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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
呪い解除編
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ワイバーンの海賊

メグの町の付近では、海賊が出る事が多い。

輸送船が数多く航行する海域だからと云われているが、不自然な点もある。

それは、そこ以上に輸送船が多く航行する海域が他にあるにも拘わらず、飛び抜けて出現率が高い事だ。

その高さゆえ沈む船の数も多く、メグの町は壊れた船や積み荷を海から回収する仕事が成り立っているほど。

本来海賊というのは、船の積み荷や乗客の持ち物を目当てに襲う。

なのに積み荷を残したまま沈めるというのもおかしな話で、海賊ではなくどこかの国の工作軍だと考える人も少なくなかった。

この海域は有栖川と四十八願の領地に囲まれていて、海上運搬を邪魔する四十八願の仕業だという声も聞かれるが、王族の評判の良さがその声を小さくしている。

一方この辺りの航海を取り仕切る有栖川にとっても、此処での問題は評判が悪くなりマイナスにしかならず、結局どこかの国の工作という可能性は否定されてきた。

「資幣の船が海賊に襲われそうになっているな」

「今ちょうど海賊の出現記録が残る場所ですからね」

「どうするの策也?助けに行くの?」

俺はどうしようか迷っていた。

資幣の傭兵隊はぶっちゃけ強いし、ここで撃退すれば評判も上がるだろう。

それに仮にこれが誰かの陰謀で、俺が出張って話がこじれるのも嫌である。

俺と資幣の関係を知る者も、仲間以外では店の従業員三名と東雲の孤児院院長だけだ。

俺の裏の顔として行動させる為の資幣とは、なるべく一緒の所は見られたくない。

「まあなんとかなるだろ。俺たちはメグの町に入ってゆっくりしよう」

「そうじゃのぅ。町に入れば何か分かるかもしれんしのぅ」

冒険をする俺たちメンバーは、襲われる船を無視して、いつも通り町へと入った。

一方船の上では戦闘が始まっていた。

「みなさん迎撃してください。ワイバーンを殺れば空に上がれなくなりますから、船を沈める事もできなくなります」

「アレが隊長かの?お前らおいらに続くのじゃ!」

仙人が二人を引き連れて上空に上がった。

他は船を守りつつ海賊を迎撃する。

「思ったよりも敵が強いですね。こちらのメンバーがやられる事は無いと思いますが船は守り切れない可能性があります!乗客の方々は船で脱出された方が良いかもしれません」

「そうですか。しかしこれだけ賊が多いと脱出も難しいかと」

船長の言う通り、賊は手慣れたもので絶妙な攻撃をしてくる。

我々を倒して積み荷や持ち物を奪おうというよりは、効率よく船を沈めようとしてるみたいだ。

そして誰も逃がさない。

そんな戦い方に見えた。

仙人も逃げ回るだけの敵を捕らえきれない。

このままだと船は沈められるな。

船はそんなに大きくなく乗員乗客合わせて百人以下。

本体の俺になら、この距離なら全員を瞬間移動魔法で助ける事も可能だが、正直あまり見られたくはない。

資幣の俺は悪魔傭兵数人に伝えた。

「乗員乗客全てにスリープの魔法です。全員眠らせてからこの場を脱出します」

悪魔傭兵はすぐに行動を開始し、範囲魔法で船全体を眠りにいざなった。

当然俺や悪魔傭兵がその程度で眠る事はないが、マスタークラスにも満たない人々が眠るのは一瞬だった。

全員が眠ったと判断したのち、資幣の俺は空へ閃光弾の魔法を放つ。

そして光が辺りを照らし何も見えなくなった時、本体の俺は船ごと全ての乗員乗客をメグの町の外、人目のつかない辺りに瞬間移動させた。

「ふぅ~‥‥近くまで来ていたからなんとかなったが、流石にこの規模の瞬間移動は一瞬意識が持って行かれそうになるな」

既に魔力は回復してきているが、チートの俺でも結構無茶な魔法だった。

さてしかし助けたはいいけど、この後どうしようか。

船だけ元の海に沈めておいた方がいいかもな。

「乗員乗客と荷物を運び出してください」

乗員乗客は悪魔傭兵の数よりも少ないので、作業はすぐに終わった。

資幣の俺は船が沈む程度に船も壊しておいた。

本体の俺は再び瞬間移動魔法で元の海へと船を放り出した。

今現在の海の様子は分からないが、賊ももういないと思っておこう。

見られていていても相手は賊だからな。

大丈夫だと思う事にした。

資幣の俺は早速ヌッカの商人ギルドへと連絡を入れた。

魔法通信による通話だ。

普段はあまり使われない通話だが、ギルドではすぐに通話ができるよう準備がされているので急ぎでも使う事ができた。

『もしもし、こちら仁徳資幣と申しますが、ギルドマスターとつなぐ事は可能ですか?』

『今は無理ですね。言伝が有れば承りますが』

『では‥‥』

俺は船が襲われた事、なんとか脱出して乗員乗客全員が無事である事、とりあえずメグの町に滞在している事を伝えておいた。

『はい、言伝お預かりいたしました』

『よろしくお願いします』

ヌッカの商人ギルドに連絡をした後、乗員乗客が目を覚ますのを待った。

このまま放置でも良かったが、有栖川の船だし助けてやっておけば今後友好的に話もできるだろう。

俺は町での滞在場所も含めて色々と世話をしてやった。

宿が決まってから、俺はもう一度ヌッカの商人ギルドに連絡を入れ、滞在している場所を伝えておいた。

少し落ち着いた頃、メグの町の商人ギルドから、『蜥蜴閃空(トカゲセンクウ)』と名乗る男がやってきた。

「今日は色々とありがとうございました。船が賊に襲われたのに全員無事助けていただけるとは。有栖川に代わってお礼申し上げます」

「いえいえ、当然の事をしたまでですよ。それに早速我々の力を示せたのは不幸中の幸いです」

閃空は割と人の良さそうな人だった。

身長は高いが体は細く一見強そうには見えないが、所作から割と戦闘力の高い人にも感じられた。

「本当に素晴らしいです。海の真ん中で賊に襲われて無事だった人は少ないですからね。どうやって皆を助けたのか興味がありますよ」

「大した事はしていませんよ。普通に船で脱出しただけです」

本当の事は言えないよな。

あまり強すぎる力を見せるのもリスクがあるのだから。

「船が消えたという話も聞きましたよ。え、あ、偶々有栖川のパトロール部隊が目撃したらしくてですね。対応が難しいと判断して帰ってきたそうですが」

どうして船が消えた事を?

偶々パトロール?

そんな気配は感じられなかったが。

それに今何か動揺していなかったか?

「見ていた方がおられたのですね。詳しくは話せませんが、幻影魔法を上手く使っただけですよ」

「そうなんですね。あ、それでですね。明日出港の船を手配できましたので、明日その船に乗ってセカラシカに向かってください。少し小型になるので他の客とは別になりますが、予定通り後三日で到着できると思います」

「了解しました。それと他の乗客の事ですが、ほとんど持ち合わせのお金がない人もいるみたいですから、よろしく対処してやってください」

「お任せください。そ、それではお疲れでしょうから、早々に失礼しますね」

「はい。ありがとうございました」

最後に一礼して閃空は部屋から出て行った。

それにしても何か怪しい言動だったな。

怪しいと言えば賊の行動もよく分からなかった。

何故船を沈めようとしたのだろうか。

あの状況で船が沈めば、空を飛べない者はほぼ間違いなく死ぬだろう。

飛べたとしても長時間の飛行が必要になってくるから、俺たちクラスの者じゃなきゃ間違いなく死んでいた。

だから殺す事が目的だったようにも思う。

殺す?

一体誰を?

あの船に乗っていたのは、お金もそんなにもっていない一般人とそこそこの商人だけだった気がする。

殺す価値のある人間は‥‥俺たちなのか?

一体何のために。

いや、この私設民間傭兵隊を潰したいと思う者は多いかもしれない。

でも潰した所で利益を得る者なんているだろうか。

困るのは愛洲と我々くらい。

愛洲に敵対する勢力?

可能性があるとするなら伊集院か有栖川。

いや、最も可能性があるのは有栖川だ。

領土が隣接してるし、我々を専属の傭兵にしようとしていた。

それだけじゃない。

それを半分断ったのは我々で、良く思っていなくても理解できる。

有栖川は金の力でこの世界の民間傭兵の多くを雇い入れていると聞く。

そしてそれが有栖川の軍事力の裏付けとなっているくらいだ。

今回の海賊襲撃事件。

ちょっと調べてみる必要がありそうだな。

次の日、資幣と傭兵隊が船に乗って海に出た後、俺は冒険者ギルドの端末で海賊事件について調べた。

「過去に似たような事件が結構あるんじゃのぅ」

「ここ最近は船が沈むような襲撃が無いな。今回のようなのは事件があってから一年は空いているから、そんなに頻発しているとも言い難い」

「でも変ですよね。賊の力が強い時は何度も襲いそうなものですが」

「事件直後は警戒されていると思ったアルよ」

「まあそう考える事もできるな」

でも確かにこの間隔には違和感を覚える。

「被害者リストもあるよー!」

「ホントだ。この時は愛洲の者が死んでいるな」

「こっちのは速水の王子ですね」

「勇者候補の子供も死んでるアル」

調べると、船が沈んだ時はどれもそれなりに意味がありそうな人物の名前があった。

これはマジで有栖川の仕業である可能性が高まってきたぞ。

次に俺は兎束豊来について調べた。

兎束家は有栖川に仕える貴族家系で、貴族ランクが第二位の上流貴族。

主に商人ギルドマスターに就いている者が多く、金儲けで有栖川を支えている、か。

「豊来は武人でもありそうだったし、このような謀略に関与するようには見えないな」

そう言いながら情報を見ていると、俺は気になるものを発見した。

「いやちょっと待て。兎束家のくせに家紋が兎じゃなくてワイバーンだと?」

「聞いた事がありますよ。兎束家はワイバーンの使役が得意な家系だって。でもその話を聞いたのは百年以上前で、最近では誰もワイバーンを使役していないらしいです」

「怪しいようで怪しくなさそうじゃのぅ」

資幣たちを襲ったのは、ワイバーンに乗った奴らだった。

だからワイバーンの使役者が必ずいるはずだ。

それが兎束家の者ではないかと思ったのだが、一人もいないというのなら関係が無いという事になる。

「一応昨日会った蜥蜴閃空の事も調べておくか」

俺は端末を操作した。

「そんなにパッとせん貴族じゃのぅ」

貴族順位は三十八位だから丁度中間くらいだが、昨日見た印象以上に上位に感じる。

おそらく能力以上の何かがあるのだろうと考えられる。

有栖川との関係は良くも悪くもなさそうだが、一応主な所属は有栖川だった。

「情報はコレだけか」

「後は有料情報に家系図とか親類関係があるだけですね」

「一応見ておくか」

俺はお金が支払えるように、拾い集めている住民カードの一枚を端末にセットしページをめくった。

最近は旅の中で住民カードも腐るほど手に入っていて、使える住民カードを『捨て(アカウント)』のように使っている。

自分のカード使用をすれば誰が端末を使っていたかバレるからね。

さて情報を見たが、特に気になる所もなさそうに見えた。

俺はページを閉じようとした。

その時みゆきがつぶやいた。

「この人のお父さん誰だろう。ほらっ!このお父さんとお母さんからの線が切れてるよ」

家系図は、両親から続くラインの下に子供の名前が書かれている。

しかしそのラインが切れている子供がいくつもあった。

「どういう事だ?」

俺はそのラインが切れいてる子供を調べた。

すると苗字が変更されている事に気が付いた。

「兎束から蜥蜴に苗字が変わっている?」

「こっちもそうじゃの」

「調べると全部そうじゃないですか?」

俺はラインの切れている子供を順番に調べて行った。

そしたら六人確認した所まで、全てが兎束から蜥蜴への変更だった。

「子供の多くが養子だっていうのか?」

「これはもう養子というよりは、蜥蜴家自体が兎束家と同じもののように感じます」

「少なくとも関係は密接じゃのぅ」

「だとすると、有栖川との関係も密接と考えられるアル」

昨日の蜥蜴閃空の態度は気になった。

まるで船が襲われる所を見ていたかのような事を言った後に動揺していた。

「有栖川が資幣たちを殺そうとした、で間違いなさそうな気がするな」

「ワイバーンを使役する者だけを蜥蜴家に養子にやって隠しているって所ですかね」

「上流貴族は何かと調べられてしまうんじゃろうが、下級貴族の事は皆知りたいとは思わんしのぉ」

「とはいえ断定はできないし、今後は蜥蜴家に注視していくって事になりそうだな」

俺は一枚、異次元収納からゴールドカードを取り出した。

これも最近手に入れた拾い物のカードだ。

ゴールドも何枚か拾っていて、魔法通信に捨て垢として使う事もできる。

俺はそのカードを使って一つのメッセージを魔法通信上に上げた。

『船が賊に襲われた事件。アレは有栖川の仕業だ』

有栖川に対して『バレてるよ!プッ』みたいな意味を込めて流した。

そうすればもう今の資幣たちが襲われる事はないだろう。

尤も襲われた所で今度は確実に撃退してやるけどな。

でも今は無駄な争いは避けたいし、有栖川のセカラシカに拠点も持っておきたい。

この世界、表向きは平和だけれど、机の下では足の蹴り合いが活発に行われている。

それが何時表にでてくるか分からない。

その時対応できる駒は多い方がいい。

俺はこの世界で永遠にみゆきとマッタリ平和に暮らしたいのだ。

でもまた魔物が世界にあふれたり、人が多く死ぬような事にでもなれば、その時のみゆきはきっとそれを黙っては見ていないだろう。

今から対処できる事はしておこうと思う。

「じゃあ行くか。今日は海越えだぞ。先は四十八願領だ。なんでも願いが叶う地らしいし、もしかしたら此処が旅の終着点になるかもな」

この後俺たちは飛行魔法で海を越え、四十八願領内へと入った。

「とうとう西の端の国まできたぞ!」

「といってもまだ西はあるがのぅ」

「神武の国にも寄っていくんですよね?」

「そうだな。とりあえず四十八願領内を西に進んで、海から神武の国に渡る。そこから今度は有栖川のセカラシカの町だな。オトロシイからセカラシカまでは流石に距離があるから、此処は飛行ではなく瞬間移動でもいいかもな。その頃には資幣もセカラシカに到着しているだろうし」

飛んで渡れない距離でもないが、海の上じゃ情報を得るも何もないからな。

此処はショートカットしてしまおう。

そんな事を考えている時、セバスチャンの意識から俺に連絡が入った。

「どうした?」

「乱馬様が話したい事があると家族の家まで来ておられます。なんでも不老不死に繋がるかもしれない情報があるとか」

「分かった。すぐ戻ると伝えてくれ」

不老不死に関する情報か。

「みんな。一旦ドラゴンの里に戻るぞ。乱馬がもしかしたら不老不死に関する情報を得たらしい」

「ここからだと結構な距離瞬間移動する必要がありそうですね。また気分が悪くなりそうです」

「神武を経由して転移ゲートを使うか。俺も楽したいからな」

「距離が縮んだ所であまりかわらんがのぅ」

こうして俺たちは一旦旅を中止し、ドラゴンの里にある家族の家へ戻る事になった。


家族の家の居間では、乱馬が座って待っていた。

少し申し訳なさそうな顔をしていた。

「久しぶり。不老不死に関する情報があるんだって?」

俺は話しながら乱馬の前のソファーに腰を下ろした。

皆もそれぞれ好きな所に腰を落ち着けた。

「先にいっておくけど、もしかしたら手がかりがあるかもしれないって程度の話だからね。それも情報は手掛かりの手がかりに過ぎないんだ」

なるどほ。

それで少し申し訳なさそうな顔をしていたのかな。

「構わないよ。こっちとしては全く手がかりなんてないんだ。少しでも可能性があるなら教えてほしい」

「不老不死と言うよりは、魂と復活、或いは蘇生についてなんだ。不老不死は魂の事と直結しているから、そこから何か分かるかもって程度でね」

魂と復活、或いは蘇生。

もしかしたら魔王の復活と蘇生に関する話だろうか。

「魔王関係か?」

「関係はあるよ。早乙女が魔王を復活させるようになったのは、ある書物がきっかけらしいんだ。その書物が魂と復活、或いは蘇生について書かれたものでね」

なんだか面白そうだな。

そんな本があるのなら是非読んでみたい。

「その本を早乙女が持ってるから奪ってこいって話か?」

「遠からずも近からずかな。その本は今早乙女の手にはないんだけど、それを早乙女は再び手に入れようとしていてね。あるダンジョンに封印されているんだよ。封印したのはかなり前の早乙女国王らしいんだ」

「つまり早乙女が手に入れる前に俺に取って来いって話だな」

「察しがよくて助かるよ。正直そんな本、早乙女には手に入れてほしくないんだよね。どうせまた戦争をする為に新たな魔王の復活に使われるだけだろうし」

俺を使って早乙女を止めたかったわけか。

でもあながち嘘でもない。

不死ってのは魂の不死であり、魂が成仏しなくなるって事だ。

肉体的な蘇生能力もあるけれど、本質的には魂の事。

その辺りの仕組みが分かれば、俺なら不老不死を解除する方法に行きつくかもしれない。

それに何よりそんな面白そうな本に興味がある。

「よし。取りにいくぞ。ちょっと危険そうな匂いもするから、此処に残りたいヤツは残ってもいいが‥‥」

「わたくしは行きますよ!こういう冒険がしたくてパーティーに入れてもらったのですから」

「わたしもいくー!策也とはずっと一緒だもんね!」

「当然じゃのぅ」

「連れて行ってほしいアル」

「僕は止めておくね。おそらく足をひっぱるだろうから。でもこれをみゆちゃんにプレゼントするよ。魔力コントロールの指輪。ほぼ完成品ができたから」

「できたのか!?ちょっと見せてくれ」

俺はみゆきが受け取る前にその指輪を受け取って邪眼で確認してみた。

確かにこれは前のよりもかなりパワーアップしている。

ダイヤに込められた魔力も桁違いだ。

「こりゃ、作るのにかなり苦労しただろ?」

「まあね。僕の魔力が吸い尽くされるかと思ったよ」

「みゆき、付けてみな。これでおそらく魔力コントロールは完全にできるようになる」

「うん」

みゆきは今付けている指輪を外し、新しい指輪を付けた。

指輪は指にピタリとフィットすると、その効果を発揮し始める。

「あ、なんだろう。今まで足りなかった何かが戻ってくる感じがする」

「ほう。乱馬。この指輪は一体どういう原理なんだ?」

いつか自分で作ろうと思っていたものだけに、その作り方が気になった。

「なに簡単な事だよ。これは別に魔力コントロールができる指輪じゃなくて、魔力コントロールができない人をサポートする指輪に過ぎない。ほとんどの部分は身体の強化と魔力阻害が主になっているんだよ。魔力によって身体が押しつぶされなければ、その魔力はただの余剰になるわけでさ。だから、クラーケンのベルトを外しても大丈夫だとは思うけど、付けている方が安定はするはずだよ」

「そうか。そういう指輪だったか。そんなわけでみゆき。クラーケンの腕輪はそのまま付けておいた方がいいな。ただ風呂に入る時なんかは外しても問題ないだろう。指輪は外せないがな」

「そっか。でももうこの子ともずっと一緒で慣れちゃったし、外さなくていいかな」

「みゆきがそれでいいなら」

それにしてもこの指輪、これはこれで強力だな。

間違いなくみゆきの戦闘力を大幅に上げている。

これは俺がもう守る必要がないレベルに達していそうだ。

「じゃあそのダンジョンとやらを攻略に行くか」

「今から行くのかい?そろそろ日も傾き始める時間だけど」

「俺たちは西から来て、感覚ではまだ昼過ぎくらいだしな。それにダンジョンなら関係ないよ」

「それもそうだね。じゃあ僕は孝允にメッセージを入れておくから。早乙女の王都には何時頃行けるんだい?」

そういえば移動の時間を考えていなかったな。

王都と言えば早乙女領内の西の方にある『ロッポモン』って所だったか。

「俺が行った事ある場所で一番近いのは伊集院のイヌの町か。そこから俺が全力で飛んで二時間弱。二時間後には行けるぞ」

「速いな。もしかしたら待ってもらう事になるかもしれないけど、一応今から二時間後、ロッポモンのギルドに孝允を向かわせる。策也たちは目立つからすぐに分かると思うよ」

「目立つのか?」

「そりゃ子供が二人も冒険者ギルドにいたら違和感以外の何物でもないよね」

そりゃそうか。

そう言われるとさっさと呪いを解きたいと思ってしまうじゃないか。

最近は周りの視線あまり気にしてなかったけど。

でも俺たち超有名って程でもないけれど、一応勇者麟堂パーティーのメンバーって事で冒険者には割と知られているだろうから、侮られるような事はなくなったんだよな。

だったら多少違和感があってもいいか。

「了解した。じゃあ俺は一っ飛びしてくるよ。みんなは此処でしばらく休んでいてくれ!」

俺はそう言ってから瞬間移動魔法でイヌの町まで飛んだ。

そこから空へ上がってロッポモンの町を目指す。

この辺りは割と寒い地域だからもしかしたら雪なんか降ってたりするのだろうか。

俺は初の早乙女領に割とワクワクしていた。

2023年8月23日 脱字修正

2024年10月3日 言葉の一部修正

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