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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
九頭竜編
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九貴族のアジト

転生前の世界では、『差別を禁止する法律』を作ろうとする動きがあった。

『差別はいけない事だ』という認識はおおよそ全ての人が共有する所だろう。

しかしこの法律はクソだと俺は断言する。

その理由は三つある。

一つは差別の定義が曖昧である事。

個人々々それが差別に当たるかどうかの判断は大きく違う。

次に、差別した結果もたらされるものが多岐に渡り、逆に良かったりもする事。

差別と言っても常に駄目だとは限らないのだ。

そして差別なんてものは、道徳倫理の問題であり教育で対処するべきものである事。

ちょっとした口喧嘩や表現の良し悪し程度のものであり、普通はそんなに問題にするものでもない。

もしもこんな法律が出来たら、結婚相手すらくじ引きで決められかねなくなる。

『あなたの事は嫌いだから結婚できません』なんて言ったら、『嫌いだったら断ってもいいのか!?差別だ!』なんて言われる可能性もあるしね。

これは極端すぎる例だが、例えば娘と息子がいる親が、クリスマスにプレゼントを上げるとしよう。

差別をしたら駄目だという事で、親は両方に可愛い動物のぬいぐるみをプレゼントした。

これは正しい行為だろうか。

これで両方の子供が喜んでいるのなら納得できるが、男の子は『ロボットの超合金が欲しかった』と泣き出してしまったらどうだろうか?

ではその要望通り、男の子にロボットの超合金をプレゼントしたら、それは差別ではないのだろうか。

ロボットは一万円、ぬいぐるみは五百円だとすれば、値段から見れば差別にあたらないだろうか。

人それぞれ見方の違うものを法律にはできない訳で、法律にするならある程度ハッキリした定義が必要になってくる。

そして差別を駄目だとする前に、その結果何に問題があって法律にするのかを考えなければならない。

差別によって人を殺したとするなら、差別が問題ではなく人を殺したのが問題とすればいい。

差別によって人の物を盗んだとしたら、人の物を盗んだのが問題なのだ。

法制化するのなら差別ではなく、結果や被害に対してルールを決めるべきなのである。

では何故このような法律を作ろうとしているのだろうか。

その理由は二つ考えられる。

一つはその法律を利用する為だ。

こんな法律がもしも出来たら、なんでも『差別だ!』と批判する事で議論を止めたり反論されにくくしたりできてしまう。

何故ならその人にとってそれは差別であり、差別は禁止されているのだから。

そしてもう一つが、そんなバカげた法律に対しての賛否などによって、国民を分断させ対立を煽る為だ。

国内対立というのはあらゆる所でデメリットとなる。

人付き合いを悪くしたり、不信感を持たせたり、政府と国民の対立になる事もある。

そういう対立感情が強くなれば、暴力へと訴える人も出てくるだろう。

だからこういう問題のある法律を安易に作ってはいけないのである。


今日は朝の四阿会議で困った問題が起こっていた。

なんとアルカディアに頼んであった建物捜索なのだが、見つかった数があまりに多すぎたのだ。

「勝手に共有地に建物を建てちゃいけないって規制が必要よね」

リンはそう言ってため息をついた。

確かに共有地に勝手に建物を建てられるのは問題もある。

でも例えば魔獣に襲われた時の避難場所や、薬草などの収集拠点としては役立ったりする。

それを一々国家主導でやれば莫大な金もかかるだろう。

各自自主的にやってくれていたりもするわけで、全部が全部否定はできない。

では『それだけはオッケー』とすればどうなるだろうか。

『ここはそういう建物だ』と言い張れば何でも許されるので結局は同じだ。

曖昧なルールは決めるだけ無駄だし、それどころかルールを利用して正当性のアピールにも使えてしまう。

だからそういうルールは決して作ってはいけないのだ。

「そんな規制は駄目だな。冒険者や輸送の仕事をしている人が困るだろう」

「許可制にすればどうかしら?」

「どうやって正しい使い方をする人かどうかを見極める?たとえ見極められたとしても誰がやる?それにどれだけ金がかかる?メリットの方が少ないよ」

例えば爆破魔法の設置を禁止にすれば、時や場合などを細かく指定する必要が出てくるし、誰が確認するんだって話にもなる。

大切なのは、人を殺したり怪我させたりしない事だったり建物を壊さない事であり、爆破魔法を設置しない事じゃない。

こんなのは人々の常識、別の言い方をすれば教育で対処するしかないんだよ。

問題があれば裁判所なり王族なり権力を持った人が、人々の常識の代わりに判断を下すしかない。

転生前の世界でも、無駄な事が憲法に記されていれば、それを笠に着て問題にする人が大勢いた。

法律やルールはある程度必要だけれど、それのみではそれ自体が問題になる。

やっぱ教育や伝統文化って本当に大切だよなぁ。

規制や罰則はなるべく作らず、教育をしっかりとして、後は民にとって当たり前の常識に任せるしかないのだ。

それで管理しきれない所にだけ権力を振るうのが正しいやり方なのかもな。

尤も権力を持つ者が人間である以上、間違いも必ず起こってしまうんだけどさ。

「結局全部見て回るしかないって事になるのよね」

「その通りだ。リンはとにかく、町や村で何かあればすぐに対処する為の枠組みを構築していってくれ」

「了解」

「総司と千えるは魔法通信ネットワーク事業も含め、引き続き商人ギルドの方頼む」

「はい」

「承知しました」

「アルカディアは更に不審な建物の捜索」

「兄上様、お任せください」

「七魅は此処で全ての情報をまとめて、アルカディアの禰子と連携してくれ」

「分かったのだ」

七魅にガゼボでの情報統括を任せるにあたり、俺とテレパシー通信ができるように魔法をかけておいた。

シュドメルやアイホートのテレパシー通信で強制的に対話は可能だけれど、それだけだと七魅側からのアクセスは不可能だからね。

ちなみに此花の内政は、此花王族や難波津家を中心に現地の人気識者を領主として登用している。

民からの声は大切だしね。


さて四阿会議の後、俺は見つかった不審建物を確認に向かった。

既に襲われている村に近い所から調べて行く。

しかしどこも設置型爆破魔法のある場所で、秘密基地というかアジトは見つからなかった。

ただ面白いのは、徐々に爆破の威力が落ちていった事だ。

おそらくこの魔法は、術者が爆破タイミングをリアルタイムに決める。

そしてそのたび魔力を必要とするものという事だろう。

だから一日に何度もまともに使えるものでは無いと言えた。

唯一四つ目の建物に入った時は、今まで通りの爆破ではなく建物が崩れ落ちてきた。

生き埋めを狙って来た訳だ。

それで分かった事。

まずはこの設置型爆破魔法の使い手は、強くても堕天使部隊のメンバーよりも弱いと予想できる。

そしておそらく三回目の爆破の時は、割と近くまで来ていたのではないかという事だ。

四回目だけ違ったのは、俺の動きを予測してトラップを変えたと考えられるからね。

その後回った建物は全て設置型爆破魔法があったが、どれも発動しなかった。

仕方がないので俺が魔法で全部埋めていった。

結局この日は何も見つける事は出来なかった。

その日の夜も村が一つ襲われた。

リンによる瞬時の対応もむなしく、テロリストたちには逃げられてしまった。

ただ被害は最小限に抑えられた。

最小限と言っても被害は出ている訳で、更なる対応が求められる状況は続いた。


次の日も俺は、不審建物を順番に見ていく事にした。

最初の建物では、何も起こらなかった。

もう俺を倒すのは不可能と諦めたのだろうか。

でもこのままだといずれは何かにたどり着く訳で、必ずどこかで攻撃はしてくるだろう。

二軒目も同じく反応は無かった。

もう何もしてこないのだろうか。

いや、そんな訳ないだろ。

前回は四軒目に変更してきたが、それはこちらの動きが読まれていたとも言える。

今日はどうだ。

この動きで調べて行けば、次の場所もその次の場所も予想できるはずだ。

ならば次かその次辺りに、再び何かをしてくる可能性はある。

例えば爆破の際の魔力補助や、魔力ドレインなんかの対応もあるか。

そしてこの魔法はリアルタイムで行うものとするなら、術者との距離は威力に大きく影響するだろう。

つまりもう近くに術者は来ていると考えていい。

『妖凛にお願いだ。次の次に回る予定の建物に敵がいる可能性がある。そこに行って様子を見て来てもらえないか?影を移動してコッソリな。そしてもしも建物の外も含めて誰かがいたら‥‥倒すか捕らえるか頼みたい』

『コクコク』

『頼んだぞ』

この任務は妖凛くらいにしか頼めないからな。

爆破自体は町を消滅させるほどのものと比べれば小さいと言える。

でも閉鎖空間内で確実に耐えられそうなのはそう多くはない。

みゆき、妖凛、猫蓮、七魅、賢神くらいじゃないだろうか。

オリハルコン人形たちもなんとかなるとは思うけれど、他の罠の可能性も考えるとやはり一番対応力がありそうなのは妖凛だった。

みゆきなら何とでもなるとは思うけれど、危険な事はさせたくないしね。

俺は今までと変わらないペースで三軒目へと向かった。

直ぐに俺は到着した。

四軒目の方が遠いから妖凛はまだ到着していないだろう。

できれば少し時間を稼ぎたい。

俺は入口を入ってから、少し周りをチェックするようなフリをした。

おそらく建物内に入れば、術者には俺が入った事を知られているはずだ。

それからなら多少警戒してゆっくりしても、不審には思われないだろう。

俺は少しだけ螺旋階段を下りてから、同じように真ん中のスペースから一気に下へと下りた。

「やはり同じ構造か‥‥」

白々しく演技などもしてみたり。

どうせ同じって思っているんだけどさ。

時間稼ぎ時間稼ぎ。

「やっぱりここも同じようにドアにはトラップは無しね‥‥」

俺は妖凛の視界をリンクして確認した。

よし、到着したな。

俺は部屋へと入った。

妖凛が建物に入るタイミングに合わせて、俺は宝箱へと手を触れた。

爆発が起こる。

今までにない大きなものだ。

思った通り此処で決めようとしてきた。

いや無駄なんだけどね。

それに今妖凛が建物に入って行ったよ。

もしもそこにいたらお前は終わりだ。

俺は結界を張って力で爆発を抑えにかかった。

こうすれば向こうも此処で力を振り絞ってくるはずだ。

上からも瓦礫が落ちて来た。

爆破と生き埋めの合わせ技ね。

でもこの程度で俺の結界は壊せないよ。

そして今、妖凛が地下の部屋へと入っていった。

そこには二人のおっさんが立っていた。

チェックメイトだな。

俺は瞬間移動魔法で上空へと出た。

眼下で大地が揺れていた。


俺は四軒目の建物へと到着した。

外では妖凛が待っていた。

「ありがとう妖凛」

(コクコク)

俺は妖凛の頭を撫でた。

少し照れているようだった。

撫でるのを止めると、妖凛は俺に二つの魂ボールを差し出してきた。

視界の共有で見ていたが、妖凛は二人を美味しくいただいてしまったんだよね。

それで魂だけ確保しておいてくれた訳だ。

俺がそれを受けとると、妖凛はすぐにミンクマフラーに変化して俺の首に巻き付いた。

スッカリ一心同体が落ち着く体になっているようだった。

昔はずっと洋裁を携帯していたけれど、こっちのがなんかいいかもしんない。

では今日は一旦帰るか。

まずは敵の顔を知るべきだろう。

俺はドラゴン王国の地下実験場へ移動した。

さてこいつらには仲間の事とかアジトの事とか色々と喋ってもらわなければならない。

記憶を奪うのが手っ取り早いけれど、記憶を見るのも善し悪しある。

梨衣のように感情移入してしまったり、汽車の洗脳の記憶のようなヤバいものもあったりする。

必要な情報が得られればいい訳だし、スマホ憑依で全て聞き出すか。

俺は魔砂でスマホを作り、情報を聞き出した。

能力は触れる事で理解できたし、必要な映像記憶はスマホに表示させる事で可能だ。

二つの魂の名前は『詩竜(シリュウ)』と『碁竜(ゴリュウ)』だった。

思った通り九貴族の者たちか。

能力はそれぞれ『設置型爆破魔法』と『建設と監視・強化・移動』というものだった。

碁竜の能力は、地属性魔法で建造物を作り、その中を監視したり中にいる対象を強化したり建物から建物へ移動できるというもの。

つまり碁竜の作ったあの建物の中に詩竜が爆破魔法を設置し、碁竜が監視して爆破タイミングを指示していたという事だろう。

アジトとして使われいる建物も三ヶ所あるようで、場所はしっかりと分かった。

更に他の九貴族の顔も概ね分かったが、劉邦という人物に関しては色々な面で謎が残った。

まず顔が分からない。

居場所は市竜にしか分からない。

立場としては市竜の舎弟のような感じだけれど、なんとなく力の中心は劉邦な感じがする。

記憶を覗けばもっと何かが分かるかもしれないが、とりあえず欲しい情報は得られたので良しとしよう。

俺は早速映像をアルカディアへと送った。

『禰子、今映像を送ったから、九貴族の残り七人を指名手配してくれ。有力な情報によって身柄を確保できた場合は懸賞金も出していいぞ』

『流石お兄ちゃん。二人捕まえたんだね。顔さえ分かれば多分他も直ぐに捕まえられるよ』

『だといいんだけどな。じゃあよろしくな』

『分かったよ』

直ぐに捕まえられるか‥‥。

だといいんだけど、旧九頭竜領は広いんだよな。

指名手配映像がアップされる前に、アジトとされる場所だけはとっとと見て回るか。

映像がアップされてからだと警戒して逃げる可能もあるからね。

俺は聞きだしたアジトへと飛んだ。


いくら俺でも、この世界で行った事のない場所なんて沢山ある訳で、アジトがあるという場所へは少しの時間を要した。

映像がアップされる前には全部回りたいよな。

俺はまず一軒目のアジトとされる場所へと到着した。

人の気配はない。

まあ三キロは地下になるから、此処じゃ分からないんだけどさ。

俺はドアに手をかけた。

鍵がかかっているようだった。

それもかなり開けるのが困難な魔法によるものだ。

でも俺にかかれば鍵が無いのと変わらない。

俺はドアを開けて中に入り、螺旋階段を一気に下りた。

今までと同じように、底には扉が一つだけあった。

人の気配はなかった。

扉を開けて中に入ると、今までの部屋とは違ってかなり広い部屋だった。

「確かにアジトって感じだな」

「うひょー!お宝が沢山あるのね!」

「私が先に見つけたのです!全部私の物なのです」

「菜乃には独占させないのね。半分よこすのね」

「あっ!それは私のなのです。妃子にはあっちの安物武器がお似合いなのです」

なんだか菜乃と妃子が醜い争いを始めたな。

でも確かにこれだけのお宝があるとテンションは上がるか。

「お前ら独占はずるいぞ!それは俺によこせ!」

俺は醜い争いに加わるのだった。

結局全部俺が預かる事になるんだけどさ。

菜乃も妃子も当然俺も本気ではなく、ちょっと遊んでいただけという事は伝えておこう。

「このペンダント綺麗なのです!」

「ダイヤモンドだな」

「私はこっちのペンダントなのね」

「ルビーとサファイアか。鎖はプラチナで出来ている」

欲しいというから二人にはペンダントだけはプレゼントした。

盗んだもんだけどさ。

「人間に変化して付けておけよ。それで自分の体の一部として取り込んでおかないと、戦闘で体がバラバラにされたりしたらペンダントだけ戻ってこなくなるからな」

変化した際、装備や衣服は当然体の一部な訳である。

だから変化を解いた時には、装備や衣服も本体として取り込む事になる訳だ。

それを利用して、最近この二人は装備品なんかを取り込む事ができるようになっていた。

それにしてもこの二つのペンダント、どうしてこんなものが他のガラクタと一緒に置いてあったのだろうか。

ガラクタと言っても普通に価値のある物だけどさ。

価値の差が理解できなかったのだろうか。

これを着けただけでは確かにただのペンダントだけれど、ロックを解除すれば神の力を得られる超スーパーチートアイテムなのにな。

このロックに気づける人はそうそういないだろうけどさ。

これは美味しい収獲だった。

その後も多少時間を要したが、残り二軒も映像がアップされる前には回り終えた。

結局アジト内には誰もいなかった。

それでもそれぞれ機器や武器などはあったから、此処がアジトであった事は間違いない。

俺は色々と金目の物を根こそぎ回収しておいた。

魔法武器もあり、これらがテロに使われては困るしね。

そして建物自体を俺がコピーした能力で再構築しておいた。

つまりこの建物に誰かが戻ってくれば、俺はその様子を見る事が出来る訳だ。

碁竜の能力、割と使えるかもしれないな。

いや別に覗きに使おうとかそんな事は考えていないぞ?

本当だからな?

俺はついでに設置型爆破魔法もセットしておいた。

この日はそこまでにして、後は情報が出てくるのを待つのだった。

2024年10月12日 言葉を一部修正

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