表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔王編
29/184

対決!伝説の魔獣が二体

それはオーガの里を出てすぐの事だった。

セバスチャンの元に乱馬がやってきて、話があるから集まって欲しいというものだった。

俺はすぐに皆を連れてドラゴンの里へと瞬間移動し、そこから転移ゲートを使ってホームへと戻ってきた。

距離も遠くなってきて、大人数の瞬間移動もなかなか疲れるからね。

転移ゲートを使わせてもらう。

一同応接室に集まった所で、乱馬がいきなり頭を下げた。

「みんな申し訳ない。魔王の復活は、やはり早乙女の仕業だったよ」

ある程度予想はしていたし、そうではないかという話もしていたので、話自体に驚きは無かった。

ただ、何故ここにきて改めて謝るのかが引っかかった。

「いや、おそらくそうだろうという話だったし、だから今それを阻止できるのならそうしようとしてるんじゃないか」

「だからこそだよ。魔王はもう復活しているから」

「なんだってぇー!」

悟空驚きすぎだよ。

とはいえ驚いているのは皆同じだけどね。

「とりあえず話をしてくれ」

「うん。じゃあ全部最初から順番に話すね。実は僕、死ぬ前に僕の側近だった桂孝允(カツラタカヨシ)にあるお願いをしておいたんだ。それは僕、早乙女相馬が死んだあと、二人しか知らない秘密の言葉でメッセージを送ってくる者がいたら、僕の代わりにその人の力になってあげて欲しいって」

なんだかんだ早乙女の者と完全に切れる事を避けていた訳か。

というか‥‥。

「桂?王族じゃないのかそれ?」

「うん。まあちょっとした縁があってね。僕の側近として早乙女家に来てもらったんだよ。その辺の話はいずれするかもしれないけど、長くなるから割愛するね。とにかく百パーセント信頼できる人である事は間違いないから」

百パーセントとか絶対ってのは信用ならなかったりするけれど、とりあえずここは乱馬の言葉を信用しておこう。

「それで以前策也と魔王復活が早乙女じゃないかって話をした後、彼、孝允に探ってもらっていたんだ。そしたらやっぱり魔王復活は早乙女の仕業だったんだよ」

「確認がとれたってわけか」

「それだけじゃないよ。そしてそれは既に達成されていたんだ」

「そうなの?じゃあもう魔王復活は阻止できないわけ?」

「姫さんの言う通り、魔王はもう復活しているからね。そしておそらくそれは今早乙女領か、或いはもう既に伊集院領に入っているかもしれない」

総司の予言から、復活阻止が無理なのはどこかで納得してはいたけどね。

「そしてその目的なんだけど、魔王を使って世界を征服しようって思っているみたいでね。これはもう何百年も前から計画されていた事なんだ」

「だけどそれ、かなり難しいよね。世界を混乱させるだけなら可能かもしれないけれど、魔王の力ってそれほど脅威じゃない。しばらく旅してきたけど、魔王をなんとかできそうなヤツって結構この世界にはいるように思う」

「それは僕らが一番感じているよ。策也を知っている僕らがね。魔王は復活を繰り返すたびに強くなっていて、今回最終形態の大魔王として復活しているって話なんだけど、それでも策也ならおそらく勝てるんじゃないかな?」

「まあ普通に力で決まるなら、俺ならなんとかなるとは思うが‥‥」

今回の魔王は大魔王クラスなのか。

それなら確かに世界征服を考えるのも分からない話じゃない。

俺やみゆきを知らなければ、可能性を感じてしまう事もあるか。

「僕は魔王を倒す事に関しては策也を信じているからあまり心配していないんだよ。でも、おそらく早乙女は世界に対してなんらかのメッセージを出してくると思う。そうなると早乙女は魔王討伐された後、世界から総攻撃を食らうだろう。別に早乙女の領土がなくなるのは構わないけど、やっぱり父さんや兄さんが殺されるのは見たくないんだよね」

そういう事か。

俺はそんなに賢くないから察せなかったな。

魔王復活を早乙女がやったとなれば、当然世界中を敵に回すじゃないか。

それもどうやら最初のターゲットは伊集院らしいし、転生前の世界だったら完全に世界大戦突入案件だ。

「できれば早乙女がやったと分かる前に、それが無理でも被害が出ない内に魔王を倒さないとって事だな」

「うん。そうでないと結果はもう見えているよ。早乙女の領土は一つを残して全て他国に奪われ、父さんと兄さんは処刑。後は三男の天馬が継ぐけど、へき地で完全に伊集院の傀儡国家。孝允もどうなるか分からない」

まだ本当に俺が魔王を倒せるのかどうかは分からない。

自信はあるけど聖剣エクスカリバーも見つかっていないし、負ける可能性もゼロじゃない。

でも予言の事もあるし、乱馬の言う通りの結果になる可能性はかなり高い。

「ならばすぐにでも聖剣エクスカリバーを見つけて魔王を叩くしかないな」

「やってくれるかい?」

そういえば俺、なんでこんなにやる気になってるんだ?

元々ハーレム作って楽しく過ごせればいいと思ってこの世界に来たのに、なんだかんだで仲間も増えて、色々なヤツと繋がりを持ってしまった。

何よりみゆきとの出会いは大きかった。

進むべき道が百八十度変わっちまったよなぁ。

「みんなもやる気満々だしな。俺しかできない事は俺がするし、みんなができる事はやってもらうぞ」

「ありがとう策也」

「ま、そうなるわよね」

「僕は最初から全て策也さんに任せています」

「わしは魔王と戦うのが楽しみじゃて」

「わたしは魔王と友達になるのが夢だよ!」

「殺しちまったら友達になれないな」

「邪鬼くん、夢を壊す事言わないでほしいアル。私も魔王と友達になるアル」

「自分は楽したいのでみんな頑張って‥‥でもピンチの時は無敵だから助けるよ」

「仲間ってええどすなぁ」

反対する者は最初からいる訳もない。

乱馬に言われなくても、被害を出さずに魔王を倒す事は総司が仲間になった時からあった目標で、何も変わっていないのだから。

「よし。とりあえず皆は霧島と一緒に魔物狩りを頼む。俺は一人全速で勇者の洞窟を目指す。到着したら状況を確認してダンジョンにもぐるぞ」

「それが一番早いでしょうね」

「わしならついていけるぞい?」

「いや、この先は戦いが続くかもしれないから、無理をするのは俺だけでいい」

尤も、大した無理でもないんだけどな。

高速移動なんて魔素の濃い上空へ行くよりも全然楽なんだから。

「僕も行くよ。自分でもできる事があるならやりたいんだ」

「いや、乱馬は此処で情報収集でもしながら、早乙女の動きを見ておいてくれ。何かあればセバスチャンに頼む」

悪いな。

正直この中に入ったら乱馬は足手まといなんだ。

それよりも早乙女を止められる可能性があるのなら、そちらを頼みたい。

早乙女が止められれば、魔王だって別に悪さをしないのだろうから。

早乙女はきっと魔王を蘇生したに過ぎない。

どうやって魂を見つけたかは分からないけれど、その辺り魔素が関係しているのかな。

そして蘇生は蘇生解除という逆の魔法も存在して、早乙女はその辺りをチラつかせて魔王をコントロールするつもりなんだろう。

それが上手くいくなら、早乙女さえ止めれば魔王も止められるのだ。

「分かった。早乙女を止められるとは思えないけど、やれる事があればやってみるよ」

察しが良くて助かる。

俺は一つ頷くと、屋敷の外へと走り出した。

皆も後に続いた。

転移ゲートと瞬間移動魔法を使って元の場所へと戻って来た。

俺は霧島を残して大空に飛び立つ。

そして自分を結界で守りつつ、全速力で勇者の洞窟へと向かった。

勇者の洞窟までの距離は、ホームのあるナンデスカの町と同じくらいだ。

つまり冒険の旅に出て三ヶ月近くになるが、それだけの距離を一気に行く事になる。

他のメンバーと一緒だと飛んで行っても二日はかかる距離だ。

だけど俺だけなら三・四時間もあれば到達できるのだ。

眼下に広がる景色は高速で移動するので、景色を楽しむってのもあまりできない。

もっと高く飛べば景色を楽しむ事もできるかもしれないが、魔素が濃いから辛くなる。

一応魔物なんかの状況確認もしておきたいし、空の旅は楽ではなく結構大変だった。


ゆっくりと時は刻まれ、もうすぐ到着という所で俺は人目の無い所で地上に降りた。

既に出発してから三時間以上は経っており、みんなは現在昼飯をとっている。

少し疲れたので休みたい所ではあるが、食事は別に何も回復しないし、回復力はチートだからこのまま行っても大丈夫だろう。

直ぐに今度は地上を勇者の洞窟に向けて進んだ。

そして間もなく目的地へと到着した。

「地図通りだな」

勇者の洞窟は、森が開け荒野から砂漠へと変わる辺りにあった。

冒険者の姿はいくつかあったが、思っていたよりも少ない。

尤もダンジョンに入るならもっと早くの時間から入るだろうし、挑戦するならもっと前に挑戦しているだろう。

上級者ならずっとダンジョンの中にいるだろうし、考えればこんなもんか。

俺は不動を召喚してから、ダンジョン挑戦の受付場所へと向かった。

受付横には、挑戦の条件やルールなどが書かれた看板がおいてあった。

挑戦の条件には、俺たちのパーティーでそのまま入るには問題となるようなのもあった。

入る前に持ち物検査的なものがあり、マジックアイテムは全てチェックと登録が必要になる。

住民カードを持っている事も必要だ。

この時点で、マジックアイテムを外せないみゆき、頭の輪っかを外せない悟空、そして陽菜は入る事ができない。

更にこのダンジョンで手に入れたマジックアイテムは全て没収される事になっているわけだが、『出る時に全てのマジックアイテムは回収します』と書かれている為、良いマジックアイテムを持っていかれる可能性も考えられる。

となるとマジックアイテムも持たずに入るのが一番安全で、マジックアイテム抜きで戦っているのは風里だけになるわけだ。

これ、本気で攻略させる気ないだろ。

それに住民カードのアイテムボックスまで確認されるわけで、ダンジョンの中では異次元収納魔法が使えない可能性も出てきた。

俺はルールを確認したのち、一旦皆の元へと戻った。

皆は食事を終え、そろそろ討伐を再開しようかという所だった。

「よっ!勇者の洞窟の場所、見て来たぞ!」

「お帰り策也ー!」

いやぁ、みゆきにそう言ってもらうと、何度も帰ってきたくなるよなぁ。

「それでこれからどうするの?みんなでダンジョン攻略?」

「いや、トップレベルの冒険者でも二十五階が最高だし、色々と面倒な条件もあった。マジックアイテムは持ち込まない方が良さそうだし、俺の魔法収納や転移魔法も使えない可能性がある。みゆきと悟空、それに陽菜は絶対に無理で、リンと総司もアイテム抜きじゃ厳しいだろう。だから来てもらうのはまずはマジックアイテムを使っていない風里」

「うん。分かったアル」

「それと月の刀抜きになるが、環奈、来てくれるか?」

「ふむ。大丈夫じゃろぅ」

「そして洋裁はナイフのまま持ち込むつもりだ。洋裁には魔力を抑えて普通のナイフのフリをしてもらうぞ」

「完全に抑える事はできないかもよ」

「大丈夫だ。どんなアイテムも作った時点で製作者の魔力が少しは残るものだ。マジックアイテムと認識されなければいい」

「了解っす」

実際マジックアイテムじゃないしな。

大丈夫だろう。

「他はこのまま霧島と共に魔物狩りだ。みゆき、みんなをよろしくな」

「分かったよ!頑張る!」

「なんでそこでみゆちゃんなのよ。私もいざとなればフェンリルの四季も呼べるし、もうみんなを守れるくらいには強くなってるんだからね」

「そうだな、頼む」

アイテムやフェンリルのおかげとはいえ、一番強くなったのはリンだな。

最初から心は強いやつだったが。

「じゃあいくぞ」

洋裁がナイフに戻って鞘に入るのを確認すると、俺は環奈と風里を連れて勇者の洞窟近くへ戻った。

「環奈はできれば爺さんの姿になってくれ。流石に女二人に子供一人だと入場拒否されるかもしれないからな」

「仕方ないのぉ」

「月の刀は俺の異次元収納に入れておく。出せたら中で使えるだろう」

「うむ」

「あと俺たちの服もマジックアイテムだからな。まさか服まで脱がさないとは思うが、これも俺が預かっておく。この服を着てくれ。普通の忍者服だ」

風里が俺たちの視線を気にする事なく堂々と着替えていたのが少し気になったが、俺も環奈も何も言わなかった。

「住民カードの中身も調べられるからな。俺に預かっておいてもらいたい物があれば先に渡してくれ」

「金以外はいっとらんわぃ」

「私も‥‥こんなのしか入ってないアル」

見るとお金と、何故か石しか入っていなかった。

悲しくなってくるぞ。

風里には今度何か上げる事にしよう。

ちなみにパーティーメンバーのカードは全てゴールド以上にはしてある。

流石にメールも送れないではいざという時困るからね。

尤も、九頭竜に内容が洩れる恐れもあるから大した事はメールできないが。

「環奈にはこの忍者刀を一応渡しておくよ。何も無いよりはいいだろ?」

「そうじゃのぉ」

「じゃあいくぞ。勇者の洞窟攻略だ!」

こうして俺たちは勇者の洞窟へと入っていった。


「くっそ、マジで面倒だったな」

「洞窟に入るのに一々説明を聞かされるとは思っておらなんだわぃ」

「もう何言ってるか分からなかったアル。二度と聞きたくないアル」

既に看板に書かれてある事を延々と何度も何度も聞かされ、伊集院の為だとか心構えがどうだとか、そりゃ俺は此花の人間だけど、えらく嫌われたもんだ。

とはいえ入ってしまえばなんとかなる可能性がある。

俺は異次元収納の魔法を使ってみた。

「使えないのかやっぱり‥‥」

これで瞬間移動魔法も使えなかったらきついが、この辺りは冒険者も多く試すには向かないな。

「とりあえず一気に二十階までいくぞ。そこまでは楽勝だろうからな」

「了解じゃ」

「分かったアル」

俺は妖糸を使ってノンストップで進んだ。

妖糸はマジックアイテムでもないし、普段は手にグルグルに撒いて超薄い透明のグローブのようになっているから、入る時に気づかれる事もなかった。

それにしても本当に資源が豊富なダンジョンだ。

伊集院の強さを資金面で支えているのはこのダンジョンなのではないかと思えるほどだった。

地図も入る時に与えられたし、二十階まではすぐだった。

流石にこのメンバーだと楽勝だ。

おそらく二十五階までは一気に行けるだろう。

しかし二十四階に入って、地図が不完全になっていた。

二十五階に行く経路は分かるが、ダンジョンに入って地図を埋めないのはなんだかスッキリしない。

「地図が不完全だから、これらを埋めていくぞ」

先を急ぐ必要があるのかもしれないが、俺にはスルーできなかった。

地図に無いエリアに入った所で、俺は瞬間移動魔法を試す事にした。

一応戻ってこられない事も考慮して三人一緒だ。

しかし外へは出られなかった。

「やっぱり無理か。じゃあ今度は妖精界への転移だ!」

これは可能だった。

「じゃあここから外へは‥‥」

やはり外へは出られないようだった。

「一応異次元収納魔法も試しておくか‥‥おっ?妖精界ならこれは使える!」

つまりこのダンジョンから人が出られないのは、このダンジョンにあるそもそもの力で、魔法収納が使えないのは人間の手によって施された魔法であるという事だ。

人は妖精界の妖精には干渉できないからね。

妖精界に行って妖精と認識されている俺には関係がないという事なのだろう。

そして異次元はこのダンジョンの外ではあるけれど、出ていくものは生き物ではないのでダンジョン効果も働かない。

ちなみに魂ボールに入った魂は生き物とは認識されないようなので、これで魂は持って帰れるな。

「なんにしても武器が使えるぞ!これで洋裁に持たせて持って帰ろうと思っていたエクスカリバーも、見つかればこっちに入れて持って帰れるな」

「やっぱり月の刀の方がええのぉ」

「うん。私もこの服着てる方がしっくりくるアル」

風里は又も気にせずチャイナ服に着替えていた。

「出る時はまた異次元収納に回収するからな」

俺はなんとなく風里に言っておいた。

それから俺たちは二十四階、二十五階と地図を埋めてゆき、とうとう前人未踏の二十六階へと入っていった。

前人未踏と言っても実際はおそらく勇者が入ってきているわけで、前人未到が正しいと言えるかは疑問だ。

このダンジョン攻略という意味において、まだ誰も到達していないって所だからね。

魔物はかなり強くなってきている。

でも、マスターレベルの使い手が倒せないって程ではない。

ただ数が多すぎるのだ。

でも俺たち三人にとっては大した問題ではなかった。

それぞれに複数を一度に攻撃する術を持っているからね。

俺は妖糸があるし、環奈はオウムビームが使える。

風里も電撃爆龍斬があるから、数は問題にならなかった。

俺たちは順調に二十七階、二十八階と攻略していった。

途中結構良いマジックアイテムもゲットできた。

当然これらは貰って帰る。

数が結構あるので、少しくらいは出る時に提出してやってもいいけどね。

俺は妖精界とを行き来して、アイテムを異次元へ収納していった。

二十九階に入った。

ほぼラストフロアではないかという景色に変わっていた。

「おそらくここで最後か。あっても三十階までだな」

目の前のフロアには、無数のサイクロプスが立ちはだかっていた。

「サイクロプスじゃのぅ。黒死鳥やドラゴンには劣るが、ほぼ最強レベルの魔獣じゃ」

「一つ目とかなんか怖いアル。へんな感じもするアル」

「目はあまり見ない方がいいぞ。混乱させる能力があるという話もある。無理せず確実に倒していこう」

流石にこのレベルが相手だと、数がいればその分きつくなってくる。

俺はまだまだ余裕があるが、風里には少しきついか。

「そろそろ出てきて助けてやったらどうだ?洋裁?」

「そう?まだいけると思ったんだけどな‥‥まあせっかく勇者の洞窟に来たわけだし、少しやるっすか」

洋裁はナイフから人の姿に変わった。

死ぬ可能性がほぼないので、無茶苦茶な戦いも可能な分、こういうゴチャゴチャした中での戦いは向いていると言えるだろう。

尤も、どんな戦場でも対応できるわけだけどね。

洋裁が戦いに加わると、風里の戦いも楽になっていった。

この分なら何事もなくダンジョンクリアができそうだと思った。

しかし次の瞬間、強力な魔力が前方に現れた。

それも二つ。

一方は炎、一方は水の魔力で、魔王クラスの魔物だ。

「たまげたのぉ。伝説級の魔獣が二体同時に現れおった」

「アレは‥‥駄目なヤツだね。勇者でもない限り此処で皆確実に死ぬ」

「そうアルか?鳥と亀に見えるアルよ?」

「ただの鳥と亀じゃない。ありゃ朱雀と玄武だ」

こんなのが二体揃っているって事は、ただの魔獣じゃないだろ。

だとするなら、もうアレしかないな。

「みんなは自分の身を守る事を優先しろ!あの二体は俺が相手する」

「それはつまらんのじゃ。一体はわしに譲ってほしいのじゃ」

「自分無敵っすから。やってもいいっすよ」

「えっ?じゃあ私もやるアル」

全く、この二体を前に戦おうとか、こいつら‥‥。

マジいかすヤツらだな。

「分かった。じゃあ環奈は朱雀を相手しろ。洋裁と風里で玄武だ。洋裁はとにかく風里を守れ。玄武は水属性で風里の魔法は決め手になるから、攻撃は風里が中心に行え」

「これは楽しそうなのじゃ。策也殿礼を言うぞぃ」

「自分は守り担当ね‥‥仕方ないか。自分の攻撃じゃ致命傷は与えられそうにないし」

「本気出さないとって思うと‥‥なんだか興奮してきたアル」

そういえばここまで、風里はまだ本気を出した事がないかもな。

底が知れない女だと思っていたが、とうとう力の全貌が見られるかもしれない。

「サイクロプスはお前らに近づけない。存分に戦ってくれ!環奈!死ぬなよ!」

「こんなのと戦えるのなら死んでも本望じゃ。まあ死ぬ気はないがのぅ」

環奈は魔獣だから死んだら蘇生ができない。

魂を別の器に入れる事はできるが、黒死鳥には戻れないのだ。

俺は別の器であっても環奈は蘇生させるつもりだけれど、環奈は常に死んだら終わりだという気持ちで戦っている。

相手は伝説の魔獣だけれど、勝ってもらいたいな。

今回環奈は黒死鳥の姿ではなく人間の姿で月の刀を振るっている。

完全に全力勝負だ。

武器を持たず真っ向勝負だと勝ち目などない。

環奈もそれは理解しているようだ。

もう一方の洋裁と風里は、それなりに息が合っている。

ように見えるだけか。

守りの洋裁が邪魔で少し風里が戦いづらそうな感じだ。

でも命を大切にするなら、こういう戦いでいい。

俺やみゆきがいない所で戦う事もこの先あるだろうし、蘇生だって絶対ではないのだから。

俺もとっととサイクロプスを全殺して、観戦モードに入れるよう頑張るか。

俺はペースを上げてサイクロプスを斬っていった。

十分ほどで湧き出るサイクロプスも含め全て倒した。

後は朱雀と玄武だけだ。

環奈と朱雀はお互い決め手がないといった感じだ。

オメガエンドも通用する相手ではないし、オウムビームも相性が悪い。

玄武相手の方が良かったかもしれないが、洋裁と風里では朱雀は倒せないだろう。

両方が勝つ可能性があるとしたらこの組み合わせしかなかった。

環奈も疲れてきてる。

それは朱雀も同じ事だが、決め手では朱雀に分がある。

環奈には一発で相手を仕留める力はないが、朱雀の吐く炎を食らえば環奈は殺られるだろう。

不利だぞ環奈。

一体どうする?

環奈が一瞬躓いたように見えた。

ほんの少しだけれど動きが止まった。

「まずい!」

俺は咄嗟に助けようとしたが、体は動かなかった。

環奈が望む一対一の戦いに手出しはできない。

それが俺たちの信頼関係だから。

俺は目を閉じそうになった。

でも最後まで見届けようと思った。

朱雀から環奈に向けて炎が吐かれた。

その時環奈は黒死鳥の姿へと戻った。

そして朱雀の炎が届く前に、環奈は魔法を放った。

クロスカウンターのように、それを朱雀は避けられなかった。

環奈は炎を食らい、朱雀は環奈の‥‥。

「ダークバインドだと?」

ダークバインドとは、闇属性魔法で、主に相手の動きを封じる為のものだ。

そこそこの魔物なら大抵コレだけでも相手を倒せるが流石に朱雀には通用しない。

これは環奈の負けか。

しかし次の瞬間、環奈は再び人間の姿に戻って、朔刀で斬りかかった。

その姿は瀕死といった感じだが、気力だけで動いているようだった。

確かに人間の姿で朱雀の炎を受けるよりも、黒死鳥の姿で受ける方が幾分耐えられるだろう。

それでもダメージはほとんど致命傷のはずだ。

環奈は朱雀の首の辺りを斬りつける。

炎を纏った朱雀に対してのゼロレンジ攻撃はかなり無茶だ。

しかも相当にダメージを負った中でのもの。

それでも朱雀を倒すにはそれしかないだろう。

朔刀なら、五秒もあれば朱雀だって切断できるのだ。

環奈が朱雀の首を斬り裂いた。

「勝ったのか?マジかぁ‥‥はは」

俺は少し笑いがこぼれた。

鳥肌も立って顔が震えてくる。

切断された朱雀は、光となって消えていった。

おそらく俺の予想通りだな。

「おっとそんな事より‥‥」

俺は環奈の元へ跳んだ。

そして回復魔法をかける。

意識はあるが、体はもうボロボロだった。

普通の人間なら痛みで死んでいてもおかしくないありさまだった。

「勝ったのじゃ。なかなか面白かったのぉ」

環奈はそれだけ言って気を失った。

回復があと少し遅かったら死んでいたかもな。

まあでも助けられて良かった。

俺はホッと一息吐いた。

しかしその安心も次の瞬間には消えていた。

玄武の冷気が俺たちを飲み込もうとしてきた。

俺は咄嗟に結界を張った。

洋裁と風里はどうなった?

洋裁は完全に動きを封じられ、身動きが取れない状態だった。

流石に玄武もバカじゃないから、死なない洋裁の対処方法を理解したのだろう。

だったら永久に氷漬けにすればいい。

ただ、この隙は風里にとっては最大の攻撃タイミングとなったようだ。

さあ見せてくれ、お前の最大の攻撃を!

「スタンガン!アル」

えっ?

それは俺が教えた、相手の動きを止める為の魔法攻撃だ。

でもそれ、そこそこの魔物には通用しても流石に玄武には通用しないだろ?

そう思ったのだが、威力が桁違いに強くて玄武は動きを封じられていた。

やるな風里。

そこから環奈同様必殺の一撃を食らわせるわけか?

「電撃ぱーんち!電撃きーっく!アル」

駄目だよこの子。

そんな攻撃が通用するわけないじゃないか。

これならまだ電撃爆龍斬の方が仕留められた可能性があるんじゃないだろうか。

尤もあの程度だとこの玄武の甲羅は破壊できないと思うけどさ。

玄武が動きを取り戻してきた。

「早くとどめを!玄武が動きだす!」

しかし風里はパンチとキックを繰り返した。

そしてとうとう玄武が動きを取り戻した。

玄武は甲羅から生える槍のような蔓で風里を突き刺しに行った。

死んだかな。

蘇生が必要かぁ。

俺がそう思った時、その蔓の槍を全て洋裁が受け止めていた。

「あんな氷で自分の動きを封じようなんて‥‥結構ヤバかったっすけど」

あそこから抜け出せるのか。

やっぱり洋裁も並みではないな。

流石元ダークドラゴンのボス。

「お待たせしたアル!私気づいたアル!洋裁は一緒に攻撃しても大丈夫アルと!」

ああ、その通りだな。

洋裁は無敵だからな。

「電撃爆龍斬一点突破!アル!」

風と雷と一緒になった風里は龍のようだった。

その龍は洋裁を食らい、そして玄武の甲羅を食らった。

甲羅は硝子のコップが割れるようにアッサリと砕け散った。

ああなるほど。

電撃パンチとかキックは、甲羅にダメージを蓄積していたのね。

少しずつヒビを入れていき、最後大技で完全粉砕か。

風里ってバカに見えるから、結構賢いの忘れるわ。

殺られた玄武も、光となって消えていった。

相性の良い相手に二対一だったとはいえ、風里も強くなったのかな。

「風里殿もやるのぉ。洋裁殿の助けがあったとは言え、ヒューマンが伝説の魔獣を倒したんじゃからのぅ」

風里はどちらかというと攻撃特化型だから、何かマジックアイテムを上げるなら守りをなんとかできるヤツにしようかな。

そんな事を思いながら、俺はやり切った感に包まれた。

「じゃあ次行くっすよ。まだダンジョンは続いてるっす」

そうだったね。

もうラスボス倒した気分だったけど、ダンジョンはまだ続いていたんだったね。

そんなわけで更に奥に行くと、そこには二つのマジックアイテムが置いてあった。

予想通り、朱雀と玄武のものだ。

俺は邪眼で見てみた。

二つ合わせて『矛盾の足輪』か。

試しに付けてみた。

朱雀の方は『矛雀(ムザク)の足輪』で、矛雀の力を得た矛を呼び出し使う事ができるようだ。

おそらく相当な破壊力を持った矛だろう。

そして玄武の方は『盾武(ジュンブ)の足輪』で、小さな盾を多数召喚し、オートコントロールで身を守ってくれるものらしい。

盾武の盾と吽龍の鎧で鉄壁の守りが完成って所か。

「倒したお前たちには悪いけど、このアイテムはリンにやるぞ。今使っている阿吽の腕輪とセットのものだからな」

「わしはかまわんぞぃ。戦って勝てたんじゃから満足じゃ」

「自分もそんなの貰っても使えないし」

「私もいいアルよ。全力攻撃もできたしムハー!アル」

「そっか。サンキューな」

風里には後で何か上げるつもりだけどね。

さてしかし、この部屋の奥には更に下に続く道が続いていた。

どうやら三十階もあるようだ。

つまりこの朱雀と玄武は中ボスだった可能性があるって事。

聖剣エクスカリバーを求めて、俺たちのダンジョン探索はまだ続くのだった。

2024年10月2日 言葉を一部修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ