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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
九頭竜編
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九頭竜との決着

日本は国家ブランドランキングで世界一だった。

それは世界一良い国だという事だ。

『親ガチャ』という言葉があるけれど、『国ガチャ』という視点で見れば日本人は勝ち組と言える。

宝くじで二億円を当てるくらいの幸運の持ち主たちだ。

なのに自殺者が多かったのは、その幸運に気が付いていなかったからかもしれない。

過酷な環境で育った方が人は強くなるし、幸運が故に弱くなったのもあるのだろうか。

どちらがいいか俺が決める事ではないかもしれないが、俺は日本が好きだったから此処はそんな世界にしたいと思うよ。


今朝早く、皇国の大化から連絡があった。

『前のメンバーで話がしたい。黒死鳥王国で会える日を調整してくれ』

なんの話があるのかは知らないけれど、この世界情勢になった事が何か関係しているのだろうか。

俺の勘が『あまりいい話ではない』と告げている。

とは言え会わない訳にもいかないし、聞かなかったからといって避けられるものでもなさそうだ。

俺はとりあえず『了解した』とだけ返事を返しておいた。

朝の四阿会議では、もうテロへの対応ではなく普通の統治に関する話が主だった。

アルカディアの活動も、完全にミケコの指揮下へと返した。

一応情報共有の為に、此処にいる七魅への連絡は常にしておいてもらうけれどね。

リンは行政改革を頑張ってもらう。

元九頭竜領に蔓延る、一部の人間だけが得をするような金の流れは全て断ってもらうのだ。

総司と千えるには、俺の提案したゲームを本格的に流通網に乗せてもらう。

俺が考えたものじゃないけれど、異世界転生ものと言えばこれは定番だしな。

そのうち魔法でテレビゲームも作りたいものだ。

四阿会議が終わると、俺は光龍王国へと向かう事にした。

ちなみに光龍王国なんて呼んでいるけれど、正確にはシャインドラゴン王国の王都である光龍という町だからね。

それに行った事はないけれど、おそらく町というよりは里だと思っている。

ドラゴンの住まいなんて何処も里だったからさ。

なんて思っていた訳だが、到着すると完全な町だった。

「普通の町なのです」

「ドラゴンと人間の区別がつかないのね」

おおよそ多くが人間に変化したシャインドラゴンなのだろうが、ドラゴンって割と柔軟な種族のようだ。

さてしかし、この中から完全体じゃないファフニールを見つけ出す事はできるのだろうか。

なんて思っていた訳だが、向こうから一際大きな魔力を持った者がやってきてくれましたとさ。

俺たちは道の真ん中で向かい合った。

「劉邦だな?」

「そういうあなたは此花策也ですね」

第一印象は、そんなに悪い奴には感じない。

銀髪の知的な青年王子に見える。

そしてこれがコピー人間ではない事を邪眼が教えてくれた。

「悪い奴には見えないな。どうしてヒュドラを殺した?」

「あなたは部下が間違いを犯しても罰したりはしないと?」

「内容にもよるが、そもそもヒュドラはお前の部下だとは思っていなかったようだが?」

「部下が部下と思っていなければ許すのですか?」

そう仕向けたのはこいつな訳だが、こいつの正義と俺の正義では折り合いがつかなさそうだな。

「少なくとも今回の場合、俺なら殺したりはしないよ」

「今回の場合、何処が私の落ち度だと思われますか?」

「そうだな‥‥」

ヒュドラを騙して使っていた事だろうか。

野放しにしていた事だろうか。

手綱がしっかりと握られていなかった事だろうか。

代わりに九頭竜皇帝をやらせていた事だろうか。

「お前が九頭竜筆頭なんだろ?自分の名前に責任をもって行動していなかった事が落ち度だよ。お前がしっかりと九頭竜皇帝を名乗っていたらこんな事にはならなかった」

「なるほど、そうですね。あなたは国のトップとして堂々としていらっしゃる」

「もう争いは止めにしないか?あんたを完全に野放しにはできないけれど、枷を付けさせてもらえるなら自由にしてもいいが?」

「駄目ですね。私は完全な自由以外は受け入れられないのです」

何百年もただトップに、ただ支配者になる為に時間を費やしてきたファフニールか。

もう数百年あれば、それは叶っていたのかもしれない。

でも残念ながらそれは此処で終わるな。

「じゃあ悪いけど捕らえさせてもらうぞ」

「私はそれに抵抗します。しかしここだと町に被害が出るので他に移りましょう」

「そうだな」

俺がそう言うと、劉邦は空へと上がった。

俺もそれに続いた。

少女隊は既に影の中へと入っていた。

しばらく飛んだ先に荒野が広がっていた。

と言ってもそんなに広くはない。

遠くに町も見えるし、多少戦闘には制約が付きそうだ。

そこへ劉邦は降り立った。

俺も後へと続いた。

「この辺りでいいでしょう」

「俺には少し狭いけどな」

「多少のハンデは貰います。それでどうでしょう。一対一のタイマンで勝負しませんか?」

「面白いな。だが断る!」

「えっ?」

こいつ、俺が圧倒的に強いから受けると思っていたのだろうな。

でも俺は臆病だし油断はしないのだ。

一応俺此花の王様、いや皇帝だしさ、自分に少しでも不利になる条件はのまないのだよ。

単純に今はそんな気分なだけだけれどね。

「そうですか‥‥仕方ありませんね。それでは私も全力でやるしかありません」

劉邦はそう言って異次元収納から一つの指輪を取り出した。

へぇ~‥‥異次元収納魔法が使えるのか。

おそらく無限の広さを持ったものでは無いと思うけれど、こういう能力を持った奴は仲間に欲しいよな。

つかあの指輪どこかで見た事があるな。

劉邦は取り出した指輪を左手中指に通して装着した。

すると一気に魔力が上がった。

「おお!結構な強さじゃないか。これだけ強ければ自分で統治もできた‥‥」

俺はそこまで言った所で劉邦の目に炎が宿っているのが見えた。

「プッ!なんだよそれ‥‥」

「目に炎とか熱血少年漫画じゃないのね!ププププ」

「緊迫シーンが一気にお笑いになったのです!クースクスクス!」

妃子と菜乃も影から出てきて笑い出した。

「わ、笑っていられるのも今の内ですよ!この指輪にはそういう変な効果も付いていますが、潜在魔力を開放する効果があるのです。つまり成長途中の私でもほとんどの力を開放する事が可能になるのです」

ああ、そんな効果も付けていたな。

これ、俺が冗談で作ったジャバウォックの指輪じゃねぇか。

「もしかして、アイソラシーの日替わり洞窟で手に入れたのか?」

「どうしてそれを?」

「なんでだろうな」

これ以上は言わないでいて上げよう。

こいつはもう死刑にするしかなさそうだからな。

武士の情けだ。

「教えてはくれませんか、そうですか‥‥ではそろそろやりましょうか」

「そうだな。いつでもかかってきていいぞ」

「では行かせてもらいます」

そう言い終わる前に劉邦は、真っすぐこちらに向かってきた。

速いけど遅い。

俺は簡単に背後を取って肩を叩いた。

一応能力を確認する為だ。

数が多すぎて処理に時間がかかりそうだな。

倒した後、魂から能力はコピーするか。

「速いですね!」

「お前もなかなかのもんだよ」

「この手は使いたくありませんでしたが‥‥」

劉邦はそう言って妃子の後ろへと回った。

そして妃子を羽交い絞めにする。

「タイマンを拒否したのはそちらですよ。せっかく私が提案してあげたのに、おかげでこの方が死ぬ事になりましたね」

あらら、妃子が捕まったか。

確かに現時点での魔力は劉邦の方が上だな。

でも妃子はシャドウデーモンで物理攻撃は効かないよ。

仮に魔法で攻撃するにしても、俺と一心同体な妃子が負ける訳がないのです。

「それで勝った気なのね?」

妃子は俺の魔力を吸収していった。

俺が魔力を送らなくても、必要に応じて魔力を得る事ができるようになっていた。

「どうなっているのですか?!」

「終わりなのね!」

妃子は羽交い絞めから力づくで抜け出すと、パンチ一発で劉邦を吹き飛ばした。

「うーん!か・い・か・ん!なのね!」

「妃子だけずるいのです。私もやるのです」

菜乃は倒れた劉邦を足蹴にしていた。

おいおいもう相手のライフは微レ存だぞ。

妃子のパンチには体中を麻痺させる効果が付与されていたからな。

「もういいだろ?その辺に‥‥」

俺がそこまで言った時、妖凛が俺から離れて劉邦に覆いかぶさった。

あらあら、守って上げる‥‥訳ないよね。

アメーバ状に溶けて劉邦を食べ始めた。

あー‥‥いつ~か~永遠の~♪

浜崎先生が歌っていたあの曲がBGMとして俺の頭に流れていた。

こうして真の九頭竜たちによるテロは終わった。

とは言えこれからも悪い奴らの反乱は続くだろう。

違う価値観で統治されてきた国を併合するのはリスクもあるのだ。

大日本帝国関東軍は、かつて満州事変を起こした。

その理由は、満州での日本人に対する中華民国人の扱いが酷かったからだ。

日本国民が満州にいる日本人を守れと声を上げていて、それに答えた形だったんだね。

でも中華民国人が酷い扱いをしたのにも理由があって、そこにいた日本人、正確には朝鮮系日本人たちが横柄なふるまいをしていた事によって嫌われていたのがそもそもの原因だった。

横柄な嫌われ者だからと言って殺していいものではない。

だけど百パーセント中華民国人が悪かったとは言えないかもしれない。

そうなった理由が、大日本帝国側にもあったという意味ではだけどさ。

もしかしたら今後そういうリスクが出てくる可能性もあるので、しっかりと注意して教育していかないとね。


そんなこんなで一応テロが収まって二週間後、俺はみゆきたちを連れて黒死鳥王国へと来ていた。

大化が会いたいというから調整した訳だけど、ぶっちゃけ俺たちの方は何時でもいいのだ。

単純に大化側の都合がついたこの日に会う事となった。

「策也くん、みゆき、それに他のみんなも久しぶりだな」

大化はそう言いながら、俺の正面にあるソファーに座った。

「そうだな。大化、あんたは少し老けたな」

「そりゃそうだろ。あれから十二年近く経っているからな」

弥栄の見た目だが、もう弥栄という感じはしなかった。

魂に引きずられて、少し見た目も変わってきているのかもしれない。

「それで話ってなんだ?わざわざ会って話す事なのか?」

俺はチラッとみゆきの方を見た。

みゆきは少し離れた所でみことと話をしていた。

まあこれだけで会う意味はあるんだけどさ。

「息子と会って話したいというのは理由にならないか?」

「まあそれはそれで構わないけどさ。だったらあんたたちも俺たちと一緒に暮らせばどうだ?」

フレイムドラゴンの里はそこそこ賑やかになってきているし、転移ゲートを付ければ何も問題はないはずだ。

「それは無理なんだよ。我々皇家は神と共に生きる訳にはいかないんだ」

「そうなのか」

全く神様ってのは、面倒な事を押し付けるものなんだな。

「でもみゆきはまだ神にはなり切っていないんだろ?」

「そうだな。死んだ時か、或いはそれよりも早く完全な神になる可能性はあるが‥‥」

「だったら今なら一緒に暮らせるんじゃないのか?」

「駄目だと決まっているんだよ」

そう言われたら何も言い返せないな。

「それで結局なんの話なんだ?」

「そうだな。あの時に話した事と概ね同じだ」

「概ね同じって事は、違う所もあると?」

「そう。それを伝えたかった。いよいよ時が迫ってきたのだ」

「時が迫ってきた?」

魔王復活のような、或いは大地震のような、何か大きな災厄でもあるのだろうか。

「そうだ。策也くんが神になる日が近づいてきている」

「は?いや別に俺は‥‥」

「みゆきと一緒になるという事はそういう事なんだぞ」

そう言われると何も言えないな。

その為に神にならなければ駄目なら、俺は喜んで神になろう。

でももうすぐってどういう事だろうか。

「もうすぐって、俺が神になるのは決まっているのか?」

「神になれるかどうかはまだ決まっていない。ただ、神になれるのは策也くんだと確定した」

「どうしてそうなった?」

「皇の、本当の三種の神器は知っているね?その内の一つである魔力蝙蝠の魔生の魔石が皇へと戻ってきた。そうしたのは策也くんだろ?」

「そうだけど?」

だからそれがどうしたって言うんだろうか。

ただ取られていた物を元に返しただけだぞ?

「今、皇は本来の形に戻りつつあるんだよ。神を産む事。そして神の代わりにこの世界の秩序を守る事。それが皇の役目なんだ。そしてその形が整いつつある」

「魔生の魔石を返しただけで?」

「だけではないだろ?三百年以上できなかった事だぞ?」

確かにずっと欠けていたものがようやく戻ってきたのは事実か。

「俺が神になれるんだという事は分かった。みゆきと一緒になる為に神になる必要があるのも納得している。じゃあどうやったらなれるんだ?」

「この世界には既にこの世界の神がいるんだが‥‥その神を倒してとってかわる事で策也くんは神になれるんだ」

「えっ?もうこの世界に神様いるの?もしかして因幡の白兎とか言わないよな?」

マジで兎白が神だったらビックリするぞ?

まあ何かしらそのような者である事は理解しているけれど、流石に兎白を倒せとか言われたら困るな。

「おお!因幡のに会った事があるのか。ただアレは神というよりは神の遣いだな。他にも木花咲耶姫や岩永姫もいる。おそらく二人とも会った事はあるだろうが覚えてはいないか」

「ん?両方覚えているぞ。ただ、おそらく二回会っているはずなんだが、一回目に会った時の事は覚えてはいないけどね」

「えっ?二回会ってるの?これは驚きだな。策也くんは神の祝福を受けているのかもしれないな」

神の祝福ね。

祝福というよりは、この世界自体何処か知っているというか、相性がいいんだと思うけどさ。

「それで結局その神ってのは?俺が取って代わってもいいような神なのか?どう考えても俺が悪者な感じがするんだけど?」

「それは問題ない。その神が全ての世界にとって悪者で問題があるからこそ今の流れに入ったんだ。これは全ての世界を救う為なのだ。ただ、その神が何処にいるのか、何故取って代わられようとしているのかは分からない」

何処の誰だか知らないけれど、誰もがみんな知っている神様か。

何が悪いかも分からないのに討たれるとか、ちょっと可哀想な気もしないではない。

「それを探し出せって話か?そして世界を救う為に討てと?」

「そうだな。でも探さなくてもいずれはたどり着く。おそらくここにいる仲間が導いてくれるだろう」

俺はリンを見た。

「私は知らないわよ?」

次に総司。

「僕も全く分かりません」

そして環奈。

「ふぉっふぉっふぉっ!わしが知るはずなかろぅ。毎日好き勝手に生きておるのじゃぞぃ?」

「という感じだが大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫のはずだ」

そうか‥‥。

となると案外環奈辺りが情報を手に入れるかもしれないな。

世界の有力者が黒死鳥王国に集まっている訳だし、裏の話なんかも結構聞いていたりするだろうから。

「とにかく話はそういう事だ。ここにいる仲間が、きっと策也くんを助けて世界平和に導いてくれるだろう」

既にリンと総司には助けられているんだけどさ。

環奈もこうして会える場所を提供してくれているし。

「この世界が良くなるか悪くなるか。運命は策也くん次第だ。頑張ってくれ」

「まあみゆきの為だし頑張るよ」

みゆきとマッタリのんびり暮らしたいだけだったのに、なんか話がえらく大きくなってしまった。

俺が神になって世界を救うだと?

「私はなんとなくだけど、そういう実感が無い訳じゃないわよ」

「世界を救っている実感があるっていうのか?」

「なんとなくだけどね」

「僕もありますよ。少なくとも民は既に策也さんに救われています。九頭竜の民の一割くらいは、もしかしたら今頃死んでいたかもしれないんですから」

「わしはなーんもやっておらんがのぉ!ふぉっふぉっふぉっ!」

この中に環奈がいるのは不思議だけれど、環奈のやっている事もきっと意味がある。

俺にはなんとなくそう思えた。

その後しばらくはみんなで何でもない話を一時間ほどした。

弥栄が既に生まれ変わってこの世界にいるという話も聞いたが、まだ会う事はできないようだった。

みこととも話をしたが、少し照れくさくてあまり話さなかった。

ただ最後に別れる時に『孫は見たくないのか?』と聞いたら、『いずれその時は来る』と大化が答えた時のみことの顔が妙に印象に残った。

少し寂しそうな、少し申し訳なさそうなそんな顔だった。

何にしてもこれでしばらく仕事の予定はない!

やるべき事が残っていると妙に落ち着かない俺にとって、こういう状況は凄く解放された気分だ。

一週間くらい、いやもうこの際一年くらいゆっくりする時間を作ってみるか。

マイホームに戻ると、みゆきが少し照れながら寄ってきた。

「わたしは、策也と結婚できて本当に良かったよ」

おい、いきなりそれは反則だろ!?

抱きしめずにはいられなかった。

「それは俺のセリフだよ‥‥」

俺たちはしばらく抱きしめ合った。

なんだろうかこの幸せな感じは。

この所忙しくてあまりイチャイチャできなかったから、その時間に巻き戻って取り返しているような変な感じがした。

やっぱり神様が『しばらく休め』と言っているように俺は感じた。

2024年10月12日 言葉を一部修正

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