ロッポモンの洞窟と早乙女家
ロッポモンのダンジョンは、早乙女の王都であるロッポモンのすぐ近くにある。
かなり大昔になるが、このダンジョンに挑戦する人でにぎわった所から町ができて王都になったらしい。
この世界の中でかなり難易度の高いダンジョンと云われ、最下層まで行って帰ってきたものはまだ誰もいかなった。
俺たちはロッポモンのギルドで、乱馬の信頼する友人『桂孝允』と落ち合ってダンジョンを案内してもらっていた。
「いやぁ~皆さん、乱馬様のおっしゃっていた通りの方々ですねぇ~」
「そうなのか?」
「はい~!子供なのにとんでもない貫禄がある策也さん。想像以上でしたよ」
「俺は孝允の印象、百八十度違ったよ」
正直孝允は執事系のできるおっさんなイメージだったんだけど、性格は今の乱馬にそっくりな感じで、見た目は死んだ事になっている早乙女相馬に似ていた。
「どう違いましたか?」
「もうちょっとキッチリした執事系かと思っていた」
「そうですねぇ~!普段はもしかしたらそうかもしれませんが」
どうやらこんなキャラは俺たちが相手だからのようだ。
「で、ロッポモンダンジョンってのはどんな感じなんだ?」
それは町を出て直ぐにダンジョンの入り口が見えるほど近い場所にあった。
「最近は挑戦する人もいませんよ。おおよそ行ける範囲のお宝はもうありませんから」
「注意すべき点とかそういのは?」
「古いダンジョンは皆同じですが、魔物が出てこれないよう結界が張ってある為に瞬間移動魔法は使えません。策也さんは使えますよね?でないとこんなに早くこの町には来られないでしょうから」
「まあな」
また瞬間移動魔法が使えないのか。
その理由が、魔物を抑える為の結界だったとはね。
でも最悪なんとかなる方法は考えてある。
勇者の洞窟でも使おうと思えば使えただろうけれど、リスクがゼロではないからあくまで最終手段だけどな。
「でも早く来てくれて助かりました。猶予は三日しかありませんから。三日後には早乙女が強力な騎士団連中を集めて挑む予定なんです」
「そんなに早乙女に、その、書籍のお宝とやらは渡したくないのか?」
「そうですね。また悪い事に使いそうってのもありますが、多分今ダンジョンに挑んでも騎士団全滅も考えられるんですよね。なるべく被害を抑える為に、策也さんにはより多くの魔物を狩っておいていただければと」
「そういう事ね。だったら遠慮なく狩りまくっておくさ」
なんだかんだこの孝允ってのも乱馬同様にキレる頭を持っていそうだ。
もしも乱馬や孝允が早乙女にいなければ、今の早乙女は無かったかもしれないな。
「ではご武運を祈ります。一国の騎士団くらい集めないと攻略できないレベルまで解放されたダンジョンですから、入るのに許可はいりません。どうせ誰も今以上下層には行けないと判断されていますから」
「そんな所によくそんな書籍があるって分かってるんだな」
「早乙女の先人が命がけで隠したんですよ。帰ってこなかったので何処にあるかもわかりません。最下層ではない可能性も十分にありますよ」
「なるほどね。じゃあみんな行くぞ!」
「おー!」
こうして俺たちはロッポモンダンジョンへと入って行った。
ダンジョンの最初は、ゲームで云う始まりの町の周辺かと思うくらい弱い魔物しかいなかった。
当然お宝なんてあるはずもない。
俺たちはただただ下層を目指して進むのみだった。
地下二十階を超えた辺りから、徐々にそれなりの魔物が出てくるようになったが、それでも俺たちの足を止められるほどではなかった。
更に三十階までくると、ようやく戦闘らしい戦闘が必要な相手が出始めた。
「勇者の洞窟のレベルと比べて、この辺りがあっちの二十階レベルといった所かな。最高攻略階は四十階くらいで、そこから下が未知の領域って所だな」
みゆきもなんだかんだ魔物狩りになれてきている。
まだあまり殺したくないって気持ちは残っているみたいだけれど、相手が襲ってくるから仕方がないわけで、理屈で割り切っているようだった。
「自分もそろそろやろうかな」
いきなり洋裁がナイフから人間の姿に変わって参戦し始めた。
よく考えたら勇者の洞窟に挑戦した時のメンバーだな。
今回はみゆきとエルが加わって、益々パワーアップしている感じだ。
周囲を警戒している陽菜や、風里をサポートするキャッツもいて、あの時よりも圧倒的に俺は楽ができていた。
仲間が強くなっていくのって良いね。
楽ができればその分俺は仲間の安全を意識できる。
周りもよく見えていた。
突然穴から魔物の攻撃が飛んできても、俺は余裕でそれを払い落す。
ここまで手ごたえがないと、逆に面白みには欠けていた。
だから俺たちはドンドン下層へと進んだ。
四十階を超えた辺りから予想通り魔物の数が増え、強さが一気に上がった。
「ようやく戦っている気がしてきたわい」
「ダリアぱーんち!ダリアぱーんち!」
「キャッツ、無理しなくていいアルからね」
「風里様!あたいは嬉しいです!このように一緒に戦えて!」
キャッツは相変わらず風里の事が好きだな。
好きこそ物の上手なれって、意味は少し違うけれど、好きだからこそのコンビネーションはもう完璧だよ。
「これが本当の戦いですね!いやぁ。楽しいですよ」
エルが強いのは分かっていたが、こいつマジで強いな。
月の刀を持った環奈と良い勝負だ。
こんな狼男が大量に湧いて出て来る所で、戦いを楽しんでやがるし。
流石エルフの王様といった所だろう。
「そろそろ最下層が近いかもしれないな。次の階かその次辺りが勇者の洞窟でいう二十九階に匹敵するエリアかと思う」
「このダンジョンの主がでてくるかのぅ?」
「私に戦わせてほしいですね」
「そうだな。大物が出てきたらとりあえずエルに任せるかな」
「引き受けましたよ!」
そんなに戦いたいかねぇ。
俺はチートで余裕がある戦いならいいけれど、ギリギリの戦いなんてしたくないけどなぁ。
そういう俺も、何か強いモンスターが出てくるのを期待していた。
そうして四十四階にやってきた。
目の前には信じられない魔物が現れていた。
「ヌエか‥‥」
色々と獰猛な動物の特徴を持ったキメラな伝説の魔獣。
しかもヌエの周りにはライトニングドラゴンが取り巻いている。
「伝説の魔獣じゃないですか!こんな所にいたんですね。わたくしに任せてもらえますか?」
「今回はエルに任せるよ。他はドラゴンを狩りまくるぞ!」
「仕方がないのぉ」
「分かったアル」
「ダリアぱーんち!」
「自分ダークドラゴンっすけど」
さて、エルがどんな戦いをするのか。
相手のヌエは雷獣で、雷系の魔獣の中で最高位と云われている。
白虎と同レベルか、それ上と評価する人も多い。
つまり勇者の洞窟で戦った朱雀や玄武と同レベルの魔獣と言っていいだろう。
一方エルは主に水系の魔法を得意とする水の剣士だが、地属性魔法もそれなりに得意とし、ヌエ相手でも相性は悪くない。
でもいいとも言えないわけで、レベルが同じならヌエに分があると言った所か。
エルの繰り出す高速剣は水を纏い、かなり高い攻撃力を持っているが、ヌエに対しての効果は今一だ。
ヌエの攻撃もエルには届かず、地属性魔法による防御力も高い。
どうやらエルの方が一枚上手で、徐々にエルが押し始めた。
地属性魔法を攻撃にも使い始めるとヌエは怯む。
普段は水属性の魔法しか使わないから知らなかったが、これだけ地属性魔法が使えれば相性で完全に勝利だな。
ヌエとの戦いはエルの完勝だった。
「ふぅ~‥‥勝ちましたよ!」
「こっちも今片付いた。流石エルフの王様だな。人間相手に一対一ならこの世界にほとんど負けるヤツはいないんじゃないか?」
「そうでもないですよ。世界は広いですから」
エルの強さが凄いのは、魔法アイテムなど装備の強化に頼っていない所だ。
これで何か良い装備が有れば、きっともっと強くなると感じた。
おっと、魂は回収しておくか。
俺はヌエの魂をボールに収めた。
エルには負けたが魔王クラスの魂はとっておくのだ。
ヌエだし、武器の守護獣にしても面白いだろう。
「じゃあ次に行くか!」
俺たちはダンジョンを更に進んだ。
四十五階、大量のケルベロスが現れた。
ケルベロスは頭が三つある犬の魔獣で、何かを守る所で出現する事が多い。
つまりそろそろ何かがあると考えていいのではないだろうか。
「この先何かありそうだな!一気に叩くからみんな離れろ!」
「了解じゃ」
「逃げるアル」
「策也の後ろが安全なんだよ!」
「自分たぶん死なないから好きにして‥‥」
「策也の本気ですかね?」
「本気出したらダンジョンごと吹き飛んじまうよ!軽くこの程度で!光背彗星!」
俺の背後から沢山の光が敵を撃つ。
マジックミサイルの強力なのが連打されるような魔法だ。
俺はそれで一瞬にしてケルベロスの群れを屠った。
「さて、この先に何があるのかなぁ?」
俺は先頭でダンジョンを進んだ。
すると二つの影が襲い掛かって来た。
「まだいたのか?」
俺はすぐに防御態勢を取り攻撃を防いだ。
何やら攻撃されたようだが全くの無傷だ。
「ちょっと油断したな。でもその程度の攻撃じゃ俺には傷一つ付けられないのさ」
攻撃してきた魔物を見ると、それは狐のような狸のような姿をした、一見弱そうに見える魔獣だった。
「その魔獣は‥‥危険です!触れられないように注意してください!」
「ん?もうさっき少し触れられたが‥‥」
そんな事を言っている間に、二体の魔獣は姿を変えていった。
「その魔獣はタヌキツネのムジナと言って、触れた相手の姿になって能力をコピーする魔獣です。厄介なのはその時に起こる思考の混濁です!」
「うぉー!なんじゃこりゃー!俺以外の俺が頭の中に入ってくる感じだ!」
ムジナは完全に俺の姿になっていた。
「まずいですよ。今の策也ではまともに戦えません。更にムジナは策也の能力をコピーしたのが二体。流石に魔力は策也に劣りますが厄介すぎる敵です」
「そうなんじゃのぅ」
「そうアルかぁ~」
「でもアッサリ策也が倒しちゃったね」
「あれ?策也どうしてまともに戦えるんですか?」
「いや、普段から俺、複数の思考を使ってるからね。一つ思考が混濁したくらいで戦えない訳ないし、もう整理して慣れたから」
俺はそう言いながら魂を回収した。
この魔獣、割と魔力も高かったし、本来なら伝説の魔獣よりも強くて厄介な敵だったんだろうな。
他のヤツがタイマンでやったら確実に負けるだろうけど、相手が悪かったね。
「そうなんですか‥‥いや流石は策也です」
まあでも一瞬焦ったけどな。
この世界、まだまだ知らない魔獣もいるし、油断はできないな。
そこから俺は慎重に先に進んだ。
勇者の洞窟の事を考えるともう終わりな気もするが、別に急ぐ必要もないはずだと言い聞かせてゆっくりと歩いた。
広い部屋に出ると、予想に反してラスボスの風格を備えたスフィンクスがたたずんでいた。
「まだいるじゃねぇか!慎重に来て良かったぜ!」
「げっ!スフィンクスなんて、本当に存在していたんですね!」
「こやつも伝説のポケ‥‥じゃな」
環奈今何を言おうとした?
駄目だぞ。
「強そう。見つめられたら駄目アル奴アルね」
「そうなの?じゃあ動き回らないと!」
この面子でも俺以外全員動きを封じられるぞ。
「とりあえず洋裁!お前が犠牲になってくれ!」
俺は洋裁を押し出しスフィンクスに捧げた。
スフィンクスが見つめる。
「自分、動けないっすけど?」
「大丈夫だ。お前は死なない。さあこの間にみんなでスフィンクスを殺るぞ!」
うわっ!
妖糸ですら傷一つ付けられない魔獣とか。
ほとんど大魔王クラスの魔獣だな。
俺以外じゃ倒せないか‥‥。
マジで殺るか。
そう思ったのだが、我が軍にはもう一人チートがいましたな。
「ぜ・ん・りょ・く!ダリアぱーんち!」
さようならスフィンクス。
今まで出て来た敵の中で、大魔王の次に強いあなたでしたが、登場から僅か二分で退場となりました。
きっと有意義に魂を使って差し上げますので、ご容赦くださいませ。
スフィンクスは花びらとなって散っていった。
「これは凄いです」
「みゆき殿、お見事じゃのぉ」
「みゆき強すぎアル」
「あ、動けるようになった」
「流石にこれで敵は最後だろう。これ以上の敵はそうそうあり得ないからな」
そう言った俺だったが、やはり先に進む時は慎重だった。
先の部屋は一つしかなかった。
そこには、おそらく倒れた人だろう形跡があり、その先に本が一冊落ちていた。
その本は魔力で守られていたようで、しっかりとした状態で残っていた。
「魔物から逃げながら、ここまで運んできたんだろうな」
そこまでして守り、残したかった本か。
俺は本を手に取った。
そしてゆっくりと表紙をめくる。
最初に書かれていた言葉は、『当家が苦境に立たされた時の為にこの本を此処に残す』だった。
一瞬俺が読んでもいいものなのか考えたが、読みたい気持ちは抑えられなかった。
本の内容は俺が要約するとこんな感じだ。
まず世界は、『天界』『魔界』『人間界』『妖精界』『精霊界』に分かれる。
この書籍では主に魂について語るので、精霊界は例外的世界だから話を割愛する。
それぞれの住人は、神、魔物、ヒューマン、妖精であり、悪魔はヒューマンが魔界に適応したものである。
それぞれの世界で魂を神の加護で蘇生した場合、天界で神は死なないので除外すると、魔界では魔物、人間界ではヒューマン、妖精界では妖精となる。
魔物を蘇生できないというのは嘘で、神の加護による蘇生をすれば、人間界ではヒューマンとしてよみがえる。
しかしそれをすると魔力の強い人間が溢れ本当の人間が支配される恐れがある為に、あえて『蘇生できない』と喧伝されている。
これは試していなかったな。
更に読み進める。
魂は、死ぬと別の世界へと向かう。
妖精が死ぬと人間界へ行きヒューマンに、ヒューマンが死ぬと一部は天界に行き神となるがほとんどが魔界へ行き魔物へ。
魔物が死ぬと人間界で動物などの生物に生まれ変わり、生物への生まれ変わりを何度も繰り返し選ばれた者だけが又妖精へと戻る。
その流れを止めるのが不死というもので、魔力は人間界に行く時に衰える傾向にある。
不死になると世界の行き来をしなくなり、ずっとその世界に留まる事になる。
これを利用して繰り返し行われているのが魔王の復活だ。
魔王は不死である為、ずっと魂が人間界に留まってきた。
魔素、此処では『魔力結晶気体』と書かれているが、当家では魔素を利用した受け継がれし魔法により、魔王の魂を見つける事ができる。
悪魔の魂は人間界では魔素の濃い所に集まる傾向にあるようだ。
魔素は更に、極僅かではあるが魔王の魂の魔力を高める効果もあったので、魔王は蘇生され復活するたびに強くなった。
魔王の復活と同時に、不死である悪魔の魂も集め復活してきた。
この辺りの話はセバスチャンに聞いた所と重なっているな。
次は魔王の話か。
魔王とは、実はある人間のコピーから始まった。
タヌキツネのムジナに自分をコピーさせ、それを殺して人間界で蘇生する事で、自分よりも強い自分のコピーを作る事ができたのだ。
その自分は、自分の意思で弱い方のオリジナルの自分を殺したという。
残ったコピーの方の自分、この時は魔王ではなく人間の姿をした悪魔のような者であるが、魔力の高い人間を連れて魔界へと帰って行った。
そこで多くの子を産み、魔界に適応して、オーガとは違う曲線を描くツノを生やした肌の黒いヒューマンである悪魔になったという事だ。
更に子は子を産んで、数は五千を超えるまでに増えた。
時は来た。
そいつは魔王となって人間界を支配する為に戻ってきた。
しかし魔王となったそいつよりも強い人間がそこにはいた。
勇者だ。
魔王は死ぬ前に、この魂のサイクルと蘇生の事を、人間界で人間との間に残した子孫へと伝えていた。
それがやがて早乙女家となる。
つまり早乙女家の人間は、魔王の子孫なのだ。
なるほどな。
だから早乙女相馬はあんなトゲトゲした魔力を持っていたのか。
まあそれでも、今ではかなり血も薄くなっているから、ほとんど人間と変わらないわけだ。
これはなかなか面白かったぞ。
俺をコピーしたムジナの魂を二体確保しているわけで、これを人間界で蘇生すれば、俺のコピーが爆誕するわけだ。
それは俺と全く同じ思考を持ち、全ての記憶を共有できるわけで、今ゴーレムを動かしているのと全く同じ風にできるという事になる。
俺は俺を決して殺さないし、力関係からしても本体の俺がコピーに負ける訳もない。
でもなぁ。
俺が何人もいた所で‥‥。
そうだ!
「よし、みんな戻るか」
俺はそう言いながら、乱馬に渡されていた本を代わりにそこに置いた。
乱馬が書いた新しい早乙女本だ。
内容は既に早乙女の者が知っている事ばかりとなっている。
「それにしても、この内容は知られちゃまずいですね」
「また新たな魔王が作れそうじゃのぉ」
「魔物を人間として蘇生できるの、知らなかったアル」
「もしかして自分、人間に戻る事ができたんっすか?」
「そうだな。人間に戻りたいか?」
「いや。今の方がいいや」
ぶっちゃけ、魔物を人間として蘇生するよりも、俺のやってる事の方がヤバいっちゃヤバいかもな。
でも、俺の意思でゴーレムは何時でも壊せるし制約もあるから大丈夫か。
「じゃあ策也!戻ろー!」
「おう」
こうして俺たちはロッポモンのダンジョンを攻略して、元の冒険の旅へと戻るのだった。
2024年10月3日 言葉を一部修正




