疫病再びは神の仕業?
陰謀論にはいくつかの種類がある。
騙して楽しむ為だけに存在する陰謀論。
或いは注目を集め金儲けをする為の嘘話も多い。
しかしそれ以外にもあるという事を知っておかないと、騙す側の思うつぼとなる。
陰謀論には本当の事が結構含まれていたりする。
騙す為には多くの本当の話が必要だからだ。
その本当の事まで否定させる為に、陰謀論を仕立て上げる場合もある。
陰謀論は全てが嘘だと思いがちだが、それを利用している訳だね。
他にも、他の本当の陰謀を隠す為のものもあったりする。
本当かもしれないし、嘘かもしれない。
そういう半々な陰謀論に出会った時は、注意が必要かもね。
俺は新たに疫病が流行っていると言われる場所へ様子を見に行った。
「この町か」
やってきたのは伊集院領テヤンデーの町。
此処はリンが魔王を倒した場所だ。
懐かしさもあるけれど、ぶっちゃけメインメモリにはあまり記憶は残っていなかった。
俺は上空から町へ降りると、直ぐに影へと潜る。
不法入国というか住民カードの確認をせず入る訳だから、見つかると問題になる場合もある。
尤も俺の事を知らない統治者側の人間はいないだろうから、特に問題になる町でもないけれどね。
ただもしもこの疫病騒ぎが伊集院の手によるものだとしたら、問題になる可能性も考えられる。
それを調べにやってきている所もあるからさ。
でも一応メインの目的は薬を作る為のデータ集めだ。
さて本当に疫病は流行っているのだろうか。
俺は千里眼と邪眼によって町の中の病原体を調べてみた。
なるほど、あちらこちらに反応がある。
前の三種とは少し違うタイプだな。
以前のは病原体が体に対して悪さをするものだった。
そしてその病原体を守る魔法のようなものが施されていた。
だから魔法のようなものを解除し、病原体を取り去る事で快方に向かう。
今回のは病原体が魔法のようなもので体に変化を加え、毒物を自ら生成させるタイプのようだ。
転生前の世界の知識で言えば、病原体が魔法でDNAを書き換え死に至らしめる感じか。
魔法を使う病原体なんてこの世界には存在しないはず。
新種として生まれた可能性も否定できないが、おそらくは人為的なもの。
この病原体によって死ぬ可能性があるのは、主に魔法耐性の弱い一般庶民だろう。
そして早い処置をしなければ、直すのも困難になってくる。
というかコレ、完全に魔力の低い人間を全滅させようとしているだろ?
薬の作成もこれはかなり難しい。
というか半分はもう薬とは言えない。
病原体が残っているならそれを除去し、書き換えられたDNAを元に戻すか、その細胞を破壊していく必要がある。
DNAの書き換えとか、もうそれ人間の変異に近いぞ?
それが起こるとマズいから、コロナワクチンはmRNAワクチンを使っていたのだ。
それでもDNAの書き換えが起こるという陰謀論もあったけれどさ。
それが本当かどうか、今の俺に調べる方法はない。
あれからもう十四年も経っているわけで、転生前の世界ではコロナ過は終わっているのかな。
何にしても今、この世界では病原体がDNAの書き換えを行っている。
俺はしばらく患者の様子を見て回ってからガゼボに戻った。
「まずは簡単にできそうな薬から作ってみるか」
俺は早速、病原体を除去してから書き換えられた細胞を探しだし破壊する薬の作成を始めるのだった。
薬はすぐに完成した。
流石チートな俺、この程度は余裕か。
ただこれは症状の軽い人用と言えるだろう。
多くの細胞が犯されてしまっていたら、この薬によって死ぬ人間も出て来るはずだ。
重病患者には書き換えられたDNAを元に戻す薬も必要になってくる。
俺は更に薬の作成を続けた。
今度は二時間くらいかかったが、なんとか薬は出来上がった。
薬が体内で活動する訳だから、薬そのものに魔力が必要となってくる。
魔砂を少し混ぜて作るので、コストは割と高くなりそうだ。
そしてちゃんと患者を見極めないと、この薬の使い分けが難しい。
誤って重病患者に先の薬を飲ませれば死ぬ危険性がある。
できれば後の薬を中心に流通させられればいいけれど、製造も難しいし魔石を集める必要も出て来る訳で厳しい所だ。
夕方の四阿会議で、俺はみんなに相談する事にした。
「確認された病原体は、到底自然発生するものとは思えない。そしてこれは、魔力の低い人間を全滅させる為に作られたものの可能性がある」
「逆に言うと、王族貴族だけの世界を作ろうとしているようにも見えるわね」
「もしも麟堂の言う通りだとするなら、王族貴族連合の残党の仕業でしょうか」
「このような病原体を操れるような能力は、王族貴族の中では聞いた事がありませんね。尤も全部は把握できていませんから、もしかしたらいたのかも知れませんが‥‥」
こんな酷い病原体が撒き散らされていると分かれば、世界はパニックに陥る可能性がある。
シラス世界を作りたい俺としては心苦しいが、不安を煽る行為は控えるべきだろう。
「とりあえず病原体の情報は公開を控えよう。それで薬なんだが二種類作った。簡単に作れるものと難しいものとがある。難しい方は製造コスト面でもかなり高価になってくる。が、簡単に作れる薬の方は、症状の重い者には死亡するリスクがあって使用の判断が難しい。みんなはこの薬の流通をどうするべきだと思う?」
「難しいわね。低コストの薬だとどれくらいの判断で死ぬ可能性があるの?」
「そうだな。患者を見て回った感じだと、意識もなく高熱にうなされているような人以外ならおそらくは大丈夫だとは思う」
「では薬の使用条件に余裕を持たせて民に使用を委ねますか?自力で出歩けるような人ならAの薬、それ以外はBの薬を飲むように徹底してもらうのです」
総司の言うやり方は、ある程度民度の高い地域では通用するだろう。
それでもおそらく薬による死者はでるはずだ。
ただ、そういう患者なら薬を飲まなくても死に至る訳で、薬を配らないよりはマシであるように感じる。
「多少の死者は仕方がない状況か。このまま薬を流通させなければ民の全滅だってあり得る訳だからな」
「今ならまだ、症状が出始めたらすぐに飲んでもらう事もできますね。少なくとも愛洲領内ではまだ患者の報告はありません」
「よし、多少のリスクは仕方がないだろう。簡単なAの薬は作り方さえ教えれば誰でも作れる。Bの薬はスバルやナンデスカの工場で作ってもらおう。その辺りの指示はリン、よろしく」
「はいはい」
「流通は総司と千えるに任せる」
「分かりました」
「承知しました」
「七魅はアルカディアの方にもBの薬の製造の手伝いを依頼しておいてくれ」
「分かったのだ」
「金魚と洋裁は‥‥。まあ適当に頼む」
ニュース報告担当と死ぬの担当の二人には、特に何を手伝ってもらえばいいか分からないよな。
「任せてほしいんだよ!私たちはやるんだよ!」
「お?おう‥‥」
金魚よ、一体何を任かされていると思っているんだ?
そして何をしてくれるんだ?
まあやる気になっているみたいだから放っておくけど、洋裁がちょっと困っているぞ?
何にしても再び疫病駆逐の為の戦いが始まった。
一週間が過ぎた。
薬の流通はようやく全国に広がったが、疫病はまだ広がり続けていた。
広がり方も不自然で、ますます人為的なパンデミックだと俺は確信を強めていた。
「アルカディアの調査では、現在Aの薬による死者は三人確認されているのだ。その内二人は使用条件を無視して重病患者に飲ませたようなのだ。もう一人は条件を守った上での死亡と報告されているのだ」
「その一人も薬とは別の可能性もあるし、これだけ少ないなら上々だろう。この世界の民は割と優秀だな」
「ただBの薬がまだ不足しているみたいなのだ。間に合わずに亡くなる人が数十名いるみたいなのだ」
「そっか‥‥」
流石にそれは仕方がないよな。
製造が難しすぎてエルフの工場ですら日に千個も作れない。
それを必要数正確に振り分けて流通させるとか無理というもの。
今後はなんとかなっていくとは思うけれど、ここまでは仕方がないという所だろう。
「まあここからはもうなんとかなるはずだ。ただ人為的なパンデミックだとしたら今後変異株が出て来る可能性がある。早く犯人を捕まえないとな」
俺がそう言った所で、突然金魚が立ち上がった。
「ふふ~ん!策也さん、金魚はとうとうやったんだよ!」
そう言って金魚が俺にスカウター型のビデオカメラを渡してきた。
ふむ、何やら撮影に成功したという事だろう。
最近洋裁を連れて色々と飛び回っていたようだが、何かを撮影していたようだ。
俺は早速記録された映像を表示させた。
すると洋裁の裸映像が映し出された。
「えっ‥‥」
「あっ!それじゃないんだよ!次、次の映像なんだよ!」
おいおい金魚よ。
家で一体洋裁とナニをしているんだ。
頼むからあまり変な事はしないでくれよ。
俺の金魚に対する良いイメージが崩壊しかねないからな。
俺だけじゃない。
みんな無言で見なかった事にしていた。
俺は何事もなかったかのように次の映像を投影させた。
夜の町が映し出された。
これは此花領内の町ではなさそうだな。
愛洲領内の‥‥これはコツの町か。
人が誰も通らない静かな時間帯のようで、おそらくは丑三つ時前後かな。
するとそこに人が現れた。
だがそれは普通の人ではない。
明らかに小さい。
「小人さんが十九人いたんだよ」
小人が十九人だと?!
それはどう考えても怪しいじゃねぇか!
コビット十九とか、新型コロナウイルスの正式名称だぞ。
「金魚は後をつけたんだよ。そしたら色々な家に忍び込んで何かをしてたんだよ」
「もう間違いないよ。こいつらが病原体を撒き散らしている犯人だ!」
「どうしてそう思ったのでしょうか?私気になります!」
うむ、久しぶりに千えるらしい台詞が聞けたな。
でも説明は難しいな。
この世界はなんとなく前世の世界とリンクした所があるんだよ。
だから間違いないって言ってもなかなか信じられないよな。
さてどう説明しようか。
「簡単なんだよ!小人さんが入った家の人は次の日病気になってたんだよ」
「マジか金魚?!」
「マジなんだよ。ちゃんと賢神さんに忍び込んでもらって確認したんだよ。小人さんがその人が眠る横で何かしてたらしいんだよ」
つかそこまで分かっているのなら確実じゃん?
早く教えてくれれば良かったのに‥‥。
おそらくここで成果を発表したかったんだろうな。
「それで小人さんはその後どうなったんだ?」
「今は分からないんだよ。ただ賢神さんが後をつけてるんだよ」
後をつけてるんかーい!
ならば話は早いな。
『賢神!今小人をつけてるんだって?』
『おお!策也か。今絶賛追跡中だぞ』
『ならば少し視覚を共有させてもらうぞ?』
『ああ構わない』
俺は賢神の視覚を共有させてもらった。
なるほど、小人さんちっさ!
丁度一寸くらいの大きさだな。
場所は何処かのあばら家の中といったところか。
「みんな!ちょっと俺は小人を確保してくる。会議の続きはリンに任せた!」
「はいはい」
俺は織田の能力で小さくなると、瞬間移動魔法で賢神の見る場所へと飛んだ。
小人たちに見つからないよう、死角になる場所へと移動した。
しかし瞬間移動による魔力を感じたのか、小人たちがざわつき始めた。
仕方ない。
一気に確保するか。
俺は即座に魔力ドレインの結界で小人を包み込んだ。
一気に小人の魔力を吸い尽くす。
すると小人たちは皆動きを止め、その場に倒れた。
「アレレ?」
普通魔力ドレインされても本人の生命エネルギと回復する魔力で倒れたりはしないんだけどな。
まあ小人だから人間ではないし、これで倒れるという事は操り人形だったという事か。
つまり誰かが小人人形を使って病原体を世界に拡散させていた訳だ。
俺は邪眼で小人を解析した。
これは凄い。
それぞれが病原体らしきものを作る為の術式を備えている。
南に教えてもらってかなり魔法の術式には詳しくなったと思っていたけれど、これは桁違いに複雑なもので理解し難い。
時間をかければ解析は可能だと思うけれど、これを動かしていた者は並みの奴ではない。
十年二十年程度しか研究を続けていない乱馬では、到底ここまでの事はできないだろう。
南ですらできるかどうか。
南か。
ちょっと聞いてみるか。
俺は人形を全て異次元収納に回収した。
「おお!策也!ずいぶんと小さいの!」
賢神が声をかけてきた。
そう言えば小さいままだったな。
俺は元の姿に戻った。
「小人相手だから小さい方がいいかと思ってな。まあただの人形だったから意味はなかったけどさ」
「なかなか可愛い小人だったの。ついつい後を付けたが、役にたったようだの」
「おう!ナイスだ。この小人が病原体を撒き散らしていたのは間違いないな。一応術式を南にも確認してもらおうと思っている」
「そうか。ならば私は他にもいないか探してみようぞ!はははは!策也又な!」
「おい!ちょっと‥‥」
全く忙しないやつだな。
おそらくもう小人はいないと思うぞ。
なんぜ十九人だからな。
小人が他の人数だと、この世界の摂理に反する気がするんだよね。
賢神は楽しそうだから放っておいていいか。
俺はすぐに連絡を取り、南とはガゼボで会う事になった。
四阿会議は既に終わっていた。
ガゼボにいたのは金魚だけだった。
「金魚、お手柄だぞ!小人は確保できた」
「良かったんだよ!ようやく役に立てたんだよ」
いつもの金魚と違って、何処か真面目に納得している感じが伝わってきた。
案外その辺り気にしていたんだな。
別に役に立っていない訳でもないんだけどな。
兎束の件では色々とやってもらったし、他にも洋裁を起こしてもらっているし‥‥。
うん、気にするかもしれない。
でも今回は完全なお手柄だよ。
ただ金魚と洋裁が賢神と行動しているって、ちょっと想像できなかった。
なんで賢神と一緒にいたのか謎だよ。
まあどうでもいいか。
俺は金魚の横、自分の席に座ると、手に入れた小人をテーブルに並べて行った。
見た目は、小さな子供がとんがり帽子をかぶっているような感じで可愛い。
「凄く可愛いんだよ。でもみんな動かないんだよ‥‥」
「誰かに操られていたみたいだからな。そいつとのアクセスが切れたらただの人形って事さ」
「ちょっと可哀想なんだよ‥‥」
病原体をばら撒いていた奴らなんだけどな。
でも金魚らしいか。
「だから離れろって!」
「南ちゃん‥‥一人で‥‥遊びに行くの‥‥駄目‥‥」
「そうです。楽しい事はみんなでですよ」
後ろから声が聞こえた。
どうやら南が来たようだが、今日も二人に悩まされているようだった。
俺は振り返って声をかけた。
「おう南、悪いな」
「いえ、特に問題はないんですが、こいつら遊びに行くと思ったみたいで、放してくれなくて」
今日もモテモテでうらやましい。
いや、お気の毒様。
「悪いな嬢ちゃん、朝里ちゃん。ちょっとだけ南を貸してくれ」
俺の言葉に、嬢ちゃんはとても寂しそうに、朝里ちゃんはとても憎たらしそうに俺を見た。
そんな目で俺を見ないで。
ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ。
とりあえず二人は、掴んでいた南の腕を放してリリースしてくれた。
「ふぅ~‥‥。それでその人形ですか?」
「そうだ。こいつらにある術式がちょっとヤバそうなんだよ」
「ちょっと拝見させてもらいますね」
南はそう言って人形を一体つまんで手に取った。
「なるほど。これはかなりのもんです。断言はできませんが、おそらくこの人形を操っていたのは神の領域にある者でしょう」
神の領域だと!?
つまり病原体をばら撒いていたのは、俺が倒すべき悪い神だとでもいうのだろうか。
いや人間でも俺やみゆき、武尊のようなのもいる。
決めつけてしまうのは良くない。
でもおそらく、これは俺が倒すべき奴の仕業だ。
とうとう手がかりが一つ見つかったかもしれない。
何の目的で神が病原体を撒き散らしたのか。
民を皆殺しにするつもりだったのか。
それを俺が止められるのかどうか試したのか。
まだ何も分からないけれど、その先にきっと神に続く道がある。
俺はそう確信するのだった。
2024年10月13日 言葉を一部修正
 




