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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
中央大陸編
16/184

オーガの里と東雲みそぎ

オーガ討伐が予定された日の朝、俺たちは集合の一時間前である七時ごろギルド前まで確認に行った。

既に冒険者が何人か集まっていて、ドサの騎士隊らしき者の姿も見えた。

とはいえまだまだ集まっているとは言えず、予定通りの出発になりそうだと判断できた。

「じゃあ俺たちは先に決戦場所になりそうな所を探りに行こう。余裕が有ればオーガに人が襲われた場所も確認な」

「オーガを見るのはわしも初めてじゃわぃ」

「私も見た事ないわ」

「僕は以前に一度見た事があります。でも女性のオーガだったのでツノも短く、ほとんど人間と変わりませんでしたよ」

そうなのか。

野生の動物でもオスにしか角がない動物とか、そういうのあるよな。

「さて今日は少し飛ばして行きたいが、みゆきは身体強化ってやった事ないよな?」

「うん。何それ?」

「魔力をコントロールして、魔力で体を覆って強化するんだ。例えば速く走りたければ足に魔力を集中させると走るのが速くなる‥‥」

話していて思ったのだが、みゆきが魔力コントロールできるのなら、魔力に押しつぶされて死ぬ事は避けられるんだよな。

つまりコントロールは苦手のはずだ。

なんて思ったのだが、全く問題無いようだった。

「できるみたい!クラーケンさんに助けてもらう前は無理だったけど、魔力が抑えられている今なら大丈夫だよ」

「おお!そっか!」

そもそもみゆきには魔法センスがあるんだ。

にもかかわらず上手くコントロールできなかったのは、魔力がべらぼうに強かったせい。

並みの‥‥いや今でも並みの魔力というには大きな魔力ではあるけれど、これくらいなら十分にコントロールできる能力がみゆきにはあった。

こりゃクラーケンに頼らず普通に戦闘もできそうだな。

「じゃあ少しずつスピードを上げていくぞ。誰かが限界に近くなったらその辺りのペースで行く事にする」

「了解」

「飛んでいけば楽なんじゃがのぉ」

「流石に黒死鳥の姿はマズイですよね」

「みんなでかけっこだぁー!」

先頭は霧島、後は適当について行って、最後方に不動を走らせた。

俺は当然みゆきの横で見守った。

ぶっちゃけヒクくらい、みゆきは身体強化を使いこなして爆走していた。

この子が全開魔力をコントロールできるようになったら軽く俺を上回るだろうな。

俺は何故か嬉しい気持ちになった。

さて、普通に歩けば六時間くらいはかかるだろう道のりを、俺たちは三十分くらいで走破していた。

森の中を自動車で走るくらいの芸当をしたという訳だ。

「地図によるとそろそろオーガの隠れ里なんだが、当然認識阻害の魔法で隠されているよな」

「わしらの里よりはみつけやすいと思うぞぃ」

「まあ俺の千里眼と邪眼が有れば全く問題ないんだけどな」

俺は両目を使って辺りを調べた。

オーガの隠れ里らしき所はアッサリと見つかった。

それとは別に近くに人の気配もあった。

「人が近くにいるな。二人。男と女か」

「こんな所で何してるんだろう」

「わしらと似たような目的かのぅ」

「今日の戦いを近くで観戦しようとこんな所にまでくるのは、僕たちくらいだと思っていましたが‥‥」

明らかに怪しいな。

人間とオーガの殺し合いが始まるかもしれない場所に、しかも普段人が全く来ない場所に、どうして来る必要があるのか。

「ちょっと獲っ捕まえて調べる必要がありそうだな」

「そうなの?でも偶々森デートしている二人かもしれないわよ」

「調べれば分かる事だ。何も問題が無ければゴメンナサイで済むだろ」

「本当に適当ね‥‥」

「とりあえず霧島と不動にやらせておけば問題ないだろ。ついでに環奈もついていったけど」

そんなわけで俺は霧島と不動を使ってその二人を確保する事にした。

その二人はすぐに見つかり、捕らえるのは簡単そうだった。

「はぁーい!君たちこんな所で何してるのかなぁ?」

二人の後ろから霧島でそう訊ねると、二人は一瞬ビクッと驚いてから振り返った。

一人は割と大柄な男性で、肉体での戦闘が本業であるように見える。

知らない間に後ろを取られていたからか、警戒心を強めているように感じた。

もう一人も女性にしては割と大柄で、こちらも素手での戦闘が得意そうな外見をしていた。

邪眼で調べた所によれば、中級から上級レベルに近い冒険者のようだった。

「あ?あんたは誰だ?俺たちが此処で何をしていても関係ないだろ?」

「こんな所に人がいるなんて不自然だからな。まあ今の返事でだいたい察したわ」

霧島でそう言うと、不動で二人を後ろから羽交い絞めにした。

「何?!また気配を感じなかった‥‥グッ‥‥」

エアゴーレムだからな。

人間よりも気配は薄いよ。

尤も俺なら完全に気配を断つ事も可能だが。

「何よ放してよ‥‥苦しい‥‥」

不動での羽交い絞めを解き、今度は頭を鷲掴みにして拘束した。

「なんだこいつら。凄い力だ‥‥」

ゴーレムとはいえ、俺の思考を持たせる為に魂が宿っている。

百等分された魂とはいえ、一つ一つはドラゴンレベルの魔力を持っているから、その辺の人間よりも圧倒的に強いのだ。

素のリンや草子は相手にならないし、ドラゴンですら倒せるレベルである。

「さてもう一度聞くぞぉ?ここで何をしていた?」

最初の時とは違い、睨みつけ脅しを入れておいた。

「いや、俺たちは、今日ここでオーガ退治が行われるって聞いて、ちょっと見に来ただけだ」

嘘ではないかもしれないが、何かを隠している感じはする。

「それだけかぁ?今のうちに全部吐いた方が良いと思うぞぉ?」

霧島の顔を近づけ威圧した。

「本当だ。見るのが駄目なら俺たちは帰るから。放してくれないか?」

さてどうするか。

こんな雑魚が何かをしたところで、俺たちならなんとでも対処はできる。

でも一般的に見ればかなりの使い手レベルでもある。

何か引っかかるんだよなぁ。

そんな時そいつらが持っている鞄が目に入った。

俺は『ニヤリ!』とした笑顔を作って、持ち物を調べる事にした。

「環奈!そっちの女のボディーチェックと持ち物を調べてみてくれ」

「うほ!ええのんかい?筋肉のある女性の体もたまらんのぉ」

エロい事を頼んだ覚えはないが、まあいいだろう。

一応『環奈は』女だしな。

「おいやめろ!」

「やめてよ!何すんのよ!別に何も持ってないわよ!」

「そんなこたぁ、調べりゃ分かるんだよ」

鞄の中を調べると、すぐに気になるモノが見つかった。

「こりゃ、オーガのツノだな」

「こっちのご婦人も持っておったぞぃ?」

「いやそれは‥‥別にオーガを殺して手に入れたわけじゃないぞ!ちょっと知り合いから預かっているだけだ」

何も聞いていないのに。

こりゃオーガを殺して手に入れた可能性大だな。

そして『知り合い』ときたか。

誰かに頼まれて今何かをしている可能性もありそうだ。

「このツノ、頭に付けられるように細工してあるのぅ」

環奈がそれを頭に付けて見せた。

なるほどな。

引っかかっていた事が全てスッキリとしてきた。

こいつら、このツノを付けてオーガになりすまし、人間を襲っていたに違いない。

その目的は分からないが、考え得る答えは全てこいつらが悪いという結論に至る。

オーガと人間を争わせる為、オーガに責任を押し付け好き勝手する為、或いは西園寺とドサの町の関係を考えれば西園寺が後ろで手を引いている可能性もある。

或いはそう思わせて、西園寺と東雲の間にくさびを打とうとする他国の仕業という事も考えられる。

西園寺と東雲、それに此花の三国は、大陸の南を三分する国だが、最近この三国でやんわりと手を組み、四大国に対抗しようとしているからな。

まあ何にしても、そういう事ならやはり今日のオーガ討伐は止めた方がいいのだろうな。

「とりあえず確認しておくか」

既に俺たちパーティーは合流していた。

「策也?確認って?」

「この二人がこのツノを付けて人間を襲っていた可能性が高い。女性オーガはツノが短いのに、目撃者はどちらも立派なツノをもっていたと言っていた。目撃したのがこいつらじゃないか確認してくるわ」

「なるほどね。でも確認って連れて来るの?」

「いや。お前らこのツノを付けてみろ!」

俺は二人にツノを付けさせた。

不動には首を掴ませ拘束させた。

でももう拘束も必要ないかな。

ちょっと首を強く握りすぎたのか気絶させてしまったし。

死んでも蘇生すれば問題ないだろ。

「俺は見たモノを投影する魔法が使えるからな。それを見て確認してもらう」

ツノ付きの二人の姿は、この目にしっかりと焼き付けた。

「ほんと策也って何でもアリなのね」

「だから言ったろ?この世界に存在するほぼ全ての魔法とスキルは習得済みだ。できないのは不老不死を解く事と自分の姿を変える事。後は固有スキルやオリジナル魔法なんかも使えないとは思うが、おそらく一度見れば使えるようになるはずだ」

「策也殿は無敵じゃの」

「いや、おそらくだけどみゆきは俺以上になると思うぞ。みゆき半端ないって」

魔力が俺以上にあったとしても、それだけで能力が決まるわけではない。

でもなんとなく分かるんだ。

本当の力を手にしたみゆきには俺では到底かなわないと。

「わたしは全然だよぉ。まだ何にもできないし」

「そんな事はないさ。俺はみゆきがいるおかげで安心できている。俺は不老不死だが肉体が完全に消滅するような事があれば、もうこの世界に復活できない可能性があった。魂のままずっとこの世界を彷徨うわけだ。でも今ならみゆきが蘇生してくれると信じてる。何も怖くないんだ」

「うん。その時は絶対なんとかするよ」

不老不死は、肉体の成長や老化を止め、魂の成仏を防ぐ魔法だ。

成仏しない魂は生き続けるが、漂い何もする事ができない。

誰かが甦らせてくれなければ未来永劫そのままで、死ぬこともできないのだ。

不老不死は地獄と隣り合わせでもあると言える。

俺はみゆきを笑顔で見つめた。

「さて、確認に行ってくるか。ここには霧島と不動を置いておく。リンは一緒に来てくれ」

「えー!もしかして今来た道をもう一度走って帰るの?」

「いや、忘れたのか?俺は転移魔法が使えるんだぞ。一度見た場所なら何処へでも瞬間移動だ」

「便利じゃのぅ」

「こっちは環奈頼むぞ。こいつらを逃がさないように。霧島たちでも対処できないようなヤツが後ろにいる可能性もあるからな」

「そんなヤツがいたら殺してもええかのぅ?」

「その辺の判断は草子に任せるわ」

「了解しました」

「じゃあなみゆき。しばしのお別れだ。みゆきも後はたのむぞ」

「分かったの!」

俺は移動用の家をその場に出しておいた。

「ゆっくりして待っていてくれ」

俺はそう言うと、リンを連れて瞬間移動魔法によってドサの町へと戻った。

ギルド前を確認すると、騎士隊や冒険者たちはまだ出発前のようだった。

普通に歩けば六時間はかかるだろうし、何かしら素早く行ける方法があったとしてもまだしばらくの猶予はあるだろう。

俺とリンは目撃者の家に向かった。


俺たちは目撃者三人を訪ねて、全てに確認してもらった。

ハッキリと覚えていない者もいたが、話を聞く限り間違いないだろう。

「さてどうするか。領主も一枚噛んでいる可能性があるし、対応は東雲に頼むしかないか」

「そうね。報告も必要だし、此処は東雲領だからね。此花が無断で出しゃばる訳にもいかないしね」

さてしかしどうしたものか。

俺たちは東雲国王との面識がない。

「国王って簡単に会ってくれるものなのか?」

「国王にもよるけど、私のお父さんだと絶対に会わないわね。知ってる人ならともかく」

「リンの事なら知ってるんじゃないか?」

「そりゃ面識くらいはあるけど、知り合いって程じゃないのよねぇ」

リンは一応第三王女だから、会ってほしいと言えば対応はしてくれるだろう。

でもすぐに会えるかと言えば分からない。

もう一つ何かあれば‥‥。

「孤児院の院長って、東雲と繋がりがありそうだよな。みゆきのカードは院長経由で返す事になっていたわけだし」

「そうね。とりあえず行ってみましょ」

俺たちは孤児院へと向かった。

院長はすぐに見つかった。

外で子供たちと遊んでいた。

「院長さん!お久しぶりです!」

「あら、此花の姫さんじゃないですか!」

院長は少し驚いた表情をしてから、子供たちに一言いってこちらに歩いてきた。

「おはようございます」

「おはようございます。今日は一体どうなさったんですか?」

いきなり訪れたらそりゃ一体何があったのかと思うだろう。

実際に何かあったわけで、とりあえず話を進める事にした。

「東雲の王様に会わなきゃならない緊急の用ができたんだけど、どうにも会う方法がなくてね。そこで院長なら何か方法があるんじゃないかと思って訪ねてみたんだ」

俺は何も隠す事なくハッキリと伝えた。

「どうして私なら王様に会えると?」

「ほら、みゆちゃんのカードは院長から東雲に渡したんだよね。だったら繋がりがあるんじゃないかと思ったんですよ」

「そうですね。確かにそういう事ができなくはないです。ですが少し確認しないと分からないので、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか」

「はい」

院長は少し慌てた様子で建物内へと入っていった。

俺たちはその場で少し待った。

しばらくすると院長が戻ってきた。

「えっと‥‥国王様とはすぐには会えませんが、第一王妃が会ってくださるそうです」

なるほどね。

王様と繋がっているというよりは、王妃と繋がっていたのか。

「それは助かります。ではどうすればよろしいですか?」

「付いてきてください。案内します」

院長はそう言って王宮の方へと俺たちを案内した。

王宮までは十五分ほどで付いた。

それほど大きな建物ではないけれど、この町の中にあってはかなり立派なものだった。

門の所までくると、外には男性が一人待っていた。

「お待ちしておりました」

「こちらのお二人です。後はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「ども」

男はおそらく王妃の従者か何かだろう。

見た目は完全に執事だった。

俺たちは案内されるがままに敷地内へと通され、王宮の中へと入っていった。

そして通された部屋は、王妃の部屋だった。

「中でお待ちです。どうぞお入りください」

男はそう言うとドアを開けた。

中では一人の女性が立っていた。

その容姿を見て俺とリンは驚いた。

「あなたはみ‥‥」

リンが何かを言いそうになっているのを俺は制した。

まださっきの男がいたからだ。

迂闊な事は言えない。

リンも理解したようで、冷静に対応を始めた。

「今日は急なお願いに応えていただきましてありがとうございます」

「いえいえ、私も此花の姫とは会って話したいと思っていたんですよ」

リンと王妃が話をする中、男は一言残してドアを閉めた。

「失礼します」

とりあえずこれで、この部屋には俺とリン、そして東雲の王妃だけとなった。

しかしおそらくだが先ほどの男は部屋の外で待機しているだろう。

あまり大きな声で話すと聞かれる可能性がある。

俺は席に付くと小さな声で訊ねた。

「もしかしてあんたは皇の第三皇妃なのか?」

するとリンも察したようで、小さな声で話し出す。

「魔法ネットワークで映像を見た事があります。本人ですよね?」

するとその女性は、少し笑ってから答えた。

「ふふふ。やはり似てますか。彼女は私の双子の妹なのですよ」

驚きだった。

でも全てがスッキリとした感じだ。

何故みゆきが捨てられたのが東雲の王都だったのか。

どうして皇家は家の存続にかかわるような事で東雲家を頼ったのか。

この双子の姉妹によって親族となっていたのだな。

でもそんな話を俺は聞いた事がない。

リンも驚いている事から知らなかったのだろう。

おそらくこれは秘密にしているに違いなかった。

「ところで先日は残念でしたね。孤児院で預かっていた女の子が死んでしまわれたようで。なんでもお二人が助けようとしてくださったとか」

そういう事に、なっているんだったな。

しかしリンはその言葉に少し動揺し、何かを言おうとして思いとどまっていた。

危ないヤツだな。

「すみません。実は知っているのですよ。あなた方がみゆきちゃんを助けてくれた事」

試したのか?

いやしかしこれも鎌かけの可能性がある。

リンが何か言う前に‥‥。

「えっとなんの事かな。本当に辛い出来事だったよ」

「あ‥‥そうだね‥‥」

なんとかギリギリセーフ。

リンの良い所とも言えるけれど、隠し事や嘘は苦手のようだ。

「ふふふ。お二人は信用できる方々のようですね。これを見ていただければ理解していただけると思います」

そういって王妃は、自分の持つプラチナカードを開いてメールメッセージを見せてくれた。

ちなみに王妃はダイヤモンドカードが持てない。

ダイヤモンドカードが与えられるのは、王の子として産まれてきた者と、親が王になった者、そして王になった者だけなのだ。

見せられたメールは、王妃である『東雲みそぎ』に対して『皇みこと』が宛てたものだった。

この辺りの改変は普通できない。

できるとしたら皇のマスターカードだけだろう。

つまりそのメールは間違いなくみゆきの母親から、姉であるこのみそぎ王妃に出されたもので間違いなかった。

そこにはみゆきが生きている事と、それを知る人物の名前が記されていた。

俺たちのパーティー五人の名前と、皇弥栄だった。

となると弥栄は、東雲みそぎが知っている事を知らないという事か。

もしかしたら二人の関係はトップシークレットなのかもしれない。

「俺はあんたたち姉妹の事を喋るつもりはないよ」

「ありがとうございます。国や政治の事はよく分かりませんが、本当に面倒なものですね」

国と国との関係は何処の世界でも複雑なものだ。

シンプルに友好国と敵対国に分けられたらどれだけ楽だろうか。

国は一人で存在できるものではなくて、多くの指導者と多くの国民が一体となってできるものだ。

そこにはそれぞれ多くの繋がりや亀裂もあって、シンプルに片づける事などできはしない。

「みそぎ王妃は凄いですね。今の策也とのやり取りを聞いて関心しました。見た目は子供なのに、対等な大人と話をするような。策也の事を分かっているように感じました」

「どういう訳か分かってしまうんですよね。策也さんはおそらくですが、実年齢は私よりも上かと思われます」

そこまで分かるのか。

みそぎ王妃はどう見ても二十代だ。

俺のこの世界での年齢十八歳よりも確実に上と言える。

でも本当の俺の年齢は、三十九歳、或いは五十七歳。

「えっと‥‥策也あんた十八歳よね?王妃様はそれよりも下だっていうの?」

リンが耳元でコソコソと話してきた。

全く王妃を前にコソコソ話とか。

こいつは子供か。

まあいい。

いい機会だから少しだけ話しておくか。

「正解だ。俺の年齢は十八となっているが、実は生きた年齢はもう少し長い。まさかそこまで見抜かれるとは、あんたの前じゃ隠し事はできないのかもな」

「やっぱりそうですよね。でもハッキリと分かるわけではないのですよ。ただ勘が良い人くらいに思っていただければと思います」

この人はちょっと油断ならない人かもしれない。

ただみゆきの伯母でもあるし、俺にとってもそうなるんだよな。

結婚届けは既に出してあるし、まあ敵にはならないだろう。

「ところで今日はどういったご用件だったのでしょうか?」

おっと本題をすっかり忘れていた。

「そうそれなんです!」

「結構急いだ方がいい案件だ。ドサの領主がオーガ討伐の為に里に騎士隊と冒険者を送ってるんだ」

「なんですって?確かその話、王はまだ結論を出していませんでしたよ」

一応王様にも話は通ってたんだな。

しかし返事を待たずに行動を起こしたか。

となるともしかしたら領主もグルかもしれない。

「さっきオーガの里近くで、怪しいヤツを二人捕らえてるんだ。調べたらこいつらがオーガに成りすまして人を襲っていた。既に確認はとってある」

「それって、今回の事は仕組まれていたって事ですよね」

「ああ。早く止めた方が良いと思うがどうする?俺たちは部外者だから東雲に任せようと思ってきたわけだが、何か必要なら手伝うぞ」

「本当ですか!では止める事はできますか?」

「元々そのつもりだ。それは俺がなんとかするが、捕らえた二人をどう処理していいか分からなくてな。こっちで預かって貰えるか?」

「分かりました。騎士団長に話しておきます。何時頃の引き渡しになりますか?」

「今すぐにでも大丈夫だぞ」

「えー!本当ですか。では急いで騎士団長を呼んできます」

「じゃあこの部屋で引き渡す。こっちはすぐに連れてこられるから、そっちは騎士団長とやらを呼んできてくれ」

「はい」

王妃は急いで部屋から出て行った。

「騎士団長を探して呼んできてください。いなければ他の騎士団の方でも構いません」

さて、では俺たちも行きますか。

「じゃあ一旦戻るぞ」

「なんか慌ただしくなっちゃったわね」

「本題よりも別の話が長くなっちまったからな」

俺は瞬間移動魔法を使って、リンと共に移動用の家へと戻ってきた。

「あっ!おかえりなさい!」

「ただいま」

帰って来て真っ先にみゆきの笑顔を見られるとか、嬉しすぎて余韻に浸りたい所だがそうもいかなかった。

戻って来てすぐに感じた。

既に戦いは始まっているようだった。

「戦いが始まっているみたいだな。しかしどうやってこんなに早く」

「もしかしたら転移魔法か、転移装置がこの辺りにあるのかもしれません」

草子に言われて確かに思った。

この魔法はこの世界に存在する魔法で俺だけのものではなかったのだ。

限られた者にしか使えないのは事実だけどね。

「とにかく、俺はこの二人を連れて一旦バッテンダガヤに行ってくる!霧島と不動と一緒にみんなは先に向かっておいてくれ」

ゴーレムでも千里眼や邪眼が使えればもっと早くに気が付けたんだがな。

俺は言う事だけ言うと、二人を連れて再び東雲の王宮内、みそぎ王妃の部屋へと戻った。

まだ部屋には誰もいなかった。

俺は自分のコピーゴーレムを作ってそれに後を任せ直ぐに戻る事にした。

移動用の家に戻り家を回収。

此処までほんの十五秒の事だ。

既にみんなは先へ向かっている。

だが俺のスピードなら三秒もあれば追い付けた。

「流石速いのぉ」

「とりあえずゴーレム置いて帰ってきた」

「もうすぐ見えますよ。僕でも既に気配を感じます」

俺はほんの少し先に行って、両陣営の間に入って声を上げた。

「両者そこまでだ!」

声は別にそんなに大きくもないのだが、ちょっと魔力を乗せて威圧するように言った。

流石にこれだの魔力を感じさせられたら、普通の者は動きを止めるだろう。

しかし二人だけ尚も戦い続ける者があった。

霧島と不動がその間に入った。

「ちょっと待てっていってんだろ?」

「一旦剣を収めよ!」

両者一歩後ろへと引いた。

「どういう事だ?人間から仕掛けてきて人間が止めるか?」

「邪魔してほしくないな。我はオーガを倒すよう命じられている」

さてなんて説明しようか。

するとリンが一歩前に出た。

「私は此花家第三王女の麟堂です。東雲王妃の命により、この戦いを止めに来ました。この戦いは罠です。誰かに騙されそう仕向けられたものです。人間を襲っていたのは、オーガに扮した人間でした。その容疑者は既に捕らえられ、今は東雲が預かっています。もう一度言います。これは誰かによって仕向けられたものです。戦う必要はないのです」

リンが少しだけ王女に見えた。

しかし既に両陣営、人が多く死んでいた。

「既に沢山殺されてるんだけど?」

「それはこちらも同じだ!」

このままでは両者納得がいかない気持ちが見てとれた。

「分かった分かった待て待て待て。死んでるのは全部で三十人くらいか?怪我をしたものも含めるとざっと百人。死んでそう時間も経ってないな。みゆき!全員治せるか?」

「分からないけどやってみるよ!ふんがぁー!」

みゆきのちょっと可愛い気合の入れ方に、俺はかなり萌えた。

こりゃええもん見られましたなぁ。

とはいえいくらみゆきでも、クラーケンのベルトで力を制限された状態ではこの数は厳しいようだった。

少し時間が経って水の癒しでは蘇生できない者も多い。

治癒魔法だと少し魔力消費が激しい。

水の蘇生は水の精霊の力、或いはみゆきの場合はクラーケンの力を借りられるが、治癒魔法は全て自分の魔力でやるしかないからだ。

「俺も手伝うか」

面倒なので範囲蘇生で一気に蘇生した。

「みゆき!後は回復だ。頼むぞ」

「わかったよー」

俺たちのやり取りの中、オーガも騎士隊と冒険者も、みんな唖然とした顔で驚いているのが分かった。

「なんだそりゃ?人間にこんな事ができるのか?」

「君たちは一体‥‥神官クラス。いやそれ以上ではないか」

オーガの大将も騎士隊長らきし男も、これでとりあえず誤魔化されて引いてくれたらいいな。

「これでいいだろ?両者被害はでなかった。そして今回の件は誰かの陰謀で誰も悪くない。黒幕は東雲が調べてくれるだろう。皆これでお開きだ!」

「しかし俺たち冒険者はタダ働きだと納得いかねぇぞ!」

五月蠅いヤツだな。

「黒幕はおそらく相当の金持ちの可能性がある。財産を全て没収して冒険者にいくらか回すように言っといてやるよ。それで駄目なら俺は知らん。文句があるなら今回の事を決めたドサの領主にでも掛け合うんだな」

「ちっ!分かったよ‥‥」

「さあ騎士隊の皆さんも帰った帰った!」

騎士隊のメンバーと冒険者は、渋々町の方へと歩き始めた。

どこかにある転移装置か、或いは魔法で帰るんだろうけどね。

「待てよ!どう考えても今回の事は人間側が悪いだろ?確かに全て元通りではあるが、こんな事されて又同じ事が起こるんじゃないのか?」

「そうだな。おそらくこのような事が今後又起こる可能性はあるな。あんたの言う事も尤もではある。で、どうしろと?」

オーガ、なかなか良いね。

特にこいつは割と賢そうだしかなり強い。

だいたいこの子供の姿の俺を、見た目で判断しないヤツはだいたいやるヤツだ。

環奈には負けるだろうが、俺は結構気に入った。

「どうしてもらおうかな。人間世界では賠償金とか払うんだろ?俺に金なんて無意味だが‥‥えっと一億払え!」

金の価値は分かってなさそうだな。

とはいえ普通に一億は大金だ。

俺にとってははした金だし上げてもいいが、面白くないんだよね。

「お前いい加減にしろよ。俺は見逃してやると言ってるんだぜ?本気になればオーガの隠れ里なんて十秒で消し飛ばせる。見逃してやると言ってるんだから素直に受けたらどうだ?」

さてどうする?

「そんな事できるわけないだろ?十秒以内に俺がお前を倒すからな」

威勢のいいヤツ。

「だったらどうだ?俺とお前で戦って決着をつけるってのは?お前が勝てば一億でも十億でも払ってやる。でも俺が勝てばお前には俺たちと一緒に来てもらう」

「どういう事だ?まあいい。俺が人間に負けるとかあり得んからな」

「よし!じゃあ約束したぞ」

ふふふ、これで男除けの為に霧島や不動を召喚し続ける必要がなくなるな。

こいつかなり美形だが強面だし、身長も不動より高そうだ。

男除けには適役だろう。

「ええのぉ。わしもオーガと戦いたいのぉ」

「今回は諦めてくれ。環奈はドラゴン担当な」

「しかたないのぉ」

「てゆうか策也、あいつオーガよ?ツノあるし連れていけないんじゃない?」

「まあなんとかなるだろ?ツノがバレたらアクセサリーだって誤魔化せばいいさ」

「そんなんでなんとかなるのかなぁ」

「おい!何ゴチャゴチャ話してんだ?さっさとやるぜ」

「ああ。いつでもかかってきていいぞ?」

「じゃあこっちからいくぞ!」

さてどれくらいやるか。

環奈よりも強ければ面白いんだけどな。

魔力だけじゃ本当の強さってのは分からない事もある。

それに俺がいう魔力は、普通一度に使える魔力量ってだけで、戦闘では持久力なんかも勝敗を左右する。

魔力の絶対量は魔力とイコールの場合もあるけど、多くはリミッターがかかっていたりするのでイコールじゃない。

だから絶対量は感覚でなんとなくしか測れないし、俺みたいに回復力に優れている場合もある。

一概に魔力と強さはイコールとは言えないのだ。

俺に向かってそいつは真っすぐ突っ込んできた。

スピードは環奈よりも遅いか。

でも‥‥。

受けたパンチはかなり重い。

どちらかというと攻撃力か。

「今のパンチを受けてなんともないか。強いのは分かっていたが、思った以上だな」

「あんたは俺の想定の範囲内だよ」

「だったら全力で行かせてもらうぜ」

そいつは何処からともなく棒状の武器を取りだした。

「棒‥‥先に小さな刃物が付いているな」

一応槍といった所か。

「俺の連続突きを受けてみろ!」

「速い速い!」

なかなかいい突きだ。

しかしこの程度じゃ‥‥。

「なんだ?」

槍が伸びた?

後ろにかわしたら駄目なヤツか。

如意棒みたいだな。

でも俺にはこの程度じゃ通用しない。

俺は軽く槍を払って一気に距離を詰め、掌底(ショウテイ)を腹にぶち込んでやった。

「ぐはっ!」

俺の掌底を受けたそいつは、三十メートルほど飛ばされ木にぶつかって止まった。

「はいおしまいだ」

「ぐっ、まだだ‥‥」

「無理だよ。掌底と一緒に電撃も食らわせたからな。もう動けんだろ?」

俺は頭をチョップして地面を舐めさせた。

「俺はこんなにも弱かったのか‥‥」

「いや。お前はかなり強いよ。俺が出会った中では‥‥この子の次だな」

俺は環奈を指さした。

「褒められると照れるのぉ」

「何?俺がそんな女の子よりも弱いだと‥‥」

「まあこれからお前は俺の仲間になるんだから話しておくけど、こいつは黒死鳥なんだぜ?」

「可愛い女子(オナゴ)の正体は黒死鳥でしたー」

環奈はそう言って黒死鳥の姿になった。

つかでかいよ。

「ちょっと待て‥‥なんで黒死鳥が人間の姿になって人間と一緒にいるんだ?」

「別にいいだろ?魔物だろうとなんだろうと面白くていいヤツは俺の仲間にするんだよ」

「ははは‥‥そうか。ならば俺を仲間にしようってのもあって然るべき事ってわけか」

「今丁度お前みたいに筋肉な男を仲間にしようと探してたんだよ。助かったわ」

「分かったよ‥‥」

頭をかいて少し嬉しそうにしている気がした。

こうして俺たちに、新たな仲間が加わる事になった。


その後俺たちはオーガの隠れ里に案内された。

リンが『世界ルールに違反しているわよねコレ』とかいって不安がっていたが問題はないだろう。

ルール破りなんてバレなきゃいいわけだし。

問題はむしろこっちの方ではないだろうか。

里を出ていくという話でそいつは里長と揉めていた。

「『邪鬼』は次期里長だろうが!里を出ていけるわけないだろ!」

邪鬼というのは、俺が連れて行く予定のオーガの名前だ。

「しかし約束しちまったんだよ!それに俺もチョッピリ一緒に行きたい気持ちがあってだな。別に里長なんて他のヤツがやれよ!」

「何を言ってる!それに里を出ていく事ができるのは、里づくりの時だけと決まっている!出ていくならその覚悟をしろ!」

「そんなの知らねえよ!」

現里長と邪鬼の話に、俺は割って入った。

「ちょっと待って!その里づくりってなんなんだ?」

俺の勘が面白そうだと言っている。

大いに気になった。

「里づくりは子作りだ。子供をいっぱい作って新たな里を作ることだ!」

「里長は黙ってろ!まあ簡単に説明するとだな。別の所に新たにオーガの里を作る為に男女がペアになって里を出ていくって話だ」

新たな世界のアダムとイヴになるとか、そんな感じかな?

中々面白そうじゃん。

「じゃあそれでいいんじゃないのか?別に女一人くらい仲間が増えても俺は構わんぞ?」

「いや待て。俺たちオーガが外に出ていくって事がどういう事か分かるか?里を作るにも人間と上手く話をつけなきゃならないのに、たった二人で里を出て何ができると思う?死にに行くようなもんなんだぞ?俺はともかくついてこようなんて女がいるわけないだろ」

「ついてくる女がいればそれでいいんだな?」

「まあ‥‥いればの話だけどな」

今ここには、里のほとんどのオーガが集まっていた。

ざっと見た所、ほとんどの女は里を出る覚悟など持てないように見える。

この邪鬼は割と女にはモテるようで、皆好意は持っているようだが、それでも外に出るのは嫌という事だ。

それだけ人間たちの住む世界というのはオーガにとっては恐ろしい場所なのだろう。

でも俺の見た所、一人だけは違って見えた。

身長百五十センチそこそこで、オーガにしてはかなり小柄な女だが、おそらくこの里にいる誰よりも魔力が強い。

多分この邪鬼と戦っても勝てるんじゃないかと思うくらいだ。

しかしあまり前に出るような性格でもなさそうだし、おそらくこいつの事を理解しているヤツはいない気がする。

もしかしたら、こいつならついてくるかもしれない。

「じゃあそこの子!一番背の低い君だ!どうだ?この邪鬼と一緒に里を出る気はないか?」

「げっ?なんで『羅夢(ラム)』なんて誘ってんだよ!」

羅夢っていうのか。

鬼っ子で『ラム』とか益々気に入った。

「どうだ?外の世界が恐ろしいとか思っているなら大丈夫だぞ。それにあんたは強いだろうし、十分やっていけるさ」

「羅夢が強いだと?その子はおとなしい戦いに縁のない子だ。どう考えても無理だ!」

里長はそう言うが、もしかしてこの子の事分かってないのかね。

「いや行けるだろ?どうだ?本人の気持ちを尊重しようぜ」

「あ、の‥‥私‥‥邪鬼くんに‥‥ついて行きたい‥‥」

見た目の可愛さと違って、キャラ的には割と陰キャなのね。

「いやまあ‥‥羅夢の強さは俺が一番よく知っているっていうか、俺しか知らないかもだけど、それは認める。だけど危険なんだぞ?人間に石を投げられるかもしれないんだぞ?」

いやいやいや。

ちょっと邪鬼も動揺して混乱しているな。

この二人実は仲が良さそうだし、一番良い組み合わせである事は誰の目にもあきらかじゃねぇか。

「うん‥‥大丈夫‥‥石投げられたら‥‥邪鬼くん助けて‥‥くれるん‥‥でしょ?」

「おっ、おう!そりゃまあ当然だけどな」

キモ!

こんな大男が照れて頬を指でカリカリしてやんの。

いや、もうこの羅夢ちゃんを連れていくしかないな。

「じゃあ決まりだな。邪鬼と羅夢ちゃんはこれから新たな里を作る旅に出発だ!」

「なかなか面白そうな仲間がふえたのぉ」

「本当にオーガを仲間にしちゃうのね」

「既に黒死鳥も仲間にしてるわけで、驚く事はないよ」

「新しいお兄さんとお姉さんだぁ。みゆきは嬉しいよ!」

皆嬉しそうだし、良かった良かった。

こうして俺たちの冒険の旅に新たな仲間が加わったのだった。

2024年10月1日 一部言葉のおかしな所を修正

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