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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔王編
32/184

決着!それぞれの道へ

「勝負あったな!」

俺は勝った。

この状態から大魔王が逆転する要素は何もない。

魔力を高め、大魔王の体を完全に消滅させる。

それで勝負は終わる。

それはもう後一秒もない短い時間ののちだ。

なのに大魔王は笑った。

俺は何かを見落としていたのだろうか?

次の瞬間、俺が俺でなくなっていた。

「ははは!接触する機会を待っていたんだよ!お前の体、乗っ取ってやったぜ!バカかお前!魂を百に分けられるって事は、百の魂が入るって事だ!一つでもスペースが開いていたら、他の魂が入る事もできるだろうが!」

そうなのか。

俺は今、霧島、資幣、セバスチャンと、三つの魂が外に出ている。

そのスペースに大魔王は自分の魂を入れてきたのか。

だけど九十七の魂がまだ残っていて、大魔王の魂に負けるわけが‥‥。

いや違う。

俺は確かに大魔王の五倍は強いが、その魂が百に分裂してしまえば、その一つ一つは圧倒的に弱い。

戦略戦術で言えば各個撃破されてしまった形だ。

まさか自分の体が奪われるとは。

「この体凄いぜ!俺の魔力を更にパワーアップしてくれる!五倍とはいかないまでも二倍にはなってるぞ!」

「えっ?もしかして策也の体、乗っ取られちゃったの?」

「そうみたいじゃのぉ。こりゃこの世界も終わりかもしれん」

「マジかよ。もう全く勝てる気がしねぇぞ」

「短い人生だったアル。でも幸せな人生だったアルよ」

なんかみんなゴメン。

俺が油断して勝ちを焦ったせいで、大魔王を更に強くしてしまったみたいだ。

こうなればもう誰も勝ち目はないだろう。

みゆきのフルパワーでも無理。

しかも早乙女の蘇生解除で大魔王のコントロールもできなくなったな。

完全に人間世界は終わった。

大魔王の世界の始まりか。

「策也ー!大丈夫だよ!わたしを信じて!」

あれ?今みゆきの声が‥‥。

違う誰かの声に聞こえた。

誰だったかな?

そう、忘れちゃいけない誰かに似ていたんだ。

誰だろう。

みゆきの顔。

顔も似ているような気がする。

何時会った?

俺が転生する前?

そんな時の記憶。

写真‥‥。

あ‥‥思い出した!

アマテラスちゃんだ!

そうかそういう事か。

アマテラスちゃんを思い出して、全てが分かった気がするぞ。

みゆきはアマテラスの子、即ち神の子だったんだ。

本当は死んで神になるはずだったに違いない。

それを俺は助けて、神をこの世界に留まらせた。

それはきっと、神の力がこの世界に必要だったからだ。

そして今、神の力と言えば‥‥。

俺は霧島で伝えた。

「みゆき。俺はもうすぐ死ぬ。その時俺は倒れるだろう。そしたら神の加護で俺を、策也を蘇生してくれ」

「うん!分かったよ!絶対に助ける!」

頼んだぞみゆき。

そしてみんなに大きな声で伝えた。

「みんなー!俺の体に攻撃してくれていいから一分時間を作ってくれ。そしたらなんとかする!」

そういった後、霧島、資幣、セバスチャンの魔力を一つにして、俺は俺の体の魂を体から引きはがした。

俺は死に、霧島と資幣とセバスチャンはその場に倒れた。

「全く、無茶言うわね」

「一分は流石に無理ですよね」

「こりゃ全員死ぬかもしれんのぉ」

「まっ!やるしかないな」

「いっくアル!」

「魂の動きを感じる‥‥策也!生き返れぇー!」

皆は俺の体を乗っ取った大魔王に攻撃を仕掛け、みゆきは蘇生を開始した。

「馬鹿か!お前ら如きが俺様を一分も止められる訳がないだろうが!瞬殺してくれる!」

大魔王は魔力を高め、自分中心に全方位攻撃をしようとした。

しかしそれは何故か止まった。

「そろそろ自分の出番っすか?」

俺の体に装備されていたオリハルコンナイフの洋裁が、人の姿となって大魔王を止めていた。

「ナイフが?しかしその程度で止められるか!」

大魔王は爆発を起こした。

洋裁はバラバラになって辺りに吹き飛ばされた。

「変な邪魔が入ったな。でもまだ十秒も経っていないぞ!俺様なら後十秒もあればお前ら全員抹殺できる!今度こそ死んでもらうかな。食らえ!『大魔王降臨』!」

大魔王降臨とは、そこにいる全てのモノを破壊する超強力魔法だ。

この辺り一帯は魔法発動後まもなく全て塵となる。

「なんかヤバそうね」

「こりゃここまでかのぅ」

「大魔王の復活は、策也さんの体を乗っ取って達成されたようですね。これは本当に大魔王です」

「終わったな、最後に戦ったのが大魔王なら、仕方ないか」

「邪鬼くん。諦めちゃ駄目アル。最後までなんとかする方法を考えるアル。でも流石にもう無理アルか‥‥」

誰もがもうあきらめているかのようだったが、みゆきだけは違っていた。

自分を信じ、俺を信じてくれていた。

間に合ったぞみゆき。

流石俺が好きになった神の子だ。

「死ねぇ!終わりだ!」

「誰が死ぬって?俺はもう復活しているぞ!?」

俺は結界を張って大魔王の魔法を封じた。

「なにっ!?何故こんなに早くにお前が復活している?」

「何言ってんだ?みゆきの蘇生が一分もかかるわけないだろ?」

「何それ?私たちも騙されてたの?」

「敵を欺くにはまず味方からって言うんだよ」

「わしらも騙されておったようじゃのぅ」

とは言えギリギリだったな。

でももう油断はしねぇ。

魂も一つに戻っているし、入り込む余地はもうない。

みゆきの蘇生によって、みゆきの魔力もまだ俺の体に残っている。

今なら誰でも瞬殺できるな。

「最強魔法ってのはこういう魔法だってのを見せてやるよ!『最強神天照降臨(カワイイハセイギ)!』

大魔王の攻撃を止めていた結界が、大魔王に向けて収束する。

そして即座に、その存在を消滅させていた。

終わったな。

俺は大魔王の魂を魂ボールに捉えておいた。

なかなか強いヤツだったからな。

復活させてこき使ってやるぜ。

「勝ったのね‥‥」

「ふむ。もう駄目かと思ったんじゃが‥‥みゆき殿も規格外じゃったのぅ」

「本当の大魔王が復活して、それを倒すまで五分もかかりませんでしたね」

「生き残っちまったか。だったら俺も、やる事やるしかなさそうだな」

「自分の事、誰も心配してくれない‥‥まあ無敵だからすぐに元通りなんだけどね」

「疲れたアルよ」

「ほんま、もう終わりかと思たけど、うちもまだ鳥でいられるみたいやなぁ」

「魔王様を倒すなんて‥‥あたいの目に狂いはなかったようね!」

キャッツが裏切ったりするんじゃないかと一瞬思ったりもしたが、ギリギリの状態で風里を守ろうとしていた。

悪魔だってやはり人間と同じかもな。

今は泥傍猫だけどな。

「良かったよー!策也ー!」

みゆきが俺にとびかかって抱き着いてきた。

「心配かけたな、みゆき。そしてありがとう」

「あーん!」

みゆきが泣いた。

泣かせてしまった。

「ゴメンなみゆき」

あの時、みゆきがアマテラスちゃんと重なって見えた。

みゆきはおそらく神の子だと直感した。

そしておそらく、皇家で産まれる女児は、死んで神になるのだとも思った。

それが正しいかどうかは分からないが、今はもうどうでも良かった。

みゆきが俺の傍にいて、生きているのだから。


魔王を倒してから一週間が過ぎた。

俺たちはその間、伊集院に拉致られていた。

拉致られていたといっても言葉通りの意味ではない。

魔王を倒した英雄此花麟堂姫率いる勇者パーティーを称えおもてなしする為、イキリの町に近いシットーの町にて連日美味い物を食わされていたわけである。

そして今日行われるイキリとイテコマスの町を島津に返す記念式典に参加させる為だ。

イキリの町の返還が決まる中で、伊集院と此花、或いは島津との関係はかなり悪い方へと進んでいた。

しかし俺たちが魔王を倒した事で、伊集院にしてみれば、此花、そして島津に対して恩ができたのである。

そのおかげで、少なくとも表向きは一気に関係改善がなされ、本来不参加のはずだった伊集院も、領土返還式典への参加を決めた。

そしてそれと一緒に、英雄麟堂姫とパーティーを称える『勇者記念式典』も行われる事になったのだ。

式典は概ね此花麟堂姫をヨイショする為のモノとなっていた。

「こちらが魔王を倒した此花麟堂姫です!」

「あ、はい。どうも」

「麟堂姫は魔王に対して最前線に立ち、魔王へ致命傷を与えました」

「はい」

魔王が全部で三人いたというのは、既に周知の事実だ。

しかし実際の戦いを我々以外が見たのは、テヤンデーの戦いだけだった。

他は蘇生した町の住民の、『麟堂姫のパーティーに助けられた』という言葉だけしか状況を把握する術がない。

俺にとっても好都合だったし、全ての功績はリンに押し付けた。

「続いて、英雄麟堂姫と共に戦ったパーティーメンバーの悟空さんと風里さんです」

「あ‥‥どうも」

「凄く緊張するアル」

「お二人は麟堂姫が魔王に致命傷を与えた後とどめをさされました」

それにしてもこの光景は面白いな。

オーガ大嫌いな人間が、オーガ二人を英雄扱いだ。

もしもこの二人がオーガだと知れたら、反応は完全に二分するだろうな。

考えや価値観が二分すれば、当然そこには対立が生まれ争いになる。

だから今はオーガである事を明かすべきではないが、いずれ公にする時はくるのだろうかね。

「次に、パーティーメンバーとして活躍されていた島津洋裁王子です」

「いやぁ‥‥ははは」

「洋裁王子は島津王国の第二王子でありながらパーティーに参加し、魔王討伐に貢献されました」

実際洋裁がいて助かったよな。

なんとかなった可能性もあったけど、あの状況はどう転んでもおかしくなかった。

洋裁の行動がそれを決定付けたと言っていい。

そして洋裁がこのパーティーに参加していた事で、領土返還がスムーズに行われるのだ。

中身ダークドラゴンなんだけどな。

魂は間違いなく洋裁だとは思うけど。

ただそれでも返還領土はイキリ領とイテコマス領だけで、元島津領はまだ残っている。

それらが返還されるかは今後の友好関係しだいだが、おそらく伊集院はそんなに甘くないだろうな。

ただ此花は返しやすくなったと言えるかもしれない。

なんだかんだで式典は進み、そして終わった。

式典の後、参加していたエルグランドが俺の元にやってきた。

「策也、この後君はどうするつもりなのですか?」

「俺は元々別の目的があって旅をしていたからな。魔王討伐はオマケだ。だからこれからも旅を続けるつもりだよ」

「そうなのですね。ではわたくしも連れて行ってはもらえませんか?国の事が落ち着いたので、わたくしも世界を見てみたくなったのです。策也たちを見ていると自分の世界が小さなものに感じてきました。どうでしょうか?」

「そうだな。考えておくよ」

尤も、どうせ連れていく事になるんだろうけどな。

この後のみんなの予定は色々だ。

リンは総司との結婚に向けて国に帰る。

どうやら希望通りにナンデスカの町の領主をやる事になるらしい。

だからホームの屋敷は総司に返す事にした。

リンと総司はホームの二階に住む事になり、現在領主が住んでいる屋敷は役所とするようだ。

ただ総司にはちょっとムカついている。

「結局聖剣エクスカリバーは見つからなかったな」

「ああそれですけど、実はこの世界にそんな剣は存在しないんだと思います」

しれっと言いやがって。

予言通りにやった事だから仕方のないところなんだろうけれど、ちょっと納得いかなかったぞ。

悟空もパーティーを抜ける。

オーガの里夕暮に行って里を復活させるのだとか。

毎日子作りに励むのも大変だとは思うが、悟空ならまあなんとかやっていけそうな気がする。

ちょっと風里が可哀想だが、風里は二十年待つと言っているわけで、俺が口をはさむ必要はないだろう。

ちなみにオーガの寿命は人間の倍以上あり、子供は八十歳くらいまで産む事が可能だ。

現在二十二歳だから、二十年経っても四十二歳で、里づくりに支障はないだろう。

それとオーガの血は薄いようで、近親交配も問題が無いらしいから、女の子が産まれればまたその子と子供を作るわけで。

ただ妊娠率は人間の三分の一と言われているから、連日子作りに励む必要があるらしいが。

早乙女の件は、乱馬や孝允の必死の工作により、早乙女が大魔王に操られていたって話が世間に広がった事で何事もなく終わりそうだ。

だから乱馬は再び洞窟内で研究を続ける事になり、一緒に冒険の旅に出るような事は当然ない。

他はこれからも一緒に旅を続ける。

よくよく考えるとイタイメンバーばかりが残ったわけだから、常識人っぽいエルグランドがパーティーに加わってくれるのは助かりそうだ。

そして功績をあげてしまうような事があれば、今度は全部エルグランドに押し付けてしまおう。

そうそう、倒した大魔王たちの魂だが、全て俺が蘇生させた。

蘇生させたと言っても当然別人にだ。

拷問しまくってやろうと戦いの後は本気で思っていたが、一日寝たらどうでも良くなっていた。

それにそんな事してもみゆきは喜ばないだろうしな。

大魔王はセバスチャンとして、最初の魔王は依瑠、みゆきが一撃で倒した魔王は津希として復活させた。

もちろん裏切ったりする可能性も考えて、悪い事ができないように細工はしている。

セバスチャンに至っては、思考や視覚聴覚まで俺に伝わるようにしてある。

俺の魂が疲れない俺の分身的存在になったと言えるかもしれない。

こんな事ができるかどうか自信はなかったけれど、大魔王が俺の体と一緒になった事が何か魂に作用したようだ。

魂といえば、今まで百に分割していて体を乗っ取られた事を教訓に、今後はまず九対一で分割した後に、一の方を十分割する事にした。

合計十一分割になるが、これならほぼ体を乗っ取られる事はないだろう。

今回はみゆきがいたから助かったけれど、いなければ今頃俺の魂はずっと大魔王の体に閉じ込められていたままか、或いは永久にこの世を彷徨う事になっていた。

本当にみゆきには感謝しかない。

みゆきと言えば、冷静になった今でも神の子だと考えている。

なんてったってみゆきの中にアマテラスちゃんを見たからな。

何故思い出せたのかは分からないが、思い出した途端にこの写真も鮮明になった。

異次元収納から取り出した写真には、転生する前の俺とアマテラスちゃんがしっかりと写っていた。

俺は写真を破り魔法で燃やして捨てた。

もう過去、アマテラスちゃんに惚れた自分は必要ないだろう。

俺はには今、みゆきがいるのだから。

俺はみゆきの元へと走っていった。

2024年10月2日 言葉を一部修正

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