ね回収した所に黒い闇の落とし穴が現れた。

「これは深淵の闇か?!」

「明らかに海の落とし穴とは違います」

「凄く禍々しい邪気を感じるぞ?この佐天を恐怖させるとは‥‥ヤバそうなのじゃ」

「でもなんだか懐かしい感じがするんだよ。前に感じた事があるんだよ」

アレ?金魚はバクゥ退治の時にはいなかったよな。

懐かしいってどういう事だろうか。

その答えはすぐに分かった。

深淵の闇から白くて丸い何かが沢山飛び出してきたのだ。

「これは白玉か!」

正式名称はおばけだ。

小さい時は白玉と呼ばれるが、恐怖を人々に与える事でそれを食って成長する。

成長したおばけは人を食い、その人の姿や能力を奪う事で幽霊となる。

幽霊になると倒す方法は蘇生だけなので厄介だが、おばけの時は恐怖しなければ全くの無害でもある。

「恐怖しなければ問題ないですね」

「そうなんだよ。白玉状態だとちょっと可愛いんだよ」

こいつらなら特に問題はないな。

そう思っていたら、一人恐怖している者がいた。

「こいつらはヤバいじゃろ?お主ら、こやつが何者が知っておるのか?」

小さな子供が恐怖している姿は、別に不自然でもなんでもない。

でも佐天は悪魔王サタンだ。

その佐天がこれほど恐怖するのだから、何かがあると感じた。

いや、普通に考えれば今、安心なんてできる状態ではなかった。

禍々しい何かの気配は、まだそこに残っていたのだから。

白玉たちは一気に空へと上がっていた。

これから魔界のあちこちに散らばってゆくのだろう。

それを合図のように、深淵の闇が一気に広がり始めた。

「何かが来る!みんな深淵の闇から離れろ!」

俺の合図に皆は散開するが、それに付いてくるように深淵の闇も広がる。

「ついてくるんだよ!」

「深淵の闇が広がっているのです!」

「ヤバいのが来るんじゃ。本当の悪魔の使いじゃ」

本当の悪魔の使いだと?

深淵の闇が広がるのをやめた。

するとその闇の中心部分が少しずつ盛り上がっていく。

「闇が盛り上がってきてるんだよ!」

いや違う。

闇から黒い何かが出てきているのだ。

盛り上がって来てるのは頭か。

目が確認できた。

真っ黒な顔に目だけが白く浮かんでいる。

何も感じず、何も伝えないその目は、恐怖を感じずにはいられない。

顔全体が出てくると口を開けた。

のっぺりとした顔に、福笑いの目と口を乗せただけのような表情は、どんな声も届かない相手だと悟らせる。

生まれ変わる前の世界では、『話し合えば分かり合える』なんて声を上げる人達がいたけれど、この怪物とは絶対に意思疎通は不可能だと思えた。

体の半分が深淵の闇から出てきていた。

体も手も、ただ真っ黒で無機質。

深淵の闇そのものが襲ってくるようだ。

金魚の言葉もまんざら外れてはいなかったようだな。

ある意味こいつは深淵の闇そのものなんだ。

「こいつはデイダラボッチじゃ。先ほど空にあがった白玉はこやつの一部に過ぎない。魂を狩り集める闇の主じゃ。残念じゃが此処は逃げるしかなかろう。おそらくマジックアイテムのゴミがこいつを呼び寄せたのじゃろうな。マジックアイテムには魂が込められた物が多いからのう。それを回収しにきたのじゃ。しかしでてきてしもうたらそれだけでは収まらんのがこやつじゃ。おそらく魔界の悪魔や魔物を含めて多くの者が犠牲になるじゃろうが、わらわたちではどうにもならん」

俺は邪眼で確認した。

生き物とは到底思えない。

ヒューマンや魔物とも違うし、妖精や精霊とも違う。

よく分からない存在と思っていたおばけや幽霊と同じ性質のものだが、はるかに強大でヤバくなったのがデイダラボッチ。

「倒す方法はないのか?」

「策也お主、こやつと戦うつもりか?勝てるはずなかろう。一応魔法は効くようじゃがレベルが違いすぎる」

「でもこいつを放置したら魔界に住む者たちが大勢死ぬことになるんだろ?とりあえず戦ってみて、駄目なら逃げる。こいつは確かにヤバい存在ではあるけど、バクゥやポセイドンに比べたらなんとかなりそうなんだよな」

それに幽霊は蘇生が弱点だった。

その上位種とするならば、俺たちには秘密兵器があるんだよ。

「策也、お主はポセイドンと戦った事があるのか?」

「ああ倒したぞ。今は人間界で人の姿となって働いてくれているよ」

「あ奴は海の神じゃぞ?本当にそれはポセイドンなのか?」

信用されてねぇなぁ。

「この戦いが終わったら会わせてやるよ‥‥」

ってこれ死亡フラグにならないか?

仕方ない。

今すぐ連れて来るか。

十秒もしない内に大聖と共に海神がやってきた。

「主?突然どうしたんですか?これはデイダラボッチですね。戦うのを手伝えというのですか?」

「いや元の理由はそうじゃないんだが‥‥この佐天がポセイドンに会いたいというから来てもらった」

「ああ。これはこれはサタンじゃないか。私に会いたいとはどういう事なんだ?」

「えっ?策也が二人?でもこっちのは若干小さいの。弟か何かかの?」

「いやだからポセイドンだって。魔力で分からないか?」

俺がそういうと佐天は少し難しい顔でポセイドンを見た。

そしてすぐに理解したようだ。

「おお!ポセイドンの魔力じゃ」

「だからそう言っているだろう?」

「なんじゃとー!」

驚くのおせぇよ。

とかやってる間にもうすぐデイダラボッチが完全に深淵の闇から出てこようとしているぞ。

「話をしている時間ももう終わりだ。俺はデイダラボッチと戦う。海神もせっかくきたんだ。俺の戦いが終わるまで皆を守ってやってくれ」

「了解しました」

「エルも金魚もとりあえず下がっていてくれ。何かあれば助けてもらうかもしれないから、その時はよろしくな」

「分かりました」

「健闘を祈るんだよ」

まだ少し惚けている佐天を海神が引いてこの場から離れて行った。

さて、こんなヤツ本当に倒せるのかね。

言ってみれば存在感の無い無機質な黒い巨人。

大きさは百メートル以上。

ポセイドンよりも大きい。

ただ斬ったり殴ったりして倒せる相手ではないとハッキリしているから、逆にこちらとしては戦いやすい。

とにかく距離をとって魔法で攻撃する。

通用しなければ逃げ帰る。

戦いやすいとは言え、やはり恐怖はあるな。

やられたら俺でもどうなるか分からない。

実体のない未知の敵だからな。

ブラックホールに吸い込まれそうになるような恐怖。

とにかく距離をとり安全圏で戦わないと。

俺は早速一発かましてみた。

「落雷」

まずはライトニング攻撃だ。

少し手ごたえはあったが、これでは蚊に刺された程度か。

続いて『絶対零度』も全く効いている様子はなかった。

「爆炎地獄」

炎系魔法もやはり効かない。

「だったら光系魔法はどうだ!『最強神天照降臨(カワイイハセイギ)』」

そもそも結界が何の役にもたたなかった。

デイダラボッチの腕が伸びて俺を捕まえにくる。

俺は紙一重でかわした。

距離をとっても油断できないな。

危ない危ない。

掴みに来る時は実体化するようだからそこを狙ってみるか。

俺はデイダラボッチの周りを飛び回った。

デイダラボッチが手を伸ばしてくる。

俺はそのタイミングに合わせて魔法を放った。

終末闇裁判(デスカーニバル)一閃」

空から落ちる槍は腕をすり抜けた。

どうやら実体化するわけじゃないようだ。

こちらからの干渉は受け付けない。

一応全ての属性を試してみたものの、やはりこいつも幽霊と同じように蘇生しか効かないようだな。

俺はいよいよ神の加護による蘇生魔法で攻撃を開始した。

やはりこれが効くようで、蘇生魔法を放つとデイダラボッチが少し苦しみだす。

「これで倒せる‥‥訳がないよな」

しかし十秒もしない間に魔法の効果は切れたようだ。

デイダラボッチがマジックアイテムから取り込んだ魂の一つを蘇生し、それによって苦しみを与えたが、甦った何かは十秒もしない間に再び死んだって所か。

だったら‥‥。

今度は蘇生を続けた。

取り込んだ魂はかなり多いはずだ。

それを全部蘇生してやればどうなるか。

俺は続けて蘇生魔法を放った。

とにかく続けられるだけ続けてやるぜ。

先ほどよりもデイダラボッチは苦しんだが、流石に今度は俺が持たなかった。

それに流石の神もこれだけ連続する蘇生に対応しきれないのだろう。

加護が弱まっている気がする。

神の魔法は神様の機嫌を損ねるような使い方はできないのだ。

限界があった。

蘇生し続けるのは無理か。

「お前らの中で蘇生魔法が使えるヤツはいるか?!」

俺たちパーティーは共に旅をしているが、どんな魔法が使えるかなどは特に聞いてはいない。

知られたくない能力を持っている者もいるかもしれないからな。

でも必要なら聞く事もある。

「わたくしは無理ですね」

「わらわは闇の蘇生なら使えるぞ」

「私は海の神ですから、水の蘇生ならできますが、それでは意味がなさそうですね」

「金魚も無理なんだよ。ヒールが使えるくらいなんだよ」

佐天の蘇生なら多少は使えるか。

ん?金魚はヒールが使えたのか。

これは使えるかもしれない。

「よし!では俺の秘密兵器だ!」

俺がそういうと、資幣とみゆきが皆の後ろに転移してきた。

「策也きたよー!」

おお!我が愛しのみゆきが来てくれたぞ。

これだけで俺は既に勝ちを確信してしまうぜ。

「誰じゃお主は?」

「わたし?わたしは策也の嫁のみゆきだよ~」

「えっ?嫁じゃと?つまり策也と結婚しておるのか?」

「そうだよ!」

まあ普通驚くよな。

「マジだぞ!俺はみゆきと結婚している。そしてみゆきは神の魔法を得意とするチート魔法使いだ」

「本当ですよ佐天。策也とみゆきが揃うと、デイダラボッチも倒してしまう気がします」

「不思議なんだよ。ヤバい雰囲気だったのが一気にお花畑になった気分なんだよ」

金魚の言う通り、俺の心もそんな感じだ。

もう負ける気が一ミリもしなくなっていた。

「みゆき!早速で悪いが、敵の中にある魂を片っ端から蘇生してくれ。ついでに佐天もな!それを海神とエルや金魚は徹底的に回復だ。死ぬ前に回復させれば魔法も通じるだろ!」

皆が頷く。

「なんだかよく分からないけど分かったよ!いっくよー!みんな生き返れー!」

みゆきの放った魔法によって、デイダラボッチの中の魂が蘇生を開始する。

するとデイダラボッチは苦しみ始めた。

俺がやった時よりも苦しそうだ。

蘇生魔法に関しては俺なんかよりも数倍強いんだよな。

「佐天もぼさっとするな。蘇生しろ」

「分かったのじゃ」

俺も蘇生側を手伝おうと思ったが、佐天もいるし回復側でいけそうだな。

俺は生き返ってデイダラボッチの中で暴れる奴らをとにかく回復し続けた。

回復する対象は、みゆきと佐天の蘇生でドンドン増えて行く。

回復も徐々に厳しくなるが大聖や資幣もいるし、蘇生に比べれば魔力消費も辛さもない。

俺たちは皆で魔法を放ち続けた。

十分が過ぎた頃、とうとうみゆきたちがデイダラボッチの中にある魂全ての蘇生を終えた。

するとデイダラボッチは一際大きく苦しんだ後、ゆっくりと深淵の闇に沈み始めた。

正直俺たちも限界に近かったが、なんとか倒せたか。

デイダラボッチに取り込まれていた魔物たちの一部が、デイダラボッチと共に深淵の闇に落ちて行く。

飛べる魔物は空へ逃げ、能力の高い魔物も上手く落下を回避していた。

「あの魔物たちはどうするのですか?」

「エル。心配はないさ。蘇生した魔物は魔石もないし、いきなり悪魔、いや魔人たちを襲うような事はしないだろう」

「いえ。良い魂の素材になりますから、倒しておきたいのかと思いまして」

「そうだな。特に必要性がなければ、襲ってこない奴は倒さないさ」

こうして俺たちは深淵の闇から出てきたデイダラボッチの討伐に成功したのだった。


この後俺は全てのマジックアイテムの残骸を回収した。

「みゆき、ありがとうな。そろそろ寝る所だったんだよな」

「本物の策也に会えたし、眠さなんてふっとんじゃったよ!」

ああ、俺はやっぱりみゆきが好きだな。

この笑顔を見ていたらそれだけで幸せを感じられる。

資幣ではいつも見ているんだけどね。

やっぱり実際に会うのとはちょっと違うんだよな。

「学園は楽しいか?」

「うん。友達百人できたよ!」

「そうか。楽しそうで何より」

まあ全部知ってるんだけどね。

でも実際にこうやって話をする事の大切さを今実感しているよ。

「じゃあみゆきはもう寝てくれ。明日も早いしな」

「うん。また何時でも呼んでね!」

「おう」

俺たちは手を振り合った。

名残惜しさもあるけれど、俺たちはまた何時でもすぐに会う事ができる。

その信頼関係は既に大きなものとなっていて、別れもアッサリとしていた。

みゆきは資幣に連れられて帰っていった。

「海神も悪いな。俺の面倒な仕事を任せっきりだわ」

海神には俺の代わりとして今は黒死鳥王国で働いてもらっている。

此花を出たとはいえ一応此花第二王国第二王子という事になっているし、英雄麟堂の元パーティーメンバーって事で話にくる人もいるんだよな。

黒死鳥王国の窓口にもなって話を繋ぐ役割も担っている。

尤も概ね結論を出すのは俺なんだけどね。

「いえいえ。人間界も楽しいですよ。それでは私も戻りますね」

「サンキュー!」

海神は大聖に連れられて帰って行った。

つか俺たちも一緒に帰れば良かったかな。

「そうだ。海神の顔を見て思い出した。アイマスクの形状と色を変えようと思っていたんだ」

「そうなんですか?結構似合っていると思っていたんですが」

「いや、このままだと俺が俺だとバレてしまうからな。今までの俺を海神に押し付けたんだから、俺は新たな俺になる必要があるんだ」

俺はマスクを異次元収納から取り出した。

今は仲間しかいなくて外していたからね。

そしてそのマスクの形状を魔法で少し変化させる。

色は白を基調としていたものを、濃いグレーのメタリックに変えた。

試しにつけてみた。

「どうだ?」

「これはこれで格好いいですね」

「なんだか強そうになったんだよ!」

「確かにこっちの方が男前に感じるの」

皆の意見も悪くないしこれでいいか。

「じゃあこれでいくか。それにしてもデイダラボッチの相手は疲れたな」

「そりゃそうじゃ。まさか本当に倒してしまうとは思わなかったぞ」

「わたくしもです。アレは関わってはいけないヤツだと感じましたからね」

「金魚は策也さんならやると思っていたんだよ。本当なんだよ」

「まあみんながいなけりゃ倒せなかったけどな」

この世界に来た時は、俺は最強のチートとして転生してきたのだから、誰とやっても楽勝だと思っていた。

確かに概ねそれはそうだったけれど、一人じゃ勝てない敵もいた。

倒せたのはみんながいたからだ。

尤も、倒せたといっても深淵の闇の世界に追い返しただけかもしれないけれどね。

正直完全に倒し切ったという手ごたえはない。

もしそうだとしたら、いずれ確実に倒さなければならない時がくるかもしれない。

まだまだ強くならんとな。

俺はそんな事を考えながら、目の前の深淵の闇を封じるように魔法で岩山を作っていった。

これで少なくともこちらから深淵の闇に落ちる事はないだろう。

マジ疲れたわ。

一仕事終えた後の疲れを背負いながら、今日は家族の家へと戻るのだった。

2024年10月5日 言葉を一部修正

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