合併と効率化!新たなステージへ
大企業の強みは、仕事を効率化できる事だ。
小さな会社が軽トラックで荷物を運ぶとして、大企業は大型トラック一台で何倍も多く運ぶ事ができる。
そんな大企業に立ち向かうには、こちらも大企業になる必要がある。
だから会社の合併なんて事が頻繁に行われる訳だ。
もちろん、小さな会社にはそれなりにメリットもあるんだけどね。
ただ今は、有栖川に対抗する為に力を結集するしかないだろう。
「京極商事、売ってもらえました。代金は二百億円です」
結局相場通りで買い取る事になったのか。
現状だと赤字企業だし純資産程度での買取が普通だから、これでも高いと言えば高い。
でももう少し京極には払ってやりたかった。
「ならばちゃんと有栖川や九頭竜に勝たないとな」
今日も大帝の俺が四阿会議に出席していた。
策也は今も暗黒界だからさ。
「はい。それでどうするんですか?」
俺は少しニヤリと笑って見せた。
そりゃやる事は決まっている。
「なんですかその笑顔は?気になります!」
はい、待ってましたそのセリフ。
それを言わせる為にニヤリと笑って見せたのだよ。
「神武商人ギルドと京極商事は全て此花商人ギルドに吸収させる」
分けているから効率が悪い。
ならば一緒にしてしまえばいいのだ。
「でも名前はどうするんですか?九頭竜領内では商人ギルドは営業できませんよ」
九頭竜は『商人ギルド』という名前すら認めてはいない。
だから京極は京極商事と名前を改めざるを得なかった。
だからと言って全てそうしなければならない訳じゃない。
「これで中央大陸は全て此花で統一できる事になる。ただ九頭竜領内だけは此花商人ギルドという名前では営業できない。ならばそこだけ此花商事として営業すればいいんだ」
そして此花商事は人員など一部を他へと移し、赤字が出ない所まで経費を削減する。
幸いこの世界に固定資産税などというバカげた税は存在しない。
あんなクソ税が無い世界なら、商売の戦略の幅も広がろうというもの。
資産を次のステップの時まで寝かせておいても問題はないのだ。
尤も、その間空いた場所で別の仕事をしてもいいんだけどね。
「そしてこちらからはもう九頭竜と取引はしない。向こうから売りに来たら買ってやるくらいのスタンスで行く」
こうする事で販売先までの輸送コストも削減できる。
商品を取りに行くのではなく、持ってこさせるわけだからね。
有栖川も含めて多少つけ入る隙を与える事にはなるけれど、これは収支を整えると言うよりは九頭竜を締め上げる為の戦略。
九頭竜は中央大陸に在り、中央大陸の覇権は現在我が此花商人ギルドが握った。
とりあえず衣服を中央大陸中心に卸す事で数の確保は可能。
増産も西の大陸の町モツバル近くで始めている。
量産タイプの衣服も種類が有れば、一般向けにする事だってできる。
「そうすると私はお役御免でしょうか?」
「いや、千えるのような有能な人を手放す訳ないよ。千えるには領民ギルドを任せようと思う」
「ええ!私が有栖川と戦うって事になるんでしょうか?」
「その通り!それに愛洲領の事は千えるに任せた方がいいだろ?どうして最初からそうしなかったかな」
有栖川商人ギルドが強い国は、有栖川、碓氷、大山祇、愛洲、四十八願なのだ。
そこに切り込んでいるのが領民ギルド。
ならば領民ギルドは千えるに任せた方がいい。
そして中央大陸で九頭竜と戦うのは総司の役目となる。
何事も無ければ、京極商事の赤字を受け入れ処理できた時点で九頭竜には勝てる。
俺は即座に組織名を変更してゆき、新たな体制となった事を総司に発表させた。
これで世界の経済覇権争いは以下のようになる。
九頭竜領と人外国以外に展開していく有栖川商人ギルド。
人外国以外に展開を考えている九頭竜ギルド。
中央大陸全体に展開する此花商人ギルドと此花商事。
人外国と一部此花領、そして有栖川のテリトリーに進出してゆく領民ギルド。
伊集院領を中心に展開している日置商人ギルド。
皇領を中心に島国に展開している陽明商人ギルドという具合になった。
領民ギルド・此花商人ギルド・日置商人ギルド・陽明商人ギルドはお互いのテリトリーを荒らさず、協力できる所は協力していく連合となる。
「こちらとしても愛洲領に関われるのはやる気がでますね。正直領民ギルドだけの取引にしでもいいくらいですよ」
それはありがたい気もするが、自由の国ではなくなってしまうな。
それにそんな事をしたら、有栖川は武力で介入してくるだろう。
千えるも冗談で言ってるんだろうけれどさ。
それにそんな事をしなくても、千えるならやれるだろう。
「領民ギルドの名前も変えるか。愛洲領民ギルドとか。或いは領民ギルドって名前は唯一のモノだし、地域によって名前を借りるのもアリだろう。その辺りも含めて任せるから好きにしてくれ」
「分かりました。期待に沿えるよう頑張ります」
「別に損失を出しても気にしないからな。ただ民さえ幸せであればね」
「そう言ってもらえると助かります」
さてこれでどうなるか。
九頭竜にしても有栖川にしても、自分たちが損をすると武力で訴えてくるからなぁ。
見え見えでやるか隠れてやるかの違いはあるけどさ。
かといってそれを恐れていたら今の歪んだ世界は何も変えられない訳で。
頑張った者が等しく報われ、権力者が必要以上に利益を独占する事の無い世界が健全か。
そして武力によって誰も殺されない世界。
俺はそんな世界を目指しているのだろうか。
そういう世界にしようとしているのだろうか。
俺にそれができるかは分からないけれど、チート能力を持った分くらいは頑張ってみよう。
なんとなくそんな事を思った。
さて本人の俺は相変わらず暗黒界直進行軍だ。
「マジであきるぅ!」
「確かに、こうずっと同じ景色では辛いぞ」
「本当に進んでいるのかも怪しく感じるのじゃ」
その為にゴミで印はしているんだけどな。
今の所まだ戻ってきたりする事はない。
少し方向をずらしてみるか?
いや、そうするとそこからどう進んでいいか分からなくなりそうだ。
「つか、妖凛はともかくどうして妃乃も俺に掴まっているんだ?」
「その方が楽だからに決まっているのさ」
妃乃は眠りから覚めた時には二人に分かれていた。
でも強くなれた事が嬉しいのか、直ぐに二人は妃乃になっていた。
ちなみにキスをしなくても合体できる事はバレたようだ。
というか合体も解除も二人の意思で簡単にできるみたいなんだよね。
まあ賢神にあげた武器も沢山の魂が集まっているわけで、菜乃と妃子が合体できない訳がないんだよ。
つかなんで自分で飛ばないんだ?
その方が強さを実感できると思うんだけどな。
「策也、前方に何かいるのだ!」
七魅の声に俺は前を確認した。
千里眼で三体の闇の神が見えた。
「三体いるぞ!ようやく出たか」
二日ぶりの出現に、俺は少しテンションが上がった。
普通深淵の闇に落ちた奴はこんな気持ちにはならないんだろうな。
そもそもこんな世界で何日も生きられる奴なんてそうそういないだろうけれど。
「お前らようやく戦えるぞ!ただ殺さないように頼む。最後は妖凛に食べてもらうからそのつもりで」
「ははははは!注文が多いな!でもそんなに強そうでもないし、それくらいのハンデがあった方が戦いも面白いというもの」
「わらわは正直面倒じゃが、言う通りにしてやるのじゃ」
「とうとう私たちの力を見せる時が来たのさ!我が勇士を篤とご覧になるのさ」
三人がそれぞれ別のヤツに向かって行った。
賢神が向かった相手は『ムナガラー』か。
触手のある肉塊の邪神。
人間を食うヤツでとにかく動きが速い。
ただ速いだけなら、賢神にとって問題にはならないだろう。
佐天が向かったのは『アイホート』で、こちらも人を食う闇の神。
無数にある赤い目と、馬のような足が沢山あるのが特徴だ。
ワープゲートを作れるので、瞬間移動に近い動きを見せるが、そこまで早くはないので問題なし。
妃乃の相手は『セーレ』で戦闘タイプではなさそうだ。
金髪の王子のような見た目だが当然人間ではない。
妃乃の初対戦にはちょうどいい相手だろう。
「あたしは見てるのだ」
「じゃあ俺たちはお茶でも飲みながら観戦だな」
(コクコクッ)
俺は異次元収納から床を取り出し、魔法で重力を発生させた。
そこにテーブルとイスを並べてて休憩場所を設置した。
これでお茶も飲めるのだ。
しっかりと準備をして観戦体制を整えた。
戦いが始まった。
すぐに勝負がついたのは妃乃だった。
相手が戦闘タイプでなかったのもあるかも知れないが、力の差が圧倒的だった。
戦い方も雑で手加減もできないから、ほぼ一撃だった。
「おい妃乃!ストップだ!妖凛食ってこい!」
セーレは瀕死だが辛うじてまだ生きていた。
そこに妖凛がアメーバ状になって覆いかぶさった。
セーレはみるみる溶けてゆく。
本来ならニョグタはセーレには勝てないレベルだ。
しかし相手が瀕死であり妖凛となった今なら楽に吸収する事ができた。
みるみる妖凛の魔力が上がって行った。
「おお!凄い!」
俺が妖凛の成長に感動していると妃乃が戻ってきた。
「倒したのは私たちなのさ。もっと褒めるのさ」
こいつら意外とやきもち焼きだからな。
俺は妃乃を全力でねぎらってやった。
「よくやったぞ妃乃!流石は俺と一心同体少女隊だ。今夜は大好きなミノの目玉料理を食わせてやるぞぉ!」
そう言いながら全力で頭をクシャクシャと撫でまわしてやった。
いや~喜んでる喜んでる。
「やめるのさ!髪が爆発したみたいになってるのさ!それに目玉なんてゴミなのさ。黒毛和牛にしてほしいのさ」
あれ?この前目玉は大切な食料とか言ってなかったか?
この年頃の女の子は難しいな。
年はかなり行ってると思うけど。
でもほぼほぼ妃乃は満足したようで、ムスッとしながら席についた。
喜んでいたよね?
それよりも観戦だ。
次は賢神かな。
この三体の敵の中では一番強そうなムナガラーだが、速い動きも触手による攻撃も賢神には通用しない。
「ははははは!遅いぞ!こっちだ!私を捕まえてごらん!」
賢神は何をしているのだろうか。
砂浜で追いかけっこをしているバカップルゴッコかな。
まあ楽しそうだからいいけどさ。
「駄目だぞ!そんなんじゃ目当ての女性は落とせんぞ!」
賢神は一瞬にして肉塊であるムナガラーを切り裂いた。
「賢神そこまでだ!行け!妖凛!」
再び妖凛はムナガラーを食べ始めた。
「おお!凄いぞ妖凛!たんと食って大きくなるのだぞ!」
賢神は妖凛が完食するのを見届けてから戻ってきた。
「お疲れ賢神」
「楽勝だったな。これじゃまだまだ私は帰れそうにないぞ」
やられそうになるくらい強いのが出てこないと、帰り方が分かっても賢神は帰らないんじゃないだろうか。
さて最後は佐天か。
人を食って体を乗っ取るアイホートが相手だが、悪魔王は含まれるのかね。
ただこのカードが一番力の差がない。
佐天は魔界最強の悪魔王サタンだけれど、まだまだ成長途上のようなのだ。
見た目はすっかり育っているのだけどな。
とはいえ佐天が負ける要素は何もないだろう。
アイホートの無数にあった目玉が徐々に潰されている。
赤い目玉が更に赤くなってそして潰れていった。
「よし佐天下がっていいぞ!後は妖凛に任せろ!」
「手加減するのも難しいのじゃ」
確かにある程度力の差がないと調整なんてできないよな。
もう少し強いのが出てきたら、今度は妖凛に直接食わせればいいだろう。
三体食えば相当強くなるぞ。
俺は三体の魂を回収した。
既に妖凛は佐天の魔力を超えていた。
今朝丸薬も食わせておいたし、これからの成長がますます楽しみだよ。
というか此処まで強くなるとむしろ不安も出てくるんだけどさ。
強いヤツが出て来たら俺が食わないと‥‥。
でもアメーバ状になって闇の神を食うのってなんか気持ち悪いよな。
妖凛も戻ってきた。
「お疲れさん」
(コクコクッ)
「テーブルも出したし、とりあえず少し休憩にするか」
俺はそう言いながら、異次元収納から色々とお菓子類を取り出していった。
「こんなものまで入ってるんだな!感動するぞ!」
「賢神も異次元収納くらい使えそうなんだけどな」
異次元収納魔法だけは特に使える人が少ない気がする。
瞬間移動魔法もそう多くはないけれど、なんでだろうな。
「異次元ってのがよく分からないんだ。別の世界だとは思うのだが、その世界に置いといたとしても盗んだりする奴がいるんじゃなかろうか?」
「言われてみればそういう考えにもなるのか」
俺もよく分かっていない。
ただそういう設定のある世界が存在すると知っているだけだ。
もしかしたらそういう部分が魔法には大きく影響するのかもね。
魔法はイメージと思い込みみたいな所があるし。
ん?何かが俺の手をつついているような。
俺は腕の所に目を向けた。
すると妖凛が俺の手をつつき、そして世界の先を指さした。
俺は指差す方向に目をやった。
特に何も見えない。
千里眼の限界までズームアップしても何も無いように思えた。
「何かあるのか?」
(コクコクッ)
ふむ‥‥休憩が終わったら少しそちらに向かってみるか。
俺は方向分かるようにゴミを置いておいた。
俺たちはしばらくマッタリタイムを過ごしてから、再び飛行を開始した。
ただ今度は妖凛が指し示した方向へと向かった。
出発してから五分ほどした時だった。
前方に何かが見え始めた。
それは深淵の闇のような、何処かに繋がる入口のような、或いは暗黒界から抜け出す出口のようにも見えた。
「妖凛、俺たちは此処に入った方がいいのか?」
(コクコクッ)
さてどうしよう。
暗黒界の事はそこの住人の方がよく知っているだろう。
でもそれをそのまま信じていいものだろうか。
一応俺の意思で制御されているから、悪意を持って俺を騙す事なんてできないはずだ。
とはいえ暗黒界の闇の神だからな。
不安が無いとは言えない。
そうだ!
俺は気になっていた事を思いだした。
深淵の闇を作ったら何処に繋がるのかという事だ。
人間界から精霊界へ、精霊界から魔界へ、そして魔界から暗黒界へ。
ならば暗黒界で深淵の闇を作ったら‥‥。
俺は深淵の闇を作った。
「妖凛、これとあそこは同じなのか?」
(プルプルッ)
妖凛は全力首振りをした後、俺が作った深淵の闇を指差ししてから手をクロスさせた。
俺の作った深淵の闇はバッテンか。
俺はすぐに解除した。
おそらく暗黒界にある深淵の闇に落ちたら身の危険があるのだろう。
いや、間違いなく死ぬと考えた方が良さそうだ。
涙目になっている妖凛を見て俺はそう確信した。
「そんな訳で暗黒界の深淵の闇はヤバそうだ。でも此処は違うらしい。むしろ妖凛は入れと言っている。という訳で俺は入るから!」
「私は策也に付いて行くぞ!そろそろこの何もない世界にも飽きたからな」
「わらわは最初から飽きておったわ。行くしかないじゃろう」
「あたしは策也に付いて行くと決めているのだ」
「死ぬ時は策也タマと一緒なのさ。ガクブルガクブル」
「タマ!」
みんな意見が完全に一致したな。
若干一名怪しいのもいたけれど大丈夫だろう。
それになんだか分からないけれど、入っても大丈夫だと思えるし、むしろ入った方がいいと感じている。
俺の勘はみゆきほどではないけれど当たるのだ。
「じゃあ飛び込め!」
俺は最初にその深淵の闇に似た黒い所へと飛び込んだ。
俺にしがみつくように妖凛と妃乃も付いてきた。
後はもう見えない。
さてこの先は‥‥。
ここで俺の活躍ストーリーが終了しなければ良いけどね。
そんな事を思った瞬間、俺は天国かと思うような場所へと来ていた。
後から他の皆の姿もそこに現れた。
「綺麗な所なのだ」
「ああ。フレイムドラゴンの里を最初に見た時のような感動があるな」
「確かにあそこと似ておるの」
「しかしここは‥‥それにもまして綺麗すぎやしないか?」
「作られた世界という感じがするのさ」
妃乃が言う通り、確かに作られた美しさと思わなくもない。
綺麗な公園といった感じだろうか。
そこには兎やリスなど小動物の姿もゴロゴロとあった。
「うわぁ~可愛いな」
「小動物を見ると癒されるぞ」
「少し遊んでいきたくなるの」
「此処でもう少し休憩するのだ」
「芝生の上でゴロゴロしたいのさ」
みんな気分は和みモードだった。
しかし突然、その気分をぶち壊す者が現れた。
妖凛が突然アメーバ状となって襲い掛かり、ゴロゴロと小動物を食べ始めたのである。
「うわぁ~悲しいな」
「小動物を食べるとは卑しいぞ」
「少し涙が出そうになるの」
「此処で休憩はやめにするのだ」
「芝生の上で一緒にゴロゴロしてくるのさ」
まあゴロゴロと小動物たちを飲み込んでいるけれど、アレは真似しちゃダメだろう。
俺はこの後、妖凛にしっかりと教育を施した。
妖凛にとってはこれが普通の食事だったんだよね。
怒っちゃダメよ。
2024年10月10日 言葉を一部修正




