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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔界編
55/184

環奈の死?!そして別れ‥‥

永遠の命なんてあり得ない。

常勝なんて人は存在しない。

必ず死ぬ時は来るし、何かで負ける事もある。

俺だって不老不死とは言っても大魔王に体を乗っ取られ、実質一度負けて死んで甦って来たのだ。

死なない魂も、いずれは成仏を願い死を受け入れる事にはなるのだろう。

死ねない事は辛い事だと云う人も結構いるし、それはそれで納得できる話ではあるから。

でも、俺は生きたい間は生きるし、死んでほしくないヤツは死なせない。

そう思っている。


リヴァイアサンとシーサーペントを倒した後、俺は一応その場にあった海の落とし穴を調べた。

やはり前のと同じで人間界へと繋がっていた。

魔界は人間界とは裏と表のような関係なのだろうか。

妖精界は別の可能性から生まれた並行世界で、精霊界は人間界と魔界の狭間にある理の世界。

俺は何となくそんな風に理解していた。

魔界の旅は、環奈の疲れもあり一日ほど完全休養にした。

そして再び海の中を進み三日が過ぎた頃、又も大きな海の落とし穴を発見した。

今度は今までのと比べものにならないくらい大きく、幅の狭い所でも百メートル以上はあった。

「こりゃまた嫌な予感がするな」

「前回はシーサーペントとリヴァイアサンがいましたからね」

「この穴を行き来するような魔物がいるとしたら相当大きいんだよ」

金魚の言う通りだ。

そしてそんな魔物がいるとしたら、もうあいつしか想像できない。

俺がこちらの世界に転生してきた時に探そうと決めた、あの魔獣『クラーケン』だ。

ただ先日環奈が倒したリヴァイアサンと同列に云われる魔獣であるし、いたからと言って特に慌てる必要もないだろう。

多少強くても俺の敵じゃないし、エルや環奈もいるからね。

いっそ三匹くらい現れても嬉しいくらいだ。

魂や魔石が手に入るからね。

ちなみに魂はともかく魔石も俺が貰っているように見えるが、マジックアイテムを作ったりして皆にはちゃんと利益還元しているよ。

必要なら注文や要望も聞くしね。

環奈やエルはそんなものよりも冒険や戦いを望んでいるだけだし、他も希望が物や金ではないってだけ。

あくまで俺はパーティーを取りまとめるリーダーとして、要望通りにそうしているに過ぎないのだ。

本当だよ?

「何やらやってきましたよ」

「なんかヌルヌルとした感じのヤツなんだよ」

やはり思った通りクラーケンのようだな。

徐々に近づいてくるとその姿がハッキリと見えてきた。

どうやらこの世界のクラーケンは太いイカのような姿をしているみたいだ。

それにしてもちょっとでかくないか?

いやアレは‥‥。

「三匹いるようじゃのぉ」

「今度は策也も戦わない訳にはいかないんじゃないですかね」

「うちじゃ勝てまへんわ‥‥勝てないピヨ」

「逃げてもいいでしょうか?」

陽菜は動揺して元の関西弁が出るし、金魚は完全にビビっているな。

確かに何やら強力な魔力も感じる。

流石にクラーケンといった所か。

しかも三匹だしな。

それでもたかが三匹だ。

俺の敵ではない、はず‥‥。

アレ?ちぃと待て!

もう一つ気配があるぞ。

そしてこの巨大な魔力は、そのもう一つの気配から伝わってきている気がする。

なんだ?何がいるんだ?

俺は千里眼と邪眼で確認した。

するとそこにいたのは、クラーケンよりも何倍も大きな魔獣だった。

少し首の長い亀のようなシルエットで、水中に住む恐竜のような姿だった。

名前はポセイドン。

「おいおいポセイドンかよ」

この世界のポセイドンは人の姿をしていない。

巨大な魔獣である。

それでも神と恐れられる魔獣であり、伝説の魔獣というよりは獣神として恐れられる存在であった。

「これは結構ヤバいんじゃないですかね?」

「うほ!こりゃ楽しそうじゃわぃ。ただポセイドンはわしには手に負えんのぉ。アレは策也殿しか無理じゃろぅ」

「そうだな。俺はポセイドンを倒すのに集中するしかなさそうだ」

「もしかして金魚も戦うしかないのでしょうか?」

「そうだな。金魚と陽菜、そして洋裁、お前も出番だぞ」

俺は鞘に収めているナイフを抜いた。

するとそれは洋裁の姿へと変わった。

「自分もやるしかなさそうっすね‥‥」

「ではとりあえずわたくしが一体、環奈が一体、その他で一体、そして策也がポセイドンを相手するって事でいいですね?」

エルの言葉に皆が頷いた。

金魚はちょっと嫌そうだったけどね。

まあでも洋裁がいるから大丈夫だろう。

それに金魚は幽霊モードで回避すれば殺られる事はない。

心配があるとしたら‥‥。

俺は環奈を見た。

いつもの穏やかな表情だった。

まっ、大丈夫か。

とにかく俺はポセイドンの相手に集中する事にした。

間もなくポセイドンとクラーケンはこちらに向けて攻撃を開始してきた。

やはり魔物は何故か人間に敵意を持っている。

本能のようなものだ。

そしてそれは魔石に何か秘密があるのだろう。

フレイムドラゴンのボスは、蘇生によって魔石を失くした途端に穏やかになった。

他にも穏やかになる例はあるが、概ね魔石を持つ魔物は人間に襲い掛かってくる。

だから出会えば戦うか逃げるかの二択しかないのだ。

俺はポセイドンに妖糸で攻撃を試みた。

「やっぱ全く斬れねぇな」

分かってはいたものの、やはりこの結果は俺に少しの恐怖を与える。

大魔王相手はまだ余裕があった。

バクゥはみんなで戦ったし、戦闘を得意とする魔獣では無かった。

俺にとって今回が初めて本気でやらなければならない相手なのだ。

そして相手は水中戦を得意とするポセイドンで、対等な条件での戦いではなく不利な状況。

不死の体であるというのが唯一の救い。

心の支えでもある。

転生前は気の小さな男だった。

それでも今まで散々みんなには『無敵』と言ってきたわけで、此処で弱気な所は見せられない。

心臓がドキドキしているのが聞こえないように、俺はとにかく動き回って攻略を考えていた。

幸い思考は百まで増やせるわけで、回避の為に三つくらい集中しておけば自分だけなら回避し続ける事も可能だろう。

一応仲間の戦いぶりも確認しておく。

エルは余裕こそ無くなってきているが、それでもやられる雰囲気は感じない。

洋裁たちもなんだかんだ守りは堅いから、倒せないまでも殺られないだろう。

やっぱり気になるのは環奈だ。

今までは、全くと言えば嘘にはなるが負ける気がしなかったし、何処か勝てそうな雰囲気があった。

でもこの相手だからなのか、環奈の雰囲気なのか、とにかく不安を感じずにはいられなかった。

なんとか早くポセイドンを倒して環奈の戦いを見たい。

しかしポセイドンが仲間たちの戦いの邪魔にならないようにするだけで精一杯だ。

オメガエンドは結界が持たないし、終末闇裁判(デスカーニバル)を放つも多少傷をつけられる程度。

最強神天照降臨(カワイイハセイギ)の結界ですら破られ、完全に長期戦でしか倒せない様相だった。

相手がでかすぎて結界の強度が落ちるのか。

早く倒したいのに相手はそれを許してはくれない。

そして一つ間違えばこちらがやられる。

完全に殺られる事はおそらくないが、そうなると決着がつくまでに何十時間と要する事にもなるだろう。

或いは何日にも及ぶかもしれない。

いくつか考えている新魔法を試すしかないな。

俺は結界で閉じ込めるのではなく、戦闘フィールドから水を失くしてみた。

これなら地上での戦いができる分、こちらは戦いやすい。

そうするとポセイドンはすぐに水の中へと逃げて、地属性魔法でこちらを攻撃してきた。

ポセイドンのクセに地属性魔法とか何様のつもりだ。

ポセイドンを海の神様と崇めている人に謝れ!

などど考えている場合じゃない。

動きを少しでも止められたら手はある。

俺はダークバインドやスタンガンを試してみた。

全く効く様子が無かった。

完全耐性かよ。

まあ俺もそうなんだけどな。

これじゃ決着がつかないぞ。

俺がそう思った時だった。

ポセイドンが水に穴をあけてその中に岩の巨大(ヤジリ)を飛ばしてきた。

水中移動する中で水が無い場所に出れば動きが止まる。

全く嫌な攻撃をしてくるものだ。

人間の言葉を話さないだけで、知能は結構高いのだろう。

そもそも魔物は人間の生まれ変わりだったりするわけで、少なくとも人間並みに知能があって当然なのだ。

俺は何とか何もない所に魔法で足場を作って攻撃をかわした。

しかしその鏃は、その先にいた別の者への攻撃だった。

「なんじゃとぉ?」

「環奈?」

もしかしてこいつ、最初から環奈を狙っていた?

俺とじゃ五分と見て、まずは他を始末するつもりなのか?

環奈は攻撃をモロにくらった。

それを見逃さず環奈と戦っていたクラーケンも棘針(トゲバリ)で攻撃する。

それは環奈へと突き刺さった。

「環奈!」

俺はポセイドンを無視して環奈の方へと向かった。

水中で動きを止めていた環奈は、少し笑顔を向けてから黒死鳥の姿へと戻った。

水中で黒死鳥だと?

もう駄目だという事なのか?

いや、俺の回復魔法なら一気に回復させられる。

ただ、それをやすやすとやらせてくれる敵と戦っていたのではなかった。

ポセイドンが俺に対して爆裂魔術で攻撃してきた。

「くっそ!レジストしきれねぇ」

目の前で環奈は目を閉じ、額の魔石が体から離れ、それが俺の異次元収納へと自動的に回収された。

まさか環奈がこんな簡単に死ぬとは。

魂だ。

魂だけは回収しておかなければ。

俺はとにかく魂を回収した。

それはなんとかできたのだけれど、俺には大きな隙ができた。

意識はちゃんとあった。

別の思考が常にポセイドンの動きを把握していたから。

それでも俺は魂回収を優先し、あえてポセイドンの攻撃を受けた。

完全に即死級の攻撃だった。

ただ幸いにも、体を消滅させるような攻撃ではない。

だったら俺の不死の能力がすぐに再生を開始する。

かといってそれを黙って許すポセイドンではない。

再生よりも早く次のダメージを与えて来る。

このままじゃ俺はもう何もできない。

そしてその間に他の仲間たちが殺られるだろう。

何か、何か手はないか。

瞬間移動で一旦逃げて、回復してから戻ってくるか。

駄目だ。

おそらく一分以上戻っては来られない。

その間ポセイドンを野放しにしたらエルと陽菜は殺られる。

一瞬にして俺を完全体に戻さなければ。

いや、戻った所でクラーケン一体が野放し状態だ。

状況はさっきよりも悪い。

何か、何かないのか。

「あっ‥‥」

俺は意識を共有している大聖で、変化を行った。

みゆきと共に年を重ねる為に変化はしないつもりだったが、もうこれしか今は思いつかなかった。

大聖が子供の俺に変化した事で、俺は変化の魔法を理解し、思った通り使えるようになったと感じた。

直ぐに俺は全ての魔力を込めて変化を行う。

変化するのは、オリハルコンの塊だ。

ポセイドンの攻撃を食らい続けて体はボロボロだったが、変化で一気に俺の体は正常なオリハルコンへと変わった。

その硬さで、ポセイドンの攻撃にも多少形を変えられる程度で抑えられた。

「ははは。こりゃ無敵だわ!魔力は一気に使い切ったが、俺の回復力はちぃと半端ないもんでね」

直ぐに魔力が回復してきた俺は、更に変化してオリハルコンと水銀の俺へと姿を変えた。

「みんなはとにかく死ぬな!まずは俺がポセイドンを倒す!」

「そうしてください。クラーケン三体だけならなんとかなります」

「まあ‥‥自分無敵っすから、時間稼ぎくらいはできるよ」

「金魚は逃げ回ってるんだよ」

「環奈親分が殺られるなんて‥‥悔しいピヨ‥‥でも勝てば蘇生してくれるピヨ。今はジョウビタキモードで逃げ回るピヨ!」

なんとかやれそうだな。

俺は炎の精霊魔術で体内の水銀を気化させた。

さてどうやってやっつけてやろうか。

体内に入って爆発してやるのが一番確実だろうが、飲み込んではくれないだろうから打ち込むしかないだろう。

俺は右手を、あの蛇の名前を持ったアニメキャラが左手に持つ銃の形へと変えた。

銃というよりは砲塔というか銃口というか、砲身と砲鞍(ホウアン)部分が腕にくっついたような感じか。

俺はそこから俺の体の一部であるオリハルコンの弾を、気化した水銀の圧力を利用してポセイドンへと放った。

小さな弾ではあるが、ポセイドンの体へとめり込んだ。

更にその弾は、ポセイドンの体の中で散開する。

このような散弾銃は、転生前の世界では使用が禁止されているくらいにヤバいのだ。

ただこの程度のダメージじゃポセイドンには通用しない。

それでも俺の体の一部がポセイドンの体のあちこちへと広がってゆく。

「さあ俺の荒ぶる魔力をお前にくれてやるぜ!コントロールできるかな?」

俺は目いっぱい魔力をポセイドンへと送り込んだ。

暴走する魔力があれば、それはやがて体を爆発させる事になる。

俺の回復力を越えられるだけの魔力コントロールなんて、たとえ神でも不可能だろう。

ポセイドンの動きが止まった。

俺の荒ぶる魔力を抑えるだけで限界なのだろう。

俺は更にポセイドンを丸い結界で包んだ。

そこに何でも収集する俺が当然集めておいた魔素で満たしていった。

深海も自由に行き来する巨大魔獣は、当然外からの水圧には強い。

しかし海の中には魔素が超絶少ないし、魔素への耐性は低い可能性がある。

クラーケンやリヴァイアサンが人間界に来るのも、魔素が少ない場所だからかもしれない。

だったら、外からの圧力には強くとも、中からの圧力や魔素には弱いはずだ。

体の収縮には強くても、膨張には弱い。

思った通り明らかにポセイドンは苦しみ始めた。

そしてそうなると脆かった。

「これを食らって生き残れる可能性は、『微レ存!』だな」

一気にポセイドンは体を爆発させた。

「なんとか勝てたか‥‥」

俺は魂と粉々になった肉片を回収した。

それにしても、ぶっちゃけ倒せないかと思ったわ。

ある程度弱れば雷撃系魔法で殺れるのだろうが、そこまでどうやって持って行けばいいのか。

時間をかければ可能だが、その間ダメージや疲労が蓄積されるのはお互い様だしな。

変化で無敵モードになれたのは良かった。

前にオリハルコンの玉ゴーレムや、ムジナでそんな体に慣れていたのが幸いした。

それが無ければ、こんな変化はできなかっただろう。

試せるものは試せる時に試しておくべきだな。

さてゆっくりもしていられない。

まあ陽菜もジョウビタキモードならそう簡単には殺られないだろうし、逃げ回っているだけなら大丈夫だ。

別の思考で仲間の気配は感じていたし、生きているのは間違いない。

そんな事を考えながらみんなが揃っている所へ向けて移動すると、予想外の光景が目に入って来た。

「策也、ポセイドンは倒せたようですね。こっちもまずは一体、今とどめをさした所です」

「金魚も頑張ったんだよ。毒と石化で動きを鈍らせたんだよ」

「うちも環奈親分の弔い合戦だピヨ。みんなやっつけてやるピヨ」

「あー‥‥環奈の魂は取ってあるんだよね。策也が蘇生してくれるから問題ないよ‥‥」

余裕あるなぁ。

環奈がいなくなった事で、個人での勝利に拘りが無くなり、皆が協力して立ち向かっている結果か。

おっと魔石は自動回収されているけど、魂も忘れずに回収しておかないとな。

とは言ってもエルはやはりソロ攻略にこだわりを持っているようだが。

「残り二体、一体はわたくしに任せてください。残り一体をみなさんでお願いします」

「分かったんだよ。こっちは金魚が動きを止めるんだよ」

ほう。

金魚がこれほど積極的に行くとはね。

自信が持てたという事かな。

先日ヨルムンガンドの魔石でパワーアップした白装束によって、水の守りを手に入れている。

水中じゃなくてもその守りは堅いが、水の中だと尚更効果を発揮しているようだ。

水中での攻撃は、どうしても水によって標的に命中させにくい。

水を押しのけるのと同時に対象も流されてしまうからだ。

水の守りは攻撃を受け流す事にあり、水中で金魚が攻撃を食らう可能性はほとんど無いように見えた。

尤も、クラーケンの棘針攻撃に対しては少し注意が必要そうだが、そこは洋裁がよくカバーしていた。

「洋裁の目で動きを鈍らせ、更に金魚の毒と石化で動きを抑え、そこを陽菜が斬りつける戦い、か‥‥」

洋裁の目は効果が一瞬だし、金魚の毒も影響は小さい。

石化もすぐにレジストされるわけだが、全てが揃うと結構動きを止められるもんだな。

ただ陽菜じゃとどめを刺すまでに時間はかかりそうだ。

一方エルは互角の戦いを続けているように見える。

魔力は若干クラーケンの方が上だけど、対応力はエルが上だ。

クラーケンも海獣の中ではかなり対応力がある方だけどね。

八本の足に棘針攻撃。

水系の魔法に黒墨の煙幕。

足や棘針には麻痺効果もあったかな。

それでもエルに比べれば雲泥の差なのだ。

「雷斬剣!」

決まったかな。

いや、クラーケンも流石でまだまだレジストしている。

苦手の雷撃もこのクラスになると十分に耐えてくるようだ。

エルはこれで決められたと思っていたようで、少し隙ができていた。

クラーケンはそれを見逃さず、棘針でエルを攻撃する。

一本がエルに命中した。

まさかエルが負ける?

こっちも蘇生が必要になるのか?

「今のは効きましたよ」

辛うじてイフリートの衣装が棘針の貫通力を弱め、致命傷は免れていた。

おそらく勝てるが油断すれば負けるギリギリの戦いか。

俺もさっきそれを経験したけれど、本音を言えばやっぱり楽勝の方がいいな。

この世界へはチート能力者として転生してきたんだけど、結局人間の力には限界があって、全てが楽勝とはいかない。

一つ間違っていたら俺の魂は今何処かを彷徨っていた可能性もある。

こんなはずではなかったよな。

ただそれでも俺には大聖や資幣といった分身もあるし、いざとなればみゆきを連れてくればなんとかなりそうで、本当に追い詰められる事があるとすれば、さっきの環奈のような場合か。

仲間が完全にいなくなるのが一番辛いのかもな。

思えば失いたくない仲間も増えたもんだ。

『どうしてこうなった?』って感じもするが、悪くはないよ。

それにしてもエルはよくやる。

これだけ傷を負いながらも、敵の攻撃をかわしながら回復魔法。

尤もその間敵にも回復チャンスがあるわけだが、エルの方が回復が早いか。

水の癒しだけでなく、雷剣のヌエの力を借りて風の癒しも使っている。

又も思考が増えているメリットが出たな。

先に回復を終えたエルは、再び雷剣を振るった。

回復前に次の攻撃を食らったクラーケンのレジストはかなり弱い。

「更に雷斬剣!」

二連発か。

流石にこれはクラーケンも耐えられそうになかった。

クラーケンの額から魔石が外れ、俺の異次元収納へと回収された。

「流石にエルだな」

俺は魂と死体も回収した。

「流石に思考が増えていなければ勝てませんでしたよ。基礎能力は相手が上でしたね」

「確かに敵の方が魔力は上だったが、思考が無くてもエルは勝てたよ。ギリギリだとは思うけどな」

「今ももうギリギリでしたよ」

エルはそう言って海の底に座り込んだ。

今回はその前にもみんなでクラーケンを一体倒しているんだからな。

それを考えればやはり一対一なら勝てたと思うよ。

さて後はクラーケン一体か。

地味に陽菜がダメージを与え続け、かなり敵も弱ってきていた。

草薙の刀だと、相性は悪いんだよな。

属性としては炎と水だからな。

それでも長く続けていればダメージも蓄積されるわけで、そうなると洋裁の目や金魚の石化、或いは毒も効いてきたりするわけで。

「チャンスなんだよ!金魚の氷剣で凍らすんだよ!」

いくらなんでもクラーケンに氷剣は流石に‥‥通用してるし。

直ぐにレジストされるだろうけれど、他のと合わせれば十分な時間動きを封じられるわけで。

「自分が押さえつけてる間に、魔石をえぐり取っちゃって」

洋裁が溶けて広がり、クラーケンを包むように押さえつけた。

「うちに任せるピヨ!鳥だけに魔石を取っちゃうピヨ!刹斬!」

陽菜は刹那に魔石を斬って取った。

魔石が自動回収されてきた。

「終わったか」

「やりました!金魚たちで倒せたんだよ」

「無敵の自分がいるので楽勝っすよ」

「環奈親分‥‥仇は取りましたよ‥‥」

このクラーケンは、環奈にとどめを刺したヤツだったか。

俺は魂を回収しながら思った。

こういう奴と仲良くなれる世の中っていいよな。

そして蘇生ができるこの世界でなら、それも可能なのかもしれない。

俺は既に多くの人を殺した魔王や悪魔たちを蘇生して、それなりに上手くやっているわけだし。

今日戦った四体の魔獣も、できれば蘇生してやりたいな。

人型のゴーレムにはなるけどね。

「さて、とりあえず環奈を蘇生するか」

俺は結界で水の無い空間を作り、魂ボールから環奈の魂を取り出した。

そして神の加護による蘇生を行った。

間もなく目の前には横たわる黒死鳥が現れた。

「環奈親分!生きてるピヨか!?」

そりゃ蘇生したから生きてるとは思うぞ。

「ん?わしは‥‥」

環奈はそこまで言って気が付いたようで、直ぐに何時もの姿へと変化した。

「悪いが蘇生したぞ。俺はお前に成仏してもらいたくないからな。当面俺の人生にお前は必要なんだ」

「そうか‥‥わしは死んだんじゃなぁ。蘇生されてしもうたか‥‥」

「わたくしも環奈がいないと張り合いがないのですよ」

「うちも環奈親分に地獄までついて行くと決めてるピヨ!」

地獄か。

この魔界が地獄っぽいけどな。

「環奈さんはモテモテですね。うらやましいんだよ」

「自分、もうナイフに戻っていいっすか?」

そう言って洋裁はナイフの鞘へと収まってしまった。

相変わらずマイペースだな。

「策也殿。申し訳ないが、わしは負けた所で旅を終わりにすると決めておったのじゃ。悪いが此処で旅を終わらせてはもらえんじゃろうか?」

なんとなくそんな気はしていた。

むしろ死に場所を探していたという感じか。

百年生きる感覚ってのはどういうものかは分からないけれど、やる事やってもう良いと思ったのだろう。

それにドラゴンにも勝ってるし、伝説の魔獣も倒してきた。

でも俺は素直には受け入れられなかった。

「環奈の気持ちは分かった。でも俺と一緒に旅してきたんだ。死ぬのは許さないぞ」

「そうじゃのぉ。わしの望みを叶えてくれたのじゃから、この旅を続ける以外の要望なら聞くとしようかのぉ」

だったら‥‥。

「それなら黒死鳥王国を作ってみないか?どうせいずれは人間の手で無理やり作られて、黒死鳥には従属か死の選択を迫る可能性もある。今の内に後世の為に少しできる事をやっておかないか?」

そうなんだ。

なんとなく俺は思うんだ。

今人間は、他の人種や種族との共存か排除を選択する為の岐路に立っていると。

皆魂は同じなのだから、できれば共存できる世界にしたい。

直ぐには無理でもその方向へと向かう準備が今こそ必要なのだ。

「わしはもう引退した身じゃぞぃ?そんな王国作っても誰もついてこんわぃ」

「そんな事ないピヨ!うちはついて行くピヨ!」

「陽菜もこう言ってるしさ。それに別に環奈が王になる必要はないぞ。あくまで実権を握ってちゃんとみんなが笑顔で暮らせる国にしてくれればな。国士を王にするのはどうだ?あいつは王として生まれてきたんだろ?」

国士を王にして、環奈が摂政として実権を握ってくれれば良い王国ができる気がする。

「しかしのぉ‥‥あ奴には罪を償ってもらいたいしのぉ」

「みんなが笑顔で暮らせる国を作れば、それが償いになるよ」

「どうするかのぉ‥‥」

悩んでいるな。

こうなったらもう一押しだ。

「環奈。それにな。良い王様や摂政はモテるぞ?嫌でもハーレムとかできちゃうかもなぁ~‥‥チラッ!」

「よし!やってみるのじゃ。邪な気持ちはまるでないが、もう一度現役復帰も悪くないかもしれん!」

即行かい!

それでもまあ良かった。

俺の我がままで蘇生したけど、生きた屍のように毎日を過ごされても困るからな。

楽しめる事があるのなら楽しんでほしい。

「それでもう魔界の旅も続ける気はないのか?」

「うむ。死んだらそこで終わりなのが冒険じゃ。わしは命がけでそれをしてきたんじゃ。これ以上続ける気力なんかあるはずなかろぅ?」

「そっか‥‥」

決意は固そうだな。

「分かった。では魔界の扉まで送るから、後は大聖の所へ行ってくれ。既にあちらでは黒死鳥王国を作る為の準備を始めた」

「了解じゃが‥‥国士を王にするとなるとオーガ王国の用心棒がいなくなるが大丈夫かのぉ?」

「大丈夫だ。代わりを考えている。あいつらよりももっと強い奴らをな」

「そうか。なら遠慮なくハーレム‥‥国士を黒死鳥の王にしてやるかのぉ」

やっぱりハーレムが主目的なのね。

「決まったようですね。環奈の作る黒死鳥王国なら安心です」

「応援するんだよ」

「策也さん‥‥うちも環奈親分と一緒に行ってもいいピヨか?」

陽菜は環奈についてきていたんだもんな。

止める事はできないよ。

「もちろんだ。パーティーが寂しくなるが、強制するつもりはないからな」

「ありがとうピヨ!」

「じゃあとりあえず環奈と陽菜を魔界の扉まで送ってくる。一応妖精霧島を置いていくな」

「それでは環奈、陽菜。国造りが落ち着いた頃には遊びにでも行きますよ」

「金魚も行くんだよ。旅は楽しかったんだよ」

「みんなありがとうじゃ」

洋裁は出てこないか。

こういうのは苦手なのかもな。

俺も別れは苦手だからな。

それにもう二度と会えないわけじゃないし。

俺は環奈と陽菜を連れて魔界の扉まで瞬間移動をした。

「またな!って言っても、大聖も俺だからな」

「なんかややこしいのぉ」

「とりあえずしばしのお別れピヨ」

俺がこっちの世界に来て、旅のスタート直後から一緒にいた環奈。

やっぱり共に旅ができないのは寂しいよ。

環奈と陽菜は手を振りながら魔界の扉へと入っていった。

俺も手を振り返し、姿が見えなくなるまで見送った。

こうして環奈と陽菜は、黒死鳥王国を作る為に人間界へと戻っていった。

2024年10月5日 言葉を一部修正

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