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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
中央大陸編
18/184

飛んでヌッカの町へ!商売も始めてみる

俺たちは西園寺領内を飛行してムガサリの町を目指していた。

オーガの隠れ里からムガサリまでの距離は、此花領で俺がゴブリン退治をしたあの洞窟のあった場所までの距離とだいたい同じだ。

西園寺領は東西に長く、此花領と東雲領を合わせたくらいの距離になる。

目的地まで真っすぐ普通に歩いたとしても六十日くらいはかかる。

尤も俺たちのようにハイレベルな冒険者が跳ぶように移動すれば六日程度で到着する距離なのだが、俺はそれを一日で移動しようと考えていた。

一日という事は実質、十時間から多くても十二時間ほどでの移動だ。

「頑張れリン!お前はやれる子だ!」

「飛ぶのはだいぶ慣れてきたけど、体のバランスをとる体力が持たないよぉ」

「大丈夫だ。吽龍がついている!青龍は飛ぶのが得意なドラゴンだ!もっと吽龍に任せるんだ!」

龍というのは、厳密にいえばドラゴンとは少し違う。

空の龍、大地のドラゴンと言われ、その姿もかなり違う。

ドラゴンはトカゲや恐竜に姿が近いけれど、龍はそうではなくて蛇だ。

飛ぶのが得意な龍だが、翼の大きさはドラゴンよりも体の大きさと比べて小さい。

なのに長時間空を飛び続けられるのは、やはり飛行能力が高いと言える。

自在に飛ぶというのとは少し違うかもしれないけれど、長距離飛行には元来力を発揮するはずなのだ。

「任せるの?じゃあ吽龍‥‥まかせた」

リンは半分力尽きかけていた。

しかしそれが逆に良かったのか、力を抜いた途端に飛行が安定し始めた。

どうやら余計な力を入れる事で、吽龍の飛行をむしろ邪魔していたようだ。

リンの飛行は安定したが、この大移動に問題があるのは他にもいる。

草子だ。

空中に足場を作り、スーナシリングのパワーで空を駆けているわけだが、パワーはスピードとイコールではない。

結局は足場のいい場所を作って走っているのと変わらないわけで、体力的にきつい所もある。

空中での戦闘という意味ではむしろこちらの方が向いているかもしれないが、少なくとも高速移動にはあまり向いていなかった。

それでも時々休みを入れながら、俺たちはムガサリの町を目指した。

度々『俺が先に移動して瞬間移動魔法を使った方がいいのではないか』と考えたりもするのだが、二つの理由でそれはやらなかった。

一つは冒険の楽しさだ。

冒険ってのは自分の力で乗り越えてなんぼなわけで、サクサク魔法で連れていかれても面白くないのではないかと思えるのだ。

転生前に暮らしていた世界では、電車に乗ったりバスに乗ったりで似たようなものかもしれないとは思うが、それでもバスの中での楽しみ、電車そのものに乗る楽しさがあった。

そんな事を言えば飛行機を作ってしまえばいい、或いは環奈に乗せて行ってもらえばいいって話にもなるが、何にしても俺は自分の力で移動してほしいと思っていた。

ちなみに環奈は黒死鳥の姿にならず、背中から翼だけ生やして飛んでいた。

全く器用なヤツだ。

もう一つの理由は、やはりみんなの能力アップの為でもある。

この先どんな敵と戦う事になるかもわからないし、本当に俺に魔王が倒せる補償もない。

仲間の力が必要になるかもしれない。

それに、仮にその辺りがスムーズにクリアできたとしても、リンや草子はこの先おそらく王族やその親族として力が求められる時が来るかもしれないのだ。

俺はそんな時力を貸してやるつもりだが、自分に力が有れば、また違った選択肢があったり、別の何かが見えたりもする。

知識と力はあって困るものではないし、より良い選択肢を選べるようにしておいてやりたい。

なんとなくそんな事を考えての決断だった。

とはいえ空は薄暗くなり、もうリンと草子は体力の限界だ。

今日はこの辺りの町に降りて体を休めるか。

「今日はこの辺りの町に降りるか。ヌッカの町に寄って行こう」

「そうじゃのぉ。リンと草子は限界のようじゃ」

「なんかヨコシマに乗って楽してるのが悪い気がするぜ」

「私もクラーケンちゃんが頑張ってくれてるから全然平気だったよ!」

「私は‥‥チョッピリ‥‥疲れたかもしれない‥‥アル」

環奈やみゆき、それに悟空が問題無いのは分かるが、風里がここまで余裕なのが驚きだ。

疲れたかもしれないとは言っているが、見る限り全く疲れていない。

おそらく魔法は風系が得意なのだろうとは思うが、飛ぶ事が呼吸をするくらいに自然な動作として昇華しているように感じた。

俺たちはリンと草子を支えるようにしてヌッカの町に入った。

悟空も風里も問題なく町に入る事ができた。

この町は西園寺領内にあって伊集院の統治下にある町だ。

港町であり、この町からも西の大陸へ向けて船が出ている。

暖かい場所としても有名で、港の向こう側には海水浴を楽しめる場所もあるようだ。

とにかく、『住むには良い所』と言えるだろう。

伊集院の統治下にあるわけで、治安もいいしね。

とりあえず宿屋にリンと草子を置いて、俺たち残りの五人プラス一羽は、ギルドへと情報収集に来ていた。

既に外は真っ暗な時間で、酒場は満員で騒がしかった。

「流石に伊集院の町だけあって人も多いな」

俺はいつものように話したが、此処にはリンも草子もおらず、まともに話ができるヤツがいなかった。

「わしにはようわからんがのぉ」

「人間がウジャウジャいやがる」

「私たちバレたら‥‥殺されるアルか?ガクガクブルブル」

「大丈夫だよ!死んだらわたしが生き返らせてあげるから!」

いや死ぬ前になんとかしてあげた方が‥‥。

今更だが、みゆきはまだ六歳でかなり天然なんだよな。

「これが人間の世界ですかぁ。騒がしいどすなぁ」

「こら陽菜!鳥ってのは喋らないもんだからな。俺たち以外の人間がいる所では喋るのは控えておけ」

肩に乗る陽菜に小声で伝えた。

「承りました」

ふぅー‥‥。

リンと草子がいない状態で町に出るのはもしかしてヤバいんじゃないだろうか。

まともに情報収集ができるとも思えないし、こいつらは何かしでかしそうで怖い。

今日は早々に宿屋に引きこもるか。

「今日はリンと草子のいる宿屋に戻るぞ。飯も宿屋で頼もう」

「そうじゃのぉ。席もいっぱいのようじゃし」

ほんと満員で良かったよ。

結局俺たちはすぐにリンと草子のいる宿屋へと戻って来た。

とは言え一応情報収集もしておきたいと考え、俺は霧島を召喚し町を散策させる事にした。

悟空がパーティーに加わったので、俺は霧島と不動の召喚をやめていた。

現在常に召喚しているのは、ホームを管理するセバスチャンだけだ。

しかもセバスチャンはもう空気から作るエアゴーレムではない。

乱馬を蘇生させる時に作ったダイヤモンドミスリル製の男性型ゴーレムをセバスチャンとして使っていた。

顔を少しいじるだけで問題無かったからね。

セバスチャンではホームの留守番と、時々『魂ボール』等のアイテムや、新たな『人型ゴーレム』の制作をやっている。

俺の趣味だ。

そして夜本体の活動を休ませている時間は、『仙人』という名の爺さんエアゴーレムを使って金やアイテム集めを、大陸の山の北側でしていた。

とにかく、ゴーレムの使用が減って、魂の休まる時間も増えたという事だ。

俺は霧島で町を散策していた。

この町は本当にいい。

既に暗くなっているのに町は魔法で明かるいし、こんな時間でも子供が普通に歩いている。

町行く人は笑顔だし、どの店も活気がある。

実は俺も商売をしようと考えていた。

倒した魔獣のほとんどは異次元収納に回収してあるのだが、それをギルドで売るわけにもいかない。

なんせ数が多すぎるし、結構レアな魔獣も多いからだ。

ギルドだと『何処で誰が』と聞かれるだろうし、俺はそんなに目立つつもりもない。

リンとパーティーを組んでいたら目立ちはするが、功績はだいたいリンという事になるし、その辺りは助かっている。

そんなわけで目立たず素材やなんかを金に換える為には、店で販売するのが一番だ。

入手ルートは企業秘密で通るだろうし、店を持てば社会的地位も確保できる。

尤も店は俺自身ではなくゴーレムを使って経営していくつもりだから、書類上は俺の経営とは少し違ってくるだろうけどね。

そんな事を考えて歩いていると、町の中心に近い一角、少し暗く感じる場所を見つけた。

「どういう事だ?」

近づいてみると、魔法ライトが付いていない建物があって、そこに『売り物件』と書かれていた。

その横には『新ギルドの場所』として地図が貼ってあった。

なるほど。

元々と此処はギルド施設があった場所だけど、移転に伴って空き家となり売りに出されているというわけだ。

確かにギルドの場所としては少し使い勝手が悪そうである。

普通は町の入り口である防壁門の近くに置かれる事が多いからな。

さてしかしこの立地でこの大きさ、この建物は魅力的だ。

商売したいと思っていた俺にはピッタリと言える。

売買価格も書かれてあって、ギルドの受付や飲み屋があった場所と、魔物の解体作業場があったと思われる建物と、裏には従業員が住んでいたと思われる建物全てで一億三千万円となっていた。

これが高いか安いかは俺には分からないが、俺にとっては余裕で出せる額である。

「これは買っておいてもいいな」

そう思った俺は、直ぐに行動を起こした。

まずはどのゴーレムを持ち主にするかだ。

この先ゴーレムとして長く活動する可能性もあるし、できればエアゴーレムではなく、人間に近い骨だけダイヤモンドミスリルなゴーレムか、多くをダイヤモンドミスリルで作られたものかどちらかがいいだろう。

人間としての生活を考えれば人間に近い方が良いが、何かあった時の対応を考えれば、魔法が使えるダイヤモンドミスリル製の方が良いかもしれない。

ダイヤモンドミスリル製のは、一応左手の手首より先は住民カードが収納できるように、そこだけは人間に近いものにして作っている。

魔力による本人確認等もきっとなんとかなるだろう。

結局俺は、ゴーレムとして使う訳だから、ダイヤモンドミスリル製のゴーレムに決めた。

今セバスチャン以外で製造したのは、男性型の『資幣(シヘイ)』くらいか。

名前も割と商人っぽいし、こいつを俺の裏をまとめるゴーレムにしよう。

俺は本体で資幣を召喚した後、それを瞬間移動魔法で霧島と入れ替えた。

その内霧島も含めて、全てのダイヤモンドミスリルゴーレムは作っておく事にしよう。

さて霧島と入れ替わりで今度は資幣を使って土地建物の購入だ。

俺は書かれている管理者の所へと向かった。

「商人ギルドの建物内か‥‥」

地図通りいけばすぐに到着した。

俺は建物に入り、受付へと向かった。

「すみません。買いたい物件があるので寄らせてもらったんですが」

こういう真面目な喋りは面倒だ。

こいつではなるべく喋らなくていいように店を運営しなくてはな。

「はい、ありがとうございます。どちらの物件になりますか?」

出された資料から、俺は先ほどの場所を見つけて指さした。

「此処です」

「えっとこちらは‥‥まだ大丈夫ですね。えっと‥‥かなり高額な物件になりますので、分割払いなら保証人が必要になります」

この世界でもそんなのがあるのか。

「大丈夫です。一括で支払いますよ」

「現金ですか?カードですか?」

「現金で」

「現金の場合、提示価格よりも少々お安くなります。一億二千九百万円ですね。それで契約は何時になさいますか?」

カードでの支払いだと税金(カード使用料金)として手数料が取られるんだっけか。

だから現金で支払ってくれるとありがたいという訳だ。

「今からできますか?」

「はい。大丈夫ですよ。では奥の部屋に案内しますので、そちらで契約内容を確認ください」

俺は受付のお姉さんに部屋へと案内された。

歳は二十歳そこそこの普通のお姉さんだ。

ちなみに資幣ゴーレムの年齢は十七歳という設定になっているので、見た目もそれくらいだ。

成人は十五歳だからこういった契約も問題はない。

まあ多少甘くみられる事もあるだろうと予想はしているけどね。

部屋で少し待っていると、受付のお姉さんが資料と契約書を持って戻って来た。

「物件の確認はもうお済ですか?」

「はい。先ほど見てきました」

「中のご様子は?」

「中は見ていませんが、買ってから何とでもしますから問題ありません」

魔法ですぐに改造する予定だしね。

「敷地はこの区画、建物は三棟となります」

「はい」

「こちらで一応映像確認をしてください」

「はい確かに。こちらの建物ですね」

「ではこちらが契約書になります。内容を確認した後、住民カードの情報を確認させてもらって、契約書に魔力をお願いします」

かなりしっかりと親切な対応をしてくれるお姉さんだ。

流石に伊集院領で仕事をしている管理者だ。

騙されるような事はないだろう。

尤も、騙された所で全く問題はないけどね。

金を取り戻したければ力づくで取り戻す事もできるわけだし、契約書に細工がしてある様子もない。

内容も特に問題を感じないし大丈夫だろう。

「大丈夫のようですね」

「それでは現金一括払いという事ですが‥‥どちらに‥‥」

俺は異次元収納から現金を取りだした。

かなりの量なので数えるのが大変だろうな。

こっちはピッタリの額を魔法で取りだすだけなので問題はないけれどね。

「異次元収納が使えるんですね。使える人、初めて見ました」

「そ、そうですか‥‥」

これは迂闊だったかな。

でも使える人がいないわけじゃないだろうし、大丈夫だろう。

「それでは数えさせていただきます」

お姉さんは何か魔法を使った。

ほう。

お金を数える魔法みたいなのがあるのか。

或いはスキルやマジックアイテムを使っているのかもしれない。

「はい。間違いなく一億二千九百万円です。では住民カードの確認をさせてください」

「はい」

俺は左手から住民カードを取りだして渡した。

それを受け取ったお姉さんは、マジックボックスのカード読み込み機器にセットして何やら操作していた。

「はい。大丈夫です。此花領の方なんですね。もし問題なければ、どうしてヌッカで店を開こうと?」

「偶々仕事でこちらに来たのですが、凄く良い所で『ここで仕事がしたい』と思ってしまったんですよ」

「それでこの大きな契約を?」

やっぱりこれは割と大きな買い物だったのか。

「偶々お金もありましたし、なんとかなるかなと‥‥」

あまりいらない事は言わない方がいいだろうな。

早く契約を済ませたいもんだ。

「失礼ですが、これだけ大きな契約をするのに、シルバーカードというのは何か訳が?」

普通はゴールドカード以上持っていても不思議ではないって事なのだろうか。

「お姉さんはご存じないかもしれませんが、メールや通話は他人に漏れる可能性があるんですよ。だったら最初から使えない方が安全なんですよね」

「なるほど。よくご存じですね。資幣様の商人としての資質に納得させられました。それでは契約書に魔力をお願いします」

「はい」

俺は魔力を送った。

すると契約書が何か反応して、少し輝いた後元の紙へと戻った。

「はい。これで契約は完了です。こちらが土地建物の権利書となります。これは特になくされても問題がありません。住民カードに登録されていますからね」

返してもらった住民カードを確認すると、土地建物の所有情報が記されていた。

「商売は何時から始められるのですか?登録はこれからですよね?」

「こちらでできるんですか?」

「はい。ここは商人ギルドですから」

「登録しないで商売するとどうなるんですか?」

なんとなく思った事を質問しただけだったのだが、お姉さんは少し顔をしかめた。

登録しないなんて、常識ではありえない事なのか。

「冗談ですよ!」

俺はすぐにそう言って笑って見せた。

「そんな事すると、有栖川を敵に回す事になりますから、絶対にやめた方が良いと思いますよ。ただし露天商売には関与しませんから、登録したくない場合は露店がお勧めです。ただし別の問題も出てきますけれどね」

まあ予想通りの答えだったか。

つか別の問題ってなんだろう。

ヤクザの縄張りとかあったりして。

それにしてもやはり有栖川がこの世界の経済を仕切っているわけで、勝手な商売はそれに逆らって喧嘩を売るようなものなんだな。

普通ならやらないよな。

もしやるなら、町の外が一番トラブルにならなくて良いかもしれない。

何にしても今の所は有栖川に喧嘩を売るつもりはないし、おとなしく登録しておくか。

「店では魔物から取れた素材や魔石、肉なんかを売ろうと思っています。後はそんな中で手に入れた武器や防具、アイテムなんかも売りたいですね」

「そうですか。二点注意があります。一つは魔物の素材等ですが、この町の特産であるフレイムベアーの毛皮、魔石、牙などは売らないようにしてください。そこは冒険者ギルドが独占している所ですので」

「はい分かりました」

なんか色々と既得権が存在してそうだな。

「それとアイテムですが、普通のアイテムは良いのですが、マジックアイテムは制限がかかっているものがあります。リストを渡しておきますので、売ってはいけない物を確認しておいてください。それとリストに無い物は商人ギルドでの確認が必要となりますから、まずはこちらにお持ちください」

「了解しました」

今度は商人ギルドの既得権か。

こうやって制限できれば簡単に儲けられるよなぁ。

「それと大事な話ですが、売り上げの一パーセントは商人ギルドへ収めてもらいます。此花の方ですから伊集院への納税も一パーセントですね。後別途此花への納税も発生すると思われます」

転生前に住んでいた世界ではもっと面倒だったけど、こちらの世界でもこういのは割と面倒なんだなぁ。

「店は個人経営ですか?それとも従業員を雇ったりしますか?」

「従業員を雇う予定です」

「でしたら商用端末を帰りにお持ちください。お金の受け取りは全てその端末でやってください。不正がバレたら有栖川を敵に回すことになりますから、くれぐれもお気をつけください」

マジかよ。

まあ別に不正する気なんて無かったけれど、ここまでやられると逆にやりたくなるわ。

しないけどね。

それで帰りに商用端末を受け取ったのだが、その時も色々と注意点を聞かされた。

その月収入が無かった場合は、端末使用料がかかるとかそんな話。

来月からね。

こうして俺は、このヌッカの町で店を開く為の準備を進めていった。

資幣で夜通し建物内の改装をしたが、ダイヤモンドミスリル製のゴーレムでも案外魔法が使えるので思ったよりも楽に早く完成した。


そして次の日の朝、俺は今日の出発を午後からと伝え、資幣を連れて東雲の孤児院に来ていた。

用件は、従業員のスカウトだ。

ここの孤児院はしっかりと読み書き計算を教えているし、多少仕事を教えれば店を任せられる人もいるだろう。

別に町で募集しても良かったが、ここの子の方が信用できるし、今まで貧乏な暮らしをしてきた子供たちを助けられたらという気持ちもあった。

「そんなわけでこの資幣が、ヌッカの町で店を持つ事になったんだけど、従業員を探していてね。住まいは確保してあるし、給料は普通よりも高めを考えている。こちらの子供の中で働きたいと思っている子がいれば雇おうと思うがどうだろうか?」

「それはありがたいです。身元がなく魔力の小さい子供は生きる術を見つけるのが大変なんです」

やはり来て正解だったな。

「すぐにでも働けそうな子はいるか?いれば紹介してほしいんだけど」

「分かりました。ちょっと聞いてきますね。此花の方なのに、本当に親切にしていただいてありがとうございます」

此花の人間だけど、東雲の孤児に親切にしたら駄目だって事はないはずだ。

つかぶっちゃけ汚れた大人よりも素直な子供を雇った方が楽だって考えていたりもするんだけどね。

しばらく待つと、男子が一人、女子が二人部屋にやってきた。

見た感じ皆良い感じに思える。

やる気に満ちている。

これなら大丈夫だろう。

「この子たちがやりたいと言っています。歳はこの男の子が既に十五歳で、もうすぐこの孤児院から出る予定でした。女の子はどちらも十四歳ですが、もう働きたいと言っています」

「分かった。問題ないと思う。では後はこっちの資幣と話してくれ。俺はもうリンたちの元に戻らないと駄目だからな。此花の名に懸けてその子たちの悪いようにはしないと約束するよ」

俺はそう言いながら、瞬間移動魔法を使ってみゆきの元へと戻った。

「よし!全て片が付いた!」

「一体何してたのよ。後で話すって言ってたけど」

「いや、この町結構良い町だからさ、ゴーレム使って商売しようかと思ってな。昨日物件を調達して商人ギルドに登録してきたんだ」

「ええっ!なんでこの町なのよ。此花領内じゃ駄目だったの?」

「その方が良かったのか?もしかして税金か?金が必要なら別に直接お前にくれてやるぞ?」

「お金‥‥の事もまあ多少はあるけどさ、あんたの出す店でしょ?きっと良いモノ売って人を呼べると思うのよね。そしたら町が栄えて活気づくじゃない」

言われてみればそうかもな。

「だったらその内此花でも店出すよ。とっておきの素材やアイテムはそっちで売る事にする」

「やった!これで将来領主やらされる事になっても助けてもらえそうね」

「なんだ?リンは将来領主になるのか?」

草子‥‥御伽総司と結婚して玉の輿でもするのかと思っていたんだが。

「多分やる事になるわね。実は総司の居所を掴んでその内連れ戻して結婚するって話はしてるの」

「いつの間に‥‥」

「ちゃんと総司のお父さんにも許可を取ってあるし、実は婚約はほぼ確定しているの」

本当にこいつら‥‥。

ってことは、今は女同士でイチャイチャしているのだろうか。

うぉっ!やべっ!

変な想像しちまった!

他人の事はどうでもいいじゃないか。

「そりゃおめでとう」

「ありがと。でね、そうなると総司は此花総司になるんだよね」

「婿入りか」

「でも総司は王宮には住みたくないっていうのよ」

「いやだ!婿入りまでは仕方がないにしても、僕は父さんとは違う道に進みたい。だから父さんのいる王都では暮らしたくない」

なるほどね。

「そうすると私が別の町で王女として暮らすわけで、選択肢が領主しかないのよ」

なんか王族に産まれるっていうの、良い事ばかりじゃないんだな。

自由ってやっぱり大切だよなぁ。

「だから策也、あんたが旅を終えた後ホームに戻るなら、ナンデスカの町の領主ができるよう頼もうと思うの。その時は力を貸してね!」

「まあ領主がリンなら俺も色々とやりやすいかもしれないし、それは構わんが‥‥。それならお前ら、その時はホームに住めばどうだ?二階は全然使ってないし、風呂とか設備も万全だ。執事やメイドはそっちで都合付けてもらうけどな」

「ホーム使っていいの!?もうあの設備の中で少しでも生活したら、普通の建物じゃ満足できないのよね。でもあんたたちにも新婚生活があるんじゃないの?」

「俺たちの家はまた別に作るさ。もっと自然の中にな。それで転移ゲートでホームの転移ルームと繋げれば、増築したようなもんだろ」

「ほんとチートよね。転移ゲートを簡単に作るんだから。でもそれでホームに住めるんだからチート万歳よ」

そういえばヌッカの町の住まいとも転移ゲートで繋げておかないとな。

多分セバスチャンでも資幣でも作れるだろ。

瞬間移動魔法は使えるんだし。

「それじゃソロソロいくかのぉ?」

「策也、準備できてるよぉー」

「俺はソロソロ何か強い魔獣と戦いたいぜ」

「私は‥‥えっと‥‥なんでもいいアル」

「うちは親分についていきますわ」

「よし!出発だ!」

こうして俺たちはムガサリを目指し出発した。

2024年10月1日 言葉を一部修正

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