空中都市バルスとエルフ王国軍事同盟
爆破事件のあった次の日の朝、俺は瞬間移動魔法で九頭竜領北部まで移動した後、環奈を連れて飛んで飛鳥領中心にある『アラブル』という町に来ていた。
来てすぐに分かった。
天空都市バルスはあそこにあると。
「ねえさん!あの曇ってずっとあそこにあるの?」
俺は適当に道行く若い女性に声をかけた。
「ええそうよ。何百年も前に現れて、それ以来ずっとあそこにあるらしいわ」
やっぱりそうかよ。
どう見てもあんな何とか焼きのお椀のような積乱雲が、ずっと町の上にあるっておかしいだろ。
「策也殿、どうかしたのか?」
「いや、あまりにベタな展開にちょっと頭痛がね」
まあでも見つけやすくて助かったともいえる。
問題はあの中に入れるかどうかだ。
あそこまで上空だと、人間の越えられない魔素の濃いエリアになるだろう。
「情報収集は不要だな。環奈、一旦町の外にでるぞ」
「もうちっと観光したかったのぉ」
「時間がある時いつでも転移魔法で連れてきてやるよ」
俺は渋る環奈をつれて町の外へでた。
どうして連れて来たのが環奈だけかと言えば、当然魔素対策だ。
おそらく山よりも高い上空ともなれば、魔素に耐えられるのは黒死鳥である環奈と、結界が張れる俺だけになる。
みゆきも行けそうな気がするが無茶はできない。
昔そんなに高い所でどうやって暮らしていたのかは謎だが、そんな空中都市を作ったエルフなら俺と同じように結界を張っていたのかもしれない。
尤も行けばその答えはすぐにわかるかもしれないけれどね。
「この辺りなら誰も見ていないな。じゃあ行くぞ環奈」
「オッケーじゃ」
俺たちは飛翔して一気に上昇した。
「目指すはあの積乱雲の中だ。おそらく予想ではあの中は嵐になっているだろう。町に雨が降っている様子はなかったから、雷と風の嵐だな」
「あんなところ、普通なら黒死鳥でも入らんじゃろうのぉ」
ドラゴンや黒死鳥なら雷に打たれて死ぬという事はないだろうが、相当にダメージは食らうわけで、好き好んでヤバい積乱雲には入らない。
当然人間もだし、だからこそ見つからなかったんだろうけれど、これから入って行かなければならない俺たちにとっては難儀な事だった。
もうすぐ積乱雲の下に取りつこうかという辺りで、一気に魔素が濃くなってきた。
「こりゃ結構クルな。やっぱりみんなは置いてきて正解だな」
「まだまだ上昇が必要そうじゃしな」
俺たちは上昇スピードを緩める事なく積乱雲へと入っていった。
するとどういう訳か雨が降り出した。
当然雷や風も酷い。
「歓迎してくれとるようじゃのぉ」
「どうやら誰かが入ると雨も降るようだな」
自然の積乱雲が一ヵ所にずっと留まるなんて事はあり得ないわけで、この積乱雲は空中都市の防衛機能か何かなのだろう。
そして今俺たちは部外者、或いは敵として排除の対象と認識されたようだった。
それでも俺たちは上昇を続けた。
いや、真っすぐは昇れない。
風で流されながら渦巻き状に昇っていく感じだ。
益々魔素は濃くなり、常人ならこの魔素にあてられて死んでいてもおかしくない所まで来ているように思う。
風は俺たちを積乱雲の外へと押し出そうとしているようで、それに逆らって内側へと向かう。
「空中都市はこの中心にあるはずだ。外に流されないように内へ進むぞ」
「策也殿は大丈夫かのぅ?ドラゴンの山を登った時以上の魔素になっておるぞぃ」
「大丈夫だ。それにいざとなれば結界を張る。気にしないで中心を目指してくれ」
それに最悪無理そうならゴーレムを召喚してそちらに任せるつもりだ。
ゴーレムが到達できれば、俺も瞬間移動魔法でそこに行けるからな。
ただ問題は、そこが俺の存在できる魔素の濃さであればだけどね。
そんな時突然どこからともなく声がした。
「ヤバい。これ何?気持ち悪い。死ぬ‥‥」
声の主は洋裁だった。
鞘に収まったナイフのまま喋っていた。
「あら。洋裁も連れてきちまってたな。ナイフだからすっかり忘れてたわ」
軽くそう言ってはみたものの、流石に洋裁ではこの魔素の中だと苦しいだろう。
おそらく死にはしないと思うが、最悪この先死ぬ可能性が無いとも言えない。
「オリハルコンも生物と認識されるのな」
俺は仕方がないので結界を張った。
結構な魔力を消費するが、俺の行動に影響を及ぼすほどでもないし、大丈夫だろう。
俺もかなり楽な気持ちになったしな。
「もうすぐ空中都市バルスが見つけられるはずだ。俺の千里眼や邪眼よりもこの中では環奈の目の方が見つけられそうだ。頼むぞ」
千里眼も邪眼も発動してはいるが、嵐のせいか魔素のせいか分からないが、どうも上手くは見つけられなかった。
「了解じゃ」
更に俺達は上昇を続けた。
こりゃ結構ヤバいな。
魔素が濃くなればなるほど、それを除く結界に必要な魔力も上昇する。
今の所は問題がないけれど、対処すべき事があと一つ二つ出てくれば、チート能力は発揮できないかもしれない。
あの外観からはそろそろのはずなんだが。
「光が見えたのじゃ。この高度を維持してもっと中心に行くのじゃ」
「よし!」
この高度で良いなら、何かあっても対処はできるだろう。
最悪ゴーレムで出直す事も考え始めていたが、なんとか自ら行けそうだ。
上昇する力を全て内に向けた事で、確実に内へと移動できた。
するとすぐに嵐を抜けて、太陽の光が感じられる場所に出た。
その中心に、確かに空中都市が存在していた。
「バルスは本当にあったんだ‥‥」
「策也殿、どうしたんじゃ?ある事は分かっておったんじゃないのかのぅ?」
「いや、一応言っておこうと思ってな」
分かる人には分かってもらえるはずだ。
分からない人は気にしないでくれ。
俺と環奈は空中都市に近づいた。
町の大きさはおそらくエルフ王国スバルよりも大きい。
ただ町の作りはソックリだった。
俺たちは空から町へと入った。
結界とかあって入れない事も想定していたが、普通に入る事ができた。
しかし次の瞬間、何かが俺たちに襲い掛かって来た。
俺は環奈をかばうようにしてその攻撃をかわした。
「速いぞ!これはおそらくガーディアンだ」
「策也殿助かったぞぃ。しかし速い攻撃じゃのぅ。構えていてもかわすのが精一杯そうじゃわぃ」
見た所ガーディアンは三体。
人型のゴーレムのようだ。
その強さはおそらく魔王クラス。
それが三体ってエルフの空中都市ヤバいだろ。
俺は少し嬉しくなった。
どうやって動いているのかも気になるし、いったいどんな素材で作られているのか。
「とりえずこんなの壊すのは勿体ないな。捕まえてやる!」
俺は妖糸でぐるぐる巻きにしてみた。
しかし次の瞬間、ゴーレムの体は溶けるように分裂し糸の捕縛から抜け出した。
そして瞬時に結合し再生する。
「オリハルコンかよ!」
このゴーレムは洋裁と同じだ。
ただ一つ違うのは、洋裁は意識思考を持つ魂によって命があるのに対し、このゴーレムはどこかに魔力核を持っていて誰かにコントロールされているという事。
つまり弱点は存在する。
それでも俺は倒すのではなく更に捕縛を試みた。
「捕縛結界じゃ!動きを止めろ!」
俺は三体が接近したタイミングを見計らって結界に閉じ込めてみた。
しかし三体の殴る蹴るの攻撃に結界はみるみる崩壊していった。
「うっそーん!」
「策也殿、キャラが崩壊しておるのぅ」
これが本来俺のキャラなんだけどね。
この結界でも駄目となると、どうしたらいいんだ。
確かに相手はゴーレムなわけで、普通の結界だと効果は半減はする。
生物の能力を引き下げたり、魔法や物理攻撃の効果を阻害するのが結界の本質だからだ。
だからゴーレムには効果が薄い。
それでも普通なら魔王クラスでもなんとかなる結界なのに。
何故だ?魔素?もう一つの結界のせい?
俺は一つ気が付いた。
ここまでゴーレムが魔法を使っていない事に。
もしかしたら全ての魔力が身体強化に使われている可能性がある。
その場合、結界は魔力よりも物理攻撃を阻害するものでなければならない。
俺は改めて結界を張った。
今度は物理攻撃に対して特化させた。
魔法を使われたら簡単に抜け出されるが、三体が結界から出てくる事はなかった。
「ふぅ‥‥なんとか捕らえたな」
「流石策也殿じゃのぅ。わしは逃げるので精いっぱいいじゃったわぃ」
「いや、あの三体から逃げ回れただけでも環奈は凄いよ。俺がチートなだけだしな」
この戦闘で分かったのは、やはり魔力だけでは強さは測れないって事だ。
そして所詮ゴーレムはゴーレムで、戦闘に全てを晒している者の方が少し強くなると感じた。
「とりあえず、早急に中心の王城にいくぞ。この結界はかなり疲れるからな。早く空中都市のコントロールを掌握したい」
「そうじゃのぅ。そんな常人離れした魔法、普通は一分も続けられんじゃろうからな」
魔王クラス三体だもんな。
流石にきつい。
それに魔素を減らす結界も張り続けている。
俺たちは急いで王城へと向かった。
更なるガーディアンも想定していたが、割と簡単に王城のコントロールルームまでくる事ができた。
「あっけなかったな。まあ助かったけど」
「そんな事はないじゃろぅ。あの雲の中を此処までやってくるだけでも普通は無理じゃ。更にあのガーディアンとくれば普通誰もここまでこられんわぃ」
言われてみればそうだが、想定の中では思ったよりもマシな方だと感じた。
コントロールルームはいかにもコントロールルームといった感じで、少し転生前の世界観に近い部屋だった。
だからというかだけどというか、もちろん俺は転生者なわけで、だいたいその扱い方が分かるような気がした。
俺はコントロールルームに入って、正面奥にある案内板スタンドのようなものの前に立った。
盤面が腰くらいの高さにあり、やや奥へと傾いている。
いかにもそこに手を当てろと云わんばかりだ。
俺はそこに手を当てた。
すると何か魔力が吸われるような感覚を覚えた。
これは住民カードを使う時に感じるものと同じと思えた。
なるほど、これでコントロールする人を認証するんだな。
俺は瞬時に魔力を調整し、このシステムが望む魔力を生み出した。
「認証しました。マスター、お帰りなさいませ」
よし!
これでこの空中都市は掌握した。
「ただいま。とりあえず頼みたい事は此処で言えばいいのかな?」
「はい。何なりとお申し付けください」
こりゃ優秀な空中都市だこと。
「まず、マスターの変更を希望したい。それは可能か?」
「はい。変更が必要であれば、私の指示に従ってください」
「分かった。どうすればいい?」
「今から一分以内に認証ボードから手を放してください。その後新たなマスターとなる人が十秒以内に手を当ててください」
俺は一旦手を放し、魔力操作をやめて改めて手を当てた。
「了解しました。新たなマスター、よろしくお願いします」
「うむ。じゃあ次に、この空中都市の防衛システムについて聞きたいんだが、今はどうなっている?」
「防衛システムは、雲の防壁とガーディアン三体が稼働中で、他は全て停止しております」
やはり他もあったのか。
全部作動していなくて良かった。
尤も、そんな事になっていたら二度と誰も此処へは入れなかったのかもしれないけれどね。
「じゃあガーディアン三体だけ止めてくれ」
「了解しました。マスター」
さて次は‥‥。
「この町は空の高い所にあって魔素が濃いようだが、これを結界で遮る事はできるか?」
「魔素の意味が分かりません」
「そうだな。空の上の方にいけばいくほど、魔力の元のようなものが濃くなっていくだろ?それを魔素と呼んでいる」
「理解しました。残念ながらそのような魔法は登録されていません」
やはり無理か。
「魔法を覚える事はできるか?」
「可能です。実際にその魔法を発動してもらえれば、コピーし使う事ができるものと思われます」
やって見せろって事か。
俺は自分の周りに展開していたそれを、空中都市全体を覆う大きさまで広げた。
結構魔力が必要だな。
「どうだ?コピーできそうか?」
「はい。コピーしますか?」
「頼む」
俺がそういって五秒ほど経つと、俺の魔法を上書きするように結界が展開された。
「この魔法は常時発動しておきますか?」
「頼む」
「かなりの魔力を消費しますので、空中都市の全システムの二割が発動不能になります」
「そうなのか。どんな支障が出るんだ?」
「例えば防衛システムの半分を機能停止。或いは住民用魔力の供給が四割カットされます」
結構魔力を消費するな。
でもこれで、この空中都市の魔力量というのがなんとなく把握できた。
おそらくは俺と同じくらいの魔力をこの空中都市は持っている。
「とりあえずこの結界は常時発動しておいてくれ」
「了解しました」
「ところでこの都市の魔力はどういうシステムになっているんだ?誰かが供給しているのか?」
「いいえ。巨大な賢者の石によって供給され続けています」
なんと賢者の石とな。
その石があれば、俺は倍強くなれるんじゃないだろうか。
尤も、賢者の石を人間が使ったらどうなるかは、大抵いい結果にはならないので止めておく事にしよう。
「お前は名前があるのか?」
これだけ普通に話せるのだから、俺はこの今話している空中都市のAI的なものに興味がわいた。
「名前ですか。かつてはありましたが、今は定められておりません」
「かつてはあった?なんていうんだ?」
「私が人間だった頃は、神功、皇神功と呼ばれておりました」
人間だった頃?
しかも皇って。
「もしかしてこの空中都市は、神功の生まれ変わった姿とか、或いは憑依したモノとか、そんな感じなのか?」
「少し違いますが似たようなものです。私はかつて賢者の石を取り込もうとして、逆に賢者の石に取り込まれました。その石を使ってエルフがこの空中都市を作ったのです」
つまり賢者の石が神功って事か。
実質はこの空中都市そのものともいえるけれどね。
それにしても皇とは。
ただ皇家に生まれた女性は十歳までに死ぬから捨てられるわけで、おそらくは皇妃だったという事だろう。
いや或いは賢者の石で死なないようにしようとしたのかもしれないな。
「分かったありがとう。所で此処にはまた人が住む事は可能なのか?防衛システムを使うと誰彼構わず排除してしまいそうにも感じるが」
「可能です。此処に住む人は住民登録をしていただきます。そうすれば排除はしません」
「その方法は?」
「転移ルームにある認証ボードに手を置き、住民登録を要求していただければ登録されます」
「そうか。環奈、それに洋裁、隣の部屋で試してみてくれ」
俺がそういうと、洋裁はナイフから人間の姿へと変わった。
「人間じゃないけど可能なのかなぁ~‥‥」
「大丈夫だろ。これは魔力によって制御しているから、魔力さえあればいい」
つまり魔獣だろうと悪魔だろうと大丈夫というわけだ。
「扉に鍵がかかっておるようじゃぞぃ」
環奈が扉を押したり引いたりしているが、扉は開かないようだった。
「鍵を開ける事はできるのか?」
「可能です。開けますか?」
「よろしく」
確かとなりの部屋には、前の廊下側から入れた気がする。
普段はそちらを使えという事だろう。
二人は隣の部屋へ行ってからしばらくして戻ってきた。
「登録完了じゃ」
「うん。自分もできたみたい」
俺は二人の結果を聞いてから、再び防衛システムを起動してもらった。
防衛システムは色々と存在したが、その中で『雲の防壁』と『三体のガーディアン』と『三十人の警備人形』だけにしておいた。
それ以外はうっかり間違えれば死ぬ事もありそうなのだからね。
無断で城に入るとレーザー魔法で射殺するようなのもあったし。
ちなみに防衛システムは転移ルーム以外のすべての空中都市内が対象になるようだった。
つまり転移してきたら必ず住民登録しろって話だ。
「それで転移ルームの転移ゲートだが、何処に通じているんだ?」
「現在登録がありません。登録しますか?」
「いや後にしておく。そのゲートは通れる者を限定する事は可能か?」
「不可能です」
やはりそうか。
普通転移ゲートは誰でも通れるものだからな。
此処に入ってくる者を厳選するには何か考えないとな。
更にその後も色々と聞いたり変更したりしながら、なんとか考えていた町ができそうな所まできた。
そして最後はこの空中都市の移動について聞いた。
「移動をするには、私に命令するか、移動用端末を使うか、操縦ルームにて動かす事になります。優先順位はその順番通りです」
「移動用端末とは?」
「右側のテーブルに置かれています。基本マスターしか使用はできません」
俺はテーブルの上の端末を手に取った。
転生前の世界にあった携帯用ゲーム機のようだった。
使い方は感覚で分かるだろう。
俺はそれを異次元収納にしまった。
これでこの空中都市の事は把握できた。
早速妖精王国を作る為に、俺は一旦環奈と洋裁を連れてスバルへと戻った。
その後、まずは一人で家族の家に行った。
そこから地下を掘り、かなり掘った所に部屋を作った。
そしてそこから今度は逆に通路を全部埋めた。
地下にホームの転移ゲートからしか入れない転移ルームを作ったのだ。
瞬間移動魔法で空中都市へ戻り、今度はその地下転移ルームと転移ゲートで繋いでもらう。
こうして空中都市へ行ける者を厳選した。
とりあえず登録したのはパーティーメンバーと乱馬、七魅、そしてエルグランドだ。
ただしエルグランドだけは、スバルの結界が邪魔で町に転移ゲートを設置できない事もあるし、一度空中都市を見せる為に登録したに過ぎない。
本当はエルグランドが空中都市のマスターになるべきだと思ったのだが、捨てたモノを再び使えるようにしたのは俺だという事で、俺がいただく事になった。
それから此花の森に住まいを移した妖精たちに話をしに行った。
王様役をやってみたいという者も結構いて、俺の判断でしっかりとやれそうな一名を指名させてもらった。
移住希望者も多く、とりあえずドラゴンの里と此花の森に住む全ての妖精に住民登録をしてもらう事にした。
そしたら引っ越しも行き来も自由にできるからね。
こうして全てが整った後、エルグランドを連れて空中都市へとやってきた。
「こんなのがずっと飛鳥の空にあったのですね」
この場所を教えたエルグランドも、信じられないといった表情をしていた。
「じゃあこれから魔法映像を作るぞ。隠されていた妖精王国がエルフ王国のスバルと軍事同盟を発表する映像だ。そこで妖精王国の力を過大に示す事で抑止力にする」
「それで一体どんな映像を作るんだ?力を過大に示すったって、兵隊もいなけりゃ町にも妖精が少し飛んでるだけだぞ?」
転生前の世界なら、軍事演習なんかを見せたりするわけだが、そんな事はできないわけで。
だから分かりやすく簡単なモノにする。
「この空中都市には、地上を攻撃できる超破壊兵器がある事にする。それを海に撃った映像を記録してみんなに見せるわけだ」
「でもそんなの、このバルスにはないわよね」
「だから俺がいる。俺が全力で海に魔法を放ち、それをバルスから撃った事にするんだよ」
あのアニメのような兵器が本当についていたら良かったのかもしれないが、あったらあったで本当に脅威になるしな。
まあそうでなくても、俺自身が脅威と皆に思われる事になりそうだが。
ただその辺は一応考えていて、妖精たちと一緒に魔法は放つ事にしている。
そしたら俺だけの力じゃないから、そんなに脅威にも思われないよね?
バルスは間もなく海に出た。
飛鳥から南へ進み、此花領の上を通ってきた。
もう少し沖にでて、島が全くない場所を選んでやる。
核実験を俺がやるみたいなドキドキ感があった。
海に出てから二時間ほど、ようやく目的の場所についた。
少なくとも地図で見る限り、この辺りに島はない。
環奈の目と俺の千里眼で人がいない事も確認した。
「みゆき!海の波は任せたぞ。津波が周りに行かないようにな」
「分かったよ!頑張る!」
「他は更に結界を頼む。爆風が相当でそうだからな」
「お任せください」
「ん~なんかかなりヤバい気もするなぁ~」
エルグランドは魔法に優れているから割と自信がありそうだが、洋裁は不安視しすぎかもしれない。
このメンバーならなんとかなるだろ。
「このバルスに向かう爆風は俺がなんとかする」
自分の放った魔法を自分で止めるような感じだが、上空だけなら魔法を放った直後でも大丈夫だろう。
最後にコントローラーを使って神功に雲の防壁を解除させ、空中都市バルスはその姿をさらした。
「それじゃ妖精たち!海に向かって炎の爆裂魔法いくぞ!」
バルスの外には霧島を飛ばして映像を記録する。
バルスの下の排気口から、俺は自分の持つ魔力をほとんど開放し妖精と共に魔法を放った。
初めての共同魔法だったが上手く合わせられた。
火の玉が海へ向かって発射された。
それがなんだかスローモーションのように海まで行くと、そこから大きな爆発が起こった。
その爆発はすさまじく、正に核爆弾を落としたような感じに見えた。
「これはヤバい!」
俺は必死に上空への爆風を阻止すべく結界を張った。
「んー‥‥波を止められないよ!」
「妖精たち!みゆきのサポートを頼む!」
いざという時の為に、妖精の一部を待機させておいて助かったか。
「だめぇ~‥‥支えきれない」
「策也さん!これはちょっとやり過ぎでは‥‥」
「リンも総司も頑張れ!」
「うおぉぉ!俺は魔法は苦手だから気合で頑張るぜ!」
「効率よくやらないとこれは止められないアル」
悟空には期待していなかったが、もう少し頑張ってくれ。
「策也は人間なのだ?妖精も一緒だったけど、ほとんどは策也だったのだ」
七魅の言う通り、九割くらいは俺でした。
「だからヤバそうって言ったのに‥‥」
「なんだこれは?!まさか此処までとは思わなかった、です。もうこれ策也が味方になってくれるだけで十分抑止力になったのでは?」
「それはない。人が集まればコレを超える魔法だって可能だ。それに一人ではやはり限界があるからな」
しかしこのままじゃマズイな。
エルグランドの美形が台無しになるくらい必死にやっても、こいつら耐えられそうにないし。
仕方ない。
俺も加勢すっか。
既にこっちは魔力ゼロよ。
俺の回復力は半端ないからなんとか助けられているけど、魔力が大きいだけのヤツなら既に結界は崩壊しているな。
それから約五分、俺たちは必死に耐えた。
そしてなんとか収まりつつあるところで限界がきた。
「もう駄目だ!俺は無理!」
「僕も駄目ですよ‥‥」
「何よあんたたち!死ぬ気で最後まで頑張りなさいよ!」
「邪鬼くんファイト!アル」
「わたくしも‥‥限界です‥‥」
「自分もうあきらめてるっす」
「みんななさけないのぉ。どれそろそろ本気でいくかのぉ」
「環奈!」
「限界なのだ!もういいのだ!」
七魅が限界を迎えた所で、結界は崩れた。
環奈以外は真っ白に燃え尽きていた。
「わし一人じゃ支えきれんかったわぃ。でも多少結界の崩壊は小さく済んだじゃろぅ」
環奈が力を温存していたのは、結果オーライだったかもしれない。
結局予定通りとはいかず、風の被害はほぼなかったけれど、此花領を中心に多少の津波が襲い、そこそこの地震が起こった。
ホームに飾ってあった花瓶がいくつか倒れて割れたみたいだな。
セバスチャンの確認によるとね。
それでも、本来の目的は達成された。
この映像を、妖精王国・ドラゴン王国・黒死鳥王国、そしてエルフ王国スバルの軍事同盟締結宣言と一緒に魔法ネットワークに流した。
すると伊集院の嫌がらせやスバルへの要求はビタリと止まってくれた。
同盟の理由は、もうすぐ復活するであろう魔王対策という事にしておいた。
リンの話によれば、裏ではこの同盟に危機感を持った伊集院が、人間の団結とこの勢力の打倒を王族全てに提案して回ったらしい。
だけど魔王が復活するという話もあり、動く国はなかったそうな。
一応作戦は成功に終わったと言えるだろう。
しかし、自分でも驚いたのだが、俺の魔法はやっぱりチート過ぎるという事だ。
町一つは軽く消し炭に変えられるだろうとは思っていたけれど、領域全て消し炭にし、一国が壊滅するくらいの破壊力だったもんな。
本気の魔法は封印しようと誓うのだった。
2024年10月2日 一部言葉の追加と修正