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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔界編
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仕組まれた宣戦布告

此処から徐々に社会問題や歴史、政治、覇権争いなどの話が多くなります。

外国人にとってはセンシティブな話もチョクチョク出てきます。

日本大好きな日本人の若者向けに書いておりますのでご了承ください。

世界には欲望が渦巻いている。

その中で人々は幸せになろうと必死にもがいている。

自分が幸せになる為に、あの手この手で他人を陥れる者もいる。

それは、前の世界でも今の世界でも変わらない。

そして仕方のない事かもしれない。

でも、もしも自分に全ての人を幸せにできる力があったら、人は全ての人を幸せにしようと思うのだろうか。

俺にはそんな力があるのだろうか。

おそらくはない。

だからただ、目の前の仲間を守る事だけ考えてきた。

だからこれからも精進し、強くあろうと思った。

俺は再び旅に出るのだった。


不老不死の呪いが解かれ、ようやく異世界ライフのスタートラインに立った俺は、再び旅に出ていた。

二日前にみゆきの誕生日パーティーを盛大にやった後、昨日は一日中ゴロゴロとしていた。

いや流石に六歳の体に酒は堪えるよ。

一応俺は十九歳だし酒は飲んでも良いのだ。

尤も、この世界には飲酒に関する法律などないわけで、別に誰が酒を飲んでも警察に連れていかれるような事はない。

そんなわけで、アルコール耐性魔法を解除して飲んでみた訳だが、はい、やっぱりお酒は二十歳から、いや三十三歳からにします。

でないとマジでヤバいと確認できました。

それで再び旅に出る日は今日、八月二十三日となったわけです。

突然ですが!それでは我がパーティーメンバーをご紹介しましょう。

まずは魔獣の頂点である黒死鳥の、環奈先生!

元黒死鳥の隠れ里の王様で、百歳を超えたジジイでありますが、見た目はピチピチの可愛い女の子。

片側ポニーテールがチャームポイントです。

自分の事を『わし』と言ったり、喋り方が年寄りで違和感ありまくりですが、長い付き合いの中ですっかり慣れて、今ではそれがむしろ可愛く感じるところもあったりします。

月の刀の使い手で、結構な強敵を倒してきました。

続いてオーガの女の子、風里ちゃん!

魔王にとどめを刺し、バクゥという神レベルの魔獣にもとどめを刺した、今や世界の英雄的存在!

言い寄ってくる男は数知れず、それでも一途に一人の男を想い戻ってくるのを待ち続ける、超絶可愛い女の子なのです。

スォードトンファ―の使い手で、精霊魔術との合体技は超破壊力。

精霊の加護も倍増し、魔力以上の強さを発揮します。

続いては幽霊の金魚ちゃん!

領主が嫌で逃げ出した子ですが、元々は貴族第二位の家の者。

正直仲間になってまだそれほど経ってないので、よく分からない子であります。

童顔なお姉さんって感じですが、性格は子供のようです。

実体化した時の姿は生前そのままなので、今はバレないように水色の長い髪で目を覆い隠すようなウィッグを付けてます。

これは俺が作りました。

それと住民カードは二枚持っています。

今の名前である金魚用と元の名前である小麟用で、普段使う金魚のは左手の中に、小麟のは住民カードを収納できるマジックアイテムの腕輪にしまっています。

ちなみにゴーレム蘇生をして左手に収納できない者たちは、皆この腕輪を使っています。

続いて‥‥。

ナイフの洋裁くん!

島津の第二王子ですが、一度、いや二度死んでいます!

そして今はオリハルコンナイフになって俺に携帯されています。

こいつも王家の事から逃げ出したヤツですが、記憶が無いので仕方のない所でしょう。

魂はダークドラゴンなので割と強いです。

続いてジョウビタキゴーレムの陽菜!

鳥獣の魂を小鳥として蘇生しました。

現在標準語プラス鳥語を特訓中で、かなり喋れるようになっています。

関西人でも女性は標準語を覚えるのが早いんですよね。

続いて泥傍猫のキャッツ!

彼女は割と強い悪魔の魂から蘇生した、泥の猫ゴーレムです。

あのバビルの塔に住んでいる超能力少年がシモベ、黒いヤツをモデルに考えました。

あんなに大きくはないけどね。

以上、策也と愉快な仲間たちでした。


「って、人間とうとう俺だけになってるじゃねぇか!」

「どうしたんじゃいきなり。さっきからブツブツと何か言っておったようじゃが?」

「いや気にしないでくれ。ちょっと神様に祈りを捧げていただけだから」

「ふむ」

大山祇領のリグルの町を出た俺たちは、南東にある『ワサモン』の町を目指していた。

別に町に何かある訳ではない。

俺たちがとりあえず目指しているのは南の大陸なのだ。

そこに行くルートとして、まずは今いる東の大陸を南東に進む。

そして東の端まで行ったら、西の大陸へと戻る。

更に西の大陸を横断し、東の端から南の大陸へと渡るつもりだ。

尤も、瞬間移動魔法を使えば西の大陸の東の端まで行く事はできるが、急ぐ旅でもないし、俺たちはのんびり魔物を狩りながら向かっていた。

「森に入れば魔物はいるけど、マジでクッソ弱いのしかいないな」

「こんな奴らじゃと目をつぶって適当に剣を振り回してるだけでも倒せてしまうわぃ」

「ちょっとやめてください!こっちにこないでほしいんだよ!私幽霊だけど刃物は怖いんだよ!」

「環奈わざとやってるアル。でも金魚は蘇生以外で死なないから大丈夫アル。蘇生したら生き返るだけアルけど」

ああ久しぶりの旅だけど、平和だなぁ。

こんな時間も悪くない。

ただ、みゆきがここにいない事だけが少し寂しかった。

それでも資幣がみゆきの通う学園の先生をやっているし、リンの屋敷に共に住んでいるわけで、脳内では今も一緒にいたりする。

ムジナの俺だから俺じゃないんだけど、ずっとプレイしているゲームの中では一緒にいるようなそんな感覚だった。

「そろそろ飯にするか」

「うむ。最近策也殿は飯が好きになったのぅ」

「不老の呪いが解けたからな。成長の為にエネルギーを欲しているんだよ。それもあって飯が美味いんだよなぁ。そんなわけで金魚!美味いもん作ってくれよ!」

食事担当は現在金魚が主に行っている。

流石に兎束家の女といった所で、戦闘以外のスキルは結構レベルが高かった。

兎束家の印象は、どちらかというと戦闘力って感じなんだけどね。

しかしあの豊来と迅雷が金魚の叔父だとは。

話を聞いた時には驚いたよ。

全然似てないよな。

バカな所以外は‥‥。

でも料理は美味かった。

「金魚、美味いな!実は結構モテたんじゃないのか?」

「そうですねぇ。割と求婚はされたんだよ。でもみんなきっと兎束の家名がほかっただけなんだよ」

ため息をつく金魚は悟り切った大人の目をしていた。

つかこの子ネガティブ過ぎだろ。

なんとなく、もう少し前向きになれるようにしてやりたいと思った。

料理もあらかた片付いた頃、俺は住民カードでニュースをチェックしていた。

もちろん自分のカードではなく、拾って勝手に自分のモノにした『死者のカード』だ。

それを『捨て(アカウント)』として使っている。

誰がニュースを見ているのか、誰がニュースの発信を行っているのか、分からないようにする為だ。

俺が誰からも目を付けられないような一般人ならそこまでする必要はないけれど、気が付けば此花第二王国の第二王子にさせられているし、一応英雄此花麟堂の勇者パーティーのメンバーとしてそこそこ有名人でもある。

伊集院の側近大仏凱旋や、有栖川の兎束迅雷に反感をかうような行いもしてきているし、割と命を狙われても不思議ではない。

別に俺が悪いわけじゃないよ。

あいつらの悪事をぶち壊してやっただけだ。

そんなわけで俺はこれ以上目立たないように気を使っているのだった。

「さてどんなニュースがあるかな?何々?エルフ王国スバルで売られている髪を洗う洗剤が凄すぎる」

「結構評判のようじゃのぅ」

「シャンプーとコンディショナー、アレは売れると思ってたアル。流石策也アル」

「素晴らしいと聞いた事があるんだよ。それが何か策也さんと関係があるんですか?」

そう言えば金魚は知らないんだったな。

「あの商品は、策也が作り方を教えたアル。それをエルフの王様エルが売ってるアル」

「そうなんですか!凄いんだよ!」

「おかげで何もしなくても金が入ってくるよ。ぶっちゃけもう金なんて必要ないんだけどな」

既に兆単位の金は持っているし、他にも住民カードメールの暗号化システム加入者も増え、神武国のお菓子の売れ行きも好調だ。

神武国の観光客は増える一方だし、武器防具の評判も広がりつつある。

妖精王国も何気に人が来るし、思考が複数無かったらとっくに俺の頭はオーバーヒートだったな。

現在俺の思考は、九十パーセントの魂が一つ、三パーセントの妖精魂が一つ、一パーセントの魂が七つ、大聖と資幣のムジナが二つで、合計十一の思考が寝ている時以外に動いている。

普通の人の十一倍考える事が出来るとも言えるわけで、それでなんとかかんとか対応している状態だった。

それに言えばそれなりに助けてくれる仲間も結構いる。

此花のナンデスカには、リンや総司、みゆきがいて、ゴブリン洞窟には乱馬もいて。

神武国には元魔王の津希や不動、他に元悪魔の警察予備隊五十三人。

エルフ王国スバルにはエルグランド、妖精王国ジャミルには元悪魔のゴーレムが五十人と、空中都市の神功もいる。

炎龍王国には七魅や三十人ほどのフレイムドラゴン、更には元スフィンクスの夜美や元大魔王セバスチャン、その部下の元悪魔ゴーレム忍者部隊も百人になった。

ヌッカの店には元魔王の依瑠もいるし、仙人率いる私設民間傭兵隊メンバーは全部で五十一人。

こんなにも助けてくれる人がいてくれるおかげで、俺はのんびりと旅ができているわけだ。

まあ旅の目的は自分を鍛える為で、もっぱらそれはその日の終わりにする事になってしまっている訳だが。

「今日も大したニュースは無いかな?平和が一番だな」

そう思ってチェックを終えようかとした時だった。

新しいニュースが追加表示されていた。

ニュースは主に二通りあって、伊集院が管理する報道機関が出す正式なニュースと、個人が発信するニュースがある。

個人が出すものの多くは、王族や貴族の発表がほとんどで、プロパガンダなんかも結構多い。

俺も捨て垢を使って、時々プロパガンダに使わせてもらっていた。

新しいニュースは個人のもので、発信者は新たにできたオーガ王国東雲の王から発信されたものだった。

俺はニュース映像を再生した。

『私はオーガ王国の王だ。今ここに人間に対して宣戦布告をする。今までの人間の行いは我々を排除するものだった。募った恨みは大きい。同胞たちよ!今こそ我々と共に人間たちに復讐しようではないか!』

何を言ってるんだこいつ。

とりあえずオーガと話せる窓口として作られただけの王国が、いきなり全オーガの代弁者となり得るわけがないじゃないか。

こういう奴前世でもいたよな。

自分はマイノリティの代表で、全員の思いを代弁しているんだと訴える奴。

でも大抵そういう奴はマイノリティの敵だったりする。

マイノリティの立場を危うくさせ、ほとんどの場合状況は悪化するのだ。

あれ?となるとこれもまた、この発表によってオーガの立場が危うくなるって事はないだろうか。

こんな発表信じる奴なんていないだろうし、これで本当に人間に対して動くオーガもまずいないだろう。

でも、冗談だと分かっていても、それを口実に動くヤツってのはいるんだ。

「風里。これはマズい事になるかもしれないな。俺は大至急このオーガの王と話をして真意を確かめる必要があると思うが、風里はどうしたい?」

「私もそうしたいアル。手を貸してくれるアルか?」

「当たり前だ。環奈たちも来るか?」

「当然じゃ」

「私も行きますよ!一人にしないでほしいんだよー!」

「オッケー!とりあえずセカラシカにある傭兵隊の拠点に行く!」

一度で転移するとなると、この星の裏側まで一気に行く事になるからな。

流石の俺でもちょっと疲れる。

俺は瞬間移動魔法で、セカラシカにある傭兵体が拠点の地下へと移動した。

此処から家族の家の地下を経由して、ホームの地下へと移動する。

そしてそこから再び瞬間移動魔法で、御剣領内のオーガ王国東雲の近くへと移動した。

この辺りは長くゴーレムで金儲けをしていた場所だったので、移動する事が可能だった。

本体が御剣領内に入るのは初めてだな。

いや、この辺りは一応オーガ王国の領内って事になっているんだった。

そんな場所に、多くの人間と思われる騎士が集まってきていた。

こちらは深夜だったが、魔法のライトが灯り、その先のオーガ王国東雲の里が見えた。

「もう戦争が始まってるアル?」

「そうみたいだな。普通こんなに早く人間から仕掛ける事なんてできないはずだ。この騎士たちは御剣の騎士団員かと思うが、あの宣戦布告を知っていたんだろうな」

「陰謀の臭いがプンプンじゃのぅ」

「あ、これ、おそらく有栖川も関係していると思うんだよ。あの人達オーガ大嫌いで、さっさと国内のオーガを一掃したいって色々謀略を練ってたんだよ」

そういや金魚は有栖川の側近貴族の一員だったよな。

その辺りもう少し詳しく聞いておけば良かったか。

それはおいおい聞くとして、とにかく今はオーガの王と話がしたい。

俺たちは既に始まっている戦いの中を縫って里へと入っていった。

「うわー!どうなってるんだ!御剣のヤツ、裏切りやがったのか!ああ言えばこの里と人質は助けると言っていたのに!」

なんか聞こえてきたぞー?

アレ、オーガの王様だよな。

人質取られて言いなりになっていたのかよ。

もしかするとそれで王国宣言もさせられてたんだろうなぁ。

とは言え人間側からすればあの宣戦布告は正式なものとして受け取られる。

早く撤回しないと世界中のオーガの里が危ないかもしれない。

特に有栖川とか西園寺領内な。

「あなたがオーガの王様アル?話をしに来たアル」

「おお!風里様ですね。すみません。御剣の言いなりになって、私はなんて事を‥‥」

「だったら宣戦布告は早く取り消すアル。アレで世界中のオーガの里が危険にさらされる可能性があるアル」

「しかし我々は人質を取られていて‥‥」

「なんとかするアル!とにかくまずは撤回するアル!」

風里は必死だった。

そりゃそうだ。

自分たちの仲間が世界中で虐殺されそうになっているんだからな。

『セバスチャン!忍者部隊五十人を今すぐホームに送ってくれ。少し借りたい!』

『御意。すぐに向かわせます』

俺はセバスチャンの元で鍛えている、元悪魔を蘇生した『ゴーレム忍者部隊』を使う事にした。

あまり表立ってこの状況でオーガの味方はできないからな。

尤も、御剣の悪事の証拠が見つかれば問題ないんだが。

「オーガの王様、人質は何処にいるか分かるか?」

「えっと‥‥あなたは風里様の付き添いの‥‥」

おいおい。

俺は風里の付き添いって認識されてるのか。

まあいいけどね。

「そうだ。助けてやるから場所を教えろ」

「はい。おそらくは王都の城の中かと思われます」

王都かよ。

って事は『ヤイト』の町か。

仙人ゴーレムで行った事があったな。

ホームにいる資幣から、瞬間移動魔法で忍者部隊が送られてきた。

「お前ら、とにかくこの里に入る騎士を止めてくれ。殺すなよ」

「了解です」

俺は捨て垢カードを取り出してニュースを確認した。

既に他でも戦いが始まっているようだ。

この早さは異常だ。

宣戦布告があるという事を知っていなければほぼあり得ない。

或いは普段からそういう体制をとっていたという事だ。

動いているのは有栖川、それに伊集院も動いているか。

ただ西園寺は動いていない様子だった。

「西園寺は黒幕の一つだと思っていたが‥‥」

俺はカードをしまった。

それにしても今回の件で感じたのは、何かがある所にはやはり何かがあるという事だ。

そして情報の大切さ。

他国でいったい何が起こっているのか。

そういうのはやはりある程度把握しておく必要があるだろう。

神武国に諜報機関を設置するか。

そして各国の情報を随時調べておく。

この人質によるオーガへの脅しも、調べていたら分かったかもしれない。

別に戦う為にスパイや工作員が必要なんじゃない。

戦いを避ける為にも必要なんだと感じた。

「よし!此処には霧島を残して今からヤイトの町へ行く。風里はそのまま此処に残って、魔法通信で今回の件が間違いであると訴えておいてくれ」

「頑張るアル」

「環奈と金魚と陽菜は一緒に行くぞ!」

「戦闘できるかのぅ」

「ピヒィー」

他に人がいる時は陽菜は鳥だった。

「私はあまり戦いたくないんだよ‥‥」

「それぞれ適材適所に働いてもらうさ」

俺はそう言いながら瞬間移動魔法を使った。

ゴーレムが来た事のある中で、一番城に近い所へ移動した。

深夜なので歩く人影はなかった。

俺は千里眼と邪眼で城の中を探る。

建物の中だとハッキリとした姿は見えないが、人の位置や魔力からある程度は分かる。

「おそらく人質が監禁されているのは城左手の地下だ。金魚は幽霊に戻って先に行ってくれ。俺たちもすぐに行く」

「わ、わ、分かったんだよー!」

金魚は全速で城へと入っていった。

幽霊は何処でもすり抜けられる。

そして蘇生以外では殺られない。

殺られるという表現は違うかもしれないが、とにかくこういう時は便利な体だ。

「環奈は俺と一緒に転移を繰り返すぞ!陽菜は上空から監視しておいてくれ。まずは妖精界へ行く」

「うむ」

「分かったピヨ」

陽菜、結構喋れるようになったなぁ。

そんな事に感動している場合ではない。

一旦妖精界に行くのは、俺たちが人間から認識されなくなるからだ。

認識阻害魔法や幻影魔法で姿を消すという手もあるが、マスタークラス以上になれば見抜かれる可能性も高い。

「よし。城へ潜入する!」

妖精界から城に入り、目的地に付いたら再び人間界へ戻ってくる。

そうする事で誰にも見つからずその場所までたどり着けるのだ。

無駄な戦いはしたくないからな。

こうして俺と環奈は目的の場所に二分で到着した。

邪眼で確認した所、人質のオーガ五人と金魚が、御剣の者たちに取り囲まれている状況だった。

「ヤバそうだ。早く人間界に戻るぞ!」

俺は人間界へと転移した。

その時だった。

御剣の神官が、蘇生魔法を金魚に放っていた。

「止めてほしいんだよー!」

ああ、金魚よ。

短い幽霊人生だったな。

まあ別に死ぬわけじゃないさ。

むしろ生き返るだけ。

兎束の者がこんな所で何をしているんだって責められる事になるかもしれないけれど、後は神武で面倒みてやるさ。

なんて思っていたのだが、蘇生効果は発揮されなかった。

「あれ?なんでだ?」

「私‥‥生きてます!生きてるんだよー!」

いやいやいや、むしろ死んでるんだってば。

おっととりあえずそこは置いておこう。

環奈が既に神官を打倒(うちたお)し、御剣の部下と思われる者たちも横たわっていた。

別に神官を殺したわけじゃないよ。

ちょっとヤバい状態だけど気絶しているだけだからね。

「おいお前、御剣の王か?」

俺はいかにもボスと思われる男に声をかけた。

「何者だ?このガキ一体何処から現れた?」

人の質問に答えてほしいな。

でも間違いないよな。

「俺はちょっと人に頼まれて、今回のオーガによる人間に対する宣戦布告の理由を調べてたんだ。そしたらどうやらオーガは御剣に人質を取られてやむなくって話を聞いてな。それを確かめに来たんだが‥‥どうやら本当だったみたいだな」

金魚と一緒にいたのは、オーガの子供が三人と、オーガの女性が二人だった。

「私たちはずっと捕まってたんです!」

「早く里に帰りたいよー」

俺は御剣の王らしき人物をにらみつけた。

マスクしてるから意味ないだろうけどね。

「人質、いたみないなんだが?御剣さんよぉ。どう言い訳するんだい?」

「言い訳?そんなものは必要ない。俺がお前らごときに負けるとでも思っているのか?全員この場で死んでもらう」

「ほう、そんな事言う?」

でも実際こいつはかなり強いな。

流石は王。

魔王クラスだ。

環奈とやっても割と良い勝負をする可能性がある。

「こやつ、殺してもええかのぅ?」

環奈は戦いたそうだな。

まあ死んだら蘇生すればいいし、やらせてやるか。

「好きにしてくれ」

「感謝するぞぃ」

「何を言ってる?そいつは確か英雄の一人と言われている環奈だな。英雄と言われて調子にのっちまったか?俺に勝てる訳がないだろう!」

御剣は剣を抜いて一振りした。

斬撃が環奈を襲う。

それを環奈は三日月刀で受け流した。

人質が閉じ込められていた部屋の両角に斬撃が当たると、部屋の壁が崩れた。

此処で戦うのは危ないな。

城が崩れて生き埋めになっちまう。

俺は瞬間移動魔法でそこにいた全員を城の外まで移動させた。

「なんだ?転移魔法か?」

「地下で戦っていたらみんな生き埋めだからな。外で存分にやってもらおうと思ってな」

俺はそう言いながら、オーガ五人を霧島のもとへと再び瞬間移動させた。

「城の兵士たちが集まってきたんだよー」

「そっちはお前でも相手できるだろ?幽霊状態なら敵の攻撃を受ける心配もないわけだし」

「それが幽霊のままだと魔法が使えないみたいで‥‥」

どういう事だ?

幽霊は食った人間相応の魔法が使えたはずだ。

だから厄介なのに、何もできないなら幽霊なんて問題にならない。

もしかして金魚は、幽霊になったんじゃなくて、幽霊化できるようになっただけなんじゃないだろうか。

食われたのに意識があるとかおかしいし。

逆に幽霊を食ってその力を得たと考えれば、蘇生が効かなかったのも説明がつく。

となると、この相手じゃ金魚には辛いか。

金魚はマスタークラスの力を持ってはいるが、この御剣の兵隊も同程度の力を持っている。

上手く幽霊になってかわす事を覚えればいいんだが、まだそこまでの戦闘を経験はしていない。

「とりあえず逃げ回ってていいぞ。こいつらの相手は俺と陽菜でやる。陽菜!兵士たちをやるぞ!」

「ピヒィ―」

俺は妖糸で兵士の動きを封じていき、陽菜は体当たりでダメージを与えていった。

「くそっ!ガキが何をしていやがる?人質は何処へやったんだ?」

「ああ、やっぱり人質だったんだね。しっかり言質は取りました~」

「お前たちだけは絶対に逃がさん!」

もうどう頑張ってもあんたらが悪いよ。

既に人質から話を聞いた風里が、今魔法ネットワークに発信しているからなぁ。

「わしを無視してもろうては困るのぉ」

襲い掛かってくる御剣を、環奈が朔刀で止めた。

この王様、結構強いけど武器の差が大きかったな。

おそらく御剣は剣士の家系だと思われる。

ほとんどが魔法を使わないからな。

つまり剣が無きゃ戦えない。

朔刀で受けた御剣の剣が砕かれた。

「なんだと!?」

「武器無しでお主は戦えるのかのぅ」

「どうなっているんだ!?」

その声を最後に、環奈の三日月刀が御剣の体は真っ二つに切断していた。

「圧倒的武器の差じゃのぅ」

終わったな。

「お前たちの王は死んだぞ!これ以上戦ってももう無意味だ。とりあえず剣を収めよ!」

俺がそう言うと、これ以上戦おうとする兵士はいなかった。

さて一応御剣の死体と魂は確保して、神官の持ってるシンボルも駄賃として貰っておくか。

神官の持つシンボルというのは、神具であるエンブレムの事だ。

神事で死者を天に送る時に使うものだが、その実はそんなものではなく、ただ死体を蘇生や回復の素材として持っておける異次元収納アイテムの一種である。

これが有れば蘇生の際、素材が無くても蘇生ができるわけだ。

俺には異次元収納魔法があって不要だから、これはみゆきにプレゼントだな。

「じゃあ戻るぞ」

「武器が強すぎて楽勝じゃったわぃ」

「はい、帰るんだよ」

「ピヒィ―」

オーガ王国東雲に戻った俺たちは、御剣が脅迫していた事を再度新しい映像を交えて伝えた。

しかしすぐには有栖川や伊集院領で行われていた戦いは止まらなかった。

結局有栖川は領内のオーガを一掃し、伊集院もいくつかの里を制圧していた。

捕らえた御剣の魂は一度スマホゴーレムに憑依させ、洗いざらい全てを吐かせた。

御剣は有栖川の命令でやっていたようだ。

金魚にも確認したが、おそらくそうだろうという事だった。

しかしスマホでの供述など証拠にはならないわけで、人質をとった御剣の責任となるだろう。

金魚の話によると、西園寺もずっと有栖川に脅されてオーガとの対立を煽るよう命令されていたようだが、娘が安全な場所にかくまわれているという事で、脅迫が通じなくなっていたらしい。

つまりあの時魔獣のガルムを使って望海を襲ったのは、有栖川か有栖川に命令された誰かの仕業だったのだろう。

娘が殺されそうになれば、いう事を聞かないわけにもいかないか。

「でもどうして望海なんだ?他にも娘はいるはずだが」

望海は第四王女だ。

何故この子だけなんだろうか。

「望海姫は特別なんだよー。西園寺家には時々特別な力を持った姫が産まれるんだよ。自分の魔力を愛する者たちに上乗せする力。祝福の魔法に似てるんですけど、効果は桁違いに大きいんだよ。それが常時発動するので他国から見れば未来の脅威なんだよー」

「それで西園寺は望海を大切にしているのか。確かにそんな能力が有れば、殺れる内にって考える勢力もいるんだろうな」

「でも知ってるのは西園寺の人間と私だけで、有栖川の人たちは知らないんだよー。ただ西園寺が異常に大切にしてるから有栖川の人たちが狙っただけなんだよ」

「じゃあ金魚はどうして知ってるんだ?」

西園寺のある意味トップシークレット的な話だろコレ?

つか俺に話していいのかな。

「私の母は西園寺の側近貴族、原敬家から嫁いできたんだよ。だから今も原敬家とは密かに交流が有ったりするんですが、それもあってもう有栖川の為に働きたくなかったんだよ」

原敬家か。

どっかで聞いた事あるな。

「ああ、弥生が確か原敬家だったな」

「弥生ちゃんを知ってるんですか?!」

えらい食いつきだな。

「そりゃまあな。今は俺たちが彼女たちの身柄を預かっているからな」

「はぁ~‥‥そうだったんですね。良かったんだよ」

弥生もそうだけど、金魚も他人の事ばっかり心配するんだな。

自分は死んでもいいみたいな感じだったけど。

そういえば金魚には話した方が良いのかな。

自分が死んでない事。

幽霊を蘇生して蘇生できないって、それ生きてるって事だからな。

いやまあ話さなくていいか。

それよりも‥‥。

「金魚にはこれをやろう」

俺は異次元収納から四つのマジックアイテムを取り出した。

一つは勇者の洞窟で手に入れた氷剣だ。

エルに上げた雷剣を作る際参考にした剣で、雪女の魂が剣を守護している。

ヌエの雷剣と比べると性能はかなり落ちるが、それでも普通の剣よりもはるかに強力だ。

次にこれも勇者の洞窟で手に入れたメデューサの首飾り。

これを付けると、ピンチになると髪が蛇となって身を守ってくれる。

更に目があえばマスタークラス未満の者を石化する事も可能だ。

髪の蛇は毒蛇で、噛んで攻撃もできる。

ただ今の金魚だとウィッグが外れてしまうのでなんとかしないとね。

次にプテラノ魔鳥の翼。

これは宝探しの中でみつけたものだ。

あまりスピードを出しては飛べないが、一応空中戦闘には役立つ。

最後に、どこかのドラゴンの巣から失敬してきたサラマンダーの指輪。

サラマンダーを五体召喚し、一時間使役できる。

一度使うと二十四時間使えないが、幽霊状態でも使役し続けられるのがメリットとなるはずだ。

リンの四神霊獣には圧倒的に劣るが、金魚の本名が小麟だし、四属性の魔獣が宿るアイテムを持たせてみたくなった。

「こんな凄いもの貰っていいんですか?」

「ああいいぞ。俺にとっては大したアイテムでもないからな」

それに生きていると分かった以上、死なないようにしてやらんとだし。

さてそれと、このオーガ王国をどうにかしないと駄目だな。

こんな里一つで国を守ろうとか、無茶も良い所だ。

領土も最初から管理するつもりがなかったのだろう。

なんせすぐに御剣に返すつもりだったのだろうからな。

とはいえこの事態、オーガ王国はしっかりとした国の形を整えていく必要がある。

有栖川で難民となったオーガもいるだろうし、本当にオーガが人間同様に暮らせる町は作るべきだろう。

でないといつまでたっても共生なんて不可能だ。

文化レベルや価値観を共有して初めて共生も可能というもの。

「風里はどう思う?一応宣戦布告は御剣の脅迫という事で周知されたと思うが、今のままだとまた同じような事が起こりかねない」

「やっぱり、オーガ王国をちゃんとした形にする必要があると思うアル」

「俺はその手伝いはするが、風里はどうしたい?」

「さっきオーガの王と話したアルが、私に王をやって欲しいと言ってきたアル」

「そっか‥‥」

風里がオーガの王になるなら、俺は此処をちゃんとした町にしてやる。

ただ寂しくなるよな。

きっと風里が王になったら、もう一緒に冒険は難しいだろう。

少なくとも当分の間は絶対に無理だ。

残念だが俺は覚悟していた。


風里が王になるのかどうかハッキリしないまま数日が過ぎた。

すると思いがけない人物が、スバルから神武国を経由してホームへとやってきていた。

「久しぶりだなみんな」

やってきたのは悟空だった。

「どうしたんだ悟空。ハーレムな生活に飽きたのか?」

「いや。オーガの宣戦布告で、夕暮の里も壊滅状態になってな。もう住める状態じゃなくなっちまったんだ」

まさか、国士や可奈がいても守り切れなかったのか。

「国士と可奈はどうしてる?」

「ああ。あいつらは元気だよ。ただ里が壊されただけだ。一発でかい魔法をお見舞いされてな。あいつらのおかげで里のみんなは無事だったけどな」

悟空はとにかく気落ちした様子だった。

「そうか‥‥」

俺はなんと言って良いか考えていた。

こんな悟空になんも言えねぇよ。

そんな時に声を発したのは風里だった。

「ねぇ邪鬼くん。オーガ王国の王様やってよ。私も一緒に頑張るから。邪鬼くんだって魔王討伐の英雄なんだから皆が認める王様になれるよ!」

風里が普通に話していた。

コミュ障で『アル』を付けないと駄目だった風里が、感情のまま悟空に訴えていた。

流石にこれはやるしかないだろ悟空。

ここで立たなきゃ男じゃないぜ。

うわぁ~かなり渋ってそうだな。

でもなんとか決意したようだ。

「分かった、よ‥‥もう二度と同じ過ちは繰り返したくないからな。ちゃんと人間と対等にやれる国を作る。羅夢、手伝ってくれ」

「もちろんアルよ!」

二人は抱き合っていた。

今回の事件はオーガにとって最悪なものだった。

でも、この二人にとってはもしかしたら良かったのかもしれない。

悪い事だけ考えても仕方がないし、此処からはポジティブに行くか。

「よし!だったら一気にオーガ王国を形にしていくぞ!悟空がこうしてここに来たって事は、有栖川ではもっと多くのオーガ難民がいるはずだ。全員受け入れられるように準備だ。有栖川領内だと、俺が動かせるのは妖精王国だけだからな。世界に向けてメッセージを出そう。行くあてのないオーガは、妖精王国ジャミル、エルフ王国スバル、炎龍王国、神武国で保護するんだ。そしてオーガ王国まで転移ゲートを通ってきてもらう。早速仕事だぞ悟空!まずは王様になってこい!」

「よしやるか!すまないな策也。パーティー抜けた俺なんかの為に‥‥」

「別に良いよ。この借りは多分どこかで返してもらうさ」

こうしてオーガ王国は、悟空を王様とする国家として再建していく事になった。

国王は悟空、王妃は風里、用心棒として国士と可奈も共に王城で暮らす。

俺はまず元の東雲の里が奥になるように防壁で囲う。

そして中心にあまり大きくない城を建てる。

城の周りには庭を造り、庭に転移棟を建てた。

此処へ、神武国、エルフ王国、炎龍王国、妖精王国からの転移ゲートを設置する。

このゲートは誰もが通れるものだが、使用には王の許可が必要とする。

これだけ準備するのに、俺は三日かかった。

後の町づくりは、当人たちに任せる。

流石に一気に完成してしまっては、他国からどう見られるか心配だからね。

尤も、これだけを三日でやってしまったのも問題はあるだろうけど。

「じゃあな風里。悟空と幸せになれよ」

「うん。ありがとうアル。本当に今まで‥‥楽しかったアル‥‥」

いやちょっと風里、泣かないでほしい。

こっちまで泣けてくるじゃねぇか。

つか悟空泣いてるし。

「王国の名前は『旭』に決まったぜ。流石に故郷の暁が東雲領内にあってややこしいからな」

「そうか。ちゃんと風里を大切にしろよ!}

そうは言っても、オーガって割とその辺適当な種族のようだし、口出ししても仕方ないか。

「国士と可奈も頼んだぞ!」

「僕、今回は里を守れなかった。でもこの町は絶対守るよ」

「無理はするなよ。ヤバい時は助けを呼んでくれ」

正式な町に暮らす事になった国士と可奈には、住民カードが発行された。

それを使えばいつでもメールはできるからな。

「策也さん。また。元王様もごきげんよう」

「うむ。可奈も元気でのぅ」

こうして俺と環奈と金魚、そして洋裁と陽菜は、再び元の旅路へと戻った。

ちなみに御剣の王は、蘇生して皇の者に引き渡した。

後は世界会議で処遇が決定されるだろう。

ただ、そんなに罪に問われる事は無いはずだ。

人質は駄目でも、そのルールは人間相手にしかない規定だから。

だからその分、俺が少し脅しておいた。

悪さをしたら、蘇生解除だよってね。

これからは蘇生のできる神官を、ずっとそばに置いてるかもなぁ。

死んでもすぐに蘇生できるようにね。

2023年8月9日、誤字を修正しました。

2024年10月4日 言葉を一部修正。

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