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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
完結編
175/184

賢神と神幻

『此花策也の、見たか?』

『見たよ。ありゃ完全に天下取りをするつもりだよ』

『まともにやり合えるのはもはや伊集院だけだって話だぜ』

『でも伊集院もこの所おとなしいし、一瞬でも九頭竜武尊に下った国だ。期待はできないだろう』

『俺一応王族なんだけどさ、庶民になるなんて恐ろしすぎて怖いよ』

『今まで散々威張り散らしていたんだな?』

『でも王族貴族は廃止しないって言ってたじゃん』

『名前が変わるかもってのが怪しい』

『町の者を無視しないとは言ってたけど、共生の強制もやってきそうだよな』

『そうか?俺は此花策也が言った事は本当だと思うけどな』

『ないない。人は貴族や王族になったら変わるし、天下取ったら尚更だよ。いずれ王族貴族にとっては闇の時代が来る』

『だから西郷が挙兵するんだろ?戦える奴は参加すればいい。これに参加しなければ受け入れたも同然だな』

『神様が助けてくれないかな?』

『そんなのがいたら、真っ先に王族や貴族が倒されてるだろ?』

『そう言われればそうだな。この世界に神はいなかった』


ネット上では、ネット民が好き勝手な事を言っていた。

俺を擁護してくれているのは、アルカディアの工作隊だろうか。

俺が否定した所で、信じてもらえなければ意味がない。

諜報員からの連絡だと、西郷の所には続々と王族貴族が集まっているとか。

その中心には有栖川一族もいるらしい。

一族の能力『フルバーストメテオ』はかなり厄介な攻撃魔法だ。

無暗に放たれたら、多くの死者も出るだろう。

あの大量破壊魔法は、この能力を集合させたものっぽいからな。

うちの領土にある町は防御結界で守れるからいいとしても、それ以外の町が攻撃されたら止められない。

当然村ならアッサリと壊滅させられる。

そんなテロのような事はしないと信じたいが、やられたら終わりなんだよ。

かといって神と戦い倒すのが定めらしいし、一体どうしたらいいのやら。

「策也さん!大変なんだよ!有栖川が‥‥」

朝の四阿会議の前、いつも通り最初に金魚がやってきた。

しかし今日は既にニュースを見て知ってるんだよな。

俺がニュースを見ているのを見て、金魚の目が死んだ魚のようになっていた。

ゴメン、まさかそこまでショックを受けるとは思っていなかったんだよ。

次は金魚が来るまでニュースを見るのやめておくよ。

でも早く確認もしたいし、自宅の仕事部屋でコッソリ見ておく事にするからさ。

「おはよう。あれ?どうしたの金魚さん?」

「おはようございます」

「リン、総司、おはよう。これはだな。俺が先にニュースを見ていたからショックでだな‥‥」

「仕事を取ったらダメよ」

「そうですね。これが金魚さんの生き甲斐なんですから」

金魚、総司にえらい言われようだぞ?

こんな事くらい生き甲斐でもなんでもないと言ってやれ!

「私の生き甲斐が‥‥」

やっぱり生き甲斐なのかーい!

「スマン金魚‥‥」

俺にはただ謝るしかできなかった。

四阿会議では、特にこれ以上の対応は思いつかなかった。

勝手に決めつけて此花を敵視しているんだから、正直どうする事もできない。

一応誤解だと言い続けてはいるけれど、この流れは止められそうになかった。


四阿会議の後は、今日も領内の防衛体制構築だ。

元有栖川領を預けた兎束が、此花の傘下国としてやっていく事にしたので仕事は沢山ある。

当然リンたち防衛隊だけでは作業が大変だ。

西郷たちが何処で何をしかけて来るのか分からない以上、作業は急ぐ必要があった。

そんな作業に没頭していると、禰子からのテレパシー通信が入った。

『お兄ちゃん!神功さんからメールの転送があったんだけど‥‥』

俺宛てに来るメールで急ぎのものは、禰子に転送するよう言ってあった。

つか毎回の事ながら突然の『お兄ちゃん』だよ。

『おう禰子。誰からのメールなんだ?』

『えっとね。武田の松姫さんだよ。内容を伝えるね』

『よろしく』

『武田の当主は第一王子の勝神(カツシン)に譲られ、元国王神幻は武田家から出ました。理由は「西郷の旗の元で戦いたい」との事です。すみません止められなくて。賢神さんと戦わなくなってからのお父さんは、魂の抜け殻のようになっていました。そんなお父さんが活き活きとした目で家を出て行ったのです。ご迷惑をおかけしますが、死に場所を与えてやってください』

なんだよそれ‥‥。

戦いたいならいくらでも戦う場所なんてあるだろ。

いや、もしもこのまま俺が天下を取って悪い神を打ち破ったら、しばらく世界から争いは無くなるかもしれない。

世界の神に逆らえる奴なんてまずいないよな。

だけどどうして西郷の元に行くんだよ。

こっちに来て戦ってもいいじゃないか?

あっ‥‥もしかすると‥‥。

松姫は『死に場所を与えてやってほしい』と伝えてきた。

『禰子、ありがとう。賢神に伝えておいてほしい。武田神幻が敵として現れたら、お前が倒してやってほしいと‥‥』

『うん。伝えておくね‥‥。じゃあね』

『よろしく』

ああいうオッサンは絶対不器用なんだよな。

戦いでしか伝えられない。

武田神幻が対此花に参加するとなったら、結構な王族貴族が参加してくるかもな。

人類最強の賢神と互角に戦ってきた男。

神幻は次の世界に向けての大掃除を手伝ってるつもりなのか。

『次の世界に不要な奴らを集めてやるから』

俺にそいつらを倒せと‥‥。


夕方の四阿会議で、俺はその事を皆に伝えた。

「もう知ってると思うけど、武田の神幻が西郷についた。これで更に西郷には戦力が集まるだろう。そしていずれ此花領内に攻撃を仕掛けてくるはずだ。みんな油断するなよ」

なんも言えねぇか。

神幻とは皆面識もあるし、仲良くやっていた奴もいる。

花見でも一緒に酒を飲んだ仲だ。

今思うと、確かにあの時あまり元気が無かったように思う。

人生の半分以上を戦いの中で過ごしてきた者は、やはり死ぬ時も戦いの中が良いのだろうか。

全く、こういうの嫌いなんだけどさ、俺。

「相手は賢神に頼んである。最後の花道を飾ってもらおう」

戦って死にたいと言っている人間がいれば、それを叶えるのって人道的にどうなんだろうな。

そんな人を殺しても殺人罪になる世界は正しいのか。

転生前の世界では、重い病気になった時に『安楽死を望む声』が結構あった。

これを叶えてやるのは悪い事なのだろうかね。

苦しい思いを1年続けて死ぬのと、スッキリと苦しまずに死ぬのとどちらがいいのか。

選択させられないのは、生命保険とかの関係があるのだろうか。

早くに死なれたら困るもんね。

夕方の四阿会議は、皆テンションを落としたまま終わった。


それから一週間が過ぎた。

とりあえず町の守りはなんとか間に合った。

これで有栖川の大量破壊魔法があったとしてもなんとかなるだろう。

他に集まったメンバーに何ができるのかは分からないが、有栖川ほどの事ができる者は存在しないと聞いている。

後は武田神幻の強さと、盟主の西郷の能力くらいか。

西郷の能力に関してはハッキリしていないが、武田に近い強さを持っているとの話だ。

そしてこの日の昼、ガゼボで休憩中に西郷の対此花隊は動き出した。

『お兄ちゃん!大変だよ!西郷が動き出したよ!』

『そうか。それで何処に現れた?』

『えっと、現れたのは西園寺領の西だって。村が一瞬にして壊滅したそうだよ』

なんだって?

どうして西園寺なんだよ。

いや、西郷領は大陸の西の端にある訳だが、最短で此花の帝都を目指すならそうなるか。

それに北側のルートだと武田領を通る為、神幻が参加している以上それはない。

西園寺はとばっちりを受けてしまったな。

でも情報は既に霧島にも入ったし、賢神にも伝わっているだろう。

後は彼らに任せよう。

俺は一応ネットにアクセスして情報を調べた。

すると西郷の声明がアップされていた。

『我々王族貴族の力を舐めるな!王族貴族を廃止するなど笑止千万。ただの民とは違うのだよ民とは!賛同する者は今からでも我々の旗の元に集まるのだ!』

それは認めるよ。

戦闘力では、王族や貴族の方が優れている者も多いだろうさ。

だけど全てがそうではないし、戦闘力だけが必要な力でもない。

統治に最も必要なのは武力かもしれないが、それが不要な世界にしたいんだよ。

ああ、だから焦っているのか。

自分たちの力が最大限発揮されない世界は、その者たちにとっては辛いのだろうな。

でもそういう意味では、逆に今の世界でこそ力を発揮できない者だっているだろう。

そうじゃない。

ただ今までの自分を失うのが嫌なだけなんだ。

転生前の世界でも、一度上り詰めた者はそこより一歩でも下には行きたくないと思うものだった。

人の幸せは絶対的なものではない。

自分が幸せを感じられる場所にさえあれば幸せなのだ。

だから金持ちには金持ちの悩みがあり、力を持った者には力を持った者の悩みがある。

もしも俺がチートじゃなくても、最初から平和に暮らせる世界でみゆきや仲間と一緒ならそれだけで幸せなんだ。

さて神幻は来ているだろうか?

霧島の俺は賢神と共に最前線へと到着した。

「こりゃ景気よく破壊してくれたな」

「正直この状況は笑えないぞ神幻。やったのがお前でなくても、私はお前を生かしては返さぬぞ」

珍しく賢神がシリアスモードか。

敵ではあったが最高の友でもあったんだよな。

もしかしたら神幻の事を男として見ていた事もあったのかもしれない。

しかし、賢神が鬼だな。

半端ない魔力が殺気を持って辺りに広がっていた。

それに惹かれるように、一人の男がこちらに猛スピードで向かってきた。

そいつは五十メートルほど向こうで足を止めた。

「賢神、来てくれたか」

「神幻、見損なったぞ。まさかお前がこんなくだらない戦いに参加するとは」

「そうじゃな。くだらない戦いじゃ。だがな賢神、そのくだらない戦いがわしは好きなんじゃよ」

そういう神幻の魔力が大きく跳ね上がった。

以前よりも遥かに大きな魔力だ。

おそらくアイテムによってパワーアップさせたのだろう。

ぶっちゃけ霧島の俺と魔力は互角。

だが賢神はそのレベルを遥かに超えている。

「ほう。少しは楽しめそうだの」

「魔力だけが強さではない!賢神なら知ってるはずじゃ」

さっきまで殺気に満ち溢れていた賢神だが、今は穏やかな表情になっていた。

やはり賢神も神幻との戦いは嬉しいようだな。

「ではそろそろ始めようぞ!」

「かかってこい!俺はお前を倒して人類最強になるのじゃ」

神幻が喋り終わると同時に、二人は一気に距離を詰めた。

二人の攻撃がぶつかった。

「うおっ!っと!」

なんというかお互いの闘気がぶつかって、更に大きな力が辺りに広がった。

二人の戦いは、音楽のセッションとも思われる芸術性を感じる。

美しい打ち合いは生きた彫刻のようだ。

細部まで決められた動きを演じているようにも見える。

次第にそれは社交ダンスにも感じて来た。

二人は今最高の舞台で踊っているのだ。

そんな二人が戦っている舞台に、近づいてくる一団があった。

無粋な奴らだな。

この戦いは誰にも邪魔はさせない。

俺は近づいてくる者たちの前に立ちはだかった。

「悪いが此処から先は通行料をいただくぜ」

やってきた奴らには見覚えはないが、おそらく王族や貴族の使い手だろう。

そこそこ高い魔力を持っている。

こいつらもマジックアイテムでパワーアップしているようだな。

「貴様は西園寺霧島か!?お前を倒せば西園寺が落ちたも同然だな。みんなで叩くぞ!」

十人ほどの奴らが俺を取り囲む。

早く賢神と神幻の戦いを見たいんだ。

速攻で終わらせてもらう。

「ヒャッハー!行くぜ!」

俺は一瞬の内に『殴って』『殴って』『殴って』『蹴って』『また殴って』を繰り返した。

「ふぅ~‥‥。か・い・か・ん!」

アッサリと全員を倒した。

死んだ奴もいるかもしれないが、今は賢神たちの戦いが気になる。

俺はすぐに観戦モードへと戻った。

二人のダンスは、クライマックスを迎えていた。

やはり生身の神幻では賢神に勝てないようだな。

神幻は徐々に傷が増えて血が流れ始めていた。

一方賢神は全くの無傷。

斬られたりもしたかもしれないが、オリハルコンの体だからすぐに元通りになる。

「人類最強の夢は叶わなんだか」

「そうでもないぞ?我は既に人外の身。そして此花策也もまた人外となる者。私が知る限り、今最も強い人間は神幻お前だよ」

実際このおっさん強いよな。

この戦闘センスの塊である賢神相手に、此処までやれる奴なんていない。

パワー一辺倒な感じに見えるけれど、凄く繊細な太刀捌きなんだよな。

「そうか。賢神がそう言うのなら素直に受け取っておくか」

「ああ。ではソロソロ終わりにさせてもらうぞ」

この戦闘の中で喋る余裕もあるんだからな。

魔力と能力の数で戦う俺からすれば、二人の芸術のような戦いは素晴らしいとしか言いようがないわ。

そんな戦いも、賢神の本気の一撃によって、一瞬にして終焉を迎えた。

賢神の武器が刀から槍へと変わり、神幻の心臓を貫いていた。

魂が神幻の体から離れるのが見える。

普通死んでもすぐには離れないんだけどな。

まるで蘇生されるのが嫌だと言っているようだ。

魂はドンドン空へと昇って行き、そしてすぐに視界から消えた。

「神幻、最高の戦いだったぞ」

賢神は槍を立て片膝を地面についた。

持久力に劣る賢神とは言え、この短時間でここまで消耗させられていたのか。

能力抜きなら絶対に勝てる気がしない相手だったわ。

こうして武田神幻は死んだ。

望みを叶えて死んだと言ってもいいだろう。

戦いたい相手と戦い、望む相手に殺され、そして普通の人間の中では最強になった。

でも本当にここで死ぬ必要があったのだろうか。

他に望む事は無かったのだろうか。

ただ言えるのは、神幻は幸せな死を迎えたという事。

死体の顔は、今まで見た事もない最高の笑顔だった。

2024年10月13日 言葉を一部修正

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