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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
有栖川編
156/184

兎束の亡命と血の池地獄?

みんな、信じる人や信じたい人ってのがいるかもしれない。

しかし家族や友人ではないのなら、他人は他人だし『人を信じて任せる』のではなく『自分で責任を持って行動したい』ものだ。

有栖川王族を信じてついて行った兎束一族も、理想とのギャップに苦しんだ。

それでも有栖川を信じたから、まともな判断ができずに此処まで来ていた。

でもある時、兎束豊来は『梨衣が幸せであればどうでもいいじゃないか』と開き直った。

どうでもいいと考えれば、色々なものが俯瞰(フカン)して見られるようになる。

ポジショントークもアクロバティック擁護も必要ない。

有栖川目線で考える必要も無いし、有栖川を無理に庇う事も無くなる。

全ては梨衣を想ったが故に、兎束豊来は冷静な判断ができるようになった。


この日の朝、四阿会議の後に信じられない報告が入ってきた。

報告は神武国を任せている海神からだった。

『主、有栖川に仕える兎束一族が、亡命を希望してやってきました。梨衣も一緒に来ています』

こりゃまた全く予想もできなかった展開だな。

豊来が梨衣を助ける為に動くだろうとは思っていた。

でもまさか梨衣が豊来たちを神武国へ連れて来るとか。

冷静に考えれば導き出せた可能性ではある。

今の有栖川はもう有栖川じゃない。

有栖川の人間もいるだろうが、トップはクトゥルフなんだ。

それでもまともな統治をするなら問題はなかったかもしれない。

でも全然まともじゃないんだよな。

『分かった。今から行くよ』

俺はすぐに神武国へと飛んだ。

神武国には別に謁見の間のような所は用意していない。

というかこの世界では既に城は廃れ、概ね屋敷で生活する王族がほとんどだ。

そんな訳で俺は兎束一族が待つ応接室へと向かった。

ドアを開けて中へ入ると、兎束一族約二十名が集まっていた。

並べられていたソファーに座っていたが、皆一斉に立ち上がってこちらに礼をしてきた。

「あ、いや、そんなに硬くならなくていいよ」

「お初にお目にかかります。わし‥‥私は兎束豊来と申します。今日は話を聞いて‥‥いただけるという事で‥‥ありがとうございます」

いやぁ~こんな豊来見た事ねぇよ。

嫌な豊来なら、俺は資幣で何度か会っているんだよな。

「いやいや、そんなにかしこまらなくていいよ。資幣と話していた時のように普通にさ」

「資幣?あああの資幣‥‥ですか」

「そうそう。アレは俺の分身だからさ。以前に何度か話してるんだよ」

「げっ!いや。もしかしたらかなり偉そうに、していたかもしれない‥‥申し訳ない」

「別にいいよ。立場ってのもあるしな。ただ一応これは秘密の話だから、あまり話さないでくれよ」

こうやって秘密の一つでも話しておけば、距離も詰められるかな。

秘密の共有は恋愛でも良く使われる手だ。

クロージング効果なんて言われている。

恋愛じゃない場合は、これで仲間意識を持たせる事が出来る訳だ。

「わ、分かりました」

「それで亡命だったか?」

「はい。わし‥‥私たち兎束一族は、今の有栖川にはもうついてはいけない。いや、クトゥルフである有栖川旧神以前から、既に疑問は感じていたんだ‥‥」

その辺りは梨衣の記憶を覗いたので間違いない。

嘘も言っていない。

ただ、一族となると話は別だ。

迅雷にもあまりいい印象は無いし、もしかしたら有栖川のスパイとしてついてきている可能性もある。

一人一人話して行かないとな。

そんな訳で俺は、赤ん坊を除く十九名全てと話をしていった。

それとなくスパイじゃないか確認するような話も聞いてみたが、全員本気で亡命を望んでいるようだった。

「兎束家の意向は理解した。本気で亡命を望んでいるのも分かった。しかし俺はみんなの事をよくは知らない。気が変わる可能性も無いとは言えないだろう。だからしばらくは監視下には置かせてもらう」

「それはやむを得ないだろう」

「ただしどうしてもそれが嫌だというのなら、此花のルール厳守だが好きにしてもいい。その場合刺客が来ても守ってやる事はできないけどな」

「いや、此花帝王に従うよ。なるべく迷惑にならないようにこちらも自重するつもりだ」

人間いい所もあれば悪い所もある。

豊来にしても迅雷にしても偉そうな貴族を絵にかいたような奴だけれど、愛する人を想う心はあるし民の為の政治を考えているのも分かる。

できるだけの事はしてやるか。

梨衣に関しては許せないと思う面もあるけれど、憎しみも今ではもう消えつつあるから。

「それじゃお前たちはショーシィの町の奥にある屋敷で生活してもらう。領主は元東雲の国王だ。この町にいればとりあえず安全だろう」

東雲の能力でこの町に目が行く可能性は低いからな。

「分かりました」

「それと豊来や迅雷の姪と聞いているんだが、兎束小麟な。結婚して幸せに暮らしているから安心してくれ」

「なんと!小麟が‥‥それは良かった」

本当に良かったと思っているみたいだな。

これなら金魚に会いに来させてもいいかもしれない。

こうして俺は、有栖川を捨てて逃げて来た兎束家をかくまう事となった。

金魚へは七魅にこの事を伝えるようテレパシー通信で話しておいた。


その後は再び暗黒界へ行って修行の続きだ。

と言っても戦闘もせずただ先へと飛び続けるだけなんだけどさ。

何処まで行っても夕暮の世界は続き、この日も八時間飛び続けるだけに終わった。

更に次の日も、その次の日も暗黒界に行って飛び続けた。

正直怠いし眠いしとりあえずもう止めたい。

それでも少女隊たちと話をしながら、なんとか俺は止めなかった。

『おい菜乃、妃子!面白い話をしてくれよ』

『前にもこんなことがあったのです』

『その時は策也タマがつまらない話をしたのね』

『いやちゃんと尾も白い話をしたよな』

『可哀想な話だったのです』

『今でも思い出すと泣けて来るのね』

ネタ話で泣くとかどんな神経しているだよ。

『だったらお前たちならどんな面白い話をしてくれるんだ?』

俺がそう言うと、妃子は少し考えてからテレパシー通信のまま伝えてきた。

『ひとつ思い出したのね』

『それじゃあ妃子が話すのです』

『分かったのね』

本当に面白い話をしてくれるのかな。

不安だが一応聞いてみるか。

『それじゃ話すのね』

『待ってましたのです!』

『ヒューヒュー‥‥』

なんだか既に不安しかない。

話を聞いたら飛んでいるのが嫌になるかもしれない危険を感じるぞ。

『これは私が子供だった頃の話なのね』

こいつが子供だった頃?

想像はつかないが、まあ今も子供みたいなものだし今の話だとして理解してみよう。

『散歩をしていたら突然ウンコがしたくなったのね』

おいおいまたウンコネタかよ。

子供にはウケるが大人には通用しないぞ。

『下品なのです』

『下品だろうとなんだろうとみんなする事なのね。黙って聞くのね』

『分かったのです』

菜乃はウンコネタには敏感になってるからな。

ミノのウンコを口に入れた事があるアウトローとイジメられても不思議じゃないし。

『私は我慢ができなくなったので、椿の咲く庭で野グソをしたのね』

おいおいいきなり野グソかよ。

少し興奮するシーンが思い浮かばれるな。

つか庭ならギリギリ野グソとは言わないかもしれない。

敷地内だからな。

野グソの定義を調べてみると‥‥。

何々?

『野原などで糞をする事。野外で脱糞する事』

少しイメージの誤差はあるが、野グソと言って間違いはなさそうだ。

『でも紙がなかったので、そこにいたカマキリの翅をむしり取ってそれで拭いたのね』

なんか凄く嫌なシーンを想像してしまったぞ。

駄目だ!

女の子がそんな事をしてはいけない。

『なんとか拭く事はできたのね。でも持って帰るビニール袋は忘れたのね』

いやいやそもそも犬の散歩じゃないし、そんなもの普通は持ってないだろ。

だいたいシャドウデーモンじゃないのか?

もう完全に今の話じゃねぇかよ。

『仕方がないから椿の肥やしになればと放置する事にしたのね』

まあ庭なら誰かが処分してくれるだろう。

そうでなくも敷地内なら問題はないか。

『次の日、私はウンコが気になって見に行ったのね』

確かに自分のウンコが庭に放置されていたら嫌だし、見に行くのも分かる。

『そしたら前日と変わらずそこにあったのね』

そりゃ誰も処分しなかったらそうだろうな。

『誰かに見られるのも嫌なので次の日も確認に行ったのね』

いやいや、だったら自分で処理すりゃいいだろう。

『そしたらやっぱりそこにあったのね』

なんかじれったくなってくる話だな。

つかどんなオチが待っているのだろうか。

逆に気になってくるな。

『私は気になったので、それから毎日確認にいったのね』

暇な奴だな。

『雨の日も風の日も、ずっと観察を続けたのね』

いつの間にか観察になってるんだな。

ウンコ観察って夏休みの宿題かよ。

つか絶対にやりたくない観察だな。

『徐々にウンコは乾燥して、触れたら壊れそうな状態になったのね』

そりゃそうなるわな。

『でもそこからウンコは頑張ったのね。雨の日も風の日もウンコはそこにあり続けたのね』

『凄いのです。頑張ってほしいのです』

なかなか根性のあるウンコだな。

妃子のウンコにしてはよく頑張っている。

『ウンコは頑張って、再び椿が咲く季節も過ぎていったのね』

なんと年まで越したのか!

って一年以上もウンコ観察続けてたんかーい!

『凄いウンコなのです。強い子なのです』

まあそう言われたら凄いかもしれないな。

『でも夏が来て、ウンコは台風に襲われたのね』

『頑張ってほしいのです』

『そ、そうだな‥‥』

『私は助けてあげようと傘を持って庭に出たのね』

『助けて上げてほしいのです』

そういえば今年の夏は一度だけ台風が来たよな。

何故かその日妃子は傘を持って屋敷を出ていった。

『私はウンコに傘をさしかけ、防波堤を築いて流されないようにしたのね』

『凄いのです。負けちゃダメなのです』

『おお!頑張れ妃子!負けるなウンコ!』

『苦しい戦いだったのね。でもなんとか、無事台風をやり過ごす事ができたのね』

『やったのです!』

『良かったな‥‥』

『ウルウル』

なかなか感動的な話じゃないか。

妖凛まで感動して泣いているぞ。

『でも次の日の事なのね。悲劇が訪れるのね』

なんだと!?

『何が起こったのです!?』

どうしたんだいったい?

これだけ強いウンコなんだ。

そう簡単にはやられないはずだ。

『その日私は、台風を乗り越えたウンコを愛でていたのね。そしたら‥‥』

『そしたらどうしたのです?!』

『そこに策也タマが現れてウンコを踏みつけたのね!』

『なんだと!』

って、つまりそれって、俺は妃子のウンコを踏んじまったって事じゃねぇか!

つかもしかしてそれって‥‥。

あの時妃子はいきなり俺に襲い掛かってきたよな。

そしてその場でゴロゴロとプロレスが始まった訳だが‥‥。

『策也タマ!責任とるのね!』

『策也タマは殺ウンコ犯なのです!』

『コクコク』

妖凛まで‥‥。

『責任とるのね。新しいウンコを希望するのね』

『そうなのです。庭でウンコするのです』

『コク‥‥プルプルプル』

妖凛はこの話の流れがおかしい事に気が付いた。

『とにかく妃子。お前は庭でウンコした犯人として逮捕だ。後で卍固めの刑に処す!』

『横暴なのね!策也タマも応援していたのね!』

『よくよく考えると、庭でウンコは良くないのです』

『菜乃も裏切ったのね!』

こうして妃子は、庭でウンコの罪で無事逮捕となりました。


さてそんな話をしていたら、ようやく景色が変わる所までやってきた。

「おお!温泉だ!‥‥って‥‥」

菜乃と妃子が俺に付いた影から上半身だけ出して来た。

一見すると俺から菜乃と妃子が生えてきたような感じだ。

「ちょっと入りたくないのね」

「血の池地獄なのです」

「夕暮の光で赤くなって見える‥‥だけじゃないよな‥‥」

この温泉には入らない方がいいと俺の勘も言っていた。

しかしどういう訳か入りたくもなる。

なんだろうなこの感じ。

「とりあえず下りるぞ」

俺は温泉脇に下り立った。

「やっぱり何か嫌な感じがするのです」

「そうなのね。近寄らない方がいいのね」

(コクコク)

三人が三人とも温泉から離れるように俺からも離れた。

でも何だろう。

この温泉に入ったらマズい事が起こると分かっているのに入りたい。

この感覚、きっと入るべきだ。

俺はそう結論を出して、服を着たまま温泉に飛び込んだ。

「策也タマが飛び込んだのです!」

「きっとマズい事が起こるのね!」

(コクコク)

みんなが言う通り、既に俺はそれを感じていた。

魔力が吸われているというよりは、押さえつけられている?

これはアレだ。

魔力を大きくする為の温泉?

より大きく飛躍する為には、一度バネを縮めるという原理を利用している?

いやしかしこれは、バネが壊れるまで圧縮されている気がする。

つまり俺は今単純に弱くなっているって事じゃないのか?

「駄目なのね」

「策也タマがまた弱くなっているのです」

(ウルウル)

つかこうなったら仕方がない。

俺は開き直ってゆっくりと浸かる事にした。

『なんでやねん!』と自分にツッコミを入れてみたが、その理由は分からなかった。

よく見ると血の赤とは違う色だし、気持ちのいい温泉だった。

魔力が減ったり無くなったりしている訳じゃない。

ただ圧縮され減っているように見えるだけだ。

世界恐慌を乗り越える為に、あの政治家も言ってたではないか。

『明日伸びんがために、今日は縮むのであります!』

まあこれはクソな理屈だけどな。

別に苦しい思いやマイナスを受け入れなくても、楽しいものは楽しいしプラスにする事もできるんだよ。

でも今回ばかりは、その政治家の言う通りな気がした。

俺は一時間ほど浸かった。

その間少女隊と妖凛は近くで昼寝をしていた。

ん~‥‥思っていたのと少し違うな。

魔力だけが圧縮されていれば、空いたスペースをまた魔力をためる事に使えると思ったんだけどな。

器ごと圧縮された感じで、マジで魔力が小さくなっている。

ただし魔力濃度は濃密になっているから、単純に魔法を使えば威力がアップしているんじゃないか?

俺は温泉を出てから、普通にファイヤーボールを放ってみた。

「おお!なんか凄いファイヤーボールなのです!」

さっきまで寝ていた少女隊は、何故か既に俺の横まで来て魔法を見ていた。

「威力が半端なく上がっているのね。実は策也タマは強くなっていたのね」

しかし、そんな単純な話ではなかった。

一気に魔力が枯渇して魔力不足を起こしている。

これはマズいぞ。

俺は膝をついた。

「どうしたのです策也タマ!?」

「しっかりするのね!」

「あ、ああ。大丈夫だ。どうやら魔力が圧縮され少なくなったからすぐに魔力が尽きるようだ」

でも俺には脅威の回復力があるから、直ぐに状態は改善していった。

俺は少女隊に支えられながらすぐに立ち上がった。

これは考えようによってはマズい状態だが、この魔力が使いこなせるのなら対応力は上がるはずだ。

ただ、使いこなせるのかね?

魔力コントロールはこの所ずっと特訓してきたんだ。

きっとやれるはずだ。

俺はもう一度ファイヤーボールを放ってみる。

次はとにかく魔力を抑えて小さなヤツを‥‥。

「ぐはっ!」

「策也タマ!」

「無理しちゃダメなのです!」

魔法に必要な最小限の容量は、引っ張られて持って行かれてしまう感じか。

「大丈夫大丈夫。少し慣れた。次はもう少しマシな方法を試してみるぞ」

今度はベルトの魔力だけを使うつもりでファイヤーボールを放った。

魔力コントロールに必要な魔力を持って行かれるから多少きついが、でも普通のファイヤーボールを放つ事はできた。

「分かってきたぞ。この温泉は確かにヤバい。俺の今の状態もヤバい。だけど、俺ならこの状態もなんとかできる気がする」

「そうなのね?」

「流石策也タマなのです」

(コクコク)

とは言っても、そう簡単じゃないけどな。

しかし何故こんな温泉があるんだろうか。

暗黒神のいるあちら側の温泉は、魔物となる魂の力を高める為に暗黒神が作ったものだった。

使用目的があったんだよな。

となるとこちらは‥‥。

「誰じゃ?私の風呂に勝手に入った輩は?」

俺の後ろに大きな気配を感じた。

瞬時に少女隊は影に潜り、妖凛はミンクマフラーとなって俺に取りついた。

なんだ?

全く気配も魔力も感じなかったぞ?

俺が振り返ると、そこには暗黒神にも負けないような魔力を持った人間に近い姿をした何かが立っていた。

目は赤一色で髪は黒のロング。

日本の十二単のような服を着ていた。

こいつはヤバい。

とにかくヤバい。

今の自分の状況も考えれば、死を覚悟させられるような感覚がひしひしと伝わってきていた。


追記‥‥。

ウンコ観察の話は、作者が犬のを一年以上見て来た実話が半分交じっていますw

台風から守ったりはしてないけどね。

2024年10月12日 言葉を一部修正

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