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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
九頭竜編
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劉邦の正体

元九頭竜領の統治において、問題はテロリストだけではなかった。

既得権社会が出来上がってしまうと、それを変えるのはなかなか難しい。

九頭竜の統治は、金と権力によるものだった。

だから行政の腐敗が酷かった。

俺の統治はそこにある金と権力をドンドン奪っていく訳だから反発も当然大きいし、変えたルールの抜け道を使って自己の利益を求めようとする者も多かった。

社会は一度腐ると立て直すがの難しいよ。

意識改革なんて簡単に言っても、それは遠く険しい道のりのようだ。

ある意味その地の文化を変えるのに等しいからさ。

転生前の日本では、『人を騙してはいけない』というのが当たり前の感覚だった。

しかし別の国に行けば『人を騙せる人は賢い』という風に考える所もあった。

そんな国では『騙される方が馬鹿で悪い』となる訳だ。

そういった感覚や文化の違いを俺の正義で正していくのは、かなり難しい作業だった。

もちろん何が正しいかは人それぞれなのだけれどね。

「腐ったミカンを美味しくいただく事は難しい、か」

「腐ったらもう食べちゃダメよ」

リンの言う通りなんだよな。

だからと言って腐ったミカンを捨てる訳にもいかない。

相手は人間なのだから。

最悪隔離するしかないよな。

となると牢獄がまた足りなくなりそうだ。

俺は頭が痛かった。

「それで昨日、一応九貴族の内の四人を捕らえた。これで村を襲う奴はいなくなるかもしれない。ただ別の何か大きな事をしてくる可能性もあるから、リンは警戒しておいてくれ」

「できる防衛体制はとってるわよ。ミケコちゃんにも協力を頼むわ」

「了解した麟堂将軍。アルカディアも力をお貸しします」

いつからリンは将軍になったのだろうか。

これはおそらくゆかりの影響なのだろうな。

「四人から聞き出した情報から、九貴族の親族や仲間がいる場所はおおよそ特定できた。ミケコにはそちらの対応も頼むぞ」

「お任せください兄上様。今日中に全て片付けましょう」

「油断はするなよ。もしかしたら一族皆同じ能力を使える可能性はあるからな。一応能力を説明しておくと‥‥」

麓竜はチェックテレポートの能力だ。

チェックした場所なら何処へでも瞬間移動ができるが、能力に応じて距離には限界もある。

子智龍はアリバイという能力。

自分たちの実体を一定条件の間その場所に残しておく事ができる。

条件を満たすと逃げるように霧散して消えてゆく。

蜂竜は高速移送が使える。

素早く移動したり、或いは自分以外でも速い運搬が可能。

紅竜は隠蔽の能力だ。

これは隠密行動を可能にする。

見破れるかどうかはレベル差や個々の能力による。

「これと併せて詩竜や碁竜の能力も警戒すべきだろう。特に詩竜の設置型爆破魔法は、場所によっては警戒してくれ。くれぐれもヤバそうな建物や地下には入らないようにな」

「その場合は兄上様にお任せした方がよろしいですか?」

「そうだな。賢神に任せていいぞ。彼女なら何が有っても大丈夫だろう」

「了解しました」

こうして報告と対応を決めた後、四阿会議は解散となった。


さて俺だが、村にテロリスト探知用の『アレ』を設置したり、怪しい『アレ』な建物を調べては自分用に変えて罠をしかけたり、『アレ』な虫を食べたりしながら飛び回っていた。

※二千二十三年、阪神優勝おめでとう。

「虫を食べるなんて残酷なのです」

「そうなのね。生類憐みの令なのね」

こいつら影の中で寝ていると思っていたが、こうやって見られたくない事をしている時に限って起きてくるんだよな。

「食料危機だからな。俺は虫でも食べるんだよ。つかなんで妃子が生類憐みの令を知ってるんだよ」

「知ってるから知ってるのね」

「そうなのです。以心伝心なのです」

なんかもう完全に一心同体少女隊なんだよな。

「でも少しだけ勘違いしているので説明しておくが、生類憐みの令の本当の目的は別にあったんだよ」

みんなは『犬や動物が好きだったから殺さないようにした』と思っているかもしれない。

もちろんそういう面もあったかもしれないが、目的は人の命の大切さを分かってもらう為だっという見方が強い。

最後は蚊すら殺してはいけなくなっていたし、結果として子供を遺棄する事への価値観も大きく変化した。

当時『生類憐みの令』を守らなければならなかった人々からすれば苦労もあったろうが、その後を生きた人にとっては良かったのかもな。

「という訳だから、此処で見た事は内緒にしておくんだぞ」

「何が『という訳』なのか分からないのね」

「強制口封じなのです」

ちっ、こいつら賢くなりやがって。

ん?賢くなってるか?

「ところで円周率っていくつだ?」

「三なのね」

「三なのです」

「プププ!ゆとりかよw最低でも三点一四くらいは言ってくれよ」

やっぱりあまり賢くはなっていなかたようだ。

そんな感じで俺たちは今日も一日仕事をこなした。

夜も今日は何も起こらなかった。


次の日の朝、四阿会議が始まる前に、真の九頭竜を名乗る者たちが声明をネットに上げていた。

『詩竜以下を倒したくらいでいい気になるなよ。我らから見れば奴らは雑魚だ。此花にはこれから地獄を見せてやるからな。フフフフ。それから九頭竜を応援する皆さんにお知らせだ。軍資金の提供をお願いしたい。振込先は‥‥』

‥‥大丈夫かこいつら。

えらそうな事言ってる割には、もう軍資金も尽きてるのかよ。

アジトにあったお宝を含むお金を、全部俺がいただいちゃったからか?

つかなんであいつらお宝をあんな所に集めていたんだろうな。

まるでドラゴンじゃないか。

ん?ドラゴンか。

もしかしたらこいつらもドラゴンか、ドラゴンの魂を持った者たちなのかもしれない。

気になるな。

そんな訳で俺は四阿会議の後に詩竜の魂に聞いてみた。

すると分かったのは、市竜から紅竜の九貴族は、ドラゴンの魂を持った人間の子孫だという事だった。

「早乙女が魔人の子孫であり、九頭竜はドラゴンで九貴族はドラゴン人間の子孫か。そして今の有栖川はクトゥルフで、なんだかんだ人間様は負けているじゃないか」

「人間は所詮は弱いのね」

「普通に考えたら神や魔物には勝てないのです」

本当なら圧倒的にそうなんだろうな。

でもそれって、転生前の世界でもそうだったはずだ。

人間は象やライオンには普通勝てない。

圧倒的に負けていた。

でも頭が良くて器用だから、生態系の頂点に立っていたのだ。

果たしてこの世界でもそれは可能なのだろうかね。

いや無理だろうな。

この世界では多くが人間以上の知能を持った者たちばかりだ。

最初から人間が頂点になんて立てない世界だよ。

ならばどうするのか。

その一つが神武国にある、俺は何となくそう思った。

その後俺は何となく休む事にした。

市竜たちは俺に『地獄を見せる』と言ってきた。

ならばやる事は一つだろう。

町を壊滅させるようなテロを起こすって事だ。

でも町ならば、最上級の警戒も準備もしてきている。

一時間くらいなら大量破壊魔法にさえ耐えられる結界が守ってくれる。

だったらもうやる事はない。

後は何かあった時にそこへ急行する準備をしておくだけだ。

「くろーいかーめーんーはー♪なーぞーのーきーしゃー♪」

「おい菜乃!その歌は仮面の忍者に抵触する恐れがあるからやめておけ。つかどうしてそのメロディを知っているんだ?」

「妃子に教えてもらったのです」

俺は妃子を見た。

「私はみゆきタマが寝言で歌っているのを聞いたのね」

みゆき、そんな寝言を歌っていたのかよ。

つかなんでみゆきがその曲を歌うんだ?

俺と一心同体なこいつらならまだしも。

俺の愛が溢れてみゆきに移ってしまったのかもしれないな。

こりゃあまり愛しすぎると、その内同化しちまうかもしれないから気を付けないと。

俺はなんとなく嬉しかった。

そんな時だった。

突然テレパシー通信が入ってきた。

『お兄ちゃん!エシコエの町に三人のオッサンが現れたよ!現在麟堂姫たちが防衛に向かったみたい』

『おっ、オッサンが来たか』

『やけに落ち着いてるね?凄い軍勢が押し寄せてきているみたいだよ?』

『ふむ。何というか此処までの流れから、まだ本丸じゃない気がするんだよな。だいたいオッサンって呼ばれている敵がそんなに強い訳がないんだよ』

『なるほどそうなんだね。慌てて損した』

それに俺には色々な能力が色々な相乗効果を発揮していて、慌てなくても大丈夫って教えてくれているみたいなんだ。

『じゃあまた何かあったら教えてくれ』

『分かったよ。じゃあまたね!』

『おう!』

さて、とは言え一応見に行くか。

今のリンに今回の敵が勝てるとは思えないけれど、間違って殺しちゃって魂を見失う可能性もあるからな。

一応市竜だけは捕らえて劉邦の居場所を聞き出さないと駄目だし。

俺は立ち上がった。

「敵が来たのね?」

「そうみたいだな。さっさとテロリストどもを倒してゆっくりしよう」

「賛成なのです。最近働き詰めでそろそろ休みたいのです」

そういえば最近は素直に仕事をしてくれていたよな。

今回はそれだけ俺も追い詰められていたって事か。

「じゃあ行くぞ」

「飛びます飛びます!」

「飛んでけー!」

「タマー!」

おっ?妖凛が喋った!

俺たちは瞬間移動魔法でエシコエの町の上空まで移動した。

リンたちは町の外で敵を止めていた。

「やってるやってる」

「敵はレッサードラゴンの軍勢を引き連れているのね」

「多分軍勢魔法なのです」

どうやらトップスリーおっさんたちは戦闘力がメインのようだな。

それでもリンたち防衛隊の方が力は圧倒的に上に見えた。

市竜の相手はリンがしていた。

リンがある程度力を出して戦う姿は久しぶりだな。

敵も思ったより強いが、四神を使いこなせるリンが負ける要素は何もないように見える。

仁竜のブレスは強烈だが、それを止めているのは猫蓮か。

ぶっちゃけると相性の悪い敵だがそれでも余裕だ。

つまり力の差があり過ぎる。

完全に遊んでいるな。

そしてこのレッサードラゴンは散竜の能力か。

軍勢召喚したレッサードラゴンには魔石も無いし、倒す意味があまりない。

そう判断したテティスが直接散竜に迫った。

当然レッサードラゴンの軍勢が止めようとするが、触手が伸びて敵を捕らえた。

そして食べた‥‥っておい!

別に良いけどさ。

俺は瞬時に魂だけ回収した。

沢山いたレッサードラゴンは直ぐに消えていった。

「散竜が殺られた?」

「こいつらマジで強い。俺たちは判断を間違ったのかもしれない」

いや普通に分かるだろ。

お前らよりも圧倒的に強いヒュドラが従った相手なんだぞ?

七魅だけだとでも思ったのか?

その七魅すら雑魚だと判断したのか?

おっさんは所詮おっさんだったな。

間もなくリンが市竜を捕らえ、猫蓮が仁竜を撲殺した。

殺っちまったか。

俺はすぐに魂を回収した。

これで九貴族との戦いは終了だな。

後は劉邦か。

その辺りは市竜に聞くとしよう。

「リン、ご苦労さん」

「まあこんなものね。私も一応戦えているでしょ?」

「十分強いよ」

尤も、周りが強すぎるからあまり目立たないけどね。

でも今回はトップの市竜を捕らえたし、汽車も撮影していたからまたリンの株が上がりそうだな。

「じゃあこいつは俺が尋問するから」

「よろしくね」

そんな訳で俺はリンから市竜を預かり、地下実験場へと移動した。

「いきなりだが聞きたい事がある。正直に喋る気はあるか?俺は記憶を見る事もできるし、洗脳して喋らせる事も出来る。嘘だってすぐに見抜ける。素直に喋ってくれれば何もしなくても済むんだけど‥‥」

俺はそう言いながら、釘バットのような拷問道具で妃子のケツを叩いた。

「うーん、痛いのね」

ちょっと妃子は嬉しそうだった。

それだとこいつがビビらないだろうが。

でもそんな心配も杞憂に終わった。

「話そう‥‥」

「そっか‥‥」

なんだかちょっと微妙に残念だな。

「じゃあまず劉邦とは誰なんだ?」

こいつしか知らない謎の人物で、表向きはこいつの舎弟的な扱いになっているようだ。

でも実際はおそらく違うだろう。

「劉邦‥‥様は、正当な九頭竜の者だ」

ほうほう、つまりこの九貴族は当然九頭竜では無いし、ヒュドラも違うというのか。

「どんな奴なんだ?劉邦が正当な九頭竜ならば、何故ヒュドラが九頭竜をやってたんだ?」

「劉邦様は、まだ完全体にはなっておられない。その中継ぎとしてヒュドラを利用したと聞いている」

「完全体?」

「そうだ。劉邦様はドラゴンの最高位、ファフニールの幼生なのだ」

ファフニールか。

正確にはドラゴンではなく人間、或いはドワーフだ。

そもそもはドラゴンに変化できるドワーフだったが、何代も重ねる内に人間の方の血が濃くなって、現在は人間の姿をしているとなっている。

ドラゴンに変化した時の力は、ヴリトラやリンドヴルムにも匹敵すると言われ、あらゆるドラゴンの力を使えるとか。

俺は更に市竜に話を聞いた。

劉邦は幼生と言っても、人間としては既に大人の姿をしている。

ただ力だけがまだまだ足りないのだそうだ。

そこでドラゴンの王たちに近い力を持ったヒュドラに代役を任せる事にした。

ヒュドラたちにそれは話しておらず、ただ国を任せたのだそうだ。

尤もその頃はまだ今ほどの勢力はなく、皇がまだ大陸に領土を持っていた頃の話なのだけれどね。

国を任せる際に一つ条件を付けた。

それは一度死んで魔石を提供する事。

あのヒドラを生む魔生の魔石は、このヒュドラの物で間違いなかったという事だ。

そして劉邦は、自身の能力である『コピーの力』によって自分の分身を作り、その者にヒュドラの蘇生をさせた。

コピーは必ずしも同じ容姿ではないので、色々な劉邦が死んでいたというのはその為である。

ヒュドラは当然蘇生解除の事を知っていたので、蘇生直後に劉邦のコピーを瞬殺した。

これでヒュドラは完全に自分がトップに立ったと理解したようだ。

もちろんその辺り正当な九頭竜側は計算済みで、劉邦のコピーが蘇生する際に殺されても言う事を聞かせられるようコントロールの契約を付与していたらしい。

つまりヒュドラは完全に自分がトップだと認識していたけれど、劉邦は何時でもヒュドラをコントロールできる立場にあったわけだ。

こうして劉邦と九貴族は、裏でヒュドラである九頭竜を支え国を大きくしてきた。

ヒュドラが国を譲ってしまう事なんて当然想定していなかった訳で、今回慌てて取り戻そうとしていた訳だ。

でも劉邦自身は此花の力を理解していたみたいで、ヒュドラたちを殺した所でもう終わりにしようと提案したとか。

九貴族たちは逆らった訳だけど。

劉邦は今、光龍王国にかくまわれているようだ。

話し合いはできるのか、それとも戦うしかないのか分からないけれど、とりあえず明日会いに行ってみるか。

今日はもう日も暮れているからな。

つかファフニールが完全体になるのに何百年かかるんだよ。

話からは三百年以上経っている事になるんだが。

何にしても俺は聞く事も聞いたし、マイホームへと戻るのだった。


夕方の四阿会議の後、俺はガゼボでネットの反応を見ていた。

『やっぱり麟堂姫は美しいよ!今も強さは健在だったな』

『真の九頭竜とやらもこれで終わりか。まさか九頭竜帝国が無くなるとか思ってもみなかったぜ』

『全ては麟堂姫の力だろ?なんで此花を継がなかったんだろう』

『此花に限らず、男系継承は多いからな』

『能力はほとんど男性に引き継がれるし、女性継承の国はほとんど滅んでいる。四十八願然り。上杉然り』

『子供を作るにも限界があるからな』

そうなんだよな。

卵を沢山産む蟻や蜂なんかは女王だけれど、人間では女系が難しい。

だから自然に男系継承が当たり前になったんだ。

これは動物の本能だよな。

子孫繁栄の為にはそうせざるを得なかった。

転生前の世界、日本ではそれが揺らいできていた。

だから、少子化とかそういう問題が出てくるのは当たり前だったのだろう。

異世界に来てから分かってももう遅いんだけどね。

それに一夫一妻制じゃあまり変わらない訳だが。

明日は朝から光龍王国だな。

これで九頭竜のテロ問題は全て終わる。

俺はマイホームへと戻るのだった。

2024年10月12日 言葉を一部修正

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