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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
呪い解除編
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お約束?異世界の物を売ろう

俺の思惑通り、勇者は愛洲が引き受ける事になったわけだが、愛洲の発表から簡単に決まったわけではなかった。

当然伊集院と有栖川は徹底抗戦だったし、九頭竜も最後まであきらめなかった。

俺はまずリンに相談し、此花が愛洲支持にまわるように説得させた。

洋裁にも島津を、乱馬には孝允を通じて早乙女の説得をさせた。

更に東雲王妃であるみそぎの力も借りて東雲も味方につけ、その流れで西園寺を含む此花の三国協調が愛洲支持になった。

そして最後の決め手は皇も味方に付けた事だ。

弥栄やみゆきの母親に協力してもらい、なんとか愛洲が勇者を勝ち取ったわけだ。

こんな裏事情を折太郎が知る由もないが、まあ相応に感謝されたので頑張ったかいはあっただろう。

勇者親子が船で旅立つのを見送って、俺たちはようやく次の町を目指して旅を再開させた。

ちなみに速水王国には愛洲から少々のお金が支払われ、諸道の能力次第では国民の生活も多少マシにはなるだろう。

「赤ちゃん、両親と一緒にいられる事になって良かったね!」

「みゆきも頑張ったもんな」

みゆきは勇者の行方が決まるまで本当に心配していた。

母親との魔法通話でも必死に思いを訴えていた。

あのみゆきの頑張りがあったからこそ、皇家も動いたに違いないと思う。

自分が物心つく前に親と離ればなれになったのだから、他人事には思えなかったのだろうな。

「そいで次は何処に行くんじゃ?」

「とうとう有栖川領アルね」

「有栖川と言っても本土ではなく飛び地ですよね。でもとても重要な領地だと認識しています」

エルの言う通り、これから行く場所は有栖川領だが飛び地だ。

有栖川は各大陸に領土を持っており、西の大陸には小国一つ分くらいの領土を有している。

しかもその地が非常に重要な場所で、有栖川領内の運河が東西を結ぶ唯一の船の航行ルートとなっているのだ。

此処を通らないで東の大陸の東側から中央大陸に向かう場合、西の大陸を迂回しなければならず、輸送コストは大きく跳ねあがる。

なので多少金を払ってでもここを通る事になり、そこでの利益は有栖川の収入の大きな部分を占めていた。

「速水も運河を東西に通す事ができたら、かなり儲けられるんだけどな」

「距離も結構ありますし、残念ながら速水の力じゃ無理でしょうね」

俺なら魔法で一気に作れるんだけどね。

まあ速水に力を貸してやりたいとは思わないし、作ったら作ったでまたそれが問題になるだろうから何もしない方がいい。

「町が見えてきたよー!」

みゆきの指さす先に確かに町があった。

既に人通りも多く、外から見ただけで活気のある町だと分かる。

あの町に入るとそこから有栖川領だ。

「町の名前はなんじゃったかの?」

「『ミジョカ』の町ですね。可愛いモノが集まる町とも云われているようです」

「可愛いオナゴも多いのかのぅ」

「ミジョカ美人って言葉もあるらしいな」

俺にはみゆきがいるから関係ないけどな。

でも、可愛い子が多いと聞いたら、男としてはやはりワクワクせずにはいられない。

俺は平静を装いつつも、期待に胸を膨らませて町へと入っていった。


丁度その頃ヌッカの町では、資幣の元に商人ギルドのマスターが訪れて来ていた。

「わしが商人ギルドマスターの兎束豊来(トツカホウライ)である!」

「はい存じております。私は仁徳資幣と申します」

「仁徳だぁ?あのドラゴンたちが作った国の新貴族だな。しかも仁徳ってぇのは割と近しい者に与えた苗字と理解しているが?」

「はい。まさか私に苗字を与えてくださるとは思っていませんでした。店を開いて間もない頃、大聖様が御客として店に来てくださった事がありまして。その時の縁かと思われますが、なんでも強い人に適当に与えてくださったと聞いています」

色々設定が大変だわ。

なんとなくみんなに仁徳って苗字を付けたけど、親しいから付けたでは後々問題が出てきそうだしな。

強いと認めた者に付けたって事にすれば、それは敵味方関係ないよね?

「お前が強いだと?まあいい。今日わしが来たのは私設民間傭兵隊についてだ」

「はぁ‥‥」

苗字が付いたら、それが神武の国所属だとしても、貴族相応に扱われるはずなんだけどね。

まあ兎束と言えば貴族第二位の上級貴族な訳だけど、やはりこういう上下関係が生まれる世界ってのはどうなのかなって思ってしまう。

「お前の傭兵隊は、有栖川の専属にしてやろうという話だ。どうだ、良い話だろう?」

「有栖川の専属ですか。しかし私が預かる傭兵隊には既に別の契約があって、愛洲王国を守る盾となるよう前金も既に貰っております」

前金は嘘だけど。

有栖川は特に軍事力が大きいわけじゃない。

ただ金の力でこうして傭兵なんかをかき集めて戦力を手にしている。

そんな有栖川の専属なんて御免だよね。

どうせ何かあったら最前線で殺し合いをさせられるわけで、悪魔の魂とはいえもう仲間だしな。

「いくら貰っているんだ?」

「話せません。守秘義務違反になるのはご存じかと思います。それをやすやすと話しては誰からも信用されなくなります」

「わしは兎束豊来だぞ?いう事を聞いておいた方が得だと思うがな」

脅しかな。

さてどうしたものか。

環奈がいれば『殺してもええかのぅ?』とか言いそうだけど、流石に殺すのはマズいし。

「正直申しますと、私は隊を預かり仕事の斡旋だけをしておりまして。隊長の仁徳仙人と直接話してもらえますか?連絡先はお教えします」

有栖川からの喧嘩を買ってもいいんだけど、資幣は既に従業員を抱えて下手な事はできないからな。

喧嘩をするなら仙人たちだけにした方がいい。

俺は先に本体の俺から事情を仙人たちに伝えておいた。

仙人たち私設民間傭兵隊の元悪魔たちは、俺の意に即わない行動が制限されるよう、作られた体には細工がしてある。

それ以外にも俺の命令、或いは俺の分身である資幣の命令には絶対であるとし、愛洲の領地が侵されるような事があれば最優先で対処するよう取り決めしている。

仕事の無い時は冒険者として素材集め等も命じているが、それ以外は人間として自由な生活を許しているし、この傭兵隊の行動も仙人に一任している。

さて仙人は有栖川の使いである商人ギルドマスターの豊来に対してどういう対処をするだろうか。

有能な元魔王軍の幹部を仙人として蘇生しているから、下手な事はしないと思うが、俺はなんとなくワクワクしていた。


ミジョカの町は、俺が活気があって素晴らしく思ったあのヌッカの町とは違った賑わいがあった。

例えるなら、ヌッカの町が新宿や梅田だとすれば、ミジョカの町は原宿である。

若者が集う娯楽の町のようだった。

「なんか可愛いモノがいっぱいだぁー!」

「うん。それにあんな可愛い服が安いアル」

「わしも可愛いヒラヒラした服でも着てみようかのぅ」

「別に構わないけど、自動温度調節と修復の魔法は付与しないぞ。俺はセーラー服の方が好きだからな」

「そうかの。残念じゃなぁ」

百歳越えのジジイのくせしてあんなヒラヒラが着たいのかねぇ。

「化粧品や洗剤なんかも安いですねぇ」

この世界にも化粧品や洗剤はある。

でも質は俺が転生する前の世界と比べれば雲泥の差だ。

だから俺は転生前の知識を元に、魔法で簡単なシャンプーやリンスなどを作って風呂には置いていた。

前の世界のものと比べるとかなり品質は落ちるのだろうが、安物で済ませていた俺にとっては十分なものだった。

「でも策也のお風呂にあるのとは違うね」

「この辺りのは使った事ありますが、策也のと比べるとかなり品質が悪い気がします」

「アレを売ったらもっと高くても売れそうアル」

こういう話、転生もののラノベやアニメにはよくある話だよな。

転生前の世界の物をそのまま持ってきたり、作り方を知っていてそれを作ったり、そしてそれを売って大儲けみたいな流れになるんだ。

「面倒だから売ったりはしないよ。ただ製造から販売までやりたいヤツがいたらレシピは高く提供してやるけどな」

「レシピの値段はいかほどでしょうか?」

「エルは興味があるのか?そうだな。売り上げの二割くらい貰えればいいぞ」

「買います買います!」

「マジか?!」

いやまてよ。

エルフ王国スバルなら商人ギルドの変な既得権が及ばないわけで、そういう所での商売なら独占ができそうだな。

となると神武の国でもそれは同じで、名産品を作れば国民の生活も豊かになりそうだ。

正直面倒だけど、国民の為なら少しくらいは頑張ってみるか。

「分かった。エルにレシピを提供しよう」

「ありがとうございます!これでスバルは益々発展するでしょう!」

「空中都市の礼もあるしな。ところでものはついでなんだが、もう一つ売れそうなもののレシピを提供するから、それを神武の国で売ってもらえないか?名産品を作って町を発展させれば国民の生活も豊かになるだろ?」

「構いませんが、何を売るのです?」

「ケーキやデザート類。まあお菓子だな」

「それはなかなか良さそうですね。お引き受けしましょう」

これで俺も美味い物が食えるようになるし一石二鳥だな。

別に食べなくても生きていける体だけど。

こうして俺はエルに頼んで、スバルではシャンプーとリンス、神武の国ではお菓子を名産品として売り出す事になった。


町で一通り情報収集をした俺たちは、瞬間移動魔法を使ってエルフ王国スバルに戻ってきていた。

シャンプーとリンスは既に使っているもののレシピをそのまま伝えて大丈夫だから簡単なのだが、お菓子は何ができるのかできないのか俺自身もよく分かっていない。

だからエルの屋敷の調理室で、料理人を交えてみんなで研究会をする事となった。

「最初に言っておくが、なるべく自分たちで仕入れができる材料で作る事。手に入れづらいものは商人ギルドを頼ってもいいが、そこからレシピを割り出される可能性もあるからな」

まあ一つ二つ隠せたら、作り方もあるしそうそう盗まれないとは思うけどね。

こうして俺たちは調理室での戦いを始めた。

材料は割とこの世界にもあった。

質は落ちるが、それでも明治時代前くらいのものは大抵手に入る。

世界観は中世ヨーロッパってのがファンタジー世界のお決まりだが、文化的レベルはそんなに昔でもないのだ。

魔法がある分科学技術的なものは全くと言っていいほど進んでないけどね。

俺たちはみんなで試行錯誤を続け、三日間でこの世界ではありえないレベルのお菓子をいくつも完成させた。

「これなら名産品として神武の国を発展させる力になってくれるだろ」

俺が特に気に入ってるのは、京都名物生八ツ橋だ。

好きで転生前に自分で作っていたのが良かったな。

後は州浜団子なんかも簡単で良かった。

「ええもう。こんなに美味しいものはこの世界にはありませんでしたから」

「美味しすぎて毎日食べたくなっちゃうね!」

「みゆき、毎日は駄目だぞ。美味しいものは体には悪かったりするからな。まあ俺たちには関係ないけどな」

不老不死は『病気も何にもない~♪』ってヤツだからな。

「オーガならきっと大丈夫アル。毎日食べるアル」

「美味いものは中毒性もあるからな。自分との戦いに負けたら終わりだぞ」

美味い物が溢れる時代になって、日本人の病気は本当に増えたからな。

この世界なら魔法での治療もあるし転生前の世界ほど気にする事はないかもしれないが、この世界の治療に関する魔法事情もよく知らないので、一応販売の際には注意を促しておこうと思った。


丁度お菓子などのレシピが完成した頃、資幣の元に再び商人ギルドマスターの豊来が訪れて来ていた。

「仙人と話を付けて来たぞ。話は聞いているな」

「はい。準専属的契約をするという話ですね」

「ああそうだ。最後は結局お前の同意が必要だと言いやがったぞ?だったらお前が最初から決めれば良かったんじゃないか?」

「何度も言いますが、私設民間傭兵隊は私の命令で動くものでもないのです。設立した方から預かっているだけなのですよ。それに本人たちの意見も聞く必要がありましたし、だったら直接お話した方が早いと思いましてね」

それにしてもまさかこんな流れになるとは想像していなかったな。

あの悪魔たちが面倒ごとを引き受けるとは。

この豊来の力か、それともそれが面白そうだと感じたのか。

「俺に本人たちの気持ちを確認させたって事か?‥‥まあいい。それでこの契約でオッケーなんだな?」

「改めて確認しておきます。この私設民間傭兵隊は、設立者の命令がまず第一にあります。私はそれを預かっているだけにすぎません。そしてその設立者の意思として愛洲を守るという目的があります。これらを踏まえた上で、有栖川の要望に優先的に応えるという事になります。ただし、設立者、或いは私や仙人たち当人がやるべきでないと判断した仕事に関しては断る事もあります。殺人や他国に危害を加える行為などです。この条件でよろしかったですね?」

「そうだな。そんな所だ」

後で何かしら言ってくる可能性もありそうだけど、ちゃんと契約しておけば大丈夫だろう。

メンバーはそんなに軟じゃないしね。

「それと条件に、隊の本拠地を有栖川のセカラシカに移すというのもありましたね。見返りとして拠点も提供していただけるとか?」

「有栖川で働くのにヌッカの町にいるでは話にならないからな」

この話は有栖川に取り込まれるような印象もあるけれど、愛洲を助けるにもやはり拠点は近くにあった方がいい。

仙人はウィンウィンの本当に良い交渉をしてくれたものだ。

ただ問題は、資幣である俺も東の大陸に行く必要があるという事。

ヌッカの町でようやく軌道にのってきた俺の店だが、これからは東雲の孤児院出身の彼らに店を任せる事になる。

もうみんな仕事には慣れたし大丈夫だろうけれどね。

元魔物解体作業場は、いずれ解体の仕事もやりたいと思って空けていたけれど、改造して倉庫にするかな。

在庫を多めに抱えて仕入れを減らす方向で考えないと。

「全て了承しました。ただ今回の件で愛洲が不安に思うかもしれません。有栖川の方から愛洲との友好を一言宣伝しておいてもらってもよろしいですか?」

パフォーマンスなんて所詮はそれだけのものだけど、案外力を持つ事もあるんだよね。

「伝えておこう」

「お願いします。それで我々は何時セカラシカに行けばよろしいですか」

「できるだけ早くしてもらおう。明日にでも船に乗ってくれ。十日くらいでつくはずだ。荷物があるならギルドの職員を送る」

急ぐ話ってのは慎重にした方が良いとは思うが、やるべき事は早急に済ませたい気持ちもあって。

まっ、なんとかなるだろう。

「分かりました。特に荷物も無いので、明日の朝には港に行きましょう」

「それではこちらが契約書になります。確認とサインをお願いします」

豊来についてきていたギルドの職員らしき男から契約書を渡された。

とりあえず全て読んで、魔法による細工がなさそうな事を確認してから俺はサインをした。


豊来が帰った後、俺は従業員に店を任せる事を告げ、魔物解体作業場を倉庫へと作り替えていった。

そして出来る限り、置いておいても大丈夫な素材などの売り物を保管しておく。

異次元収納から取り出して並べる作業って事ね。

次の日の朝には、資幣である俺は私設民間傭兵隊のメンバーを引き連れて船に乗った。

十日後には東の大陸有栖川領に到着する。

さて、本体である俺とどちらが早く東の大陸に到着するかな。

俺は少しの不安を感じながら、何事もない船旅を祈るのだった。

「そんなわけで資幣と傭兵隊は今日から船の上だわ」

「まさかそんな事になるとは驚きですね」

「船の旅も面白そうだよねぇ!」

「船か。でも俺たちはまだしばらく船はなさそうだな」

エルにレシピを引き継ぎ、ミジョカの町を少しだけ観光してから、俺たちは『メグ』の町を目指して出発した。

その道のりには多くの旅の宿が立ち並び、魔物も出ないのでゆったりとした旅が続いた。

「街道だな」

美味い物が売っている店も多く、なんだかんだで俺たちがメグの町につく頃には一週間が過ぎていた。

そしてその頃、資幣の乗った船も丁度メグの町の近くを航行していた。

「資幣よ。あれはなんじゃろうの?」

「ワイバーンのようですね。こっちに向かって来ます」

やはりというかお約束というか、キッチリ何かが起こってしまったか。

船に向かってやってくるのは、百体を超えるワイバーンだった。

上には人が乗り、明らかな敵意を持ってやってきているのが分かった。

2024年10月3日 言葉を一部修正

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