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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔界編
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木花咲耶姫の洞窟

古事記に書かれた日本の神話に、こんな話がある。

天孫降臨したニニギノミコトは、木花咲耶姫だけを娶った事で永遠の命を失った。

しかしこの時、未来永劫国が繁栄する事だけは約束されたのだ。

この選択は良かったのか、それとも間違いだったのか。

俺はなんとなく、日本はそれで良かったんだと思う。

桜は散るが故に、咲いた時により美しく感じるのだから。


再び旅を再会して数日が過ぎた頃、俺の住民カードに一通のメールが届いた。

送り主はエルだった。

『全てが片付いたので、再び冒険の旅にご一緒させてください』

俺は早速エルを迎えに行った。

「わたくしはようやくエルフ王を辞めてきましたよ。後は別の国の王子だったレガシィという者に全て任せる事になりました」

ふむふむ、なんとなく名前的には落ち着くな。

「そうなのか。で、新しい王はちゃんと神武国との連携なんかやってくれるのか?」

「大丈夫ですよ。父親が大国に上手くやられた事を相当に悔しがっていた彼です。戦闘力もわたくしよりも高いですし、話がある時は私からしてもかまいません。一応地位は私の方が上という事で席は残してありますから」

王様よりも上の地位か。

上級王とか大王とかかね。

「それなら安心だな。ところでエルは金魚と会うのは初めてだよな」

「そうですね。初めまして。昴流エルグランドと申します」

「あ、はい。わた、わた、私は兎束小麟、じゃなかった。仁徳金魚と申します。よろしくです」

金魚は幽霊の姿から人間の姿に戻って挨拶していた。

かなり緊張しているらしい。

まあエルはいい男だからな。

本物の女ならこういう反応もするだろう。

今までまともな女がパーティーにいなかったからなぁ。

遠い目。

挨拶を終えた俺たちは、再びワサモンの町へ向けて歩き出した。

ワサモンの町には、その日の内に到着した。

町は割と新しいように見えたが、所々とても古びていて、今町を再生しているようなそんな雰囲気だった。

「旅を再開してから初めての町だな」

「一体どんな町なんですかね?」

「とりあえずいつも通りギルドでチェックするかのぅ?」

「そうだな。とんでもないニュースもあるかもしれないし、目的の無い旅だ。じっくり町を楽しんでいきたいよな」

ニュースは大聖や資幣でもそれなりにチェックはしている。

特に大聖は一国を預かる身として必要だからね。

でも逆にやる事も多々あるわけで忙しくもある。

今は諜報機関の設置とメール暗号化システムの登録業務でかなり忙しい。

全国に二つしかない携帯ショップで、それぞれ一人ずつしか受付がいないような状況なのだ。

そりゃ忙しくて当然だった。

それでもその業務ができるのは大聖と資幣だけだし、このシステムはしっかりと定着させたいから俺は頑張っていた。

俺じゃなくムジナだけどね。

ギルドに入ると、まずは食事にした。

転生もののアニメやなんかだと、食事は圧倒的に不味いのが基本である。

そんな所に転生前の世界の物を持ち込んで、『ウマー』ってやるのが定番だ。

でもこの世界は、そこそこ美味しかったりする。

凄く美味しい物はあまりないけれど、ファストフード店で食べられるくらいの美味しさはあった。

食事の後はギルドの無料端末でニュースのチェックだ。

そしてこれからの旅では、町の情報なども見る事にする。

「特にヤバいニュースは無いな。ニュースを見て慌てる事多いから、マジでニュース見るのが怖いわ」

「策也殿でも怖いもんがあるんじゃのぅ」

「そりゃあるよ。気が付けば背負ってるものが多くなりすぎた。俺の肩じゃ背負いきれない」

何処で間違ったんだろうなぁ。

最初はこんな世界、ただ自分だけが好き勝手生きられたらいいと思っていたのに、気が付いたら捨てられないものばかりだよ。

「策也なら大丈夫じゃないですか。それに心強い仲間も多いですし」

「そうじゃそうじゃ。誰かを殺すならわしに任せてもろうてもええぞぃ」

環奈は相変わらずだな。

これが黒死鳥の習性なのだろうか。

でも理性を持って行動もできる。

もしも俺に力がなかったら、俺は環奈をどう見ていたんだろうな。

「金魚には何ができるのか分からないんだよ。でも見捨てられないように頑張るんだよ」

「いやいや、金魚には多分今後色々助けてもらうと思うぞ。この世界の貴族の事とか、やっぱり中に入らないと分からない事もあるからな。そういうのを教えてほしい」

「そう言ってもらえると嬉しいんだよ!あの嫌な日々が役立つ時がこようとは‥‥グスン」

いやマジで金魚が仲間になってくれて助かる。

悪いヤツが何考えているとか、そういうのってなかなか見抜けないからな。

俺には前世での歴史知識くらいしかなくて、そこから色々当てはめて考えるくらいが関の山だ。

最初は、『この国は転生前のこの国と似てるかも』とか思っていたけど、実際はやっぱり違ってるもんな。

この世界の国はこの世界でしっかりと見て判断しなくちゃ。

そんなわけで、この町の事も調べておくか。

俺はワサモンについての情報をあさった。

すると一つ面白いものが出て来た。

「ほう。木花咲耶姫の洞窟だってさ。世界で最も古いダンジョンの一つで、地下三階層、既に攻略は終わっているから自由に出入りできるらしい。町のすぐ南にあるな」

「聞いた事はありますね。ただ本当に何もなくて、今では誰も入らないようですよ」

「でもさ、攻略が終わるとなんでダンジョンには魔物が出ないんだろうな」

前々から不思議だったんだよな。

アイテム系ボスモンスターなんかは倒せば二度と出現はないんだけど、それ以外は自然と復活したり増えたりする。

洞窟の中で生態系ができているようなのは分かるけど、ボスモンスターなんかは何故一体だけで復活するのだろうか。

魂を蘇生している誰かがいるにしても、魔物は人間界での蘇生は不可能なのに。

ヒューマンとして、或いは動物や植物として復活してしまうよね。

「その辺の事は少し知ってるんだよ。一つは生態系に組み込まれているモノ。他には魔生の魔石によるモノ。それとダンジョンは地下にある事で、暗黒神の住む暗黒界の影響を受けているという話があるんだよ」

「暗黒界?そんな世界が存在するって話は今までに聞いた事がないな」

この世界は基本、天界、人間界、魔界の三つで、更に妖精界、精霊界までは間違いなく存在している。

天界以外は確認済だからな。

それ以外にも暗黒界ってのがあるのか?

「あくまで学説の一つなんだよ、闇魔法には暗黒神や邪神、悪神や禍津日神など闇に住む神の力を借りますよね。ではそれらの神は何処に住んでいるのかって話になるんだよ。その世界を暗黒界と呼ぶのが今、通説になってきているんだよ。通説と言っても学者貴族界隈だけですけれどね」

確かに暗黒神は存在する。

それが何処にいるのかは分からないけれど、その場所を暗黒界と呼ぶなら、それはそれで納得できる話だ。

もしかしたら天界の一部かもしれないし、この世界のどこかにあるのかもしれない。

完全な別世界でなくてもいいのだ。

「深淵の闇の中という可能性はないかのぅ」

「それはありそうな可能性だな」

「深淵の闇ですか。精霊界に行かれた時に倒したバクゥが作り出した世界ですよね」

「入って帰って来た者がいないですからなんとも言えないんだよ。でもそこにはきっと何かしら世界が存在するんですよね」

俺は人間界にできた深淵の闇が精霊界に繋がっていたと思っている。

でも精霊界の深淵の闇は別だと感じた。

深淵の闇も世界によって違うか、或いはモノによって違う可能性もあるんだろうか。

「考えても答えはでないな。それにそんな所に行く機会もないだろうしさ」

俺今、フラグ立てたんじゃないだろうか。

漠然とした不安が襲ってきた。

「その辺りも今後調べてみるか。とりあえず明日はその木花咲耶姫の洞窟、行ってみるぞ」

何か予感のようなものも感じながら、俺は自分の名前と同じ洞窟へもぐる事を決定した。


次の日の朝、俺たちは木花咲耶姫の洞窟の入口まで来ていた。

此処に入ろうなんて人は誰もおらず、ダンジョンの入り口というよりは、本当に洞窟の入り口といった雰囲気だった。

「とくに何も感じん場所じゃのぉ」

「ただの洞穴って感じがしますね」

「長い間多くの人が挑戦して、完全に探索が完了しているんだよ」

みんなはそういうが、ここへきて感じる。

やはりまだ何かあるような予感が俺にはあった。

それは暗黒界への入り口なのか。

それとも別に何かがあるのか。

「とにかく入って確かめよう」

俺は皆に声をかけてから、洞窟へと足を踏み入れた。

まずは一階からだ。

本当に普通の洞窟といった感じだった。

蛇が尻尾から落ちて来る事も無ければ、何かで磨いたような白骨も転がっていない。

とりあえず全て見て回ったが、あらかじめ入手してた地図以上のものは何もなかった。

続いて二階層目。

光の魔法でライトを付けないと完全な闇の世界。

ライトの魔法で照らして隅々まで確認したが、特に何も新しいものは見つからなかった。

俺たちは三階層目に入った。

「魔獣もおらんようじゃのぉ」

「悪い空気は何一つ感じません」

「掘ればレア鉱石くらいは出てくるかもしれませんが‥‥何もないんだよ」

やはりみんなは何も感じていないようだけど、俺だけは何かがあるという確信のようなものがあった。

どういう事だろうか。

俺と同じ名前を持った洞窟。

こっちだ。

こっちに行けば何かがある。

俺は自分の感じるままに洞窟を奥へと進んでいった。

地図によると、洞窟の最奥の『部屋』とされる場所に到着した。

かつては何かがあったようだが、今は何も無いように見えた。

ただどこかで見た事があるように感じた。

「ふむ。何も無いように見えるのぉ」

「かつてここには、誰か偉い人が住んでいたようにも感じますが、それだけですかね」

「正面に見えるのは椅子なんだよ。でももうそれすらも分からないくらいに朽ちてるんだよ」

椅子か。

確かに朽ちていてそうだと認識するのも難しいくらいだが、この部屋は城の謁見の間のような構造をしている。

もしも何かあるなら、椅子の裏とか奥の壁だよな。

俺はそこを邪眼も使って調べてみた。

しかし何も見つからない。

それでも何かを感じる。

「帰るかのぉ」

「そうですね。完全に終わっているダンジョンです」

「冒険楽しみだったから残念なんだよ」

やっぱり何もないのか。

つか金魚のヤツ、残念とか言いながらホッとしてるだろ。

でもやったアイテムを試したいとか言ってたし、残念なのは本当かな。

俺は朽ちてほとんど座る所もない椅子へと腰掛けた。

もうほとんど座る所がない椅子だったが、子供の俺にはギリギリ座る事のできるスペースが残っていた。

するとその瞬間、部屋の空気が一変した。

「なんだ?何が起こった?」

「この部屋ごと下に落ちている感じがするのぉ」

「これは転移ゲートでしょうか?部屋ごと別の場所へ移動させられています!」

「海なんだよ!金魚たち海の中なんだよ!」

この感覚、以前にも感じた事がある。

それもそんなに昔じゃない。

なんとなく分かる。

確かに此処は海の中なんかじゃなく、何処かで感じた事がある‥‥。

そうだ、試練の洞窟だ。

その洞窟で試練を乗り越えたものは、願いを叶える為に必要な何かを手に入れる。

俺はあの時玉手箱を貰ったんだ。

その中に入っていたものはクラーケンの腕輪。

となると俺の願った事というのは、みゆきを助ける事だったのだろうか。

覚えてはいないけれど、猛烈にそんな気がする。

ならば良かったな。

そう思った所で、海の中にいるような状態は終わった。

俺たちはいつの間にか、先ほどの部屋へと戻ってきていた。

いや、同じ間取りだが、全てが新しかった。

そして俺は椅子の前に立ち、椅子には綺麗な女性が座っていた。

どことなく岩永姫に似ている。

俺は直観で、この人が木花咲耶姫なのだと理解した。

「ようこそ木花咲耶。あなたは此処に来るのは二回目ですね」

やっぱりそうなんだ。

「そうみたいだな。でも確か此処に来るためには試練の洞窟を通ってきたように記憶しているが‥‥」

「それは此処に来るための一つの方法にすぎません。今回は別の方法を使ってこられたようです」

「別の方法?」

「あなたはあなたの使命、或いは運命を受け入れる覚悟をしたのです」

「よく分からないな」

「分かる必要はありません。それよりも今回は、お仲間三人、いえ五人もご一緒なのですね」

五人?

ああ、洋裁と陽菜もいたな。

「何かマズい事でも?」

「いえ。それがあなたの選択という事でしょう」

「選択ねぇ」

確か岩永姫も言っていたな。

木花咲耶姫を選択したとかなんとか。

「それで俺たちはどうしてこんな所に来たんだ?」

「それはきっと、木花咲耶の誓いの為。かもしれません。それと皆さんはそれぞれに願いや希望があったのではありませんか?それを叶える為に必要な何かを取りに来たのかもしれません」

願いや希望を叶える為のものか。

「なんじゃこの箱は?」

「わたくしの前にも何やら箱が現れました」

「金魚もなんだよ!でもとっても小さいんだよ」

「ピヒィー」

「そして俺の前にも一つ箱がねぇ‥‥これは玉手箱だよな」

なんとなく覚えている。

玉手箱に違いないのだ。

「その通りですが、木花咲耶の前にある玉手箱は、あなたのモノではなくそのナイフの人のモノです」

なるほど、洋裁のか。

「じゃあ俺のは?」

「あなたは一度貰ってますから、もう二度とあなた宛てに玉手箱が現れる事はありません」

なんとそうだったのか。

一回きりの玉手箱。

それで貰ったのはクラーケンの腕輪だった。

みゆきの命を助ける為に使えた訳だし、今も使っているんだから、これ以上は望めないよな。

「そうだな。それに別に玉手箱なんて欲しいと思わないし」

いやちょっと欲しいけど。

「じゃあちょっと開けてみるかのぉ」

環奈が玉手箱を開けようとした。

すると木花咲耶姫は椅子から立ち上がり、素早い動きでそれを止めた。

「ちょ、ちょっと待ってください。あなたは最後に開けるようお願いします」

「ん?順番が決められていたりするのか?」

「いえ、そういう訳ではありませんが、こちらの都合が悪いので」

なんか木花咲耶姫が必死だな。

「よく分からないけど、環奈は開けるの最後らしいぞ?」

「ようわからんが早く開けてみたかったのぉ」

環奈はめいいっぱい残念そうだった。

「環奈が早く開けたいみたいだから、とりあえず他のヤツ、順番に開けてみたらどうだ?望みを叶える為に必要な何かがあるらしいぞ?」

「ではわたくしから開けてみますか。特に望みも欲しい物も思い当たらないんですけれどね」

そう言ってエルが最初に玉手箱を開けてみた。

中には何やら赤と白の衣装が入っていた。

俺は邪眼で鑑定してみた。

「イフリートの衣装だそうだ。イフリートの能力が付与された物だとは思うが、効果は着てみないとなんとも言えないな」

「ではちょっと着てみますか」

エルは着ていた上着を脱いで、イフリートの衣装を羽織った。

するとエルの髪が赤く変化していった。

「おお!なんか凄いぞ?」

「これは炎の力が得られる防具のようです。わたくし炎系の魔法は苦手でしたが、これなら雷剣と合わせて全属性の魔法が使えそうです」

イフリートの衣装を着たエルは、なんだか燃えているようだった。

「つかそれ、熱くないのか?」

「どうやら策也が衣服に付与している温度調整機能のようなものが働いているようです」

そういう事なら大丈夫そうだな。

「じゃあ次、金魚が開けてもいいですか?」

「おう」

さて金魚には一体何が出てくるんだろうなぁ。

金魚が玉手箱を開けると、箱から煙のようなものが噴出した。

「おい!ヤバくないか?まさか死にたいとか言っていたから、これで死ぬとかってないよな?」

煙が晴れると、そこには何も変わらない金魚が立っていた。

「何もかわらんのぉ」

「そうですね。箱には何も入ってないようですし」

「いや、金魚の雰囲気、何かが違う」

そして魔力も今までと比べて格段に大きくなっていた。

「これは嬉しいんだよ!髪の色がウィッグ無しに水色になったんだよ!」

「それだけですか?」

いやそれだけじゃないんだけど、金魚はそれだけで何故か大喜びだな。

「はいそれだけですが、実体化した時前の姿のままだと、結局死んでも兎束小麟のままなんだよ。これでちゃんと死ぬ事ができた気がします」

つか死んでないんだけどね。

幽霊になる能力を得ただけだから。

まあでも今回姿が少し変わった事で、今までの兎束小麟は死んだと言えるのかな。

「ピヒィー」

「じゃあ次は陽菜だな」

陽菜はくちばしで箱を開けた。

こちらも金魚の時と同様に箱から煙が出て来た。

おそらく今回も姿や能力が変わるんだろう。

煙が晴れると、そこには一人の女の子が立っていた。

歳は十三・四歳くらいに見える。

環奈に似ていて片側ポニーテールだが、左右が逆だ。

身長は環奈と同じくらいか少し小さくて、セーラー服は夏服という違いがあった。

つかほとんど環奈のコピー姿。

「お前、陽菜なのか?」

「そうだピヨ!人間に変化できるようになったピヨ!」

おいおい、せっかく鳥語を覚えさせたのに、今度は人間になるのかよ。

もう面倒くさいからこのままでいいか。

そしてこいつも割と魔力が強くなってるな。

「環奈にそっくりですね」

「うむ。わしの妹のようじゃ」

「うち、妹ピヨ!嬉しいピヨ!」

「とってもかわいらしいんだよ」

陽菜が人間にか‥‥。

確かにジョウビタキのままにしておくのもどうかとは思っていたけど、これが本人の願いだったとはね。

いや、願いを叶える為に必要な事だから、本当の願いは他にあるんだろうけど。

住民カード、用意しておかないとな。

適当なカードの内容を、意識共有で大聖に変更させておいた。

「次は洋裁だけど‥‥」

俺がそういうと、洋裁は眠そうな顔で現れた。

「話はなんとなく聞いていたよ。自分の望みは自由なんすけどねぇ。その為に何を出せるというのやら」

洋裁はおもむろに玉手箱に手をかけた。

「それではみなさんさようなら。木花咲耶、その選択があなたの幸せである事を祈ります」

「ん?木花咲耶姫?」

洋裁が玉手箱を開けると、辺りは光に包まれた。

「今度は何が起こったんじゃ?」

「どこかに強制転移させられている?」

「来た道を帰っているようですね」

「つまり元の洞窟の中でしょうか」

「でもさっきよりも長いピヨ」

海の中を行くような感覚が少し続いた後、俺たちは地上へと出ていた。

「外ですね。少し気分が‥‥」

「あそこに洞窟の入り口が見えるのぉ」

「木花咲耶姫の洞窟近くに飛ばされたのか」

「もしかして洋裁さんの望みは外に出て自由になる事でしょうか?それだけだとなんだか残念なんだよ」

「そうでもなかったピヨ」

「うぉー!やったよみんな!自分とうとう島津家から勘当されました!ダイヤモンドカードがプラチナになってる!兄が島津家を継いでくれたみたいだ。ニュースにもなってる!」

それ、喜ぶ事なのだろうか。

まあ本人が嬉しそうだからいいか。

それに本人の希望は島津の者たちもよく知っているわけで、これは多分本当の勘当ではなく、形だけのものなんだろう。

『好きに生きろ。ただ戻りたくなったらいつでも戻ってこいよ』

きっとそんな所だと思う。

あくまで俺の妄想だけどさ。

「それじゃあようやくわしの番じゃのぅ」

木花咲耶姫が最後に開けろと言っていたけど、さて何が出てくるのやら。

環奈が玉手箱を開けると、目の前には巨大な魔物が姿を現した。

「ほう。これはなかなか強そうな魔物じゃわぃ。当然わしの獲物でええんじゃろぅ?」

「ヤマタノオロチか。伝説の魔獣の一種で、イフリートやヌエと同格か、或いはそれ以上の強敵だぞ」

「ひぃー!金魚は離れておくんだよー」

「じゃあわたくしも遠くから戦いを拝見させてもらいます」

「親分の戦い、しかと見届けさせてもらうピヨ」

皆は戦いの邪魔にならないように戦場から離れた。

このヤマタノオロチは、あの時のイフリートよりも強いと感じる。

環奈があの時のままだとしたら、到底勝てる相手じゃない。

でも環奈はジジィのクセに成長しているんだよなぁ。

神話では酒を飲ませて酔わせて倒すんだけど、真っ向勝負で勝つとなると、神であるスサノオよりも上って事になる。

倒したら環奈は神になれるかもね。

ヤマタノオロチは炎を吐いて環奈を攻撃する。

射程距離は圧倒的に短いが、フレイムドラゴンのブレスよりも殺傷能力が高そうだ。

人間の姿でまともに食らえば焼かれ死ぬ可能性は高い。

だから全て避けるか防ぐかしなければならないが、八つの首から攻撃されてはそれも大変だ。

持久戦は不利だな。

でもこれは環奈の勝ちだろう。

ヤマタノオロチはまだ本気を出していない様子だが、最初から全力でやらないと環奈には勝てないよ。

魔力を練る時間を与えてしまった。

「絶円!じゃ」

環奈の抜刀した三日月の刀は大きく伸びて、体長二十メートルはあるヤマタノオロチの首を全て切り落とした。

「流石親分ピヨ」

今の環奈に時間を与えて勝てる奴なんてそうそういないだろうな。

おっと魂を回収しておくか。

俺はそう思って斬られたヤマタノオロチを見ると、光り輝いて姿を変えていった。

「マジックアイテムの守護獣だったか。何になるんだ?」

ってだいたい想像はつくけどね。

草薙の剣でしょ。

そう思って見てみると、そこには一本の刀があった。

「剣じゃねぇし!」

でも一応武器だったな。

邪眼で確認した所、どうやら草薙の刀という事だった。

俺はそれを拾った。

「へぇ~なかなかいい忍者刀だな」

さてこれはどうすっかなぁ。

「策也殿。その刀は陽菜にあげたいんじゃがどうじゃろうか?」

「おっ!それいいな」

俺は草薙の刀を陽菜に渡した。

「本当に貰っていいんだピヨ?嬉しいピヨー!」

陽菜がメッチャ嬉しそうだった。

そりゃ親分に貰ったもんだからな。

それに結構良い武器だぞこれ。

俺の作った雷剣に匹敵する、或いは剣としての能力だけならそれ以上かもしれない。

「それにしてもあの技を使うとかなり疲れるのぉ。今回は全力じゃなかったからまだ立っておられるが、陽菜、こっちに来て支えてほしいぞぃ」

「親分!大丈夫ピヨ?!」

陽菜は慌てて環奈に肩を貸していた。

一撃必殺の技は強いけれど、その分反動も大きいからな。

それにしても、どうして俺はあの場所へ再び行く事ができたのだろうか。

俺の使命とか運命ってなんだろうか。

謎は残ったが、なんとなくは分かっている。

俺が此花策也だという事だ。

この後もう一度ダンジョンの奥へ行ってみたが、椅子はなく部屋もただの洞窟になっていた。

2024年10月4日 言葉を一部修正

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