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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
中央大陸編
13/184

旅はピクニック!早乙女家第二王子登場!

みゆきがパーティーに加わって数日が過ぎていた。

今日も俺とみゆきは手を繋いでのんびりと旅をしていた。

つかなんだろうなこの嬉しい感覚は。

手を繋ぐ行為自体特に思う所なんて無かったけれど、みゆきと手を繋いで歩いているだけで、もうこの旅は超絶楽しいものに感じてしまう。

もうぶっちゃけ目的なんて果たせなくてもいい。

こんな日がずっと続けば良いとさえ思えてしまう。

相手は言ってしまえば六歳の小娘、むしろ幼女と言っていい。

しかし自分も六歳の体であり同級生と言えるわけで。

たったそれだけで、同級生というだけで六歳の小娘が絶世の美女に感じてしまうのだ。

「結局策也はマスク外す事にしたのね」

リンの言葉に俺は夢の国から現実世界へと帰ってきた。

ちっ!

そういやこのパーティーには他にメンバーがいたんだった。

「まあな。みゆきがその方がいいって言うからな。でもパーティーメンバーだけでいる時だけだ。流石に他の奴らにコレを見せる訳にもいかんからね」

俺はそう言って千里眼と邪眼を発動させた目を見せた。

左目の千里眼は金色に輝き、右目の邪眼は黒い煙が揺らいでいるような怪しい色をしている。

この目を見たら流石に怖いだろう。

幻影魔法や認識阻害魔法で隠す事もできるが、マスタークラス相手だと見えてしまう可能性もあるし、マスク付けるの気に入っているからな。

「確かにその目はちょっと怖いわよね」

「わしは格好いいと思うがのぉ」

「私はどっちの策也も可愛いと思う、よ?」

「そ、そうか」

みゆきにそんな事言われたらマスク付けられねぇよ!

つか可愛いとか言われてなんでこんなに嬉しいんだ?

くぅ~やべえぜ俺!

このままじゃ可愛死ぬ(かわいしぬ)可能性があるんじゃないだろうか。

「そろそろ昼ですね。策也さん、休憩にしませんか?」

草子の言葉に空を見あげると、太陽は最も高い所まで昇っていた。

とは言え暑さは感じない。

俺の服は魔法によって自動で温度を調整してくれる機能が付いているからね。

ちなみにこの機能は、うちのパーティーメンバー全員の服に付けてある。

そして当然だが、みゆきの住民カードにも自動排泄の常態魔法はセットさせられていた。

これでトイレの心配はない。

前世ではこういった冒険もののアニメ作品が沢山あったけれど、本当に何時何処で用便を済ませていたんだろうね。

都合よくトイレネタを使うくせに、常日頃の事はほとんど言わないもんなぁ。

さて、みゆきがパーティーに加わってからは、俺たちの旅は整備されている道を進んでいた。

別に手を繋いでゆっくりと歩きたかった訳ではない‥‥事もないが、まずはみゆきに多少魔法の心構えというか、実際に戦闘する前に教えておきたい事があったからだ。

尤もクラーケンの腕輪、改めベルトがあるから、ほぼ間違いなくみゆきが危険にさらされるなんて事は無いとは思うけどね。

そんなわけで穏やかな道を歩いているせいで、俺たちの旅は一気にスローペースになっていた。

険しい山の方が本当は遅くなるはずだけれど、俺達のパーティーは皆ハイレベルだ。

ここまでぴょんぴょんと跳びながら山を越えてきたわけで、ゆっくり歩く今よりも圧倒的に速かった。

まあでも急ぐ必要もないし、もうしばらくはこんな旅を続けたいと考えていた。

俺たちは道から少し外れ、誰の視界にも入らなさそうな場所に移動した。

それから俺は異次元収納から移動用の家の取りだす。

地面から家が現れるような感じだ。

これがあるから、別に町まで急ぐ必要もない。

ホームに戻る事もしない。

それでも快適な旅を満喫する事ができていた。

料理は草子が担当だ。

それをリンが少しだけ手伝う感じになっている。

みゆきがパーティーに入るまでは、主に俺が提供した物を皆が適当に食べていたが、俺にはやる事ができたので役割を分担する事になった。

環奈に何かをやらせたら何かトラブルが起こりそうなので、一応見張りという事にしておいた。

俺も魔法探索を常に発動していたら気持ちが疲れるしね。

それで俺の役割だが、みゆきに魔法と魔力コントロールを教える事だ。

魔力コントロールは教えられてできるものでもないので、地道な訓練を続けてもらうしかない。

ただ魔法は、その魔法の原理とイメージを教える事ができた。

俺は家の外でみゆきに魔法を教えていた。

「昨日までは一応基礎って事で回復魔法をいくつか教えて来たけど、今日はいよいよ蘇生の魔法だ」

「蘇生ってなんか凄そうだね」

「そうだな。でも魔法はほとんどが同じで、理屈を理解してイメージできるかどうかで使えるかどうかが決まるんだ」

「それと後は精霊、妖精、神、稀に暗黒神との契約だったっけ?」

「そうそう、流石みゆき。基礎は完璧だよ」

本当の事を言えば、そのイメージをサポートする為の『魔法の杖』や『呪文』の事も教えた方が良いかもしれないが、正直俺は邪魔だと思っている。

そんなものが無ければイメージできないとなれば、いざって時に間に合わないかもしれない。

それにみゆきは魔力に不自由する事はないだろう。

魔力が足りないとより強いイメージが必要だけれど、逆に言うと魔力があるならイメージはそこそこでも大丈夫なのだ。

「蘇生には大きく分けて三つの方法があるんだ」

「もしかしてそれって回復魔法と同じかな?」

「まあそうだな」

「えっと、水や風の魔法による癒し、怪我の回復を早めたり修復する治癒、それと神の力を借りて行う加護だよね」

「そうそう。だけど蘇生は回復だけじゃなく魂も扱うから、条件が少し違ってくるんだ」

「そうなんだ」

「まず、水や風の癒しによって蘇生する魔法。この魔法には成功条件ってのがある。それは魂が元の体とまだ繋がった状態であるって事だ」

「魂なんて見えないよね?」

「そうだな。俺のように千里眼と邪眼を両方使える人間なら見る事もできるし、それを獲っ捕まえて体とくっつける事も可能だけれど、おそらく俺以外にいたとしても数えるほどだろう」

「策也は凄いんだね」

「ま、まあな」

いやマジ褒めないで。

一々嬉しくて可愛死にそうになるから。

「次に治癒による蘇生は、体を魂が生きていける状態に戻してから、そこに魂を呼び寄せるものだから、魂が体の近くにある事が条件になる」

「やっぱり魂なんだ。でもやっぱり見えないよね」

「そうだな。だから普通の人は死んでからの時間でだいたい判断する。魂が死んだ肉体の近くにいるのはせいぜい三十分だから、それまでに蘇生魔法を使うってのは常識だな」

「でも昨日五分でも失敗する事があるっていってたよね」

「それは魂によって留まる時間が違うからね。魂が体から離れるのがだいたい十分、何処か遠くに行ってしまうのが三十分。それはあくまで多数の話で、少数はそれ以上もそれ以下もいるんだ」

「じゃあとにかく早く蘇生するって事が大切だね」

「いやぁ流石みゆき!その通りだよ」

みゆきは優秀だなぁ。

「そして最後の方法は神の力を借りる蘇生。おそらくみゆきはこれが一番得意なんじゃないかな。皇の家系は神の子孫って話だし、魔力の質が清らかで温かいから」

「そうなんだ」

「これは魂と修復素材がそこにあって、神がそっぽを向かない限りは必ず成功する魔法だ。尤も今のみゆきだと蘇生しても体が絶えられないだろうからすぐに死ぬ、つまり成功しないって事になるんだけど、とにかく魂にある肉体の情報から蘇生するので、蘇生するべき体がなくても蘇生できる唯一の方法になる」

「もうなんか魔法みたいだね」

「そうだな。魔法みたいだよね」

魔法なんだけどね。

「じゃあ少し試してみるか。ちなみに回復の時と同様、神の力を借りる蘇生は試す事ができない。不要な事をやらせて神様が機嫌を損ねたら大変だからね」

「でも怪我の時みたいに誰かを殺すわけにはいかないよね」

「そうだな。だから動物や虫で試してみよう」

俺はその辺にいる虫を魔法で捕まえそれの首を切って殺した。

「虫さん可哀想‥‥」

「そ、そうだね。だからみゆき、助けてあげてくれるかな」

「どうすればいいの?」

「回復の時と同じで、まずは水の魔法を使って蘇生させてみようか。癒しの水で虫を包み、それによって虫が癒され動き出す姿をイメージする。みゆきは素質がある。絶対にできる」

本人をその気にさせるのも重要だ。

イメージに自信を持たせられる。

それに俺の言っている事は別に嘘ではない。

俺のように邪眼や千里眼を持たないから、それを利用するような魔法はみゆきには使えない。

スキルは今後の努力次第だし、全てを習得するのはまず不可能だ。

でも魔法という一点においては、俺よりも強力な魔法が使えるようになるだろう。

おそらく俺はまだ常識の範囲内な能力者なのだ。

でもみゆきは違う。

この子こそチートというにふさわしいと思う。

「あ、動き出した!」

「流石みゆきだ。成功だね!」

回復魔法を練習した時もそうだけど、みゆきは予想以上の結果を俺に見せてくれる。

蘇生魔法はそんなに簡単な魔法じゃない。

魔力があるからこの子にとっては入門レベルなのかもしれないが、それでも魔法初心者が最初からしっかりとしたファイヤーボールが放てるかと言えば無理なのだ。

魔力が膨大すぎてコントロールはできないけれど、使う事に関しては天才レベルなのかもしれない。

「何度か試したら、次は治癒魔法に挑戦だ」

「分かった!頑張るよ!でも虫さん可哀想‥‥」

みゆきは虫も殺せない心優しい子なのだ。

将来ゴキブリくらいは殺せるようになるかね。

俺は適当に虫を捕まえて頭をもぐと、それをみゆきの前に並べていった。

それをみゆきは次々に蘇生させていく。

途中から水魔法から治癒魔法へと変えてもペースは変わらず、気が付けば並べた五十匹の虫が全て元気に動き出し去って行った。

「虫とはいえ凄いな」

俺でもできる芸当ではあるけれど、それを見せられるとチートを実感できる。

「みんな元気になって良かったね!」

純粋な思いも魔法を後押ししているんだろうな。

やはりみゆきは、白魔術系魔法の素質が高い(チート)だ。

神の子孫ってのもあながち神話や伝説では終わらない気がするな。

「ご飯できたわよー!」

家の方からリンの声が聞こえた。

「策也、ごはんだって!」

「おう。食いに行くか!」

ぶっちゃけ今の俺もみゆきも食べる必要はない。

でも食べれば美味しいしお腹も膨れるわけで、満足感は得られる。

その為に食べるのは悪くなかった。


食事の後は再びお手々繋いでランランラン、お散歩の旅だ。

もうエクスカリバーだの魔王だの、呪いの解除だのハーレムだのはどうでもいいのだ。

ハーレムはともかく、他は目的として残ってはいるものの、そんなに躍起になって求めるものではない。

とにかく緩い目的に向かって旅を楽しもうというスタンスだった。

「いやぁ。世界は輝いているねぇ」

「ホントだねぇ。私ずっと部屋の中にいたから、なんだか不思議な気持ちだよぉ」

「そっかぁ。外の世界はどう?」

「とっても気持ちいいよ。策也のおかげだよ。こんな素敵な世界で生きてるだけでわたしって幸せだぁ。ありがとうね!」

「どういたしまして」

冷静に返事をしたつもりだけど、耳まで熱くなっているのを感じた。

「はいはい、暑い暑い!」

「ええのう。わしもラブロマンスしたいわぃ」

「環奈がラブロマンスしたら、相手は男だぞ?」

「女同士もええじゃろ?どうじゃリン殿?わしとラブロマンスしてみんか?」

「いーやー!」

詰め寄る環奈を、リンが思いっきりパンチしてぶっ飛ばしていた。

「バイオレンスも好きじゃぞ?」

俺のアイドル環奈は、もうこの世にはいなかった。

そんなドタバタをしながら、ゆっくりと次の目的地であるドサの町へ向けて歩く。

ドサは東雲領で、次の西園寺領との国境に近い町だ。

東雲の町の中では、割と大きな町らしい。

みゆきが楽しみにしているので、俺がどうでもいいと思っている事は内緒だ。

俺はみゆきの嫌がる事はしないし、傷つける事は言わないのだ。

さてそんな感じで散歩を楽しんでいると、道の向こうから人が歩いてくるのを感じた。

探索魔法や千里眼が届かない距離だからまだ二キロ以上先だけれど、魔力が強いせいか既に存在が確認できる。

魔力が強いというか、魔力の質が刺さるように鋭利なのだ。

俺はみゆきとつなぐ左手とは逆の右手でアイマスクを装着した。

「どうしたの?」

「向こうから人が来ている。それもちょっと警戒するべき人かもしれない。だから一応念の為にね」

俺はみゆきを安心させる為に、できるだけ柔らかい口調でそう伝えた。

ただみゆきは何も心配していないようで、ピクニックモードに全く変化はなかった。

「言われてみれば確かに感じるのぉ。ただわしらの敵ではないのぉ」

「そうなの?私よりも戦闘力低い系?」

「阿吽の腕輪が無ければリンは負けるな。おそらく戦闘力は草子よりも上だろう」

「じゃあ今の私なら大丈夫って事ね」

「でも油断はするなよ。魔力の大きさじゃなく、別の意味でヤバい魔力をしている」

「策也さん、それってどういう事ですか?」

「好戦的な魔力というか、常に殺気を放っているというか、表現は難しいけれどトゲトゲした感じなんだよ」

少しずつ近づいてくるそいつの魔力は、益々こちらを突き刺すように感じられた。

五分後には遠くに姿が見えてきた。

といっても俺の千里眼で捕らえられる距離だから、二キロを切った辺りだろう。

何もないだだっ広い草原にある道だから、肉眼でも見えるヤツには見えるはずだ。

「わしはとっくに見えておるぞぃ」

流石黒死鳥の親分、人間よりも目が良いようだ。

それから更に五分、リンや草子にも見えてきたようだ。

「男性のようですね」

「割といい男に見えるわよ」

リンの言う通り、確かに良い男に見える。

服装は黒を中心とした執事服に近いもの。

いや、どちらかというと王子って感じだろうか。

少なくとも言えるのは、服装を見る限りその男は貴族以上であるって事だ。

そんな男が何故こんな場所を一人で歩いているのか。

考えると謎だった。

更に近づき、もうハッキリ顔が見える所まできていた。

髪は銀髪で、歳は二十代といった所か。

俺には間違いなくどこかの国の王子と思えた。

前には霧島、後ろには不動を歩かせている。

戦闘になっても楽勝だと分かっていても、相手の魔力が何故か緊張感を醸し出す。

さて、何事も無ければいいが‥‥。

「こんにちは!」

挨拶したのはみゆきだった。

その瞬間、一気に張り詰めた空気がお花畑へと変わった。

無敵かよおい!

続けて俺も挨拶をした。

「こんにちは」

すると霧島とすれ違う寸前で、その男は立ち止まった。

「ごきげんよう。もしかしてこの中に此花麟堂王女はおられますか?」

一瞬どう反応していいか皆が迷ったが、直ぐにリンが一歩前に出て挨拶していた。

「はい、私が麟堂です。もしかして私に何か御用でしょうか?」

リンかそう言うと、一瞬男の刺さるような魔力が強くなった。

威嚇しているのだろうか。

でもリンはこういうのは鈍感だし、感じられたのは俺と環奈だけだろう。

そして俺達にとってはどうって事のない相手だ。

特に反応は示さなかった。

「そうですか、初めまして。実はわたくし早乙女王国の第二王子、『早乙女相馬(サオトメソウマ)』と申します」

その名前を聞いて、リンと草子が少し動揺したのが分かった。

魔力よりも名前の方がこの二人を動揺させるか。

早乙女と言えば、この世界で第五位の王族だ。

この世界の上位国を指して四大国と云われる事が多いが、早乙女を入れて五大国という人も結構いる。

実際六番目以降と比べてこの五つの国は飛び抜けた力を持っているからだ。

ただその中にあって早乙女はやや見劣りする。

ただし常備兵の規模は世界一で、軍事大国としての印象が強い。

常に領土拡大を目論む厄介な国として認知されており、暴力的という意味で一番怖い国だ。

この世界の大国は、なんとなく俺が生まれ変わる前の世界の国々に似た所がある。

例えば皇国は日本と似ている。

住民カードとお金の流通を担っている国で、なんとなく日本人だった俺はしっくりくる。

第二位の王国である伊集院は、ヨーロッパと周辺国の連合といった所だろうか。

この世界では冒険者ギルド協会を取り仕切る事で力を持っている。

力とルールの中心と言った所。

第三位の王国である有栖川は、軍事力の無いアメリカといった感じだ。

経済でこの世界を支配する影の支配者というイメージ。

商人ギルド連盟の会長が有栖川なのである。

第四位は九頭竜。

ここは中国に似ている。

魔法通信ネットワークに必要な魔法機器の製造をほぼ一手に担っている。

この世界の工場的存在でもある。

そして早乙女を含め、国の位置も似たような所にあって、これらの情報が書かれた本を読んだ時、しっくりきすぎたので普通に覚えていた。

ちなみに早乙女はロシア、というかソビエト連邦ね。

分かる人には分かっていたと思うけど。

「早乙女の王子様ですか。どおりでとても素敵な方だと思っていましたわ」

何時ものリンではなかった。

おそらく此花家としては、早乙女は絶対に敵にしてはならない相手なのだろう。

丁重にやり過ごす為に、おそらく必死に頭を回しているのだろうと思うと、少し笑えた。

「王女にそう言っていただけるのは喜ばしい限りですね」

「ところで早乙女家の王子が、どうしてこんな所を一人でおられるのですか?この辺りは魔獣が出ないとはいえ、一人だと不安かと思われるのですが」

「いえいえ大丈夫ですよ。わたくしこう見えてもかなり強いですから!」

相馬はそこまで言ってから、いきなりリンに襲い掛かっていった。

それはほんの一瞬の出来事だった。

ただ、俺にとっては十分に対処できるものだったけれどね。

そして環奈にとってもそれは問題なかった。

環奈がリンの前に出て、相馬の持つナイフを三日月刀で受け止めていた。

「いきなりじゃのぅ?どういう事じゃ?策也殿、こやつは殺してもええんかのぅ?」

「いや駄目だ」

確かにいきなり襲い掛かってくるヤツなんて斬って捨ててもいいが、まるで殺気はなかった。

おそらく試したといった所だろう。

でも今の状況で誰も助けに入らなかったら、リンはやられていたな。

戦闘態勢に入ったリンは強いけれど、吽龍の鎧を纏う前だと殺られる。

これは一ついい経験になったな。

「あなたはお見事ですね。あの位置から私の初撃を止めますか。なるほど。護衛のあなたがこのパーティーを支えているわけですか」

相馬はナイフを収めて、一歩下がった。

「今のはどういう事でしょうか。私、何か襲われるような事をしましたか?」

「いえ、王女を傷つけようとは元々思ってはおりません。最近評判になっていたあなたがどういう人なのか、少々試させていただきました。まあ少し思惑とは違いましたが、探していたかいがありましたよ。優秀な部下をお持ちのようで」

「策也殿。あいつわしをリン殿の部下とかいっとるぞぃ?」

環奈が近くに来て小声で話しかけてきた。

「そうだな。でも面白いからこのまま成り行きを見守ろうぜ」

俺はもう少し傍観を続ける事にした。

「あちらの方は私のパーティー仲間で、部下ではありません。此花とも全然関係のないただの冒険者ですよ」

「そうなのですか。でも王女の手足として働いてくれる超優秀な仲間って事ですよね?」

「環奈お前、かなりあの早乙女王子に評価されたみたいだな」

「あんな小童(コワッパ)に認められてもうれしくないわぃ」

「困った時には先ほどのように助けてくれる仲間ではあります」

「そうですか。実は少々王女に頼み事があって探していたんですよ」

ようやく本題が来たか。

「そうなのですね。それはいったいどのようなご用件でしょうか」

流石にそろそろリンも話を終わらせたいと思っていたようだが、頼み事と言われれば流石に無下にはできないようだ。

話は十分ほど続いた。

内容をまとめるとこんな感じだ。

まず自分は現在二十四歳で、二十五歳になるのを一週間後に控えている。

早乙女の王位継承は、次男が二十五歳になった時に長男と殺し合いをし、生き残った方が継ぐことになっている。

殺し合いは直接対決だけではなく、どんな方法でもいい。

外国勢力を使うも良し、暗殺を依頼するも良し、当然直接倒しても良し。

そしてその戦いは事実上既に始まっており、自分の周りには一週間後に殺し合いが始まってすぐに対応ができるよう監視が付いている。

その為、このだだっ広い周りに何もない所を選んでリンとの接触を試みた。

ルールでは一応始まるまで何もしてはいけない事になっているから、此処まではついてこられない。

そういう状況にあるわけだが、この相馬という男は、兄を殺したくないのだそうだ。

仮にやむなく殺すとしても、早乙女家を継ぐなんてしたくない。

洞窟にでも籠って魔法研究をしていたい。

できるのなら早乙女を捨て別人に生まれ変わって、兄からも早乙女からも追われる事なく穏やかに暮らしたい。

その為にかくまってくれる国や貴族を探したが、早乙女の問題にかかわろうとする者はいなかった。

最後の望みをかけて今日、リンに会いに来たというわけで、多少は気持ちも伝わってきた。

どこまで本当かは分からないが、条件次第じゃなんとかしてやってもいいと思った。

「そういう事ですか。こういう話ならあの子の方が可能性があると思いますから、少々相談させていただいてもよろしいですか?」

「えっ?あの子供ですか?」

当然そういう反応になるわな。

「はい。ああ見えて色々と能力は高いんですよ」

「そ、そうですか」

相馬は納得いかない気持ちを抑えているようだが、どうやら納得するしかないと悟ったようだった。

「ねぇねぇ策也、どう思う?これ、解決方法あんの?無下に断ったら早乙女との関係が悪くなるかもだし、かくまってるのバレたら戦争にもなりかねないわよ」

「そうだな。解決方法はあるよ。あいつ生まれ変わりたいって言ってたろ?それで万事解決じゃねぇか」

「そんな簡単に言うけど、そんな事できるの?」

「できるさ。ゴーレムと蘇生の合わせ技だよ」

「どういう事?あの人をゴーレムに生まれ変わらせるとか?」

「その通りだ。もちろん人型の精密なゴーレムだから、歳をとったり子供を作ったりはできないけれど、それでも人間として穏やかに生きる事はできるぞ?」

頭を抑えてリンは少し考えているようだった。

でもまとまらなくて、全て俺に投げる事に決めたようだ。

「話はこちらの子供、策也としてもらえるかしら。策也がオッケーならなんとかするし、駄目ならどうする事もできません」

リンの相馬に対する言葉遣いが、少し投げやりに崩れてきていた。

あーあっ‥‥。

本当に投げてやんの。

とはいえ俺も此花家の人間だし、既にみゆきもそうなのだ。

悪いようにはできんよね。

「えっと‥‥本当にこちらの子供と話を?」

相馬は戸惑っていた。

全く、見た目が子供ってのは本当に不便だな。

そんな時に声を発したのは環奈だった。

「その子供はわしよりも強いぞ?侮らん方がええ‥‥」

少し重い声で環奈がそういうと、相馬の俺を見る目が少し変わった。

なるほど。

自分が認めた人間の言う事は信じるようだ。

つまりリンの事はずっと下の人間と見下していたわけね。

「そうですか。あなたがそう言うなら話をしてみましょう」

「あー‥‥俺は改まった喋りは苦手だから普通に話すが、あんたの要望を叶える事はできるぞ。ただしその見返りにどんな得が俺にあるかが聞きたい」

やっぱり面倒ごとを引き受けるのだから、相応の報酬くらいは期待したいよね。

「できるの?もしも本当に君にできるのなら、今の僕の全てを上げるよ。だけど一体どうやって?」

「まずはこちらの質問が先だ。あんたの全てってのは、財産や立場、存在全てって事でいいんだよな?」

相馬はすぐに返事をしなかった。

一応どういう事が起こり得るか想像しているのだろう。

「立場や存在ってのは、僕に成りすまして何かをする可能性があるって事だよね。例えば早乙女の家を乗っ取ったり、或いは早乙女の名を使って戦争を引き起こしたり」

「全てって話ならそうなるな」

「それは困るな。僕が殺さなくても兄が死ぬのはやはり避けたいし。現金だけでどうだろうか?」

「いくらだ?」

「五十億くらいかな」

「五十億か。まあそれは貰っておく。でもそれだけじゃ足りないな」

「しかしそれ以外だと‥‥」

「さっきあんた、洞窟に籠って魔法研究がしたいと言っていたな。その洞窟と研究に必要なものはこっちで用意するから、俺の希望するマジックアイテムを作ってもらえないか?」

「マジックアイテム?それはどのような?」

「魔力コントロールを助けてくれるリングとかブレスレットとか」

「そんなもの、あまり役にたたないと思うけど‥‥」

あんたに役にたたなくても、こっちにはあるんだよ。

それが有ればみゆきはクラーケンに頼らず、もっと凄い魔法使いになれる。

尤もそんなアイテム、いずれは俺自身でなんとかしようと思っていたけれど、専門にやりたいヤツがいるのならそいつに任せた方が早いだろう。

うちのパーティーメンバーは、その要望の意味を皆理解していた。

「そのアイテムの価値を決めるのは俺だよ。どんな魔力でもコントロールできるくらいのものができるのなら、五十億も全て返してやる。どうだ?やるか?」

「分かったよ。魔法の研究ができるならそれはむしろ望む所だ。で、どうやって俺の要望を叶えてくれるんだ?」

俺はゴーレムと蘇生の合わせ技を説明した。

「そんな事ができるのか?しかも君たち子供二人で?」

「信じる信じないはあんたの自由だ。でもどうしても俺たちの力が知りたいってなら、軽く相手になってやってもいいよ。少なくも俺の強さだけは納得できると思うから」

「本当にいいんだね?本気で行くよ?」

「そうしろそうしろ」

「じゃあ遠慮なく行かせてもらうよ!」

相馬は躊躇なく俺に向かってまっすくナイフを突き刺しにきた。

流石に早乙女の王子だけあって、相応の強さは持っている。

でも俺にとってはアリンコの蹴り程度のものだ。

そのまま受けてもいいが、それだと相手が攻撃を止める可能性もあるし、俺は軽く拳を腹にぶち込んでやった。

「うげっ!‥‥何が起こった?」

相馬はその場で膝を付いた。

「超絶軽ぅくパンチを腹に入れただけだよ。あんたは確かに速いし強いけど、俺はその数万倍強いぜ?」

「ははは‥‥世界にはこんなに強いヤツもいるんだな。分かった。もういい。よろしく頼むよ」

こうして俺たちは、この早乙女相馬を生まれ変わらせる為に、少しだけ冒険の旅を休む事になった。

2024年10月1日 言葉を一部修正

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