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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
魔王編
24/184

貴族筆頭大仏家の凱旋

魔界の扉から出てきたと思われる魔物を退治していたら、なんやかんやで気が付けば、ドラゴンの里の北西にある港町ギョウサンに来ていた。

魔界の扉を閉めたからといって、出て来た魔物がいなくなるわけではない。

放置していたらイテコマスの町に魔物が大量にやってくるだろうし、そうなると霧島を回収する事もできない。

あまりゴーレムを動かしていると魂は疲れるわけで、とにかく魔物はある程度片づける必要があった。

そうして倒していたら、気が付けばこの町に到着していたという塩梅。

それでこの町だが、あの魔物の中でもどうやらほぼ無傷で、伊集院の力を見せつけられた感じだ。

魔界の扉の位置から、おそらくこの町が一番被害を受けていてもおかしくなかっただろうからね。

それがほぼ無傷なのだから、しっかりとした騎士団がある事は想像に容易かった。

「全く、使役している魔獣は町に入れてもいいルールなのに、なんであそこまで拒否されるのよ」

「それは流石にフェンリルじゃあねぇ。僕が門番だったとしても困ると思うよ」

「私が此花の王女で、魔界の扉を閉めた報告に来たって言ったらいきなり許可でてんじゃないのよ」

「まあいいじゃない。許可もでたわけだしさ」

リンと総司が、さっき防壁門の所であった事について話をしていた。

内容はまあ二人が言った通りだ。

流石にフェンリルを町の中に入れるのは許可できないだろう。

でも世界ルールでは、一応テイムモンスターは一緒にいる事を条件に町に入れる事が許可されている。

そもそもフェンリルなんてテイムできないってのがあるからこういったルールになっているわけだが、常識が破られた時のルールってなんだか悲しいよね。

それにしてもリンと総司は、前よりも距離が近くなった気がするな。

やはり見た目ってのは重要だと認識せざるを得ない。

みゆきが気に入ったのもやはり見た目だったわけで、見た目で判断するなと言われても無理な話だ。

だいたい中身が良い子は見た目にもそれが出るものだし、俺は見た目で判断する事は間違っていないと思う。

尤もそれだけで判断はできないけれど、猫だって野良は怖い顔つきをしているのに飼われればだんだんと優しい顔になっていく。

顔ってのは心を映す鏡なのだ。

いやしかし、こんな事をのんびり考えられるのって、久しぶりな気がするな。

落ち着いた町は中央大陸にいた頃以来だもんな。

「自分って、伊集院から見れば、敵‥‥だったりしないのかな?」

今日も洋裁として行動している洋裁は、伊集院と島津の関係を気にしていた。

「確かに三十年ほど前に戦争はしたけれど、今は良好な関係に戻っているって話だぞ。それに洋裁は記憶喪失で療養中だ。きっと相手にもされないさ」

「そっか‥‥」

良好な関係と言っても、別に本当に仲良くなったわけじゃない。

伊集院としては島津も、それに手を貸した此花も、本当は潰したいと思っているはずだ。

でも相手の力も認めていて、表向き余裕を見せたいのだろう。

世界の王族の多数を味方にできるようなネタが有れば、何時敵対してくるかわかったもんじゃない相手だ。

とはいえ記憶喪失の島津洋裁相手じゃネタも作れないだろうし、特に何もないと俺は考えていた。

ギルドに報告した後、俺たちはいつものようにギルドに併設されている飲み屋で食事をした。

流石に此花麟堂姫が率いるパーティーは話題になっていて、俺たちは沢山の視線を浴びていた。

黒死鳥を追い払い、オーガとの争いを回避し、イテコマスの町を救い、そして魔界の扉を閉じる。

パーティーとはいえ英雄と言われてもおかしくない事をしてきたわけだから、話題にならない方がおかしいか。

そんなわけであまりゆっくりとは食事できず、俺たちは早々に店を出た。

するとギルドの前で、一人の貴族とその一団らしき者が待ってましたと云わんばかりにこちらに寄ってきた。

「此花の麟堂姫ですか?!それに島津の洋裁王子。お話したい事あって待っておりました」

いかにもこの地の重鎮貴族といった感じで、日々悪い事を考えていそうな人物に見えた。

あまりにそれっぽいので少し笑いそうになったが、俺は必死に堪えた。

「はい。いかにも私は此花第三王女麟堂です」

こういう切り替えは流石王女で、最近の俺は割と気に入っていた。

「あー‥‥島津洋裁です‥‥」

洋裁には何も期待していないよ。

「いやぁ、魔界の扉を閉めたという英雄たちにあえて光栄です。尤も、我々ギョウサンの騎士団も近々魔界の扉に赴く予定だったのですが、少し先を越されましたなぁ」

はいはい、我々でもできたんだぞアピールね。

それくらいの方が俺としては助かるけど。

あまり目立ちたいとは思っていないからな。

「そうですか。偶々通りかかったのでそうしてしまいまいたが、余計なお世話をしてしまったみたいですね」

いやいや、偶々通りかからねぇだろあんなところ。

嫌味は言わなくていいぞ。

俺は気にしてないし。

ほら、ちょっとムッとしてるぞ。

分かりやすいなぁ。

「ところで今からお二人、お時間をいただけませんか。申し遅れました。わたくしこの地の領主をしております大仏凱旋(オサラギガイセン)と申します」

なるほど領主だったか。

確か大仏家と言えば伊集院の側近貴族で、その辺の王族よりも力があると言われている。

財力だけで判断すれば此花よりも上だ。

これは大仏の話というよりは、伊集院としての話を聞く事になるんじゃないだろうか。

「私は構いませんが、もう一人ご一緒してもよろしいですか?こちら此花策也は、第二此花王国継承権第二位の王子ですから、もしかしたら一緒の方がいいのではないかと思うんですが」

うわっ、こいつ。

王族貴族話に俺を巻き込むつもりか?

いやしかしまんまとそうなっちまってるんだよな。

「策也って、そうなの?」

「残念ながらな」

そういや洋裁は知らなかったか。

「そうですか。ではそちらのマスクをつけた王子もご一緒にどうぞ」

「ああ。でも俺子供だから、そんな改まった喋りはできないぜ」

リンの視線がちょっと痛い。

でも知ってるだろ?

俺は誰に対してもため口で行くんだ。

これは譲れない。

「じゃあ自分も‥‥記憶なくしてるんで‥‥喋り方忘れてるから‥‥」

悪いなリン。

俺たち二人もこんなんで。

「え、ええ。構いませんよ。お二方とも王子ですから、私よりも立場が上ですし」

内心『このクソガキが!』とか思ってるんだろうなぁ。

顔に出まくってるよ。

それでもこのおっさんはトップ貴族だから、表立ってこれに報復したりはしないよね。

「それでは馬車をご用意しておりますから、こちらにお乗りください」

馬車ね。

もしかしたら乗るの初めてかな。

今まで乗る必要もなかったからな。

おっと一応霧島だけは召喚して残しておくか。

残ったメンバーに総司がいるから大丈夫だとは思うが、不安なヤツが多いからな。

ちなみに魔界の扉も閉めたし、近くの魔物も概ね狩ったし、霧島はイテコマスから既に撤退させていた。

俺はみんなの死角で霧島を召喚し、さりげなく残りのメンバーに合流させておいた。

「じゃあおまえら、ちょっと行ってくる。霧島がいるから後は頼む」

俺とリン、そして洋裁は、凱旋と一緒に馬車に乗った。

フェンリルの『四季』は町中ではリンと一緒にいなければならないので、その辺りリンが指示をしていた。

「四季は馬車の後をついてきてね」

馬車が走りだすと、馬車の中ではリンが冒険話を色々と聞かれていた。

ただ本当の事は言わなかった。

俺がやってる事って知られたくないからな。

言わないようにその辺りは釘を刺している。

十五分ほどで領主の屋敷についた。

なんだかんだ捕らえられたりする展開なんかも妄想していたが、今の所そんな気配はなかった。

馬車を降りた後、屋敷の一階にある応接室へと案内された。

当然フェンリルの四季も一緒だ。

リンは常に番犬を連れているようなものなので、身が危険にさらされるなんて展開はまず考えられない。

だとしたら一体なんだろうか。

そもそも悪い事もしていないし、全くこうして連れてこられた理由がわからない。

魔界の扉を閉めたお礼ってのが一番あり得る話かとは思うが、そんな事の為に大仏家が動くとも思えない。

いや、このおっさんがそんなやさしいおっさんではない事は、顔を見れば分かる。

さて一体どんな話をしてくるのやら。

皆が席に着いた後は、少しの間リンと何気ない話をしていた。

馬車の中での話の続きのような感じだ。

そこから魔界の扉を閉じた話へと移り、そして本題らしき話へと突入していった。

「それで今回呼んで話したかったのはですね、扉を閉じてくれたおかげで騎士団を派遣する手間が省けましてね、そのお礼をしたいと思ったんですよ」

やはりその辺りの話から来たか。

でもそれだけでこの男がリンや洋裁と話をしようなんて思う訳がない。

本当の狙いは何だ?

「いえいえ、本当にお礼なんて必要ありませんよ。これは世界全ての問題でしたから、自分たちの為にやった事ですし」

「そうですか。でも私たちも領内でこれだけの事をしていただいて、何も礼ができないとなると他の王族貴族に白い目で見られてしまいます。それでですね。今回の偉業、島津洋裁王子も参加されていたと聞きまして、伊集院と島津のわだかまりを完全に取り除く為に、一部領地を返そうって話があるんですよ」

領地を返す?

なんだかいきなり信じられない話がでてきたな。

「それは良い話ですね。伊集院と島津の関係が良いモノになれば、此花としても気が楽になります」

「確か此花もイテコマスの町を島津に返すというような話になっているとか」

「はい。だから洋裁王子が領主として来ていたと聞いております。残念ながら今の洋裁王子は記憶を失くされていて、その話がこの後どうなるのか、私には分かりかねますが。私は第一王国の王女ですから」

イテコマスの町を返すという話、表向き伊集院は関係改善を訴えているから賛成しているが、本心はどうか分からない。

普通に考えれば面白くはないと思う。

なのにそれに合わせて伊集院も領地を返すというのは、にわかには信じられない話だ。

「第二王国の王子はその辺りどう考えておられますかな?おっと子供ではまだこういった話は無理でしたかな」

なるべくこういった話にはかかわりたくないので、今は子ども扱いもオッケーだな。

「こう見えても策也は私よりも年上の十八歳ですよ。今は不老の呪いによって姿は六歳で止まっていますが」

こらっリン。

本当の事を言うんじゃないよ。

関わりたくないのに、やっぱり俺を巻き込んでなんとかさせるつもりだな。

まあこの問題は第二王国の事だから、本家は関わりたくないのだろうけど。

つかリン自身、勝手にその辺りで動く事はできないのだろう。

そもそもこんな話は本来王様とするべき話のはずだ。

なんでリンに話をしてきたんだろう。

「そうでしたか。ではどうですかな?策也王子」

「関係改善ってなら、三十年前の状態に戻せばいいんじゃないか?でも現状問題もないし、何もしないのが一番かと思っているよ。あくまで俺個人の考えで王様がどう考えているかは知らんけどね」

尤も、今上手くいっているんじゃなくて、何もできないから表向き仲良くしているだけなんだがな。

何にしても俺は関わりたくないし、波風立つような事は基本ごめんだ。

「では策也王子はイテコマスの町も返す必要はないと考えておられるのですな。私もその辺り同じ考えでですが、既に返す方向で話が進んでいると聞きます。伊集院は一部返すつもりでいるようですよ」

話が見えないな。

このおっさんは貴族トップの大仏家で、大仏家は元島津領の統治を主にしている。

このおっさんからすればその領地を手放したくはないというのは本当だろう。

でも伊集院は返すつもりでいる?

それを阻止する為に俺たちを利用したいという事だろうか。

「返すなら返すで関係改善にはつながるだろ。伊集院がその気ならそれを拒む理由は此花にはないんじゃないか」

「しかし何も理由がないのに返すとなると、三十年前の伊集院が起こした戦争を否定する事にも繋がる、と考える者が出てくると思うのですよ」

そりゃまあそうだろうな。

島津が悪いと戦争して領土を奪ったものの、やっぱり返しますってなれば間違いを認めたととらえるヤツもいるだろうな。

「でも一方では伊集院の懐の大きさを示す事にはならないか?」

「そうなんですよ。そこで私としては、その懐の大きさを示すと同時に、戦争も否定しない方法として、お礼として返すならどうかと思ったわけなんですよ」

ふむ。

この辺りに今回の話の目的がありそうだな。

「なるほど。それで島津洋裁が魔界の扉を閉めたという事で、そのお礼として領地を返す話になるわけだな」

「そうなんです。しかし魔界の扉を閉めるのは我々の手でもやるつもりでしたし、領地を動かすほどの功績かと云われると今一つ足りない訳です」

少し見えてきたな。

「そこは懐の大きさを示すには丁度いいんじゃないのか?」

「それはそうかもしれませんが、騎士団の中には功績を奪われたと考える者も少なくありません。色々な方面を納得させる為には、やはり別の理由も欲しいのです」

「その理由とは?」

「はい。麟堂姫の冒険者としての噂は色々と聞いております。その力を持って一つお願いを聞いていただきたいのです」

やっぱり何かをやらせるつもりだったんだな。

さて何をやらせたいのやら。

面倒な事になってきやがった。

「一応聞くけど、お願いってなんだ?」

「実は元島津家領で私たち大仏家が統治する領内に、妖精の森というのがありましてな。そこの妖精どもが最近人間に対して悪さをするようになって困っているのです。それをなんとか沈めてはもらえないでしょうか」

妖精だと!

妖精がいるのか。

ならば少し話にも興味が出てくるというもの。

「ほう。妖精をねぇ」

「それをなんとかしていただけるのなら、魔界の扉の件と合わせて、それを理由にイキリの町の返還を私の方から伊集院に進言しようと考えているんです」

イキリと言えば国境の町だったか。

イテコマスの町とは割と近いし、この町が返ってくるなら島津もそれなりの領地を復活させられるな。

しかし妖精をなんとかしろったって、妖精には手出ししてはいけない世界ルールがあったような気がする。

尤も、先に悪さをしてきたのが妖精側なら自衛の為に狩るのは禁止されていないが、おとなしい妖精側から何かするのも引っかかるな。

それに本当にイキリの町を返す気があるのだろうか。

だいたい妖精をなんとかしろって、妖精と人間はお互い干渉できないんだぞ。

普通なら退治するったって森を全部焼くくらいしかできないだろう。

つまり俺たちに妖精の森を焼いて欲しいって事か。

だったら俺たちじゃなくてもできるじゃないか。

それができないのは、妖精ではなく人間側に非があるって事だ。

俺たちに泥をかぶれって話か。

その代わり町を返すと‥‥。

この話には乗らない方がいいのはもう分かっている。

とはいえ断ったら断ったでしこりが残るだろう。

さてどうやって断るか。

とりあえず直ぐに答えを出さないのが賢明だな。

「えっとこの件は‥‥」

「うん、やるよ」

ってええっ!

洋裁いきなり何言ってるんだ?

「本当ですか!やっていただけますか!」

「ちょっ!洋裁お前分かってるのか?」

「ん?だって妖精をなんとかすれば町を返してくれるんでしょ?それだけの事をしたら自分、自由にさせてもらえるよね」

全く分かってねぇ!

此処まで様子を見ながら話してきたのが全部台無しだよ!

「とりあえず洋裁王子がやるという事ですからその方向で考えてみますが、そもそも妖精をなんとかできるかどうかも分かりませんので、一旦この話は仲間の所に持ち帰らせてもらっていいですか」

「そうですね。この町にはどれくらい滞在する予定ですか?」

「特に決めてませんが、数日は滞在する予定です」

「ではその間にお返事していただいてよろしいですか」

「了解しました」

とりあえず一旦保留にはできたか。

「それで連絡だが、うちのパーティーは王子王女がいるからな。連絡窓口は霧島ってのがやってる。何かあればこちらの番号から連絡するし、話があればこちらに通話なりメールなりしてきてくれ」

俺はテーブルに置いてあったメモ用紙に番号を書いて渡した。

リンや洋裁に直接変な話を持ち掛ける可能性もあるしな。

直接の連絡先は教えない方がいいだろう。

霧島の住民カードもプラチナまで上げておかないとな。

俺は別行動している霧島ですぐにそれを行っておいた。

「了解しました。ではこちらの番号ですが、私も直接番号を教えるわけにはいきませんので、使いの者の番号を伝えておきます。ゴールドなのでメールしかできませんが、問題ありませんよね」

「ああ」

しまった!

プラチナまで上げちまったよ。

まあいいけどな。

こうして一旦凱旋との話は終わった。


俺たちは屋敷を出ると、霧島たちがとった宿へと向かった。

「あとつけられてるな」

「どうするのか気になるんでしょうね」

「これを指摘した所で護衛の為とかなんとかいうんだろうな」

「明らかに監視なんだけどね」

「えっ?自分たち監視されてんの?悪い事してないのになぁ」

「あっちが何か後ろめたい所があるんだろ。何が目的か知らんが、このままじゃきっと俺たちにろくな事はないな」

「なんとかできそう?」

「とりあえず情報を集めん事にはな。まずはみんなと合流だ」

「了解」

俺たちはその後無言で宿屋まで歩いた。

宿屋に入って、俺たちは真っすぐ霧島がとった部屋へと向かった。

ドアには鍵がかけてある。

俺は声をかけた。

「開けてくれ」

するとドアは解錠され、俺たちは普通に部屋へと入って行った。

部屋はみんなが一緒に泊まれるような広めの部屋だ。

どうせここに本当に泊まるわけでもないからこれでいい。

部屋にいたのは陽菜だけだった。

霧島によって既に他のみんなは瞬間移動魔法によって家族の家に行っていた。

俺はパーティーメンバー全員のエアゴーレムを作り、俺とリンと洋裁、そして陽菜を瞬間移動魔法で家族の家へと送った。

「ふぅ。下手に喋るともしかしたら聞かれている可能性もあるからな」

「策也おかえり」

みゆきが出迎えてくれた。

この可愛い顔を見るとなんとかなりそうに感じるから不思議だ。

「ただいま。全く疲れる話だったわ」

「そうみたいじゃのぉ」

話の内容は霧島によって既に皆には話してある。

みんなの意見も既に聞いてはいたが、改めて俺は訊ねた。

「どう思うみんな」

応接室に集まっているメンバーは、立ったり座ったりマチマチの姿勢でくつろいでいた。

「町を返還するってのは絶対嘘じゃのぉ」

「見るからに胡散臭そうなおっさんだったからな。どっちにしても何か因縁ふっかけてくるぞ、あいつ」

「私も邪鬼くんと同じ意見アルよ」

「妖精をどうにかしろっても、普通はどうにもならない要求ですよね。僕は妖精魔術師ですけれど、なりたくてなれるもんじゃないんですよ。偶々妖精と出会えただけなんですから」

「わたしはとりあえず妖精さんと話してみないと駄目だと思うよ!そんな事できるのかどうかわかんないけど」

みんなの意見は概ね同意だな。

中でも流石はみゆきだ。

これからやるべきはやっぱそこだよな。

「俺もみゆきの意見に賛成だ。とりあえず状況を把握して妖精と話してみる必要があると思うんだ。だから俺はこれから妖精に会いに行こうと思う」

「そんな事できるんですか?僕が妖精の『木陰(コカゲ)』と出会ったのは本当に偶然だったし、友達の契約をしなければ本当なら見る事も話す事もできないんですよ」

「でも出会えたんだろ?妖精との出会いは二通りだ。妖精がこちらの世界に紛れ込んできた場合と、人間が妖精界にまぎれこむ場合。どこかに通じる世界の歪はある。それを俺の邪眼でみつければいい」

そんなに簡単に見つかるとも思えないが、俺が全力で探せば見つけられる気はする。

それに俺はどうしても妖精に会いたかった。

妖精に頼みたい事があるからだ。

妖精の紡ぐ糸は絶対に切れないと言われていて、ダイヤモンドミスリルでさえ切断すると言われている。

転生前の世界のアニメや漫画には、糸を武器にするキャラクターも結構いて、俺は割とそれが好きなんだ。

本当は俺の武器としてオリハルコンの変幻自在なナイフを作るつもりだったが、それは洋裁になってしまった。

そんなわけで今度は妖精の糸を武器にしようと考えていて、どうしても手に入れたかった。

「とりあえず数日の猶予はあるわ。最悪駄目なら何か手を考えましょう」

「だな。じゃあとりあえず総司には一緒に来てもらうぞ。木陰を通して話をしてもらう事になるかもしれないからな」

「分かりました」

「他は‥‥まあ見つかってからなら妖精に会えるようにもなるだろう。みんなはそれからという事で」

「うん。妖精さんに会いたいなぁー!」

俺も妖精さんに会いたいよ。

糸、作ってくれるかなぁ。

「今日はもう暗くなりつつあるし、探すのは明日からだ。それで俺たちが出てる間、みんなは此処で好きにしていてくれ。偶には休暇もいいだろう」

「だったら私たちに人間の生活を教えてほしいのだ!」

いつの間にか七魅が部屋にやってきていた。

「そうね。ドラゴンと過ごす休日ってのも面白そうよね」

「わしがドラゴンと仲良くするものおかしな話じゃがのぉ」

「確かにな。じゃあまずは夕食にするか」

そんなわけで、とりあえずひと時の休息を過ごすのだった。

2024年10月2日 言葉を一部修正

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