十一月二十四日はパクリの日?
日本武尊は、父の寵妃を奪った兄を殺した。
父の『なんとかせい!』という命令に対し、どうやら殺すよう命令されたと勘違いしたようなのだ。
父はそんな息子ヤマトタケルを恐れ、傍におかないようにしようと考えた。
上手くどこかで死んでくれればと思ったんだろうね。
それで無茶ぶりな討伐命令をしまくったのだ。
結局ヤマトタケルは、日本のほとんどを平定したのち帰り道で息絶える訳だが‥‥。
強すぎてヤバい奴はたとえ身内であっても恐ろしいという話。
この日俺は、芸能人や政治家など、著名人や公人の辛さらを知る事となった。
「すみません!クトゥルフやヨグソトースを倒したのは西園寺霧島のように見えましたがどうなっているのでしょうか?!」
俺は汽車に『望海の事は分からないように、後は好きに報道してくれ』と言った。
でも忘れてたんだよな。
俺霧島になって最後奴らを倒したんだった。
その方が望海のパワーをより多く得られると思ったからね。
それは別に間違っちゃいなかった。
でもそんな映像をアップすればこういう事にもなるんだよ。
つかだいたいこの連中は何様なんだ?
こいつらずっと此花の広報担当者に付きまといやがって。
『ウザいからなんとかして下さい』と難波津今春から頼まれたから仕方なく記者会見を開いたんだぞ?
常識とか思いやりとかそういうのは無いのか?
報道の自由は大切だけどさ、その為に何をしてもいいって訳じゃない。
報道は自由でも、ネタ集めは道徳倫理を守ってやれよ。
ストーカーは転生前の世界じゃ違法だ。
とは言え無碍にもできない訳で。
「ああアレね‥‥」
あまり霧島に変化ができる事は話したくないけれど、話さないと俺たちは西園寺に助けられた事にならないか?
仕方がない、霧島を呼ぶか。
霧島の俺は丁度起きたばかりで、瞬間移動で記者会見の部屋の隣に来てから会場へと入っていった。
「どうもどうも。西園寺っ!霧島ですっ!此花皇帝がどう答えようかと悩んでおられるようなのでやってきました。アレはですね、此花皇帝とあみだした必殺技『ギャラクシーエクスプ‥‥ロージョンスリーザウザンド』というものです。私が倒したように見えますが、倒したのは此花皇帝で間違いありません!では私はこれにて‥‥」
それだけ言って、霧島の俺は去って行った。
「えっと‥‥ぎゃらくしぃ?えくっす?なんですか?」
「撮影してるよね?名前には俺、関与してないから。その辺り後は自分で調べてくれ」
これでなんとかごまかせるかな?
適当に技名言ったら危うく銀河鉄道になる所だったよ。
「そ、そうですね。それでどういった技なのでしょうか?」
さっさとこの話終われよ。
「禁則事項です」
ほらほら、うっかりパクリネタ使っちゃったじゃないか。
これで訴えられたらお前のせいだぞ。
「次の質問お願いします」
この場を取り仕切っている駈斗がなんとか終わらせてくれた。
頑張ってくれ駈斗!
嫌な政治家みたいな真似をさせて申し訳ないけどさ。
「はい。ではそちらの方」
「えっと、此花皇帝は戦いの中で何度も傷つけられていたように見えました。しかし瞬時に傷が治っていましたよね?もしかして不老不死だったりするのでしょうか?」
また能力関係の質問かよ。
お前ら俺たちの『活躍について聞きたい』って言ってなかったか?
記者会見開いたらいきなり個人情報聞き出そうとしやがって。
プライバシーの侵害は止めてくれ。
「橘みかんを食べた。それが答えだ」
「えっ?橘みかんですか?」
「そんな事も知らないのか?調べれば分かるだろう」
この世界に橘みかんがあるのかどうかは知らんけどさ。
一応言っておくと、日本神話の世界では『不老不死』の効果があると言われている。
「では次の質問がある人‥‥」
結局記者会見では、『クトゥルフを倒した英雄の話を聞く』なんて所は微塵もなく、ただ俺たちの能力や個人の事を聞かれるのがほとんどだった。
いや別に俺たちが英雄だなんて思ってないよ。
ただ記者がそう言って話が聞きたいって言ってきたからね。
それで個人の能力について聞かれるからさ。
まあ此花の人間なら普通に俺たちと話す事はできるしな。
聞きに来たのは外部の報道関係な訳で、その辺り知りたいのは分かるけどそれスパイ行為だろ。
「やっぱやるんじゃなかったな。駈斗、桃まいといてくれ!」
「もも?ですか?塩じゃなくて?」
「俺の世界じゃ厄除けには桃なんだよ」
ちなみに節分の時『鬼は外』と豆を撒くけれど、豆には神社で桃の効果を付与してもらわないと意味がないんだよね。
豆だけに豆知識だよ。
「策也タマ面白いのです」
「今までで一番面白かったのね」
なんかそれだと、今までの俺が面白い話をした事がないみたいじゃないか。
つか少女隊はまた俺の心の中を読みやがって。
「グリグリしてやる!」
「褒めたはずなのにおかしいのです」
「返り討ちにするのね」
結局俺は腹いせに少女隊にプロレス技をかけまくるのだった。
さてそんな記者会見の後、俺たちの元に又々ニュースが飛び込んできましたよ。
「策也さーん!大変なんだよ!ニュースを見るんだよ!」
ガゼボでマッタリしている所だったのに、奴がやってきちゃいましたか。
神功なら誰よりも早く最新ニュースを得られるのに、急ぎじゃないニュースは金魚に遠慮して教えてくれないんだよな。
つか金魚がマジで、日曜夕方五時半に始まる番組の座布団を運ぶ人のようだ。
金魚はニュースを運ぶ人だけどさ。
仕方がないからニュースを見てやるか。
隣の席に座り目を輝かせる金魚は、まるで何かを期待するチワワのようだよ。
千えるよりも金魚の方が千えるみたいだな。
『気になります!』じゃなくて『気になるでしょ?』だけどさ。
とにかく映像だな。
俺はテーブルそのものがタッチパネルになっているようなマジックボックスを操作し、ニュース一覧を開いた。
神功に頼めば一発で表示してくれるんだろうけれど、金魚の期待の目に見られているとこっちの方がいいよね?
『有栖川領にあるアガルの町が何者かによって占拠される。その者はたった一人でやってきて、全ての騎士を打倒し「ここに九頭竜王国を復活させる」と宣言』
へぇ~‥‥九頭竜王国ねぇ‥‥。
「九頭竜だとっ!?」
「そうなんだよ。九頭竜が此花に吸収された後、九頭竜の人たちが出ていったんだよ。きっとその人たちなんだよ」
「でもニュースにはたった一人でって書いてあるぞ?」
「ポク・ポク・ポク・チーン!」
はいありがとう!
一休さん閃きましたか?
「きっと出て行った人は関係がないんだよ!」
何事も無かったかのように訂正してきたな。
「でも関係が無いともいえないぞ?」
「そうなんだよ。もしかしたら関係があるんだよ」
ドッチやねーん!
もう金魚は適当だな。
でも年齢を重ねてボケが進み、少し可愛くなってきたな。
これはこれで良しとしよう。
金魚の観察日記はこのくらいにして、さてどういう事だろうか。
「神功、記事の内容を表示してくれ」
「イエッサー!」
いきなりどうしたんだ神功?
こんな返事する奴じゃなかったはずだが。
まあ気軽な感じに打ち解けてきたのはいい事だよな。
『昨日、一人の男が突然アガルの町の領主宅を襲った。警護や護衛の者を一瞬にして倒してしまったという。領主は成す術無く屈服させられ、町を明け渡すと宣言。その者、青き衣を纏いて金色‥‥』
「ちょっと待ったー!」
「いきなりどうしたんだよ?私には夫がいるから駄目なんだよ」
「告白しねぇし!」
つかなんで金魚がフィーリングでツガイになる番組を知ってるんだよ。
すると突然、少女隊がテレパシー通信で話しかけてきた。
『教えてないのね』
『そうなのです。冤罪なのです』
『お前たちかー!』
と、そんな場合じゃなかったな。
何にしても金色の野に降り立たなくて良かったよ。
危うく蟲の群れが襲ってくる所だったわ。
更に先を読み進める。
『金色のパンツ姿だった』
‥‥パンツかーい!
パンツと言っても下着のパンツじゃないよね。
『名は「九頭竜武尊」と名乗り、本家九頭竜の正当後継者であると主張』
九頭竜の苗字は、今の世界ルールでは九頭竜の後継者が許可しないと付けられない。
つまり併合した元九頭竜領から出て行った奴らが、こいつを後継者に指名した訳だな。
強い奴を養子にしたとも考えられるが、俺は後継者に選ばれそうな奴を知っている。
「こいつはどう考えてもKAMIだろ」
「神?神様なんだよ?」
「違う。碓氷にいた強い奴だよ」
「男は、おお!KAMIなんだよ」
ピンクなレディーがSOSだな。
今日はパクリネタオンパレードだけど大丈夫か?
しかし真面目な話、もしも武尊がKAMIだとしたら、下手に動くと危険を感じる。
「神功、アルカディアのミケコに連絡しておいてくれ。『九頭竜武尊はKAMIかもしれない。だからしばらく様子を見るように。誰かをやるなら賢神だけにしておけ』ってな」
「イエッサー!」
『ひざまずいて~なのね』
『誓ってやる~なのです』
コレも『ジグザグ十七歳』な曲のパクリだな。
今日は十一月二十四日か。
今日をパクリの日として、此花帝国の祝日にしよう。
俺はなんとなくそう思って目を閉じた。
『ツッコミがないから寂しいのね』
『そうなのです。東京に出たばかりの大阪人の気分なのです』
俺は無言で影に潜った。
遊んでほしそうだから遊んでやるか。
「そんなにツッコミが欲しいなら、鼻にミミズを突っ込んでやるよ!」
「ミミズは嫌なのです!」
「せめてダンゴムシにしてほしいのね」
ダンゴムシが入ったら取れなくなりそうだがいいのかな。
でもミミズもダンゴムシも今は持ってないんだよ!
そんな事を思いながら、結局俺たちはしばらくプロレスを楽しむのだった。
さて次の日の朝、四阿会議には賢神と劉邦も来ていた。
劉邦はクトゥルフを倒した後も、本人の意向で俺の元に留まっていた。
「劉邦サンキュー。おかげでクトゥルフを倒す事ができたよ。これでお前はもう自由だ。好きに生きてくれ。ただ犯罪だけは止めてくれよ。その時はお前を殺さないと駄目になるからな」
「その事なのですが‥‥私をこのまま此花策也皇帝の元に置いては貰えないだろうか?ハッキリと理解したのです。私ではこの世界を治めるに足りない。おそらく策也皇帝がその人だと」
マジかぁ‥‥。
こいつの能力は又必要になる事もあるかもしれないし、邪な気持ちも感じられない。
嘘を言っている感じも無いし、だったらそうしてもらうか。
「いいよ。でも一応仕事はしてもらうぞ?働かざる者食うべからずだ」
「もちろんです。それで私は何をしたらよろしいですか?」
「リンの元で防衛任務か、アルカディアでミケコに使われるか、他に何か希望や提案があれば言ってみてくれ」
今までは隆史、つまりリンの部下の監視下に置いていた。
でも仲間になるなら他の奴と同列にはしてやらんとな。
いや人形と同じでも嫌がるか?
つってもみんな同列の仲間なんだよなぁ。
「私は策也皇帝の元で働くのを希望している」
「俺の元には女しか置かないんだ」
洋裁は俺のナイフだから例外だけどさ。
それにこいつ、キャラ的にあまり立ってないから使いづらい。
もうちょっと個性際立つ喋りをしてくれないと、会話に参加させても誰が喋っているのか分からなくなるよ。
これはまあこっちの話だけどさ。
「女しか置かない?ですか?」
「おっ!どうしてもって言うなら、此花王都であるナンデスカに俺と同じ意思を持つ月詠資幣ってのが学園教師をしているんだ。そいつは俺と同一人物と考えていい。そいつの側近として働いてくれ」
「それは、私の分身能力で作られる人形のようなものですか?」
「俺、魂を分割する事ができるんだよ。だからお前の分身よりも俺自身って事になるな」
資幣はずっと駒として月詠三姉妹を使ってきたけれど、今そいつらはアルカディアのシステム担当になっていて手が欲しかったんだよね。
それにこいつの分身能力は使える。
諜報活動でたとえ死んでも問題ないし、裏での活躍が活きるだろう。
「分かりました。策也皇帝自身と変わらないのなら」
「考え方も何もかも全く変わらない」
ただ離れ続けていると微妙に違いも出て来るようなんだけどさ。
「それとさ、普段は基本王都を任せようと思う。リンは色々飛び回って王都を空けるからさ。資幣が割と大変なんだ」
「それって‥‥私、前まで敵だったのですよ?王都を任せるって‥‥」
「大丈夫大丈夫。大した仕事はないから。皇帝代理な感じでよろしく。詳しくは資幣に聞いてくれ」
これで資幣が楽になるよ。
教師と、リンのいない間の留守番は大変だったからな。
元々九頭竜のトップだった訳だし、代理くらい訳なくこなせるだろう。
「そんな重要な‥‥分かりました。ちゃんとやらせてもらいますよ」
良きかな良きかな。
そんな訳で頼んだんだけど、今日はどうしたんだろうな。
多分分身を残しては来てるんだろうけれどさ。
「はははは!先ほどちょっと新九頭竜王国を見て来たんだが、アレはヤバいぞ!」
賢神はやたらとテンションが高く嬉しそうだった。
一方劉邦は浮かない顔をしていた。
「どんな風にヤバかったんだ?」
「魔力だけで殺されるかと思うたわ」
なるほど、もしかしたら劉邦も分身が見に行っていたのかもしれない。
或いは分身が殺されたか。
「この前の戦いでの俺の魔力と比べてどれくらい差がありそうだ?」
「そうだの。倍は違ってたぞ」
倍か‥‥。
劉邦にしてみたらかなりショックだったかもな。
でもこれくらいならば、まだなんとかなる可能性はあるか。
仮に戦う事になったとしてもって話だけどな。
「それで先ほど新たに有栖川の町が落とされたんだな?」
「まだニュースにはなっておらんようだが、私はこの目で見て来たぞ!」
「私も分身に見に行かせましたが、アッサリと落とされていました」
「ありがとう。それで武尊は好戦的な奴なのか?此花の敵になりそうなのか?」
これが最も重要な所だ。
別に敵にならないなら問題はない。
普通に統治するいい奴なら仲良くもできるだろう。
「はははは!策也よ。アレは駄目だな。人を殺す事になんのためらいもない。期待しても無駄だぞ」
おいおい賢神。
笑って言う事じゃない気がするぞ。
「アレはヤバいですね。ただやるべき事を機械的にやれる奴です。人の感情を持った奴じゃないように見えました」
洗脳された戦士。
もしも思った通り武尊が碓氷で育てられた戦士だとしたら、そういう事になるのだろう。
でも変だよな。
仮に碓氷の命令で有栖川に対する今までの恨みを晴らしているのだとしたら、何故『復活の九頭竜王国』なのだろうか。
碓氷領として広げたりしないのは、関係がない事にしたいのだろうか。
旧九頭竜の者たちにそそのかされた?
いや洗脳されて碓氷の兵隊となっているのなら、そんな事にはならないだろう。
よく分からないな。
やはり一度会って話してみないと駄目かなぁ。
そうだ。
ならば‥‥。
やっぱこういう時は酒を飲みながら話すと良いらしいし、やってみるか。
転生前の世界でよく言われていた方法を、俺は試してみる決意をするのだった。




