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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔王編
30/184

勇者の洞窟の宝とキャッツ

三十階に来ていた。

流石にもう最終フロアだろって感じの雰囲気だった。

自然が作った洞窟感は全くなく、完全に人の手によって作られたものだ。

それが妙に怖さを感じる。

この先にはかなりの強敵がいるに違いない。

俺たちは慎重に先に進んだ。

魔物は出てこない。

この流れはラスボスと取り巻きが最後に待ってるヤツだ。

そう思っていたのだが、結局最奥の部屋まで魔物は一体も現れなかった。

最後の部屋には、色々なアイテムが並べられていた。

博物館のように名前と説明まで記されている。

初代勇者が使っていたと云われる聖剣デュランダルをはじめ、武器防具が二十点以上あった。

ただ、それらは多少の魔力を感じるものの、俺が作れるマジックアイテムには及ばないものばかりだった。

「いらねぇな」

「聖剣エクスカリバーは無いのね」

「えくすかりばぁじゃなきゃ駄目なんじゃろうかのぅ」

「分からないけど、邪眼で確認して見てもどれも微妙だな。歴史的価値はあるだろうけどね」

「どうするアル?持って帰るアル?」

「まあ伊集院への土産にしてもいいけど、三十階まで行った事は隠しておきたいし、このまま置いて行こう。途中で拾った適当なアイテムを渡しておけば納得するだろ」

むしろそっちの方が使える気がするし。

そんな訳で俺たちはそのまま引き返そうとした。

すると突然天井が崩れた。

「なんじゃ?洞窟が崩れるのかのぅ」

「生き埋めは勘弁」

「でも此処だけみたいアル」

引き返そうとする俺たちの少し前に瓦礫が落ちて来る。

そしてその後に、見るからに悪魔と思われる女がゆっくりと降りて来た。

「あっれぇ~?こんな所に人間がいるよ!」

かなりの魔力を持っている、魔王クラスの悪魔だった。

ただ、先ほど朱雀と玄武を俺抜きで倒したメンバーにとって、目の前の一人の悪魔はそんなに脅威には感じなかった。

「お前もしかして魔王か?」

俺は聞いてみた。

正直魔王だと言われたら超拍子抜けしそうだ。

頼むから魔王であってくれるなよ。

「ははは!あたいが魔王だって?そんなわけないだろ!魔王様はあたいよりも遥かに強いわ!あたいはただ魔王様の復活を祝う為に、この洞窟に眠ると言われているアイテムを取りに来ただけだよ!」

「そっか‥‥」

なんだろう。

相手は結構強い女の悪魔だ。

だけどラスボスを倒した後に『実は私がラスボスでしたー』みたいに出て来た雑魚ボスに感じられて、ただなんとなく面倒だと思った。

それになんだこいつは。

ダンジョンなのに順番通り攻略せず、床ぶち抜いて地下三十階ですか?

そんなゲーマーの風上にも置けないヤツ、まともに相手したくなかった。

俺はおもむろに妖糸と魔法で攻撃した。

「魔法!妖糸!妖糸!魔法!魔法!魔法!妖糸!妖糸!魔法!」

女悪魔は十秒もしない間に完全に灰になっていた。

「おっと。一応結構強かったからな。魂だけは確保しておくか」

俺は魂を縛り付けてから、妖精界に行って異次元収納から魂ボールを取り出し、戻って来て魂を確保した。

「女悪魔ゲットだぜ!」

少しむなしさを感じた。

「さて戻るけど、このまま帰るのはなんかむかつくから、宝石を採取して帰るぞ!」

「自分もう疲れたから‥‥」

洋裁はナイフへと戻った。

「この天井の穴から一気に戻れるかの?」

「多分戻れるアルよね?」

「そうすっか」

俺はみんなの気持ちを察知し、ただ帰る事にした。

まあそれでも多少宝石は採取しておいたけどね。


「えっと‥‥手に入れた魔法アイテムはこれで全部かね?」

「ああ。結構良いのもあるだろ?」

「そうだな。二十三階まで行ったのはお前たちでまだ三組目だからな。しかし本当にお前たち三人で二十三階まで行けたのか?」

「く、く、苦しかったけど、行けたのじゃ?」

「うん。もう怖くて逃げ回っていたアル」

二人とも、もう少しちゃんと演技してくれ。

ちょっとバカにしていると思われるぞ?

「ふん。住民カードにもアイテムは無しと‥‥ご苦労だった。これが報酬だ。持っていけ!」

俺たちは金を受け取った。

ざっと見た所、一人百万円くらいか。

ちょっと少ない気もするが、色々と手に入れたし良しとしよう。

「さて、一旦他の奴らと合流するぞ」

太陽は少し傾き初めていた。

合流すると、そこは既に真っ暗だった。

霧島が移動用の家を出して、既に食事をしていた。

「帰ったぞ!」

「お帰り策也ー!」

ああ、やっぱりみゆきがいるだけで、俺は幸せを感じられる。

「なんか強いのやっつけたんだって?」

悟空が知っているのは、既に霧島が俺たちの事を話しているからだ。

「結構強かったアルよ」

「なかなかすりりんぐな戦いじゃったわぃ」

「朱雀と玄武って聞きましたけど、まさかそんなのがいるとは驚きですね」

「おう、それでだ。リンにプレゼントだ」

俺はそう言ってテーブルに二つの足輪を並べた。

このアイテムについてはまだ話していなかった。

「なにこれ?ってなんとなくわかるわ。これ、朱雀と玄武のマジックアイテムでしょ?!」

「そうだ。矛盾の足輪って言ってな、矛雀と盾武がリンを助けてくれるぞ。右足の太ももに矛雀、左足の太ももに盾武を付けてみな」

「太ももに付けるの?」

「矛と盾だからな。手が届く範囲に付けるんだ」

「なるほどね」

リンは納得すると、足輪を手に取って足にはめた。

大きさは自動的に調整され、ピタリと太ももに張り付いた。

「凄い。何もしなくても強くなった気がするわ」

「今までは龍の爪で戦っていたけど、これからは矛雀があらゆる武器に変化して助けてくれると思うぞ。もちろん今まで通り爪の武器も可能だと思うが、攻撃力は桁違いに上がるだろう」

「どんな武器にもなるの?」

「一通りこの世界にある武器ならな」

別に全て試したわけではないが、邪眼で確認した所そのように感じた。

「早く試してみたいわね」

「もうすぐ魔王との対決もあるだろうし、嫌でも活躍してくれるだろ」

魔王は確かにもう復活している。

女の悪魔も言っていた。

聖剣エクスカリバーはまだ見つかっていないけれど、決戦の日はもうすぐそこまで迫っているように思えた。

みんなとの話が一通り終わり、休む者、風呂に入る者、それぞれがそれぞれの時間を過ごし始めてから、俺は外に出て魂ボールを取り出した。

捕まえた女悪魔の魂が入っているヤツだ。

さて今回はどんな風に使ってやろうか。

まずはとりあえず話してみるか。

俺はエアゴーレムスマートフォンを作り、魂を憑依させた。

「おい女悪魔、俺が見えるか?」

爆破犯を聴取した時にやったように、スマホのカメラを自分に向けて話した。

「えっ?何?あんたさっきの‥‥ひぃー!許して!もう悪い事しないからあんなひどい事だけは勘弁してー」

「おっ?そうか?感心感心。言っとくが俺は魔王よりも強いからな。嘘つくと死んでも苦しい目に合わせるぞ?」

「はい分かっております。嘘はつきません。あなた様の下僕となって働かせていただきます。好きにお使いくださって結構ですから、苦しいのだけはなにとぞ」

なかなか愉快なヤツじゃないか。

悪魔は魔物とちがってヒューマンだから、死んでも人格は変わらない。

だから超悪いヤツだったらどうしようかと思ったけど、悪魔も案外普通なんだな。

「俺は策也って言うんだが、お前名前は?」

「名前ですか?キャッツと申します」

「キャッツか‥‥」

猫だな。

よし決めた。

泥傍猫(ドロボウネコ)のキャッツで行こう!

俺は魔法を使って、魔砂を混ぜた泥粘土で子猫を作った。

魔砂が必要なのは、泥粘土はオリハルコンと違って命を吹き込めるものではないからね。

スマホゴーレムを解除し、魂を泥粘土で作った子猫に付ける。

そして風の魔法で蘇生だ。

蘇生は上手く行き、泥傍猫のキャッツが誕生した。

「今日からお前は泥傍猫のキャッツだ。いつも傍にいて主人を守るガーディアンとなるんだ」

「どういう事でしょう?」

「お前は風里ってヤツのペットになって、常に一緒にいろ。そして風里の身に危険が及べば身を挺して守れ。お前泥粘土で出来てるから、超高熱系の攻撃以外なら死ぬ事はない。守ってやれるだろ?」

今日の戦い、洋裁が守りながら戦う風里は良かった。

あの戦いでの洋裁の代わりをキャッツにやってもらおうって思ったのだ。

「できるか?」

「えっと、風里様というのはどちらの方でしょうか?」

「おーい!風里!」

俺は外から風里を呼んだ。

すると風里と一緒にリンとみゆきも一緒に出て来た。

どうやら女性陣は一緒にいたみたいで、風里について出て来たようだ。

「何してるの?外で一人」

「あー!子猫だぁー!可愛いよー!」

みゆきが走って来た。

そして子猫を抱こうとする。

俺はそれを一旦止めた。

「みゆき!触る前に先に言っておくけど、それは子猫じゃない。子猫型の泥ゴーレムだからね」

「そうなの?でもモフモフそうだよねー!」

みゆきはそう言ってキャッツを抱き上げた。

「うーん‥‥モフモフじゃない」

「だから言ったろ?見た目は普通の猫でも、柔らかい粘土、或いはスライムのような感じなんだ」

「そうなんだ。残念」

みゆきが置いたキャッツを、今度は風里が抱き上げた。

「でもちょっと気持ちいい感じだし、すごく可愛いアル」

風里はキャッツに頬ずりしていた。

まあ見た目は可愛いし、その感触も想像には反するけれど悪くはないかもな。

「本当ですか!なんだかそう言っていただけるとあたい嬉しいよ‥‥」

割と相性良さそうだな。

「キャッツ。そいつが風里だ」

「このお方が風里様!?任せてください。この方の為ならやれそうな気がします!」

「どういう事アル?」

「風里。その子猫型生命体な、お前にやろうと思って作ったんだ。今日の洋裁とのコンビ、割と良かったろ?その洋裁の代わりができるような、無敵とは言わないけど近い能力を持った相棒がいればと思ってな。ちなみに魂は今日捕まえた女悪魔な。魔力だけなら洋裁よりも強いぞ」

「えっ?この子くれるの?嬉しいアル‥‥私が守ってあげるアル‥‥」

いや、風里を守る為に作ったんだけど‥‥。

まあいいか。

結構喜んでくれているみたいだし。

「えー!私にもちょっと触らせてよ」

「私の主は風里様だけよ」

「うん。でも触らせてあげてほしいアル」

「風里様がそうおっしゃるなら」

キャッツは風里の腕の中から飛び降りて、リンの元へと歩いていった。

リンはそれを抱き上げた。

「た、確かに変な感じね。でも少し冷たくて気持ちいいかも」

「わたしにももう一回触らせてー」

見た目が子猫だから、なんだかんだ女性陣には大人気だった。

「ところでキャッツ。お前は泥粘土で作られているから、色々なモノに形を変えられるはずだ。どうだ?できそうか?」

「どうでしょう?やってみます」

するとキャッツは、小さな子猫から小さな女悪魔の姿へと形を変えた。

「おお!元の姿に‥‥あたい小さくね?」

「うん。小さいけど可愛いアル」

いや、むしろ小さいから可愛く見えるんだけどな。

女悪魔ってちょっと怖そうだけど、小さくなれば可愛いもんだ。

「そうですか。風里様にそう言ってもらえるとあたいも嬉しいです」

「キャッツ。多分だけどお前の体は泥粘土だからな。その辺りの泥土も体に取り込んでもっと大きなものに形を変える事もできるはずだ。そうすれば元のサイズにも戻れると思うぞ」

「やってみますね」

するとキャッツは地面の土を吸収して元の女悪魔サイズに戻って見せた。

「凄いです!ははは。これはいい」

「そのサイズの猫とか、生き物だけじゃない。きっとイメージさえしっかりできればどんな姿にもなれると思うぞ?」

キャッツは再び姿を変えた。

土を取り込んだままの大きさで猫に戻った。

ほぼ雌ライオンだな。

「すごいすごい!」

「本当に何でもありね」

「キャッツは凄いアル」

「いやぁ。皆さん持ち上げすぎですよ」

俺の想像通りだな。

あの某塔に住んでいる少年の(シモベ)のような感じになればと思っていたけど、これは良い感じだ。

何よりキャッツと風里は相性が良さそうなのが一番か。

悪魔と言っても、もしかしたらちょっとしたきっかけで仲良くなれる存在なのかもしれないな。

復活した魔王は果たしてどうなのか。

話してみるのも良いかもしれないと思った。


次の日俺たちは、魔王や聖剣エクスカリバーを探すグループと、魔物を狩るグループの二手に分かれて行動していた。

霧島、リン、みゆき、悟空、風里、陽菜は魔物を狩るグループで、風里にはキャッツが付いている。

俺と環奈と総司は魔王や聖剣エクスカリバーを探すグループで、伊集院領内で早乙女領に最も近い町の一つ『テヤンデー』に来ていた。

一応言っておくが、俺の持っているオリハルコンのナイフは当然洋裁である。

昨日の戦闘に疲れたのか、今日はずっとナイフのままだ。

それにしても、パーティーメンバーが別れて行動するとなると、みゆきと一緒にいられないのは納得いかない。

俺が決めている事だし、蘇生魔法を使えるのが俺とみゆきだけだから仕方がないのだけれどね。

霧島がダイヤモンドミスリルゴーレムになってからは蘇生魔法も使えるのだけれど、やはり魔力パワーが低い分問題もある。

それにこの所みんな霧島よりも強くなっているから、殺られるような事が有れば最初に殺られる可能性が高い。

そんなわけで俺とみゆきは別行動にならざるを得なかった。

お探し隊の俺たちは、いつも通りギルドで情報を集めていた。

魔王の形跡なんかは何処に残っているかもしれないわけで、ニュースは慎重にチェックしていた。

「勇者の洞窟に穴。地下三十階まで繋がっており、誰かが侵入した可能性。しかし貴重なアイテムが盗まれた形跡は無し、ですか」

「すぐに穴は見つかったようじゃのぉ」

「そりゃあれだけのもんが見つからなかったら逆に驚くわ」

もしも勇者の遺産を持ち帰っていたら、疑われて因縁を付けられていた可能性もある。

持って帰らなくてホント良かったよ。

「乱馬の話によれば、魔王は既に伊集院領に入っているか、或いはもうすぐ入るって事だった。だからこの町に来たけれど、今の所その気配はなさそうだな」

「この町じゃない可能性も大いにありますからね。早乙女領から伊集院領だと、他にもいくつかルートはありますし」

「それに町に来るとも限らんのじゃないかのぉ」

「町以外の可能性もあるけど、それなら被害もない訳だから、やはりまずは何処かの町で迎え撃つ事になるんだろうな。エクスカリバーはあった方がいいのだろうけれど、無くても大丈夫だと思うからこだわる必要はないだろう」

もしかしたら何処かに人知れず魔王城を築いたりするのかもしれないが、それはそれで助かると言える。

戦場を町にしなくていいわけだからな。

できれば町での戦闘は避けたい。

犠牲を出したくないってのもあるが、あまり俺は目立ちたくないからな。

結局目ぼしい情報もなく、俺たちは一旦情報端末から離れて食事をする事にした。

テーブルにつき少しメニューを見てから注文をする。

その時だった。

突然ギルドフロアに声が響いた。

「冒険者の皆さんを招集します。このテヤンデーの町に、海から魔王が進攻してきているとの情報が入りました。ゴールド冒険者以上の方は、迎撃の協力をお願いします。シルバー以下の人は町を結界で守るのに協力してください。或いは住民を守るのにご協力願います」

とうとう来たか。

この町に来てくれたのはラッキーだったな。

町での戦闘は避けたかったが、此処なら町が攻撃される前に倒せるかもしれない。

「よし。環奈!総司!迎え撃つぞ!リンたちは霧島が間もなくこちらに連れて来る!」

「いよいよじゃのぉ」

「ええ。しかし‥‥」

総司が少しスッキリとしない表情をしていた。

聖剣エクスカリバーが見つかっていないからだろうか。

「エクスカリバーは無くても大丈夫だって」

「それは心配していないのですが‥‥」

歯切れの悪い総司の物言いに、俺は少しだけ不安を覚えた。

「総司何かあるのか?」

「実は‥‥魔王が復活しているのは事実ですが、予言ではまだ、魔王は復活していない事になっているんです」

「予言だって完全じゃないんだから、そういう事もあるだろ?」

「それはそうなんですが‥‥」

「考える必要もないじゃろ?それにそれが大した問題にも思えんしのぉ」

環奈の言う通りだ。

仮に本当の魔王がこの後に復活するにしても、今は目の前の魔王を叩くしかないのだから。

俺はとりあえず考えるのを止め、目の前の事に集中した。

2024年10月2日 言葉を一部修正

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