表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
有栖川編
159/184

有栖川旧神クトゥルフを倒せ!

戦争を始める時、戦争目的と終わらせ方はしっかりと考えておく必要がある。

何の為に戦争をするのか。

どうなったら納得するのか。

そして勝つにしても負けるにしても、最後はお互いのトップが納得しないと終わらない。

だから普通は相手のトップを殺すなんて事は考えない訳だ。

しかしいくつか例外もある。

国を奪うのが目的の場合。

敵の全滅が目的の場合。

痛い目にあわせるのが目的の場合。

敵の頭を奪うのが目的の場合。

今回の戦争口実は、立ち入り禁止区域の町を襲われた報復となるのだろう。

だから有栖川としては損害を補償してもらえればいいはずなのだ。

でも最初から話し合いをする気がない宣戦布告だった訳で、口実とは別に目的があると考えられる。

この戦争はおそらくもう、行くところまで行くしかないと俺は腹をくくっていた。

旧神を倒さないと終わらない、そう確信していた。


敵は主に邪神軍団と言った所か。

名も無き邪神が大量に襲い掛かってくる。

それを俺のレッサードラゴンやドラゴンゾンビの軍団が迎え撃つ。

力では負けているので、俺はとにかく数で勝負だ。

そんな相手の中で強いのと言えば、『ダゴン』『アザトース』『シュドメル』『ヨグソトース』『シュブニグラス』の邪神たち。

見た目は触手と目が沢山あるバケモンを想像すればだいたいあってる。

詳しくは自分でネット検索してくれ。

更に人間の姿をしたタナトスも戦場に来ていた。

こいつがいる限り、死んだらすぐにあの世行きだ。

ちなみにこいつは今までマスクで顔が見えなかったが、今回はマスクをしていない。

青い髪に割とイケメンな王子のようだった。

「賢神!ヨグソトースを抑えるぞ!妖凛も力を貸してくれ!」

「カー!強そうだの!たぎる!たぎるぞ!」

(コクコク)

こいつは三人でも抑えられるかどうか分からないくらいに強い。

タナトスを邪無(ジャム)が抑えていてくれているのは助かるな。

誰かが殺られた時にも魂を回収する時間くらいは作ってくれるだろう。

他は円光たちでなんとかなる。

俺はこいつを倒すのに集中だ。

しかし三対一でも全く勝てる気がしない。

我が陣営の五本の指に入る者が三人掛かりでも倒せないって、マジでチート邪神め。

いや、その上にはみゆきもいるし、力の近い者は他にもいるから全員でかかれば勝てる可能性はあるが‥‥。

「ははは!強いぞお前!破壊抹殺(デビルランス)!更にゲイザービーム!」

賢神はギリギリの戦いでも楽しそうだな。

精神力が強すぎるよ。

俺なんて不安だらけでビクビクしてるわ。

「(えびだもん‥‥)」

おっ!妖凛がヨグソトースの動きを止めた?

ならば今のうちに‥‥。

「アザブジュバン!グハッ!」

デカい魔法はまだ反動がヤバいな。

つかこの魔法でもヨグちゃんは仕留められないのかよ。

「妖凛!無理するな!」

トップレベルの邪神の動きを止めるなんて長くは続かないよな。

ヨグソトースの触手攻撃が妖凛を襲う!

動きを止めていたのでモロに攻撃を食らった。

「妖凛!」

(プルプルー!)

どうやら無事だな。

なんてったってアメーバ状になれるから、物理攻撃では妖凛は倒せないのだ。

しかしこいつの相手はかなり消耗する。

時を操ってくるからそれを阻止するのが大変だ。

ファフニールの『ドラゴンの英知』が無ければ戦いようが無かったぞ。

それによって時間操作能力をなんとかレジストできているが、それが無ければただ攻撃を受け続けるだけだったかもしれない。

それにしてもまだ戦い辛いな。

やはり俺の魔力は、完璧に戻っているとは言えない。

更に上にいかないと勝つ事は不可能だろう。

此処にクトゥルフが来ていないのが唯一の救いか。

なんて思っていたら、来るんだよな。

圧倒的存在感と、どうにもならないと思えるような魔力差を感じる。

それでも暗黒神や禍津日神ほどではない。

邪神の王と言っても、暗黒界じゃモブなのだ。

とは言え今戦ったら絶対に負けるな。

「みんな!一旦引くぞ!この戦場は放棄して後方に下がる!」

召喚した軍勢には最後まで足止めを頼むよ、悪いけどさ。

俺の声に、味方は一斉に引き始めた。

当然今有利なのは敵側だから追いかけて来る訳だが、こんな時に役立つ能力を俺は得ていた。

血の池地獄風呂で得た禍津日神の能力は厄除けだけじゃないんだよ。

後方手(シリエデ)!」

この能力は、後ろ手に手を振る動作で相手を呪うものだ。

これをやられると手を振った相手を追いたくなる。

「更に、逆手!」

逆手は手の甲で拍手する動作によって相手を呪うものだ。

これによって気持ち通りの動作ができなくなる。

つまりこの二つの能力を合わせる事で、敵がしばらく追ってこられなくなるわけだ。

これらの能力は効果が大したものではなく限定的なので、格上相手でもほぼ確実に効果を発揮できた。

こうして俺たちは一旦戦場を離れた。


正直今のままではクトゥルフどころかヨグソトースすら倒す事はできない。

もう戦力を分散したり、手札を温存している場合じゃなかった。

ちょっと人道上反する事かもしれないけれど、俺は九貴族のおっさんたちを集めた。

蘇生したり牢屋に入れておいた奴らね。

そしてそいつらを妖凛に食べさせて能力を吸収させる。

更に魂を円光に食べてもらってこちらも吸収だ。

多くの人を殺し死刑確定な奴らだった訳だから、これから円光の中で生きられる分マシな処分だろう。

これで九貴族の能力を得た妖凛と円光が爆誕した。

更に俺は劉邦の魂をスマホに憑依させて話をした。

「劉邦。今俺は有栖川旧神との戦いでかなり押されている。倒す為にはお前の力が必要なんだ。力を貸してはくれないだろうか?」

俺が軍勢を召喚し数の差を埋め、更にヨグソトースの時間操作をレジストし、その上でクトゥルフとヨグソトースを倒すのは完全に無理ゲーだった。

劉邦にはヨグソトースの時間操作だけでも止めてもらえればと考えた。

「私の力ですか。まさか此花の皇帝にそんな事を頼まれるとは思ってもみませんでしたよ」

「俺もこんな事を頼む事になるとは思っていなかった。自由になりたかったんだろ?お前の力を借りる事でクトゥルフとヨグソトースを無事倒す事が出来たら、自由にしていいよ。ただし再び悪い事をしたら当然とっ捕まえて今度は死刑にするかもしれないけどな」

手下にするならゴーレム蘇生も考えたが、元は人間ってのはやはり人間として蘇生してやりたくなる。

その辺りやはり俺は人間なんだと思った。

「自由にねぇ‥‥断ったら?」

「残念だけどお前の魂を仲間に食わせて、力だけ使わせてもらう事になるな」

それにモブキャラは即死刑でも、やはり元国王にはそれなりの敬意は必要だよね。

「‥‥私も邪神に世界を奪われるのは気に食わない。それで何をすればいいのです?」

「手伝ってくれるか!?やってほしいのは、ドラゴンの英知でヨグソトースの時間操作を止める事だ」

「時間操作とは厄介な相手ですね。でもそれだけ複雑な力なら、止めるのは難しくても魔力はそう必要ではありません」

魔法を止めたりレジストしたりする場合、概ね魔力の力技によって行う事が可能だ。

でも当然それができない場合もある。

そんな時は魔法を解析し無効化する事になる。

その場合、単純な魔法ほど止めるのが難しい。

何故なら、相手が魔法を構築し直せば済む話だからだ。

数字を一にする人とゼロにする人が同時に数字の変更合戦を始めれば、単純に早い方が勝つだろう。

つまりそれは魔力の大きさだ。

でも数字を一から順番に十まで数え変更する人とゼロにするだけの人が戦えば、普通はゼロにするだけの人が勝てるはずなのだ。

十にする人が十倍早く数字を変えられたら別だけどね。

時間操作の魔法は超絶高等な魔法であり、そう簡単に構築できるものではない。

ヨグソトースの場合それは正確には能力であるが、どちらにしても複雑で簡単に構築できるものではないのだ。

だから無効化できる者ならば、少ない魔力でも簡単に止める事ができる訳である。

ちなみに『ドラゴンの英知』という能力は、複雑な魔法を中心に無効化するものだ。

絶対魔法防御に近い感じの能力だね。

特定の魔法だけを無効化し、広範囲に及ぶのが『ドラゴンの英知』と理解しておいてもらえれば分かりやすいかな。

「だから劉邦、お前でも止められるだろ?その間になんとか俺たちで奴らを倒す」

正直こいつを何処まで信じていいかは分からない。

ただ、クトゥルフの下で満足できるような奴でもないはずだ。

なんせ何百年もの間、完全体になって世界のトップに君臨する為に生きてきた奴だからな。

「分かりましたよ。やらせてもらいます」

「そっか。ありがとう」

嘘や邪な気持ちは感じなかった。

この仕事をやり遂げ自由になって、もう一度のし上がって行こうって感じの気概は感じられたけどな。

でもそれくらいの気持ちを持っている奴なんて当たり前にいるだろう。

「じゃあ一応俺たちの仲間としてしばらくは行動する事になるから、案内役を一人付けるよ」

当然分かっていると思うけれど監視役だ。

「了解しました」

えっと‥‥隆史辺りが適役かな。

俺はリンに許可を得てから、隆史の所へ劉邦を送った。

さて、そろそろ第二の戦場に戻るか。

今度は出し惜しみせず、集められる戦力は全て投入する。

そして必ず仕留めるのだ。

俺は再び最前線へと赴いた。


前回の戦場からやや引いた場所に、俺は新たな戦場を設定し待ち構えていた。

他の場所には監視役を置くだけで、残る戦力は全て此処へ投入する。

リンも、金魚も、洋裁も、七魅も、そして劉邦も来ていた。

「作戦はさっき言った通りだ。劉邦、頼んだぞ」

「はいはい。やらなきゃこちらが殺られそうだし、ちゃんとやりますよ」

ちょっと不安だけれど、劉邦が協力してくれ無ければクトゥルフは倒せない。

ならば協力してくれると信じるしかないのだ。

本当は信じるなんて所に逃げたくはないのだけどな。

でもちょっと相手が強すぎるんだよ。

そうこうしている間に、クトゥルフたちが大地の向こうに姿を現した。

「まずは円光、レッサードラゴンの軍勢だ!」

「了解したでござる!」

「髑髏も続け!アンデットの軍勢の召喚だ!雲長は絶対魔法防御を頼んだぞ!」

「ミケコ様、お任せざます!」

「この雲長!精一杯やらせてもらいます!」

雑魚邪神の相手はこれで大丈夫だろう。

「汽車は最後の時まで此処で力を温存しておいてくれ。そしてタイミングを逃すなよ」

「兄さん、僕は責任重大だね。でも頑張るよ」

「まあ気楽にな。失敗してもきっとみんなが助けてくれる」

「そうだね。了解した」

汽車は俺が転生してきた時のように、一般的に習得可能な魔法はほぼすべて使う事ができる。

つまり俺の代わりだって可能な所も多いのだ。

その一つを完全に任せる事にした。

クトゥルフを倒すには、それくらいみんなの力が必要なのだ。

それでも足りないと感じるくらいに。

「クトゥルフとヨグソトースは、俺と賢神・金魚・夕凪・駈斗・うららで抑える!その間にまずはタナトスを猫蓮と葉絵で倒してくれ」

「クトゥルフとヨグソトース以外なら楽勝なんだお」

「私一人でも楽勝なのに」

「おそらく邪魔が入るだろうからな。それにとにかく早く倒してもらいたい」

「はいはい」

葉絵はおそらく魔物悪魔の魂持ちの中では一番強い。

少し扱いづらい所はあるけれどきっと仕事はしてくれるだろう。

「リンと七魅はその他全般広い視野でみんなを助けてやってくれ」

「私は指揮に専念するわ」

「わ、分かったのだ。あたしが助けるのだ」

クトゥルフとヨグソトース以外なら大丈夫だろう。

後は引くタイミングだけリンがしっかりと指揮してくれればいいだけだ。

「ミケコと山女ちゃんは、みんなの魂を頼んだぞ」

「お任せください。誰一人失いたくありませんから」

「はい。きっと上手く行きますよ」

洋裁は俺の腰にナイフとして装備されていた。

今回の戦闘では、これが切り札となる。

「ではいくぞ!」

此花対有栖川の戦いは、第二ラウンドへと入っていった。

まずはとにかくクトゥルフとヨグソトースを止めなければならない。

「妖凛の力は温存するから、危ない時は妃乃で頼むぞ」

「わ、分かっているのさ。まだ死にたくないのさ」

「此花策也!先ほどは逃げられたが、今回は仕留めさせてもらうぞ!」

クトゥルフが人間の姿となって真っすぐこちらに向かってきた。

旧神は俺狙いか。

でも、ならば俺は上手く逃げればオッケーだ。

今は時間を稼ぐ時。

俺は逃げ回った。

「逃げるのか!?」

「ベロベロベー!」

軽く挑発もしておく。

怒りに我を忘れちゃダメだぞー!

俺を追う旧神に対して、賢神が攻撃する。

「はははは!旧神よ!敵は策也だけではないぞ!」

「引っ込んでいろ雑魚!お前など敵ではない!」

「冷たい事いうものでないぞ!少しは相手してほしいぞ!」

「ええい!鬱陶しい!」

「金魚もいるんだよ!霊獣召喚なんだよ!」

今この戦場に魂を引きはがす事ができるような奴はいないだろう。

ならば金魚の幽霊化能力は活きる。

そして先日兎束家の者と再開した時に、『兎束家の秘宝』と呼ばれる物を貰って来ていた。

兎束家の次を担うのは金魚だと皆が認めたらしいのだ。

いやいや兎束家、それはどうかと思うぞ。

でもそのおかげで、金魚は更にパワーアップできてしまった。

「更にワイバーン召喚なんだよ!」

兎束家の秘宝とは、右手に付けるメリケンサックだった。

その効果は二つ。

ワイバーンの召喚と、悪を撃つ力だ。

悪を撃つ力というのは、このメリケンサックによってダメージを与えるものを限定する事で、どんな状態でもダメージを与えられるようになる。

つまり幽霊状態でも右の拳で攻撃が可能。

ただしこのメリケンサックは、善の者にしか装備ができない。

なんでも兎束家全員装備ができなかったそうな。

秘宝の意味ないじゃん!ってね。

それもあって兎束家の者は、有栖川に仕えている事を疑問に思ったとか。

「鬱陶しい!鬱陶しい!こうなったら全員フッ飛ばしてやろうか!」

「それは勘弁!」

旧神が魔力を高め始めると、俺は素早く結界で包んだ。

「魔力ドレインの結界!」

まあこんなもので覆った所で、直ぐに逃げられてしまうんだけどさ。

でも強力な魔法を止める事はできる。

ヨグソトースの方は、夕凪、駈斗、うららがオリハルコン状態を利用して無敵ぶりを発揮していた。

勝てないまでも負けないって素晴らしい。

でも油断したら駄目だぞ。

死ななくても宇宙の果てに飛ばされる可能性があるからな。

「タナトスを殺ったんだお!」

「やはり楽勝だったわね」

「おお!猫蓮、葉絵、よくやった!残りもドンドン狩ってくれ!」

「人々の幸せの為にやるんだお」

「後は本当の雑魚ばかりね。こっちも楽勝」

よしよし、これで嫌な奴はいなくなった。

「タナトスごときを倒して何を喜んでいる!蘇生できる者がいなくなれば同じ事だろう!」

「そんな魔法は使わせないよ!」

と言ってもこいつの能力による攻撃だけでもかなりヤバいんだよな。

既にこの辺りは焼け野原だわ。

クレーターもいくつもできてるし、こちらにまだ死者がでていないのが不思議だよ。

軍勢召喚された奴らは死にまくってるけどさ。

みんな助け合って上手く戦っている。

息がピッタリなんだ。

まあほとんどの人形は俺の意識が大きく影響しているから、以心伝心も訳無いってね。

やはり敵はクトゥルフとヨグソトースだな。

そう思った時、一瞬凄く嫌な空気を感じた。

これは、ヨグソトース?

「シュブニグラスも倒したんだお!それがし強すぎなんだお!」

猫蓮がシュブニグラスを倒した?

あれ?もしかしてシュブニグラスってヨグソトースの嫁さんだったよな。

これはヨグちゃんキレちゃったか?

ヤバいぞこれ。

ヨグソトースが嫌な魔力を高め始めた。

魔力じゃない。

体内の生命エネルギーを大宇宙の力で満たすようなそんな感じだ。

ヤバいヤバいヤバい。

これが何かしらの攻撃に使われたら、半径千キロくらいが吹っ飛ぶ。

俺は手を離せない。

クトゥルフに隙を与えても結果は同じだからだ。

ならばもうこれしかないか。

「迷神!」

「私の出番ですね‥‥ワープゲート!」

こういうどうにもならない無差別攻撃の際、迷神には下方への攻撃を上に変えるよう言い渡しておいた。

これで下方への攻撃はなんとか防げるが、上空で戦っている者には死者も出るだろう。

それに横への攻撃が広がって行けば、当然地上にも大きなダメージがくる。

止められなかったか。

戦争だから仕方がない。

全てを守る事なんてできないのだ。

でもこんな所で仲間を大勢失ってしまうのか。

俺は破れかぶれで『最高の選択』の能力を発動した。

すると一筋の光が見えた。

霍砺(カクレ)!頼む!」

そしてみんな、霍砺に力を!

「えへ、えへ。霍砺ちゃんの出番ですかぁ~?忍法!魔力縫いの術!えへ、えへ!」

霍砺は迷神の展開したワープゲートを引き延ばし、それでヨグソトースを包むように一瞬でつなぎ合わせた。

次の瞬間超爆音が辺りに響き渡り、空へ向かって一筋の光が伸びた。

「ふぅ~‥‥助かったぞ霍砺!」

「えへへ~えへえへ!余裕っすよぉ~ぐふふ~」

それにしてもこいつに救われるとは思ってもみなかったな。

風魔忍者、実はできる子だったよ。

そして持ってて良かった最高の選択と魔力縫いの術。

数多くの思考と思考速度三倍も持ってて助かったな。

しかし無駄に魔力を使ってしまった。

こりゃ長く戦うのも無理そうだな。

そろそろやるしかない。

俺はテレパシーを使って皆に合図を送った。

俺は洋裁ナイフを抜いた。

「妖凛、行くぞ!」

(コクコク)

俺はタイミングを見計らって洋裁ナイフを投げた。

リンも上手く合わせて味方を引かせる。

「何のつもりだ?こんなナイフを投げて何をしようってんだ?」

油断するクトゥルフへ、オリハルコンへと変化した洋裁が覆いかぶさる。

賢神もそれに続いた。

「はははは!旧神、後ろががら空きだぞ!」

夕凪、駈斗、うららも同じようにヨグソトースを覆った。

それらを覆うように更に汽車が結界を展開して、それを皆が補助し結界の力を高めた。

「絶対領域!です!」

「ええい!鬱陶しい!全員消し炭にしてくれる!」

旧神もヨグソトースも魔力を高めた。

おそらく結界くらいぶち抜いて辺り一帯攻撃できるものだと思っているんだろうな。

でもみんなの力で作り上げた結界だ。

そう簡単には壊せないぞ。

それにコツコツ魔力をためた宝石も汽車に渡してあるからな。

そしてお前たちの力も利用させてもらう。

タイミングを待つ俺と妖凛を、他の邪神が襲おうと迫ってくるが、リンと七魅が蹴散らしてくれていた。

さあこい旧神。

お前たちと俺たち全員の勝負だ。

旧神とヨグソトースが、タイミングを合わせて力を爆発させる。

そのタイミングに合わせて、俺と妖凛はスイッチを入れた。

洋裁には設置型爆破魔法を大量に積んでおいた。

この結界内で爆発すれば、相当なダメージが奴らを襲うだろう。

そこに自らの魔法も加わり、そして更に‥‥。

「強い奴は嫌いなんだよ!リア充爆発しろ!グハッ!」

まだまだ弱い俺が格上に与える最強魔法。

どうだ?これなら流石に耐えられないだろう?

結界内が光に包まれた。

思った以上のエネルギーが結界内を縦横無尽に飛び回る。

こりゃ結界維持も大変だ。

あの時を思い出すな。

空中都市から放った魔法をみんなで必死に止めたんだよ。

その時の何十倍、何百倍の爆発があの時よりも小さな結界内に封じられている。

多くの仲間が汽車の結界を支えるのを手伝う中、一部の者だけがまだ残る邪神と戦って倒していた。

雑魚邪神以外に残るのは、旧神とヨグソトースのみ。

「支えるわよ!みんな気合を入れて!」

「そうなのだ!これで決めるのだ!」

リンと七魅が皆の協力を支持していた。

「兄上様、とりあえず全ての魂は集めておきました」

「ありがとう。アレ?山女ちゃんは?」

「先ほどまでは一緒にいたのですが‥‥」

丁度結界の反対側にいるな。

山女ちゃんは真面目だから、旧神と世愚の魂も確保しようと待ち構えているようだ。

しかし、そろそろ結界も限界に来ている。

このままだと結界が持ちそうにないな。

どうする?俺も加勢するか。

いやもしもこれで仕留められなかったら、俺がなんとかしなければならない。

見極めないと。

「わたくしもそろそろ加勢しますね」

「頼むミケコ」

余裕がなくなってきているな。

もう倒せていると願いたいが、まだ生きてるんだよ。

早くくたばってくれないかな。

俺の願いむなしく、結界の維持は限界を迎えた。

汽車は結界の上方向に穴を開けて、そこから全てを吐き出すようにしてから結界を解いた。

「クッソ!これでも旧神は倒せないのか!」

爆発の中から旧神とヨグソトースの姿が露わになった。

いや、かなり効いてはいる。

今なら‥‥。

俺がそう思った時、山女ちゃんが敵の背後からそれぞれに軽く触れて言った。

「友愛」

山女ちゃんにも教えておいたんだよね。

ならば俺は少しでも敵を止める!

「動くな!」

精一杯の王の命令だ。

更に妖凛が動いた。

「(えびだもん!)」

俺もそれに合わせてヨグソトースをエア神通力で動きにくくしておいた。

空からレーザービームが二本降ってきた。

それぞれが標的を貫いた。

「やったか?」

いや駄目なのか?

生命反応はまだなくなっていない。

「なかなかやってくれる。まさか此処までやられるとはな。でも次は無いぞ。今日の所は引いてやる。次がお前たちの最後だ‥‥」

旧神はそう言って、ヨグソトースだけを連れて一瞬のうちに引いていった。

ほとんどが魔力を使い果たし、疲れ果てた様子で腰を地面に落とした。

「倒せなかったのか‥‥」

「総がかりでやっても駄目なのですね、兄上様」

「いや、でも今日は俺たちの勝ちだろう。タナトスをはじめ、主力級の邪神は全部倒した。残る敵はあの二人だけになったんだ」

そうだよ。

今日よりも次の方が戦いやすくなるのだ。

負けてはいない。

ただ、魔力をためていた宝石をほとんど使い尽くしてしまったんだよな。

次回までにその分俺が強くなっていないと駄目って事か。

「惜しかったですね。友愛でも倒せませんでした」

「山女ちゃん、ナイスだったよ。アレが無かったらまだ奴らは向かってきたかもしれない。山女ちゃんが皆を救ったんだ。ありがとう」

「いえ、友愛を教えてくださっていたからできたんですよ」

「いややっぱりありがとうだよ」

俺はそう言って山女ちゃんの頭を撫でた。

そこになんとか復活を遂げた、死ぬの担当の洋裁たちが戻ってきた。

「いやぶっちゃけ‥‥今回は流石に死んだと思ったっすよ」

「はははは!私は爆発に芸術を感じたぞ!」

「オリハルコンは気化しても変わらないからな。魂を引きはがされたり宇宙に飛ばされたりしない限りは死にはしないよ」

つか『芸術は爆発だ!』って聞いた事はあるけれど、『爆発が芸術』ってのは新しいな。

芸術的威力ではあったけどさ。

「洋裁さんはいい死にっぷりだったんだよ。金魚は惚れ直したんだよ」

「あ、ありがとう‥‥」

洋裁は微妙な顔で喜んでいるようだった。

いい死にっぷりとか言われても、どう喜んでいいか難しいよな。

でも金魚は素直にそう思っているから洋裁も喜べる訳で。

「体がバラバラになる感じ‥‥なかなか良かった‥‥妄想ネタに追加」

「私はもう正直味わいたくない感覚です」

「うららは結構癖になっちゃうかもです!」

三人のオリハルコン戦士たちの感想を聞くに、案外こういう度胸は女性の方があるのかもしれない。

旧神たちを仕留めきれなかった残念な戦いではあったが、戦いの後も仲間に悲壮感はなかった。

そりゃそうか。

みんな生きているんだからな。

まあきっとなんとかなるだろう。

劉邦もなんだかんだ輪の中で笑顔でいた。

今日が駄目でも明日があるさ。

俺たちはしばらくの間、戦いの終わった戦場でお互いをねぎらうのだった。

2024年10月12日 言葉を一部修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ