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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔界編
52/184

魔界へ!海の落とし穴

俺は無事、人間界へと戻ってこられた。

よく考えれば炎龍王国の地下、魔法実験場には魔界の扉がある。

そこから扉を入った所の景色は見ていたので、俺は瞬間移動魔法でその場所まで跳ぶ事ができた。

「危うく帰れないかと思って焦ったぜ!ドラゴンお前は人間に変化しろよ。その図体じゃ出られないからな」

「そうみたいだね」

しかし‥‥なんだこの魔素の濃さは。

前に確認した時よりも明らかに濃い。

俺なら十分耐えられるけれど、まるで越えられない山のようだ。

扉から出ると、悪魔っこたちがいたので訊ねてみた。

「魔界の魔素はずっとこんなに濃いのか?それに魔界も場所によっては魔素の濃さが違うみたいだけど」

「こんなに濃くはなかったぜ。多分魔素が多く発生している所に近いほど濃くなっているみたいだ」

「そうなのか。でもこれだけ濃いと辛くはないのか?」

いくら魔界に適応したヒューマンといえども、辛いものは辛いはずだ。

「正直辛いさ。こうして扉を開けさせてもらっているけど、ドンドン濃くなっていきやがる。このままじゃ本当に魔界には住めなくなるかもしれない」

「やっぱりそうなのか」

これはこのまま放置もできないな。

それに仲間の皆も魔界に行ってみたいと言っていた。

「よし。俺たちが魔界の魔素が濃くなっている原因を突き止めてやる。悪魔の里の人たちにも伝えておいてくれ。敵と認識されても困るからな」

「本当か!?悪いな策也。色々と手を貸してもらって」

「構わないよ。俺も一度魔界がどんな所なのか、実際に歩いて確かめたかったしな」

さてしかし皆はこの魔素の中を行けるだろうか。

おそらく無理だろう。

この魔素をなんとかするアイテムが必要だな。

アレを試してみるか。

実は俺には、濃い魔素の中でも普通に行動できるようになるアイテムに心当たりがあった。

俺は早速みゆきに会いに行った。

みゆきは丁度学園から帰ってきた所だった。

「みゆきー!今日も制服が似合っていて可愛いな!」

いつも制服姿は資幣の目から見ているんだけれど、やっぱり本体で見ると更に可愛く見える気がした。

他の自分から見たり感じたりするものって、なんとなく夢の中のような気もするんだよね。

現実味が少し薄いというか。

やはり本体で会いにこないと駄目だと思った。

「わーい!策也だぁ~!でもさっき資幣先生と話をしていたのも策也なんだよね?」

「まあそうなんだけど、同じ目線で話せるのはやっぱりいいな」

そうなんだ。

同じ目線って子供の頃は結構重要なのだ。

中身十九歳だけど。

「ところで今日はどうしたの?」

「そうそう。実は魔界に行こうと思ってな。それでみゆきの付けてる魔力コントロールの指輪を少し見せてほしいんだ」

「魔界に行くんだぁ。ちょっと怖いかも。策也なら大丈夫だと思うけど、気を付けて行ってきてよ」

みゆきはそう言いながら指輪を外した。

俺はそれを受け取り、邪眼で効果を調べた。

「ああ気を付けるよ。ほうほう、やっぱりかなりの魔力が封じられているな。乱馬の魔力でコレを作るのは大変だっただろうな」

俺は指輪の効果を一通り記憶してから、みゆきに指輪を返した。

みゆきはそれを受けとると再び指に通した。

「そうだ!わたしこれから友達と遊びに行く約束があったんだ!」

へぇ~同年代の友達か。

資幣の記憶からだいたい友達関係は把握しているが、正直俺が普通に相手できるとは思えない。

でもみゆきにとってはそういう友達との付き合いも成長する上で必要なのだろう。

「おう。じゃあまたな」

「うん!策也も気を付けて!」

手を振りながら走っていくみゆきを、俺は手を振って見送った。

さて、指輪のコピーを作るか。

俺は久しぶりにホームの作業小屋で指輪のコピーを作成した。

それは十五分ほどで完成した。

「こんなもんか。早速試してみるか」

俺は瞬間移動魔法で魔界の扉の前へと行くと、指輪のコピーを付けて一人魔界へと入って試してみた。

どういう事だろうか。

どうも先ほど来た時よりも気分が悪い気がする。

俺はその場で指輪を外してみた。

すると少し楽になった感じがした。

逆効果だと?

どういう事だろうか。

こりゃちょっと乱馬に聞きに行くしかないか。

俺は扉から人間界へと戻ると、ゴブリンの洞窟へと瞬間移動した。

「乱馬!魔法の研究はどんな具合だ?」

「ビックリした。突然やってきていきなり話しかけないでよ」

「悪い悪い。何か集中してたか?」

「まあね。でも大丈夫だよ。それで今日は何か用かい?」

乱馬は椅子を後ろ向きにして座り直した。

「みゆきに上げた魔力コントールの指輪あるだろ?アレを付けていたみゆきが、魔素の濃い所に行っても平気だったから、もしかしたらこの指輪で魔素に対する耐性も上げられるんじゃないかと思ったんだけど、どうも逆効果に働いたみたいなんだ。その理由が分かるかと思ってな」

「なるほど。その魔力コントロールの指輪はみゆちゃん専用な所があるからね。ほら、普通の人は魔力が暴走したら内の魔力が外に向かって爆発するでしょ。でもみゆちゃんの場合は外に垂れ流しになって、それが体を収縮させているのね。だからその指輪には若干外に向けての力が働くように効果が付与されているんだ」

「ほう。つまり普通の人が付けたら、魔力が少し暴発気味に外に向かってしまうって事か」

「そんなに大きな力じゃないし、体が強化される分、魔力コントロールできない人にとってはコントロールしやすくはなると思うけどね」

とりあえずこの指輪がみゆき以外には合わないってのは分かった。

「では何故コントロールがやりやすくなったみゆきだけが、魔素の濃い所でより調子が良くなったんだろう」

この指輪によってみゆきが普通の人に近くなっているのなら、みゆきだけが調子良くなるわけがないのだ。

いや、指輪にこだわらずに考えてみたほうがいいのかな。

みゆきが特別なのは、乱馬の話の通りじゃないか。

「みゆちゃんだけが特別な可能性もあるよね」

みゆきが特別なのは、魔力が外に流れて体を収縮させる所。

そこに秘密があるかもしれない。

例えば‥‥。

「例えば魔素には、体を膨張させる効果があるとか?魔素は魔力を高めるのにも使われる。体の中に取り込まれ魔力を膨らませているのかもしれない。でもみゆきにとっては、それはコントロールの助けになる」

魔素によって気分が悪くなるのは、低気圧で体調が悪くなるのと似た所があるのかもしれない。

「その可能性は高そうだよね。だったら面白い方法があるよ。その指輪の魔力の流れを逆にして効果を反転させるんだ。更にパワーも上げれば、魔素耐性リングになるかもしれない」

「そんな事ができるのか」

でも電磁石みたいなのを想像すれば、電流の流れを逆にする事でS極とN極を反転させる事ができるようにもなる。

「よし、やってみよう」

「作り変えるのに数日はかかりそうだね」

「いや、俺のアイテム作りのスキルと魔法が有れば、その程度は数分だ」

俺はその場で魔法を発動し指輪の効果を逆転させる作業へと入った。

「流石策也。僕にそんな力が有ればもっと沢山魔法研究ができんだけどね」

「それはそうだけど、乱馬はもう不老不死みたいなもんなんだし、時間をかけてゆっくりとやりたい事をやってもいいんじゃないのか?」

「確かに。それは策也に感謝しているよ」

話をしている間に魔力の流れは逆転させられた。

後はパワーアップだ。

確か電磁石ならコイルを巻く量によってパワーが変化したはずだ。

魔力が巡る量を増やす為にリングを周回するようにしてみよう。

俺は指輪を更に改造していった。

「できた」

「僕の作ったのよりもパワーが有りそうだね」

「分かるのか?」

「これでも一応魔法研究者だからね。魔力の流れくらいは感じられるよ」

「流石だな」

俺はできた指輪を付けてみた。

「このままだと少し魔力が抑えられている気がするな」

もしもこの状態が日頃のみゆきの状態だとするなら、自然と魔力セーブされている可能性がある。

本当の意味でちゃんと魔力コントロールができるようになれば‥‥みゆきは末恐ろしいな。

「でもそれで魔素の濃い所でも行けるんじゃないかな」

「行けそうな気がする。乱馬サンキュー!試してくるわ」

「うん。その内結果も教えてね」

「早く知りたければ資幣に聞いてくれ。じゃあな!」

俺はそう言いながら瞬間移動魔法で魔界の扉まで跳んだ。

今度は上手くいきますように。

俺は指輪をはめて魔界へと行ってみた。

すると魔素の苦しさが全く感じられなかった。

成功だ。

これでみんなも一緒に魔界に行けるな。

俺は早速人数分の指輪を作るのだった。

それにしても思わぬ勘違いから、新たなマジックアイテムができる事もあるんだね。

失敗の中にも成功有りだな。


魔界への旅の準備をしている間に、炎龍王国の王座問題も解決した。

ボスドラゴンがすっかり改心した事で、一名を覗いて全員が七魅の傘下に入ったのだ。

ただ最初に環奈に負けたドラゴンだけは、九頭竜に使役されていた事でどうにもならなかった。

直ぐに王国から出ていったようだった。

とりあえず問題が全てクリアになり、準備が整った俺たちは、未知の世界『魔界』の冒険へと足を踏み出した。

魔界はずっと雲に覆われているような少し薄暗い世界ではあるが、何も見えない闇の世界という訳ではない。

そして悪魔っこたちの話によると、魔界は人間界と同じだけの広さがあって、緯度経度といい表していいのかは分からないけれど、それが全て同じというか繋がりがあるらしい。

だから魔界の扉があった位置を記した人間界の地図は、そのまま方向と距離を測るのに使える。

ただし悪魔っこたちの魔界の扉は俺が強制的に炎龍王国へと移動したもので、本来あった場所こそが魔界での位置という事になる。

つまり魔界でいう西の大陸よりも東の大陸の方が魔素が濃かったわけで、可能性としては東の大陸の西側に魔素を濃くする原因があるのではと考えられた。

あくまで可能性の話であり、とりあえず西に向かいつつ、魔素がどう変化するのかを確認しながら進む事になる。

そして道案内として、悪魔っこたちの仲間であるジャニーズが行動を共にしてくれる事になった。

「魔界に住む我々の為にありがとうございます」

「いや。これは俺たちの為でもあるしな」

魔界の魔素が濃くなり続ければ、悪魔は魔界で生活できなくなる。

そうなれば当然生きる為に悪魔は人間界へと来るだろう。

難民というわけだ。

魔界に悪魔がどれくらい住んでいるのかは分からないが、大量の難民が一気に押しかけてくれば、当然人間界はパニックになる。

オーガですら今少しずつ理解していこうという段階なのに、悪魔と共に暮らせと言われてもそれは無理な話。

ついこの前には、町を二つも全滅させられているのだ。

個人で見れば全く違う人だと言っても、一般国民にとっては区別を付けられるほどの情報もない。

しかも今でも悪魔は魔王を英雄視していたりもするわけで、あながち別とも言えなかったり。

俺はみんな一緒に暮らせる方が良いと思うし、そういう国として神武国を建国したわけだが、今はまだ理想である事も重々承知していた。

悪魔が千人入ってくるだけでも、治安維持が難しくなるもんなぁ。

移民難民を受け入れるのなら、まずは受け入れられる体制づくりから始めないとね。

そんなわけで今は魔界の魔素をなんとかするしかないのだ。

気合を入れ直して西へ向かって歩いていると、やはり少し魔素が濃くなってきている気がする。

皆もそれを感じていた。

俺は念の為濃くなってきていると思われる魔素を大量に集めておいた。

今後行く先との濃度を比べる為、或いは魔素自体研究しておきたいからね。

「わしは平気じゃが、皆は大丈夫かのぉ?」

「俺は全く問題が無い。と言いたいが、ちょっと不快な気分にはなるな」

「わたくしも同じです。ですが魔力耐性の高いエルフですから、問題はありませんね」

「金魚も平気なんだよ。いざとなれば幽霊に戻れば大丈夫なんだよ」

「うちもいざとなればジョウビタキに戻るピヨ」

となると洋裁も大丈夫だな。

おそらく陽菜と同じ感じだろうし。

案外一番ヤバいのは、案内役のジャニーズかもしれないな。

もしも駄目なら里に戻ってもらう事になる。

そうでなくてもその内足手まといになるだろうし、ある程度魔界を理解できたら戻ってもらった方がいいだろう。

俺たちは慎重に魔界を歩いて行った。


魔界に来て三日が経った。

そろそろ魔界らしさが景色や魔物に現れてきていた。

「この辺りの魔物はそこそこ強いのぉ」

「そこそこじゃないんだよ。割と必死なんだよ」

「そういう割に金魚もまだまだ余裕がありそうですよ」

流石に三日も歩けば、悪魔の里からはかなり離れている。

そうすれば魔物が生息するエリアもドンドン増えてきていた。

人間界にいる時よりも当然数は多いし凶暴に感じる。

とはいえ俺や環奈は、魔界の扉が開いていた時に似たような状況は経験しているので、そんなに驚く事でもなかった。

そして戦い始めれば人間界にいた時と同様に、移動するペースも上がって行った。

気が付けば魔界の海に近い所まで来ていた。

「おいおい。コレが魔界の海なのか?」

「なんだか不思議じゃのぅ」

「どうなっているんでしょうね、コレ」

「海が山みたいになってるんだよ」

金魚の言う通り、正に海が山だ。

本来地表よりも低い部分に水が溜まっているのが海のはずなんだけれど、魔界の海は天地が逆さまになっている。

本当に不思議な光景だった。

俺はこの海の中を行く為に、一度皆から住民カードを預かった。

そして常態魔法を付与していく。

「とりあえずみんなのカードには水中呼吸と会話ができるように常態魔法を入れておいた。これで海の中を歩いていけるようになるわけだが、本当に此処を歩いていくのか?」

「はい。我々は普通に海の中を歩き狩りをしています。慣れれば陸とそんなに変わりませんよ」

簡単に言ってくれるな。

こっちは違和感バリバリだっちゅーの。

海に向かって歩いて行くと、地上を歩いているのに徐々に足が水に浸かっていく。

そして頭まで水に浸かった時、水中を逆立ちして水面を歩いているような感じになる。

水圧はほとんどなく、山になっている上の方の海に行かない限り大丈夫らしい。

海の中だと空に魚が泳いでいるようで面白いし、歩いてみると思ったほどの問題はなかった。

「不死な世界といった感じですね」

「魚が空を飛んでるんだよ」

「海の中に木が生えとるぞぃ」

「海藻って感じなのかな。どう見ても木だけどな」

浮力を感じなければ、本当に海の中とは思えない感じだった。

ただ魔界は雲が厚く薄暗いような状態がデフォルト世界なので、海の中を進むにつれて徐々に見えづらくなっていった。

「一応ライトの魔法は付けておくか」

俺はなんとなくライトをつけた。

するとジャニーズが声を上げた。

「駄目です!ライトをつけると魔物が集まってきますよ!」

「へぇ~。そうなんだ」

俺は別に意地悪をするつもりはない。

でもどう考えてもそっちの方が面白そうだ。

というか、みんなそちらを望んでいる気がして、俺はライトをつけたままにした。

「海の魔物と戦うのは初めてかのぅ」

「雷剣は注意して使わないとみんなにダメージがいきそうですね」

「金魚は幽霊に戻れば何も問題ないですが、氷剣を使うとどうなるんでしょうか。試してみたいんだよ」

「あっ!魔物が寄って来たピヨ!」

「グーグー‥‥」

集まってきたか。

つか洋裁も出てきて遊べばいいのにな。

住民カードに魔法を登録する時にはたたき起こしたが、またナイフに戻って眠ってるんだもんな。

ドラゴンって実は自堕落種族なのかもしれない。

何時も寝ているイメージだしな。

さて、それよりもどんな魔物が集まってきたのか。

魚のような動きか。

「どうやら集まってきたのは人魚のようじゃのぉ」

「人魚だと?!」

そりゃいるか。

俺が六歳の時に不老不死になったのは、人魚の肉を食べたからだと岩永姫が言っていた。

なんとなく言われてそんな気もするし、人魚の肉は一応集めておきたいな。

そんな効果のある肉なら、別に何か使い道があるかもしれないし。

「水の中だけどみんな戦えるか?電撃の魔法だけは使うなよ」

「地上と同じようにとはいきませんが、余裕ですよ」

「少し動きにくいようじゃが、なんとかなるじゃろぅ」

「翼も使えそうです。いざとなれば幽霊に戻って逃げるんだよ」

「忍者刀で刺身にしてやるピヨ」

「グーグー‥‥」

ワザワザ『グーグー』は必要ないだろう。

面倒だから勝手にやっちゃってって感じかな。

俺たちは人魚たちを迎え撃った。

流石に地形効果のマイナス分は戦いづらかったけれど、俺たちに負ける要素は無かった。

「凄いですね‥‥あなた方。我々だと里の全員集まっても勝てないだろうというのに、この人数で楽勝ですか」

ジャニーズは驚いていた。

どうやら悪魔といってもやはり強いのから弱いのまでいるわけで。

人間界に魔王と共に侵攻してきた悪魔は兵隊であり、この程度なら十分倒せるレベル。

でも魔界に住む悪魔は一般人なのだ。

もちろん悪魔の基礎能力は人間を遥かに上回るが、それでも一般レベルではマスタークラスがせいぜいだった。

「ところで人魚の肉は不老不死の効果があると聞いてるんだけど、それは本当なのかな?」

「そのような話は聞いた事がありますが、食べたら駄目ですよ。人魚の肉には猛毒があり食べたら即死です。上手く処理すれば食べられるという話もありますが、私どもには無理ですね」

「そうなのか‥‥」

なんだかフグみたいだな。

それに半分人間みたいなもので、正直食べる気がしない。

つか俺、こんなの食わされたんだなぁ。

ちょっとショックだ。

とは言え、そもそも俺はなんで岩永姫の所へ行って人魚の肉を食べる事になったのだろうか。

どうでもいいっちゃどうでもいいけど、ちょっと気になった。

集まって来た人魚の群れを撃退した俺たちは、更に海を進んでいった。

「この辺りは人魚の森だったようだな」

「海の中に森とはおかしな感じじゃのぉ」

本当に魔界は規格外だよ。

どう見ても景色は海の中の森だった。

さて、行く海はドンドン深くなる‥‥というか高くなる。

やっぱり魔界の海は表現が難しいよ。

そんな中でもライトのおかげで色々な海の魔物が寄ってくる。

そのたびに俺たちは撃退して進んでいった。

「そろそろ疲れた者もいるようだし、結界を張ってこの辺りで飯にするか」

俺は結界を張って海の中に空気のある空間を作った。

異次元収納には人間界の空気も沢山入れてあるので大丈夫。

まさか空気とか入れておいたのが役立つ時がこようとは。

エアゴーレムに必要だから相当あるんだよね。

そして結界内に移動用の家を取り出した。

これで普通に夜も過ごせるだろう。

と言ってももう昼も夜もよく分かっていないのだけれどね。

それでも睡眠は必要だろうし、霧島と交代でやれば睡眠時間も確保できる。

結界を黒色にして光が漏れないようにすれば魔物も寄ってはこないはずだ。

多少寄って来た所で簡単にやぶられる結界でもないけどね。

俺たちは飯を食べ、そしてまた海を進み、偶に睡眠をとりながら海の中を進んでいった。

おそらく四日ほどが過ぎた。

海はかなり高くなり、人間世界だと超深層と云われる六千メートル級の所まで来ていた。

「ここまでくると魔素の濃さが分からないな」

「一応方向はしっかりと調べてきています。方向さえ間違っていなければ大丈夫でしょう」

エルの言う通り、俺たちは間違えないように北西に向けて進んできた。

このまま行った先におそらく魔素が最も濃い地域があるのは間違いないはずだ。

ただ海の中、或いは海の上にあったら見逃してしまう可能性はあるな。

その時は地上に出てから改めて調べないといけない。

そんな事を思いながら最も海が高い所を歩いていると、前方に地面が黒くなっている所を発見した。

直径三メートくらいの闇の穴だった。

「おいおい。もしかしてコレは深淵の闇じゃないのか?」

「確かに精霊界で見たのと似ておるのぉ」

「いえいえ、これはそんなものではないと思います。海の落とし穴でしょう。私も話にしか聞いた事はありませんが、落ちると死ぬようですから気を付けてください。そこに落ちた人は死体となって浮いてきたそうです」

海の落とし穴か。

死体が浮いてくるという事は深淵の闇ではない。

でも浮いてくるってどういう事だ?

「どんな風になって浮いてくるのか、詳しい事は分からないのか?」

「私も詳しくは分かりません」

これは試してみたいな。

俺は海の落とし穴とこの辺りに結界を張った。

「なんとなく黒い水たまりのようにも見えるな」

「下手に触れない方が良いように思いますが、まあ策也なら何かするんでしょうね」

「当然だな。まずは前に確保したゴブリンの死体を放り込んでみよう」

俺は異次元収納からゴブリンの死体を取り出し穴に投げ込んでみた。

すると遺体は間もなく、押しつぶされたように落とし穴表面に張り付いてた。

そして魔界へと押し出されてくる。

俺は妖糸でそれを拾い上げた。

「これは水圧によって押しつぶされたように見えるな」

「とにかくヤバそうじゃのぉ」

今度は異次元収納から、ゴーレム用に作ったダイヤモンドミスリル製の骨を取りだし、それを闇に浸けてみた。

すると骨にヒビが入り、しばらくすると割れた。

「中が空洞になっているからな。圧力で割れたか」

「ダイヤモンドミスリルが割れるなんて。マスタークラスの能力者でも確実に死にますよ」

「確かに凄い圧力だな。でも多分俺なら行ける。エルでもおそらく大丈夫じゃないかな。それにここには何処だって自由に行けるヤツがいるじゃないか」

俺は金魚を見た。

マスクをしているから目は合わないけどね。

「わ、私ですか!?確かに幽霊に戻れば行けてしまうかもなんだよ」

「そして俺にも秘策がある。圧力相手なら金属の塊であればいいわけで‥‥」

俺は異次元収納からオリハルコンを取り出した。

それを魔法で球状に変えた。

「こいつに俺の魂を憑依させて中を調べさせる。どの程度の圧力なのか、そしてこの中が一体どうなっているのか。或いは別世界へと通じている道なのか」

実はなんとなく想像はしている。

この海の落とし穴の先。

「まずは俺のオリハルコンボールが入ってみる。大丈夫そうなら金魚も一緒についてきていいぞ」

「ついてきていいぞって、大丈夫そうならついていくんだよ」

俺は玉ゴーレムを穴の中へと投げ入れた。

かなりの水圧だが、流石にオリハルコンの塊だけあってどうという事はなかった。

「中は面白いな。浮力と重力が逆になっている。ゴブリンがこちらの世界に浮いてきたのは、向こうの重力変化のせいだな」

「もしかすると向こうの世界の海の底に、同じように海の落とし穴があって繋がっているのかもしれませんね」

「そうなると向こうの世界が何処だか想像がつくな。金魚。多分大丈夫だ。玉と一緒にとにかく中の海を突き進んでみよう」

「分かったんだよー」

金魚は、金魚が水の中へ飛び込むように海の落とし穴へと入って行った。

中で玉ゴーレムと合流し、あちら側の海を重力に逆らって進んでいった。

最初は真っ暗だった海も徐々に何かが見え始めてくる。

水圧は最初よりも下がってきていた。

「おそらくここは人間界の海だな」

「そうなんですか?そうすると海の底で魔界と繋がっていた事になるんだよ」

「でないと説明できないだろ?魔界の扉は全て陸にあるのに、海の魔物も人間界には存在する。人魚やクラーケンだな。そして人魚はともかくクラーケンは超巨大にも関わらず存在する。魔界の扉の一番大きなヤツでも通れないくらいの大きさだ」

おそらく百メートル級の海の落とし穴があって、そこから行き来していたに違いないのだ。

更に水圧は下がり、俺たちのよく知る海の景色へと変わっていった。

そして玉の俺と金魚は、よく知る人間界へと戻ってきていた。

「魔界と人間界は場所が重なっているというから、此処は有栖川領の西側の海のはずだ」

「凄いんだよ。一面海なんだよ」

しかしこんな海のど真ん中で海へもぐれば、そこは魔界と繋がっているなんて誰が想像するだろうか。

いや、深い海を深海と云うのは、神界と重ねている部分もあるのだろうか。

神の世界では無かったけれど、人間の想像力は大きくは外れていないのかもしれない。

「戻るか。これはこれで面白い発見だった」

「そうですね。冒険の感動ってのを味わったんだよ」

俺たちは元来た海を戻った。

少し海流に流されて迷いもしたが、俺たちは無事魔界へと戻って来た。

状況は既に本体の俺が話しているので皆も理解していた。

「それで一応言っておくが、もしもこの中に落ちる事があっても、魔力を最大まで高めればだいたい何とかなるだろう。ただ、陽菜はジョウビタキに戻らないと五秒も持たない。気を付けてくれ」

「分かったピヨ。それでこの逆魔力コントロールの指輪も良くないピヨね?」

「そうだな。それは内からの圧力を抑えるものだから、海の中で魔素の影響を受けない間は外しておいた方がいいかもな」

尤も、穴を見つければ俺が常に結界で塞げば安全だし、落ちた時に結界で守っても間に合うだろうから、そんなに心配しなくても大丈夫だとは思うけどね。

それよりも、海の底に魔界へ通じる道があったのは助かる。

魔界の扉が無くても人間界へは確実に帰れるからな。

「それとジャニーズだが、この辺りで里に戻った方が良いかもしれない。魔界の事もある程度わかってきたからもう大丈夫だろう。魔界でも瞬間移動は使えるから最悪聞きに戻るかもしれんが」

「分かりました。私はこの辺りで戻るとしましょう」

「じゃあ瞬間移動魔法で送る」

こうしてジャニーズは此処で悪魔の里へと戻る事になった。

足手まといは連れていけない予感もするんだよね。

この先の海にはきっと‥‥。

仲間たちはワクワクしていた。

2024年10月4日 言葉を一部修正

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